PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語

たかが人生、されど人生。映画でも見る?

写真家としてテーマを明確にした映画。自分の歩む道を決めてきた、過去が並ぶDVD棚。

DVD棚、見せてください。第12回

写真家としてテーマを明確にした映画。自分の歩む道を決めてきた、過去が並ぶDVD棚。

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クリエイティブな世界で活躍する人の、創造の原点に迫る連載「DVD棚、見せてください」。

DVD棚。そこには、持ち主の人間性が映し出されています。

繰り返し観たい映画、そばに置きたい大切な映画、贈りものだった映画、捨てられない映画……。いろいろな旅を経て、棚におさまっているDVDたち。同じものはひとつとしてない棚から、そのクリエイションのルーツに迫ります。

12回目のゲストは、写真家の服部健太郎さんです。

持ち主プロフィール
服部健太郎(写真家)
DVD・ビデオ所有枚数:10本
DVD棚、みせてください。
控えめに並んでいるDVDたちとは
生涯連れそうつもり

「あまり枚数はないんですけど、好きな映画は何度も繰り返して観るので、DVDは一度買ったら手放さずにずっと置いてあります」

そう話す服部健太郎さんのDVDは、写真集や本などが並ぶ棚の一角に、十数枚がすっぽりと収まっていました。小説のハードカバーと背の高さが同じこともあり、どこまでが本で、どこからがDVDなのか、その境界がわからないほど棚の中で控えめに馴染んでいます。数としては少ないながらも、だからこそ、その一枚一枚に「選びとった」という服部さんの想いが詰まっているようにも感じられます。

DVDを買う機会は多いわけではなく、自分にとって大切だと思う映画だけを集めているという服部さん。一度手元に置いた映画は、何度も繰り返し観ていると言いますが、棚に並ぶDVDたちは、なぜ服部さんの手元に置かれるようになったのでしょうか?

「初めて観た時に、“これは今の自分が観るべき映画だったんだ”って思うことありませんか? その時の自分の心に刺さるというか、“これは自分のことだ”って。そういう映画は、その後どんな時期に観ても、その時々の自分に刺さるし、観ることによって今の自分がわかる。だから、手元に置いておきたいと思うんです」

DVD棚、みせてください。
写真、映像、音。
そこから浮かび上がる自分の姿を確かめていた

あらゆる国の、誰かの人生が描かれている映画。そこに、今の自分と重ねられる登場人物を見つけた時、その映画は服部さんにとって、大切な存在になると言います。そして、そういう映画を自分の手元に置いていると。

では、服部さんが映画の中に自分を見つけ出した、最初の体験はいつなのでしょうか。そう尋ねてみると、少し恥ずかしそうに、棚から一枚のDVDを出してくれました。

「高校生の時に観た、蜷川幸雄監督の『青の炎』(2003年)です。嵐の二宮和也さんや松浦亜弥さんが主演されている映画です。…僕はすごく好きで、自分にとっての最初の、印象に残る映画体験だったと思います。二宮和也さん演じる主人公が乗っているロードレーサーや、秘密基地みたいな青白い部屋に憧れて、かっこいいなと思ったり。何より、主人公と年齢が近かったので、思春期ならではの悶々とした心の動きにも、自分を重ねていましたね」

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17歳の主人公が、家族を守るために殺人を決意し、完全犯罪を計画するというミステリー作品。非日常的な物語でもあるこの映画が、当時の服部さんに影響を与えたのは、主人公が、葛藤や怒りなど自分の思いを言葉に出して、テープレコーダーに録音する姿だったと言います。

「言葉を記録に残す、という行動は面白いなと思って、自分でもテープレコーダーを買って、真似して録音をしていました(笑)。でも僕の場合は、主人公のような独り言ではなくて、友だちと一緒に、ラジオみたいに延々としゃべっているのを録音していたんです。大学に入るまでは、昔の写真を見返すような感覚で、よく聞き返していました。それほど、この“録音されたテープ”が僕にとって大事なことだったんです。友だちとの会話の中から、当時自分が何を思っていたのか、人と一緒にいる時にどういう話をしていたのか、ということが見えてきて面白いんです」

誰かと一緒に過ごした時間から見えてくる、自分の姿。「ひとりではなく、人間関係の中で生まれてくるものに興味があった」と振り返る服部さんですが、『青の炎』の主人公をきっかけに生まれたその好奇心は、映画を観る時の視点として、また写真家として、服部さんの中で大切なテーマになっていきます。

DVD棚、みせてください。
観る時の自分によって、「善/悪」の線引きが変わる。
写真家としてのテーマが明確になった映画

棚に並べられたDVDのタイトルを眺めてみると、ヨーロッパ映画やアニメーションがありながらも、黒沢清監督、西川美和監督など、日本映画が多いことに気が付きます。

「意識したことはないですけど、改めて見るとそうですね。僕は、写真でも光と影のコントラストがはっきりしているような撮り方が好きなんですけど、それはここに並んでいる映画から影響を受けているかもしれません。黒沢清監督の映像もそうだし、西川美和監督の『ゆれる』(2006)も、オダギリジョーさんの尋常ではない美しさに見惚れます。自分の観てきたそういう映像が積み重なって、今の自分の好みや、撮る写真に影響しているんだと思います」

芸術大学のメディア表現学科に通っていた服部さんですが、当時は、自分が所属していた写真専攻よりも、映画専攻の友だちの方が一緒にいる時間が長かったそうです。大学の図書館にある上映室を借りては、学校に所蔵されていた映画のDVDをみんなで観る、という日々を送りました。

「映画専攻の友だちに勧められて観た映画の中では、『息子のまなざし』(2002年)という映画が記憶に残っています。起承転結がはっきりとある映画ではないんですけど、ずっと抱えていた思いを人はどういう時に明らかにするのか、とか、人の心はどういう時に動くのか、という状況が丁寧に映し出されていて。こういう種類の映画もあるんだなと、衝撃を受けました」

DVD棚、みせてください。

いい作品にたくさん触れたいという熱意もあり、大学時代では、ヨーロッパ映画や古典の映画など、これまで触れてこなかった名作も積極的に観るようになっていったそうです。
そしてこの頃、服部さんにとって決定的となる、ある映画との出会いが待っていました。

「映画専攻の友だちに“東京からすごい監督が来るよ”と誘われて、神戸で行われていた上映会イベントに行ったんです。そこに来ていたのが(のちに初の商業映画『寝ても覚めても』〈2018年〉が第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にノミネートされる)濱口竜介監督でした。その時、監督が大学院の卒業制作として撮った『PASSION』(2008年)を上映したんです。『これまで観てきた映画と全然違う!』って、ものすごい衝撃で。この作品は、7、8人くらいの男女の会話劇を中心に展開していくんですけど、観ている間、とにかくイライラするんです(笑)。自分がその場にいるかのように、入り込んでしまっている。『寝ても覚めても』にも共通している“誠実とは何か”“人と生きていくためには何が必要なのか”というテーマが描かれていることも僕にとっては新鮮で。奇跡的に美しいシーンもいくつもあって、映像だけとっても、その世界観に引き込まれるものでした」

そう言って、大切そうに棚からDVDを取り出す服部さん。初めて観た時は、ただただ衝撃を受けて終わったというこの映画を、数年経ってから観返した時に、当時とはまた違う“今の自分”を、この映画の中に見つけたといいます。

DVD棚、みせてください。

「登場人物たちが、自分が“正しい”と思うことや“間違っている”と思うことを、互いに主張し合うんですけど、そういう“人の倫理観”や“善悪の判断”が、この映画では曖昧なものとして描かれているんです。初めて観た時は“この登場人物は悪い奴だな”と思っていても、時間が経って見直してみると、今度は“本当にこの人は『悪』なんだろうか”と疑問に思ったりする。善と悪の間のグラデーションが何重にも濃密に描かれているから、観る時の自分によって感じ方が変わってくるんです。そういう面白さがあるから、僕は“人と人とが関わり合う姿”が見たいし、そういう映画が好きなんだなと、改めて思いました」

テープレコーダーに友だちとの会話を録音していた高校時代から、何となく輪郭が見え始めていた、好奇心や自分自身のテーマになっているもの。そのピントをはっきりと合わせてくれたのが、『PASSION』だったと言います。

そして、この映画に通じる作品としてもうひとつ、棚の中から出してくれたのは、『CASSHERN』(2004年)です。

「紀里谷和明監督は映像の印象が強いので、なかなかストーリーの側面で語られることがないんですけど、僕の中では『PASSION』 や『息子のまなざし』と同じ分類に入っている作品なんです。実はこの映画も、人と人との関係性や、そこから生まれるもどかしさ、みたいなものを真摯に描いているんですよね。台詞の中にも余白があって、そこから登場人物の背景を想像することができます。」

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僕と誰かが向き合うことで発生する
「何か」を写しとりたい

現在、写真家としてミュージシャンや役者など、さまざまな人物のポートレイトを撮影している服部さん。映画を起点に積み上げてきたひとつの視点は、写真家という自身の仕事にも影響をしています。

「取材などで撮影させていただく場合は、本当に限られた短い時間の中で撮るんですけど、だからこそ“撮り逃げになりたくない”って、いつも思っているんです。写真は、気を抜いても簡単にできてしまう怖さがあるので。被写体と本当の意味で向き合うことはなかなか難しいんですけど…何かを交わそうとする姿勢が重要なんじゃないかと思って、そういう意志は直接相手に伝える時もあります。短い時間であっても、その人から何をかすめとるだけのような撮り方をしたくないんです。」

時には10分や15分という短い時間の中で行われる撮影の中でも、自分と誰かが関わり合うことで生まれる何かを、少しでも写真に残したい。そういった姿勢は、アシスタント時代に現場を共にしてきた写真家や、憧れの写真家たちから学び取ったものであり、同時に、このDVD棚に並ぶ映画の中から服部さんが見つけてきたものでもあります。

DVD棚、みせてください。

そんな映画の世界に、仕事としての関わりも生まれてきている服部さん。ポン・ジュノ監督も絶賛した、片山慎三監督初の長編作品『岬の兄弟』(2018)では、映画のスチール撮影を担当しました。

「普段の仕事とは違って、すごく大変でした。映画のスチール写真は宣伝で使うものなので、映画を届けるためには必要なんですが、映画を撮影するために必要はない存在なんです。だから、撮影の邪魔にならないように自分の気配は極力ゼロにして、人間関係にも気を遣いました。でも、面白かった。普段のポートレイトの撮影は、その場に行って、その人に会ってみないとわからない部分が多いですけど、映画の場合、作品の世界が先にあるので、それを“探しに行く”という感覚で、いつもとは違う面白さがあったんです。」

瞬間に立ち会って“かすめ取る”のではなく、作品の世界を求めて“探しに行く”。映画のスチール撮影で得たその感覚は、最近始めた映像の仕事中でも味わったといいます。

「最近、パイオニアというバンドのミュージックビデオを撮影したんです。あまり特別な撮り方はしないで、スライドショーのように映像でつないでいきました。その時も、曲の歌詞や世界観に寄り添えるものを“探しに行く”、という感覚があって面白かったです。やっぱり僕は、好きな映画もそうですけど、仕事でも、人との関わりの中で何かを生み出していくことが好きなんだと思いました。今年は、写真だけでなく、映像ももっと撮ってみたいなと思っています」

DVD棚に並ぶ映画を通して、“人と人が関わることで生まれる物語”を見つめ続けてきた服部さん。写真、そして映像という新しい分野で、被写体と真摯に何かを交わそうとする中で、これからどんな瞬間を切り取っていくのでしょう。そこにはきっと、嘘のない今の服部さんの視点が映し出されているはずです。

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PROFILE
写真家
服部健太郎
Kentaro Hattori
1989年兵庫県生まれ。大学で写真を学び、都内スタジオ勤務を経て独立。作品の発表と並行し、ミュージシャン等の人物撮影を中心に現在東京を拠点として活動。