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愛しちゃったのよ vol.1

私の“愛しちゃった1本”。映画バイヤーが『はじまりへの旅』に惚れ込んだ理由

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© CAPTAIN FANTASTIC PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
「わあ、この映画大好き!」と、心から揺り動かされる映画に出会える幸福感ってありますよね。そんな映画に出会えたとき、「この映画は、いったいどんな人たちの手をへて、私の目の前まで届けられたのだろう?」と思うことがあります。
きっと私が観たときの興奮以上の熱量をかけて、この映画に関わった“とんでもない人”が大勢いるに違いない。人が理屈を超えて並々ならぬ情熱を傾けるとき、そこには、きっとおもしろい物語が眠っている気がするのです。
ということで、今回は編集部の一人が「2017年イチ!」好きだと熱弁をふるっていた映画、『はじまりへの旅』を買い付けてきた映画バイヤー・大森千秋さんにお話を聞きに行ってきました。
映画の買い付けとは、世界各地の映画の日本国内での上映権やDVD化権、TV放映権等を買い付け、日本へ輸入する仕事です。大森さんは、なんと、この作品が初めての買い付け作品だったとのこと! 周囲を何度も説得して、買い付けに至ったそうです。この作品に心動かされた裏には、大森さんとご家族との思い出の記憶がありました。

その「常識」って、本当に正しい?

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『はじまりへの旅』は、超厳格な父ベン(ヴィゴ・モーテンセン)と6人の個性豊かな子どもたちの物語です。この家族は、森で自給自足の生活を営んでいます。一家はあるできごとをきっかけに、自家用バスで街へ出発。この旅の中で、街の常識にカルチャーショックを受けたり、父子同士で初めて衝突したりしながら、家族それぞれが少しずつ自分の殻を破り、変わっていくのです。

大森さんは「英語の脚本を読んだだけで、すごく感動して泣いてしまった」と話します。それは自分らしさを貫く一家の姿に、ときには常識を疑うことも大切だと教えてもらえたから。先行きの見えない今の時代だからこそ、そこにもっと多くの人が強く共感するような気がして、心から「この映画を日本に届けたい」と思ったそうです。

また本作は、自身と家族とのある記憶とリンクしたとも言います。厳しい両親に反抗したい気持ちを、ガマンすることが多かったという学生時代。でも大人になってから、ふと「親も完璧じゃなく、同じ人間なんだ」と気づきます。これをきっかけに段々、両親と新しい対等な関係で向き合えるようになったそう。

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誰にでも訪れるはずなのに、意外と周りに相談しにくい、このいわゆる“親離れ・子離れ”の過程が、この映画の中ではいきいきと描かれます。ここにも大森さんはすごく共感を覚えたと言います。

『スタンド・バイ・ミー』や『イントゥ・ザ・ワイルド』など、主人公が旅を通して成長するロードムービーがずっと好きだった大森さん。『はじまりへの旅』も「全シーンがお気に入り!」と語るほど、大森さんにとって“愛しちゃった1本”です。でも思いが強いからこそ、かえって友人たちには「もし気に入られなかったら?」などと考えてしまい、あまりオススメできていないとのこと。

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それはもったいない! 世間ズレした、この一家のぶっ飛び具合が笑えるし、カラフルな服装が可愛いいし、シガー・ロスはじめ劇中で流れる音楽もセンスがいい!! 見せ方がポップだから、真剣なテーマがあってもヘビーに思う人はほぼいないはず……などと話していたら、取材の最後、大森さんが吹っ切れたように「やっぱり、友だちの誕生日にプレゼントに添えて、『はじまりへの旅』のDVDを贈ることにします!」と。

大森さんの“好きなものは好き!”と言わんばかりの笑顔が素敵で、何だかうれしくなってしまったのでした。

FEATURED FILM
はじまりへの旅 [DVD]
監督・脚本:マット・ロス/ DVD ¥3,800+税 好評発売中 / 発売元:松竹 販売元:松竹
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監督・脚本は、これが2本目の長編監督作となるマット・ロス。カンヌ映画祭「ある視点」部門で監督賞に輝き、バラエティ誌の“2016年注目の監督10人”に選出された。世界各国の映画祭や全米の賞レースをにぎわせ、異例の大反響を呼んだロードムービーである。主演のモーテンセンを囲むのは、抜群の愛くるしさと驚異の演技力を披露する“小さな名優たち”。更に、アメリカ各地の雄大なロケーションをカメラに収めた映像美やガンズ・アンド・ローゼズの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」、ボブ・ディランの「アイ・シャル・ビ・リリースト」といった名曲のカバーを挿入した音楽センスも加わり、オンリーワンの珠玉作が誕生した。
TRAILER
『はじまりへの旅』予告編
PROFILE
大森千秋
Chiaki Omori
松竹の洋画買付担当。映画館の番組編成、劇場勤務、日本映画の海外セールス、ロンドンでの逃亡生活などを経て今に至る。ふらふらと世界の街を散歩しながらその風景をフィルムカメラで捕まえるのが趣味。
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