PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語
映画の中に、いつでも音楽を探している

DVD棚、見せてください。第6回

映画の中に、いつでも音楽を探している

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クリエイティブな世界で活躍する人の、創造の原点に迫る連載「DVD棚、見せてください」。

DVD棚。そこには、持ち主の人間性が映し出されています。

繰り返し観たい映画、そばに置きたい大切な映画、贈りものだった映画、捨てられない映画……。いろいろな旅を経て、棚におさまっているDVDたち。同じものはひとつとしてない棚から、そのクリエイションのルーツに迫ります。

6回目のゲストは、作曲、編曲家の上田修平さんです。

持ち主プロフィール
上田修平(作曲、編曲家)
DVD所有枚数:50枚
DVD棚、みせてください。
生活のとなりに、友達との間に
僕のそばには、いつも映画があった

都心から少し離れた、緑に囲まれた静かな住宅街。駅前から続くゆるやかな坂道をのぼりきった見晴らしのいい場所に、作曲・編曲家である上田修平さんのご自宅があります。 「おじゃまします」と玄関の扉をあけると、そのすぐ隣にギターや鍵盤、スピーカー、音楽機材がずらっと並んだお部屋が見えました。この部屋は、レコーディングスタジオも兼ねた上田さんの仕事部屋だそうです。ほんのり薄暗い室内の棚には、たくさんの本が並んでいます。その部屋の窓の向こうには、庭先の緑が見え、そこから木漏れ日が部屋を暖かく包んでいました。

「曲をつくったり、ミュージシャンとレコーディングをしたり、家で仕事をする時は、ほとんどここで進めています。以前、この物件に住んでいた方も音楽に携わっていた人みたいで、この部屋は最初から防音室だったんです」

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カジヒデキやHomecomings、HALFBYやLYRICAL SCHOOLなど、数多くのミュージシャンの作曲や編曲、プロデュース、サウンド・エンジニアリングなどを手がけている上田さん。長い間京都に暮らしていましたが、東京での仕事が多くなってきたことから、2年程前に現在の場所に引っ越してきたそうです。ゆったりとした時間が流れる、京都を離れるのは寂しかったそうですが、都心へのアクセスも良く、緑にも囲まれたこの郊外での暮らしも気に入っているといいます。

普段は、その仕事の合間に、息抜きとして映画を観ることが多いとのことで、DVD棚は2階のリビングにありました。まず目に入ったのは、木製の棚に隙間なく収まった大量のレコード。その隣にあるテレビ台の下の扉を開けると、中にはDVDがずらりと並んでいました。洋画を中心に、コメディーやアクション、音楽関連の作品など、ジャンルはさまざまです。
DVDもレコードも、すっきりときれいに収納している上田さんですが、「たくさん集めたい」「パッケージとして眺めたい」という、コレクションとしての所有欲は今は全くないと言い切ります。

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「僕は、“物”としてただ持っているだけなら意味がないと思っていて、“必要”だから買っているという感じです。DVDなら観ることが大事だし、レコードも聴くことが大事。昔はたくさん集めていたけど、今は繰り返し観るものだけを手元に置くようになりました。あとのものは、引っ越しの時にだいぶ減らしました。荷造りをした後に、友だちを10人くらい家に呼んでみんなでUNOをしたんです。その1位の景品をDVDにしました。ダンボールの中から好きなのをあげるよって、たくさん振る舞ってしまいましたね(笑)」

京都に住んでいた頃は、自宅から歩いて5分のところに映画館があり、夕飯を食べてからレイトショーを観に行くなど、生活のすぐ近くに映画の存在があったという上田さん。友だち数人と誰かの家や事務所に集まり、DVDを選んでみんなで観ることも多かったそうです。

「僕ともうひとりの友人が何を上映するか決めていたんですけど、観た後に、みんなでああだこうだ話す時間が好きで、そのためにやってるような会でした。ジャド・アパトー製作、グレッグ・モットーラ監督の『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007年)とか、スティーブ・カレルが出ている『ラブ・アゲイン』(2011年)とか、女性にモテない冴えない男たちが、友だち同士でワイワイしているような映画をよく観ましたね。その時間が楽しくて、毎月のように仲間と集まっていました」

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サウンドドラックに浸りながら
映画を二度楽しむ

上京した現在も、一ヶ月に7,8回くらいのペースで映画館に行っているという上田さん。どんなに仕事が忙しくても、この習慣は途切れたことがないそうです。それほどまでに映画を好きになったのは、いつからでしょうか?

「僕が小学生の頃、母親がレンタルビデオ屋で働いていたので、洋画の新作を中心に映画をよく借りてきてくれたんです。両親とも映画が好きだったので、家族全員でよく観てました。だから、子どもの頃はほとんど映画館に行ったことがなくて、映画は家で観るものだったんです。スティーヴン・スピルバーグ監督の映画とか、ハリウッド映画が大好きで、今は廃刊になってしまった雑誌の『ROADSHOW』も夢中で読んでいました。だから、監督や俳優もどんどん覚えて詳しくなって。」

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当時の思い出として棚から出してくれたのは、『アリス 不思議の国の大冒険』(1972年)、『グーニーズ』(1985年)、『フェリスはある朝突然に』(1986年)、『ラビリンス/魔王の迷宮』(1986年)、『長くつ下ピッピの冒険物語』(1988年)の5枚でした。ネット配信されていない作品も多いため、大人になってからDVDで買い、手元に置いているのだといいます。

「『長くつ下ピッピの冒険物語』はテーマ曲がすごく良くて、それを聴くためという理由もあって、この映画をよく観ていました。そうやって、映画で使われている音楽を意識的に聴くようになったのも、小学生の時からですね。『スタンド・バイ・ミー』(1986年)、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)、『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)あたりのサウンドトラックのCDを母親にレンタルビデオ屋で借りてきてもらって、家族で外出する時に車の中でよく聴いていました。当時好きだった音楽は、CDをダビングしたカセットテープでしか手元になかったので、ほとんどあとから買い直しました」

聴くだけで映画のワンシーンが蘇り、その記憶にいつまでも浸ることができるサウンドトラック。上田さんは、“映画音楽の作曲家”という存在も気にかけるようになっていきます。監督や俳優で映画を見つけるのと同じように、作曲家で映画を観たり、ミュージシャンのCDを聴くのと同じように、映画音楽を聴いたりしていたそうです。

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DVD特典として付いてくる
映画音楽のメイキング映像が、一番観たいもの

映画のメイキング映像、そして監督やスタッフによるオーディオコメンタリーなど、本編の他に特典映像が収録されているのも、ネット配信にはないDVDならではの魅力。上田さんにとっても、映画DVDを購入する一番の目当ては、特典として入っている“映画音楽のメイキング映像”だといいます。

「映画音楽で好きな作曲家は、『ドニー・ダーコ』(2001年)のマイク・アンドリューズとか、『メッセージ』(2017年)のヨハン・ヨハンソン、『ギフテッド』(2017年)のロブ・サイモンセンとか、何人かいるんですけど、特に好きなのが『パンチドランク・ラブ』(2003年)や『レディーバード』(2018年)など、映画音楽をたくさん作曲しているジョン・ブライオンです。彼が音楽を作曲した『俺たちステップ・ブラザーズ』(2008年)のDVDには、特典として、そのレコーディング風景の収録が入っているんです。本編よりも、この特典映像に惹かれて買いました。この映画も、定職に就かないで親のスネをかじっている男たちの、いい意味で最高にくだらないコメディーで好きなんですけどね。」

“音楽がつくられていく過程が見たい”という気持ちは、その映画が好きだというだけではなく、自分の仕事をそこに重ねているからなのかもしれないと上田さんは話します。

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「音楽業界やミュージシャンの人生を描いた映画も好きです。アメリカのカントリー音楽の中心地、ナッシュビルという地域を舞台にミュージシャンたちの群像劇を描いた『ナッシュビル』(1975年)という映画も、何度も繰り返し観ています。これもレコーディング風景から始まる映画なんですけど、街のライブハウスで誰かが演奏していたり、教会や野外の音楽祭で歌っていたり、とにかく本編が終始音楽で溢れていて、すごく好きな映画のひとつです」

映画の音を消して、
映像とギターを共鳴させる

作曲家として、広告やCMの音楽も手がけている上田さん。そのような作曲をする際には、好きな映画音楽や、映画の映像そのものから着想を得ることも多いといいます。

「曲をつくる時間の合間に、リビングや仕事場で映画を観る時もあります。最後までじっくり観てしまうこともあるし、映画の音を消して流れている映像に合わせて、ギターを何となく弾くこともあります。映像と音楽って共鳴し合うというか、ムードみたいなものが“ぴったり”くる時があるんです。」

これまでに影響を受けた映画や、映画音楽について語ってくださった上田さんは、「これは勉強のつもりで買ったんですけど…」と、CDサイズの赤い箱に収められた3枚組のDVDを見せてくれました。

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「『レナード・バーンスタイン/答えのない質問』(2005年)という、記録映像です。ブロードウェイ・ミュージカル『ウェスト・サイド物語』の作曲家でもあり、クラシック音楽の指揮者やピアニストでもある、レナード・バーンスタインが、1973年にハーバード大学の学生向けに行った講義のDVDで、音楽の成り立ちや構造を解説していくという内容なんです。…というと、難しい内容だと思われてしまうかもしれないけど、ただ講義を映した映像ではなく、バーンスタインがカメラをしっかり意識して話していたり、ピアノやオーケストラの演奏を映した映像を挟みながら解説していくので、わかりやすく見ごたえもあります。これは、音楽の知識をより深めるために、よく観ているDVDですね」

ミュージシャンの友人にも映画好きの人が多く、京都に住んでいた頃のように、この部屋で友人同士で上映会をすることもあるそうです。ふと見ると、リビングのローテーブルの下にはプロジェクター、そしてソファーの近くにはいくつかの椅子が置かれていました。そういう時には、音楽にまつわる作品を選ぶことが多く、つい最近も、ニューヨークを舞台に音楽プロデューサーとシンガーソングライターの出会いを描いた『はじまりのうた』(2015年)をみんなで観たそうです。

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大好きな「音楽」が立ち上がる瞬間を、観せてくれた特別な一枚

子どもの頃から映画が身近にあり、サウンドトラックを通して更に深くのめりこんでいった上田さんですが、同じように夢中になっていたのが、“音楽”でした。なかでも、自身のルーツとして名前をあげてくれたのが、リビングにもポスターが飾ってあるビーチ・ボーイズです。

「自分のつくる音楽でも、最も影響を受けているバンドだと思います。ビーチ・ボーイズの中で一番好きなのが、『ペット・サウンズ』というアルバムです。初めてちゃんと聴いたのが多分20歳頃だったかな。ビーチ・ボーイズは、初期は、サーフィンと車と女の子、というイメージの楽曲が多かったんですけど、中心人物だったブライアン・ウィルソンが、次第に自分の内面を探求するような音楽をつくるようになっていくんです。その傑作が1966年に発売された『ペット・サウンズ』で、ちょっと影のある内省的な音楽なんですよね。すごく好きで、今でもよく聴いているアルバムです」

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ドキュメンタリーやライブ映像など、ビーチ・ボーイズ関連のDVDをたくさん集めたという上田さん。なかでも思い入れが深い作品は、ビーチ・ボーイズが題材となった唯一の映画、『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(2015年)だといいます。

「ポール・ダノとジョン・キューザックの二人が、ブライアン・ウィルソンを年代別に演じ分けた伝記映画で、音楽を描いた映画としても一番好きな作品です。中でも印象的なのが、ブライアン・ウィルソンたちが『ペット・サウンズ』をレコーディングしている、というシーン。映画では、実際に彼らがレコーディングしたスタジオに、当時の機材を持ち込んで撮影しているんですけど、今まで写真でしか見たことなかったレコーディングの風景が、当時のファッションも含めて、まるで本物の記録映像なんじゃないかというくらいリアルに描かれているんです。そのシーンを初めて観て、出会えた時の驚きと喜びはよく覚えていて、買って手元に置くようになってからも何回も観ています」

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想像の中で何度も思い描いていた場面が、はじめて輪郭をもって動き出す。それは、映画が持つひとつの力と言っていいかもしれません。繰り返し観たという『ラブ&マーシー』のボックスには、特典として封入されていた映画のTシャツが未開封のまま入っていました。「いつか着ようと思っているんですけどね」と、もとに戻す上田さん。ビニールのパッケージに大切そうに包まれたそのボックスには、映画を観た時の高揚感も、当時のまま込められているようでした。

最後に上田さんは、「実は、いつか映画の音楽を手がけてみたいという夢があるんです」と話してくれました。
家族や友人と一緒に観た思い出も含めて、積み重なってきた映画や音楽の記憶。今度は上田さんの音楽が、映画と一緒に誰かの心に残っていくのかもしれません。

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PROFILE
作曲、編曲家
上田修平
Shuhei Ueda
1979年、奈良生まれ。フリーランスの作曲、編曲家として、様々なアーティストへの楽曲提供を始め、TVやWEBなどのCM音楽なども数多く手がける。上田五辻名義で作品を発表したり、ライブ活動なども行なっている。現在、新作のレコーディングに向けて創作中。