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みなさま、ようやく涼しい季節になってきましたが、お元気でしょうか?
久しぶりに娘NiKiとの往復書簡を書きました! 今回はこのシリーズで初めて、NiKiから僕への手紙で始まります。
実はだいぶ前に一度、観る映画を一緒に決めて、書いたものがあったのですが、どうも納得がいかなかったらしく、今回もう一度改めて映画を決め直して、ようやく書き終えることができたようです!
NiKiは昨年よりアメリカから日本の高校に編入したのですが、日本の生活もとても楽しんで充実しているようで、何よりです。一方で以前にも増して「自分の書いた文章がオンラインで公開されることは大変なことだ」と気づいたようで(笑)、今回はより慎重に書いていたようですが、やはりNiKiらしい文章になっているので嬉しかったです。
「お父さん、もしかしたらクビになるかもしれないから、時間通り提出してね」
と、大人の事情もだんだんわかってきたようで(笑)、
でもしっかりと僕の方が遅れてしまいました……すいません!
さて、選んだ映画は『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』。学校の冬休み、クリスマス時期のお話ですが、僕はどの季節に観ても、何度も観たくなる大好きな映画です。
とてもあたたかい気持ちになりますので、是非皆さんも観てくださいね。
熊谷和徳
娘・NiKiから
父・熊谷和徳への手紙

おとうさんへ
ニューヨークは今どんな感じ? 私はちょうど期末試験が終わったところ。すごく大変だったけど、先週『The Holdovers』を観てから、勉強しながらそのサウンドトラックをたくさん聴いていて結構助けられたよ。特にLabi Siffreの「Crying, Laughing, Loving, Lying」。
そもそもこの映画に興味を持ったのは、お父さんが去年からもう2回も観直したって聞いて、どこがそんなに好きなんだろうって思ったから。実際に観てみて、すぐなぜかが分かった! もうクリスマスの季節じゃないけど、私が観た日はちょうど雪が降っていて、まるでこの映画が一日だけクリスマスを連れてきてくれたみたいだった!
観る前は、この映画がこんなに1970年代っぽい雰囲気だとは思っていなかったけど、それがすごく良かった。フィルムで撮っているのかなと思って調べてみたら実際は違ったんだけど、監督が「誰かのガレージにあるフィルム缶から見つかった映画みたいに見せたかった」って言っていたらしくて、その表現がこの映画の雰囲気にぴったりだなと思った。ボストンに行くシーンも好きで、今度お父さんと一緒にボストンに行って、映画に出てきたBrattle Book Shopに行ってみたいなって思った。
この映画がこんなに心に残る理由の一つはポール、アンガス、メアリーがお互い本当に必要なときにはちゃんと支え合うところだと思う。言い合いをしたり(しかも結構面白く)思ったことをそのまま言ったりするけど、誰かが困っているときには必ず味方になってくれる。メアリーがクリスマスパーティーで泣いたときには二人が家まで送ってあげるし、ポールが昔の大学の友達に会ったときにはアンガスがポールの嘘に付き合ってあげる。そしてアンガスが退学になりそうになったときには、ポールが彼のために立ち上がる。私が一番好きなシーンは、校長室の前でメアリーがアンガスの手を握るところ。泣けるよねー

それから、この映画は共感についてもいろいろ考えさせられると思った。人にはそれぞれの背景があって、それがその人の行動につながっているんだと思う。アンガスが義手の男性と喧嘩してしまったときも、あとでポールが、その人はきっとそこに至るまでにたくさんの苦労をしてきたんだろうって説明する。そのあとにポールが自分がどうしてあんな匂いがするのかも話すよね。全体としてこの映画は、人それぞれ違う問題を抱えていること、そしてみんなが理解してくれるわけじゃなくても、きっと少数でも本当に理解してくれる人がいるかもしれないっていうことを、とても自然に見せていると思った。
中学校のとき、ポールにちょっと似た先生がいたよ。その先生は私の学校で50年間も教えているおばあちゃんで、別の先生の一人は3年生のときその先生の生徒だったらしい。夏休みでも毎日学校に来ていて、不機嫌なことで有名で、コーヒーが大好きな先生だった。あるときアイスクリーム屋さんに行ったら、店員さんが私の制服を見て「同じ学校に通っていたよ」って言ってきたの。その先生を知っているか聞いたら、「もちろん」って言ってた。今どうしているのかなってちょっと気になった。
お父さんがこの映画をどう思ったのかを聞くのが楽しみ! 観ているとき、「ここはお父さんが笑いそうだな」って思う場面が結構あったよ。
今度は一緒に観られたらいいね!
にきより
父・熊谷和徳から
娘・NiKiへの手紙

NiKiちゃんへ
とてもすてきな感想をありがとう!
お父さんは今、ニキちゃんも知っているように足を怪我して、一ヶ月ほどはちゃんと歩くことももちろん踊ることもできなくて、お休みしていたんだけど、何だか世の中からとりのこされているような気がして、この映画のアンガスみたいにたった一人で学校に居残りさせられているような気持ちで過ごしていたよ。
今の時代はSNSで毎日みんながいろんなことを発信して、キラキラしているように見えて、そんな時に杖をついて、ゆっくり歩いているとなんか時代においてけぼりにされてるような気持ちになって、すごく落ちこんだよ。駅のホームなんかでは、一人だけじゃまになっている気がして途中でつかれてベンチに座りこんだりしていたんだ。でもそんな時にふとベンチの横にきれいな花が咲いているのをみつけたり、エレベーターで同じように杖をついている人や車いすの人と話したり、いつもとは違うゆっくりとした景色がみえていることに気づいたよ。
その時に焦らずに今しか見えないこの景色を楽しもうと少し考えを変えてみて、それで日記をつけたり、毎日ポストカードに絵を描いたり、今までやったことのなかったことをしながら毎日をすごしてみると、本当は自分の周りにはいつも助けてくれる人がいることに気づ付いたり、いつも何気なく見ていたことが特別に感じたりして、今度はとても感謝したい気持ちがたくさん湧いてきたりしたよ!

この映画のことに話を戻すと、お父さんはふとこの学校で居残りをして一番立ち止まっていたのは、生徒のアンガスではなくて先生のポールだったんじゃないかなと思ったよ。
いつも生徒を叱って、嫌な先生だときらわれていたこのポールは、アンガスやメアリーとの時間を通して、最後には自分こそが一歩前に進まなければいけない「居残り組(holdovers)」だということに、だんだんと気づいたのかなと思う。そう思うと、この映画はポール自身の旅立ちの物語に思えてきて、これからのポールの未来を想像して少しワクワクを感じてきたよ。いつだって何歳だって、人はもう一度旅に出て、新しい自分に出会えるじゃないかと思えてきたよ。
ニキちゃんも言うように、三人は、三人にしかわからないような、全くタイプは違ってもお互いを想いやれる独特のやさしさの表現をもっていたよね。それはそれぞれにつらい経験をしてきて、なんだかとても不器用で、時には、人に迷惑をかけてしまうこともあるんだけど、人間らしくて、とても憎めず愛らしい感じがするね。
お父さんが好きなシーンで笑ってしまったところは、メアリーがパーティーで最初は、楽しそうに音楽を聞いていたのに、だんだんさみしくなったのか酔っぱらってかんしゃくを起こしてまうところ。あの時になぜか三人がお互いを支え合って、そのあとのケーキのシーンですっかり心がひとつになっているのがとても温かく感じてよかったね。

最後のシーンでポールがアンガスをかばうところでは、ポールはたくさんアンガスやメアリーから、いびつだけど優しさをもらって、ようやく自分に正直に一歩前へ進む勇気を持つことができたんじゃないかと思ったよ。
ニキちゃんもアメリカから日本の高校に移って、環境や気持ちの変化がとても大変だと思うけど、いつもニキちゃんは、心に他の人への想いやりを大切にしているから、みんなにも好かれて、本当にすごいなとお父さんは誇りに思っているんだ!
何よりも、どこでも自分がエンジョイできることをみつけられることが、とてもスペシャルなことだと思うよ。きっとこの学校で居残りになってもニキちゃんはポール、アンガス、メアリーととても仲よくエンジョイするような気がするよ(笑)。
さて、お父さんももう杖がいらなくなって、また歩きはじめたところで、またTAPの練習も少しずつはじめて、これから勇気をもって、また前に進んでいくよ。
いましかみえなかったゆったりとした最色を大切にしながら、まだ見たことがない可能性をもっと見てみたいんだ。今から半月後にはバルセロナに行ってくるよ。
これからまた新しい旅がはじまるんだ!
お父さんより


