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「目の前にいる人」へ想いを巡らすことは、見知らぬ他人への想像力となる

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督 インタビュー

「目の前にいる人」へ想いを巡らすことは、見知らぬ他人への想像力となる

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自分は何者か。そんなアイデンティティの問題を、自らの「居場所」にかかわる切実な問いとして抱える人たちがいます。例えば、「国家を持たない世界最大の民族」とよばれるクルド人は、国がないため自分たちの居場所を自分たちで守らねばなりません。日本にもクルド人の難民申請者がたくさんいます。彼らのことを社会問題としてではなく、自分と同じ一人の存在として想像したことはありますか。
日本における在留資格を失ったクルド人の少女が、自らのアイデンティティに悩み葛藤し、成長していく姿を描いた映画『マイスモールランド』(2022年5月6日公開)。是枝裕和監督が率いる「分福」に所属する若き新鋭・川和田恵真監督の長編デビュー作です。主人公・サーリャを演じるのは、映画初出演となる嵐莉菜さん。その少女が心を開く少年を、本作が映画二作目の出演となる奥平大兼さんが務めます。
日本社会における難民の問題を、手触りのある一人の少女の物語として描いた本作。それぞれマルチなルーツを持つ川和田監督と嵐さん、そして撮影時には演じた少年と同じ高校生だった奥平さんに、自身のアイデンティティについての葛藤や、映画や表現を通して「自分ではない人」を想像してみることについて伺いました。
嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

「自分をすごく気にしている女の子」と、
「あまり気にしていない男の子」

本作は日本におけるクルド人難民()の問題を扱った作品でありながら、アイデンティティに悩む一人の少女の青春を描いた物語でもあります。

※クルド人難民
各地で迫害された多くの人たちが、難民としての保護を求めて世界中に渡っている。しかし日本においてクルド人が難民認定された例はないに等しく、非常に不安定な在留資格しか与えられていない。外国人の在留に関する様々な規定を定めた「出入国管理及び難民認定法(入管法)」を巡る状況も、年々悪化の一途をたどっている。

川和田監督は本作について「アイデンティティに悩んでいた10代のころに自分が観たかった映画でもあるんです」とおっしゃっていましたが、主人公のサーリャと同じ17歳の頃は、どんな高校生でしたか。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督
©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

川和田そうですね…置かれている状況の苦しさは比べられませんが、内面的にはまさにサーリャみたいだったと思います。サーリャが体験したようなことを、私もよく体験していました。例えば、「ガイジンさん」と言われるところとか。

劇中、サーリャがアルバイト先のレジで、お客さんに「ガイジンさん」と話しかけられるシーンですね。サーリャは、幼いころから日本で育ったクルド人で、川和田監督は日本とイギリスの二か国にルーツをお持ちです。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

「外人」という言葉には「外国人」や「仲間以外の人」という意味もあり、疎外感や自分のアイデンティティを否定されたかのような気持ちを抱かせてしまう言葉でもあります。

川和田いまはもう慣れきってしまったんですけど、高校生の頃はすごく心が揺れたんですよね。「私は何者なんだろう…」と。そういう悩みはありました。

海外にルーツを持つ人や、ミックスルーツを持つ人に話を聞くと、形は違えど同じような体験をしている人が多いですね。

5カ国のマルチルーツを持つ嵐さんは、サーリャ役のオーディションで「自分のことを日本人と言っていいのかわからない」とおっしゃっていたそうですね。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

私とサーリャでは置かれている状況は違いますが、同じようなことで悩んだことはあります。それこそレジでのシーンのようなことはよく経験していますし、幼稚園の頃は名前を呼ばれるのも嫌でした。そのぐらいの歳から、自分は“別”なんだというのを実感していて。

川和田ロケで一緒にラーメン屋に入ったときに、お店にいた人から「ガイジンさん?」って話しかけられたりしたよね。相手は良かれと思って、ウェルカムだよっていう気持ちで言ってくれてるのもあると思うので、複雑ですね。

私も監督と同じで、幼少期はすごく傷ついていたんですけど、いまは慣れて。でもやっぱり言われると、私は外国人なんだなって思っちゃう。サーリャもそういう気持ちはあると思います。

あのレジのシーンで「ガイジンさん」と言われたとき、私も傷ついたんです。演技だけれど、傷つきました。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

サーリャとしてだけでなく、嵐さんとしても傷ついていたと。

自分で「ガイジンだから…」と自虐的に言うことはあるんですが、それと他の人に言われることはやっぱり違うというか…。

川和田わかります。

わかりますか!? 周りの人に言われると、傷ついてしまうんですよね…。

周りから「あなたは、他と違う」と断定されるあのシーンは多くの人にとって共感できるのではないかと感じました。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

川和田ルーツの問題だけではなく、「自分って何者なんだろう」と悩んでいる人は多いと思います。

奥平さんは15歳のときに『MOTHER マザー』(2020)で映画に初出演され、現在も俳優として表現の場に立っていらっしゃいます。中学生の頃から、周りとは違う環境へ進むことについて、悩んだり迷われたりしたことはありましたか。

奥平「役者をやっていこう」と最初に決めたときは、めちゃくちゃ怖かったですね。僕は『MOTHER マザー』に携わったことで役者の面白さを知って、ずっとやっていきたいと思ったんですけど、そのときは周りのみんなが進路についてシビアに考えているようなときだったので。

でも将来なにが起こるかはわからないし、それに対して怖がっているのも嫌だったので、「悩むのは、もういいや」と、この道を選びました。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

「周りと違う」ということで、悩みすぎることはなかったのですね。

奥平あまりメンタルが強い方ではないので、ネガティブに考え過ぎないようにしているというのもあるんですけど、もともと「周りと違う」っていうことが結構好きだったんです。たとえば僕は音楽がすごく好きで、クラシックも聴くんですけど、友達はほとんど聴かないんですよ。だから「クラシックを聴いているなんて古臭いと思われるかな」と思うこともありました。でもそれが僕だから、しょうがないじゃないですか。

いまは、クラシックの良さを周りに普及しようとしています(笑)。そういうふうに、たとえ人と違うようなことをしていたり、違うようなものが好きだったりしても、あんまり考えすぎないようにしているというのはありますね。

奥平さんが演じた聡太は、在留資格を失ったサーリャにまっすぐに寄り添おうとする役でしたが、そういう点で、聡太と奥平さんには通じるものがある気がします。

©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

川和田聡太にぴったりですね。もちろん話し方とかはどんどん大人になったなと思いますけど、最初にお会いしてお話したときから根底にあるものは変わっていないなと思うんです。

奥平さんは絵を描くこともお好きで、そこから聡太の美大を目指しているという設定が加えられたそうですね。

川和田聡太のセリフでも、奥平君から受け取ってつくったものがあるんです。「ワールドカップで日本を応援していると言っていいかわからない」というサーリャに対して、「考えすぎじゃない?」って応えるところがあるんですけど、それはもとからあったセリフでは、ありませんでした。奥平君と出会い、そこからつくったものなんです。

サーリャのワールドカップについて「日本を応援していいのかな」というエピソードも、嵐さんの体験からも反映されていると伺いました。

川和田そうですね。もう、二人からはたくさん受け取りました。その影響を受けながら「自分についてすごくいろんなことを気にしている女の子」と、「良い意味であんまり気にしていない男の子」との出会いを、描きたかったんですよね。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

不条理な現実へ立ち向かうには、
「何もできない」と気付くことから

川和田監督は、嵐さんと奥平さんから多くを受け取り、本作をつくったということですが、そのようにしてでき上がっていったサーリャを通して、嵐さんのなかでの変化はありましたか。

撮影がほぼ順撮り(脚本の頭から順を追って撮影を進めること)だったので、途中から、サーリャに起きている問題が、どんどん自分の身に起きているような感覚になって。

川和田本当に顔つきや声も変わっていったよね。

川和田監督と試行錯誤し、彼女への想いが強くなるなかで、自分自身がサーリャのような状況になったらと考えると、やっぱり家族が自分の居場所になるだろうと思いました。

それは裏返すと、「家族以外に居場所がないと感じた」ということでもありますね。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

奥平さんは、サーリャとの関わりのなかで、そういうクルド人に触れていく聡太の素直な反応を表すため、クルド人難民の問題についてはあえて事前に勉強をせずに撮影に入られたと伺いました。実際に、どんな感情が湧き上がりましたか。

奥平正直に言うと「わからない」ことが多すぎて、日本にいるクルドの方の問題に関しては。もし、自分にできることがあるなら、自分の偏見に気づいたら、それを改めるとか。それは、目の前にいる人への配慮というか…傷つけないようにしたいから。

相手に対して、心を配っているということですね。

奥平でも、個人ができることって、そのぐらいで少ないと思うんです。実際に自分が聡太みたいに、サーリャが直面している現実について知ったら、理解することに手一杯で、どうしたらいいかわからなくなると思います。

だから、彼女が悲しんでいたり傷ついていたりしたら、とりあえず笑わせようとするんじゃないかな…。

奥平さんにとって、目の前にいる人と向き合うことが大切だと。

奥平そうですね。その人が特別な人であればあるほど、向き合うと思います。でも、その人への態度は変わらないとも思います。もちろんそれまでを振り返って「こういうときに、もしかしたら嫌な思いをさせてしまっていたんじゃないかな」とか、そういうことは考えるかもしれないですけど、特別その相手に対して対応が変わるということはないかなと。

こういう言い方は違うかもしれないですけど、僕は当の本人ではないので、100%その相手の状況を理解するっていうのは、すごく難しいことだと思うんですよ。だからできるだけ向き合うことで、変わらないでいられるようにしたいなと思います。

川和田いまの奥平君の言葉って、すごく素直なものだなと思うんです。聡太は大切な人の困難な状況に対して「なにもできない」という壁にぶち当たるんですけど、不条理な現実に対して人が行動していくには、まず「なにもできない」と気付くことが第一歩だと思っていて。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

本質的には理解はできないかもしれないけれど、まず「知ろう」とすることが、最初の一歩だと。

川和田それすら知らない、それにすら無関心だと、その先の一歩も踏み出せないですよね。「なにができる? なにもできない」、じゃあどうするんだ、というところから、「なんでこういう状況になっているんだろう」と勉強したり、「こんなに政治に参加しなくていいのだろうか」と考えていったり。

そうやって、一人ひとりが、自分も社会の一員としていまの現実をつくっているということに、気付いてほしいんです。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督

川和田あとは、目の前にいる人、その一人ひとりにどんな物語があるのか。そういうことを想像してほしいです。見知らぬ他者への想像力を持ってもらえると良いなと。自分もそうありたいですし、とくに若い人にはその希望を感じます。

本作は、10代のころに自分が観たかった映画でもあるということでしたが。

川和田見た目やルーツで判断されてしまう状況から、「私は何者なんだろう」と心が揺れていたとき、たくさん映画を観ていました。多様な映画を観ることで、救われたこともたくさんあったんです。

でも日本に暮らす、アジア以外にルーツを持った人を描いたものは、あまりなかったと思います。だから、そういう映画をつくりました。あの当時の自分に観せたい映画になったと思います。

嵐莉菜×奥平大兼×川和田恵真監督
©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

嵐莉菜、奥平大兼、川和田恵真の
「心の一本」の映画

最後に、皆さんの「心の一本」の映画をお伺いしたいのですが、自身を形づくったと思う映画はありますか?

奥平僕は『燃えよドラゴン』(1973)がめちゃくちゃ好きです。

『燃えよドラゴン』はアクションスターであるブルース・リーの代表作で、世界中にカンフーブームを巻き起こしました。

奥平空手をやっていたので、小さいころのヒーローがブルース・リーだったんです。だから『燃えよドラゴン』が大好きで。家でめちゃくちゃヌンチャクを練習しました(笑)。

川和田アクションもできるんだ!? (笑)

奥平いつかやりたいですね。

私は映画を好きになったきっかけが、『スター・ウォーズ』(1977~2019)なんです。

『スター・ウォーズ』シリーズは、銀河系を舞台にした光と闇の壮大な攻防戦を描き、1977年の第一作以降から2019年の完結まで、42年にわたって9作が制作された世界的な大ヒットシリーズです。

『スター・ウォーズ』のおかげで宇宙のことが好きになって、自分でも調べるようになりました。ほかには、『ジュマンジ』の2作目も好きです。

『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』(2017)ですね。

川和田ネットを使うやつだっけ?

ビデオゲームの世界に入っていく話です。学校で居残りしていた4人が偶然ビデオゲームを見つけるんですけど、プレイするキャラクターを選択した途端にゲームの世界に入ってしまって、ジャングルでサバイバルすることになるんです。

奥平すごいね(笑)。

ドキドキするような面白さだけじゃなくて、たとえば「森とか無理」って言ってた女の子が、ゲームから出て元の世界に戻ったときに、「一緒にハイキングしよう」ってなったりとか、登場人物みんなが陽気に、良い方向に変わっていくんですよ。そういう姿がすごく好きですね。

川和田私はケン・ローチ監督の作品に、監督としてすごく影響を受けています。どの作品も、社会のことを描きながらも一人の人間のドラマとしてつくっている。『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016)とかもそうだと思うんですけど、あれは自分のなかですごく大きな指針となっている作品ですね。

『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、イギリスの貧困の実情と福祉制度の問題を描き、ケン・ローチ監督がカンヌ国際映画祭で二度目のパルムドールに輝いた作品でもあります。

川和田あと日本の映画だと、行定勲監督の『GO』(2001)や井筒和幸監督の『パッチギ!』(2004)も好きです。どちらも特定のルーツのある人たちの話を青春ものとして描いていて、今回も参考にした、すごく大好きな作品たちです。

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映画『マイスモールランド』
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INFORMATION
『マイスモールランド』
出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー リリ・カーフィザデー リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズほか
監督・脚本:川和田恵真 
主題歌:ROTH BART BARON 「N e w M o r n i n g」
企画:分福
制作プロダクション:AOI Pro.
共同制作:NHK FILM-IN-EVOLUTION(日仏共同制作)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
製作:「マイスモールランド」製作委員会   
配給:バンダイナムコアーツ   

5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
公式HP: mysmallland.jp
©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
17歳のサーリャは、生活していた地を逃れて来日した家族とともに、幼い頃から日本で育ったクルド人。
現在は、埼玉の高校に通い、親友と呼べる友達もいる。夢は学校の先生になること。
父・マズルム、妹のアーリン、弟のロビンと4人で暮らし、家ではクルド料理を食べ、食事前には必ずクルド語の祈りを捧げる。 「クルド人としての誇りを失わないように」そんな父の願いに反して、サーリャたちは、日本の同世代の少年少女と同様に“日本人らしく”育っていた。

進学のため家族に内緒ではじめたバイト先で、サーリャは東京の高校に通う聡太と出会う。
聡太は、サーリャが初めて自分の生い立ちを話すことができる少年だった。
ある日、サーリャたち家族に難民申請が不認定となった知らせが入る。
在留資格を失うと、居住区である埼玉から出られず、働くこともできなくなる。
そんな折、父・マズルムが、入管の施設に収容されたと知らせが入る……。
PROFILE
俳優
嵐莉菜
Lina Arashi
2004年5月3日生まれ、埼玉県出身。「ミスiD2020」でグランプリ&ViVi賞のW受賞。2020年よりViViで専属モデルとして活躍中。日本とドイツにルーツを持つ母親とイラン、イラク、ロシアのミックスで日本国籍を取得している父親がいる。本作が映画初出演にして初主演となる。
俳優
奥平大兼
Daiken Okudaira
2003年9月20日生まれ、東京都出身。演技未経験ながら初オーディションで数百人の応募者の中からメインキャストの周平役に大抜擢され、映画『MOTHER マザー』(20)で俳優デビュー。その存在感と演技が評価され、第44 回日本アカデミー賞 新人俳優賞、第94 回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第63 回ブルーリボン賞新人賞、第30 回日本映画批評家大賞新人男優賞を受賞。その後、ドラマ「恋する母たち」(TBS/20)、「ネメシス」(NTV/21)、に出演。2022年は「アクターズ・ショート・フィルム2」の『物語』(WOWOW)、「早朝始発の殺風景」(WOWOW)でW主演を務め、ドラマ「卒業式に、神谷詩子がいない」(NTV)、ドラマ「サヨウナラのその前に」(NTV)で火曜日の主演を務める。
監督
川和田恵真
Emma Kawada
1991年10月15日生まれ、千葉県出身。イギリス人の父親と日本人の母親を持つ。早稲田大学在学中に制作した映画『circle』が、東京学生映画祭で準グランプリを受賞。2014年に「分福」に所属し、是枝裕和監督の作品等で監督助手を務める。本作が商業長編映画デビューとなる。2018年の第23回釜山国際映画祭「ASIAN PROJECT MARKET (APM)」で、アルテ国際賞(ARTE International Prize)を受賞。
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