PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語
表現者として、ひとりの人として。井浦新が語る、いちばん大切なもの【前編】

井浦新 インタビュー

表現者として、ひとりの人として。井浦新が語る、いちばん大切なもの【前編】

SNSで最新情報をチェック!

「いまも、僕は何もできないんです。でも、できないなりの覚悟を持って仕事と向き合っているつもりです」と井浦新さんは静かに、力強い声で話します。

19歳でモデルデビュー、その後、是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』(1998年)に初めて役者として参加したのち、数々の名だたる監督の映画に出演し続け、現在43歳。2018年は主演映画となる『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』をはじめ、5本の映画に出演します。また自身が立ち上げたファッションブランドのディレクションや、NHK『日曜美術館』では2017年度までMCを務めるなど、新たな分野にも果敢に挑戦し続け、活躍の幅を常に広げています。

今回、井浦さんのお話から感じたのは、井浦さんは「俳優として」だけでなく、「人として」どう生きるかを常に考えている人だということ。彼が挑みつづける理由は、表現者かつ、ひとりの人間として人生をおくってきた中で培かわれた独自の考え方にあることがわかりました。

表現者として、ひとりの人として。井浦新が語る、いちばん大切なものとは【前編】
“本当”に捕われず、実在する人を“生きる”。

今年は主演作が『ニワトリ★スター』(2018年3月)、『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』(18年6月公開)、『止められるか、俺たちを』(18年秋公開)と続けて公開されますね。テレビドラマにも出演され、日本の伝統文化を広める活動もされています。さぞかし目まぐるしい日々を送られていることかと。

井浦ありがたいことです。でも、『返還交渉人』は2017年8月に放送されたドラマが映画化されたので、撮影はだいぶ前になるんです。この作品は当初、映画化は予定されていなかったのですが、担当された柳川監督の情熱によって異例に映画化が実現したようです。

柳川監督と井浦さんが組むのは、今回で3度目ということ。本作で井浦さんが演じられた外交官・千葉一夫は、沖縄返還で外交交渉の最前線にいた実在の人物です。アメリカの外交官の間で語り継がれるほど、激しい外交交渉を重ね、何度も沖縄に足を運び現地の人の声に耳を傾けたという、情熱と義侠心の固まりのような人であるとお伺いしました。柳川監督はキャスティングする当初から、井浦さんの心性にぴったりだと思っていたそうですね。劇中で度々登場する、千葉が対“人”、対“状況”などに憤慨するシーンは印象的でした。

井浦あれでも、怒るシーンは少なくしたんですよ。千葉さんは、いわゆる昭和の豪傑なので、やることなすこと情熱的。千葉さんのご子息が一足先に映画を観てくださったのですが、「父はもっと怒っていました」と笑いながら仰っていたぐらいです(笑)。一方で、当時の千葉さんを知る方々は「仕事のことならば声を荒げて怒り散らすこともあったが、豪快に酒を呑んで楽しく酔っ払うユーモアも持ち合わせた人だった」と。

たしかに、怒っている千葉さんだけでなく、家族と笑いながら過ごしている姿も同じく印象に残っています。

井浦千葉さんが怒っているシーンすべてを、「怒り」という感情だけで表現するのはどうかなと思ったんです。人間ってもっと豊かでいろんな感情を持っていますよね。映画は限られた短い時間で、人となりを見せなければならない。忠実さよりも、彼のモチベーションである「怒り」を自分の腹に貯め込みつつ、それを色々な形で表現しました。

表現者として、ひとりの人として。井浦新が語る、いちばん大切なものとは【前編】

怒りはベースにありつつも、人となりの深みもきちんとみせようと。

井浦本や映像で本人を知ることは大きな手がかりにはなりますが、人間なので一辺倒ではないでしょうし、どんなに努力しても僕がその人そのものにはなれないと思います。僕はこれまで三島由紀夫や連合赤軍の坂口弘など、実在する人物をたびたび演じてきましたが、大事にしているのは忠実性ではありません。それよりも、その人がどんな思いを持って生きてきたのかを考えること。「何のために一人の役者が実在する人物を演じるのか」を考えたとき、肝はそこにあると思うのです。

モノマネはしない、ということですか。

井浦モノマネ、つまり“本当”に捕われすぎると、人となりの純粋な芯の部分がなくなってしまうように思います。だから、実際の出来事を血肉にしながらも、「こんな側面もあったのではないか」という個人的な思いも演技にのせています。それは、自分が感じたことを素直に演じることが大事だと考えているからです。つまり、自分というフィルターを通しながらも、実在する人を“生きる”ということです。そういう役者同士でぶつかり合って演じたときに出てくる感情を、現在の人が観てどう感じるかが重要なんです。

表現者として、ひとりの人として。井浦新が語る、いちばん大切なものとは【前編】
手がかりを見つけたら、血肉にする。最後は「帰ってこられなくてもいい」と思うほど役にのめり込む

今作のクランクイン前に、井浦さんは映画の舞台である沖縄を訪れたそうですね。

井浦クランクイン前に、千葉さんが現地で暮らす人の声を聞くために何度も訪れた沖縄のアメリカ軍基地を一人で巡りました。それは役づくりのためというよりは、昔から今に続く“空気”を感じるため、というんですね。物語の舞台である60-70年代の沖縄を体験することは難しくても、千葉さんが見て感じた景色は何だったのかを僕も感じて、身体にいれなければいけないと思うんです。基地の雰囲気、戦闘機の爆音、沖縄県民の人柄、それらを自分の目で見て肌で感じて、心の底まで響かせてから撮影現場に向かいました。

役を演じた後にも沖縄に行かれたようですが、感じるものが違いましたか?

井浦違いましたね。元々沖縄が好きで、いち観光客としてグスクなど古い歴史や文化、自然が残る場所によく行っていました。ですが、千葉さんが訪れていたのは僕が行っていた場所とは違う、戦後の歴史が残る那覇や嘉手納。彼を演じたことで、観光的だけにしか捉えられなかった沖縄の戦争の跡をもっと切実に感じるようになりました。

自然が豊かで、暖かくハッピーになれる場所という側面はもちろんありますが、別の側面もある。人も街もどんなこともそうですが、ある側面と違う側面が見つかると、愛の深みが増すんだと実感しました。沖縄がもっと大切な場所になりました。

表現者として、ひとりの人として。井浦新が語る、いちばん大切なものとは【前編】

調べようと思えばいくらでも調べられてしまう時代なので、「忠実に再現する」ことよりも「自分の考えを役にのせる」ことの方が難しいように思います。それは、俳優業に限らず表現するすべての事柄に対してですが。

井浦少しでも手がかりがあれば見つけて自分の血肉にした上で、できる限り決め込まないフラットな状態で現場に臨み、その人を演じることで追体験することが僕にとって幸せなんです。でも、だからこそ実在する人物を演じるときは、その人の地位や名誉に関係なく、本人とその家族に敬意をはらうことは忘れないようにしています。敬意を持って実在する人物を生き、周囲からおかしいと思われるほど、その人物と向き合ってのめりこむ。「帰ってこられなくてもいい」と思うくらいに入り込まないといけないんです。

そこまでご自身を追い込むんですね。

井浦キツイですし、失敗もたくさんしますけど、本人やその家族に対して絶対に失礼のないように演り尽くしたいと思っています。今回も、“怒る”千葉さんに似せるのではなくて、「ノー」をはっきりと言えるその背中や、豪傑がたまに笑う目元など、役と向き合ったからこそ無意識に滲み出る、そういう芝居ではないものを表せるようになりたい。僕は演じる責任を負っているので、微力ながらも43年間生きて感じたことを、その自分の小さな経験を膨らませて、足したり引いたりすることでリアルにみせることができると思う。できることはなんでもするつもりで役に臨んでいるんです。

表現者として、ひとりの人として。井浦新が語る、いちばん大切なものとは【前編】
RANKING
  1. No.01
    間宮祥太朗 インタビュー
    「えぐみ」のある、キミが好き。
    “あたりまえ”を逆転させた、あなたと映画
  2. No.02
    熊谷和徳の映画往復書簡 #2
    ハナレグミ永積崇から
    熊谷和徳へ
    「こちらNICE西日なう」2通目
  3. No.03
    山崎まさよし×篠原哲雄監督 インタビュー
    泥棒とミュージシャンは、似ている?一人の「個」として自分を守るために必要なこと
  4. エンディングを見届ける。 “終わり”があるからこそ、人生は豊かだ No.04
    渡辺大知 インタビュー
    エンディングを見届ける。
    “終わり”があるからこそ、人生は豊かだ
  5. 熊谷和徳から ハナレグミ永積崇へ 「生きてグルーヴ」1通目 No.05
    熊谷和徳の映画往復書簡 #1
    熊谷和徳から
    ハナレグミ永積崇へ
    「生きてグルーヴ」1通目
  6. 「役者は向いてないと思うこともある」 揺らぎ、悩み、前進する有村架純25歳。 No.06
    有村架純 インタビュー
    「役者は向いてないと思うこともある」 揺らぎ、悩み、前進する有村架純25歳。
  7. 理解できない! それなのに、危険な存在に惹かれてしまう怖さって? No.07
    嗚呼、こんなにも魅惑的な登場人物たち! 第2回
    理解できない! それなのに、危険な存在に惹かれてしまう怖さって?
  8. 「その痛みを想像できるのか?」 死ぬこと、殺すこと、生きること。 No.08
    塚本晋也監督 インタビュー
    「その痛みを想像できるのか?」
    死ぬこと、殺すこと、生きること。
  9. 映画を通して見つけだした、福士蒼汰の考える「本当の優しさ」とは No.09
    福士蒼汰 インタビュー
    映画を通して見つけだした、福士蒼汰の考える「本当の優しさ」とは
  10. 映画を通じて、未知の自分を探求する。市川実日子はそこで“本来の自分”の姿に出会った No.10
    市川実日子 インタビュー
    映画を通じて、未知の自分を探求する。市川実日子はそこで“本来の自分”の姿に出会った
INFORMATION
『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』
出演: 井浦新 戸田菜穂 尾美としのり 中島歩 みのすけ チャールズ・グラバー 吉田妙子 平良進 津波信一 佐野史郎 大杉漣 石橋蓮司
脚本:西岡琢也 音楽:大友良英 語り:仲代達矢
原案:宮川徹志「僕は沖縄を取り戻したい 異色の外交官・千葉一夫」(岩波書店刊)
プロデューサー:西脇順一郎 監督:柳川強
制作・著作:NHK/配給:太秦
公開:6月30日(土)ポレポレ東中野、7月7日(土)桜坂劇場ほか全国順次公開
公式サイト: www.henkan-movie.com
©NHK
沖縄返還で外交交渉の最前線にいた実在の人物、千葉一夫。戦後、外交官となった千葉は、本土から切り離され、アメリカの統治下にあった沖縄から核兵器を撤去させ、ベトナム戦争の出撃拠点としないよう、アメリカと激しい外交交渉を重ねた。さらに何度も沖縄に足を運んでは、人々の苦悩に真摯に耳を傾けた。立ちはだかる本土の思惑に挫折しかけながらも、妻・惠子に支えられ、「鬼の千葉なくして沖縄返還なし」と称された伝説の外交官が生涯をかけて貫いたものとは―。
PROFILE
俳優
井浦新
Arata Iura
1974年東京都生まれ。映画『ワンダフルライフ』(98/是枝裕和監督)に初主演。以降、映画を中心にドラマ・ドキュメンタリー・ナレーションと幅広く活動。主な出演作品に『ピンポン』(02/曽利文彦監督)、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08 /若松孝二監督)、『空気人形』(09/是枝裕和監督)。『かぞくのくに』(12/ヤン・ヨンヒ監督)で第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。『11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12/若松孝二監督)では日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。『ジ、エクストリーム、スキヤキ』(13 /前田司郎監督)、『さよなら渓谷』(13/大森立嗣監督)、『悼む人』(15/堤幸彦監督)、『白河夜船』(15/若木信吾監督)、『光』(17/大森立嗣監督)、『二十六夜待ち』(17/越川道夫監督)、『ニワトリ★スター』(18/かなた狼監督)など。今作の監督柳川強が演出したNHKドラマ「最後の戦 犯」(09 年)がテレビドラマ初主演作。今後の公開待機作として『赤い雪RED SNOW』(甲斐さやか監督)、『菊とギロチン―女相撲とアナキスト―』(瀬々敬久監督)、『嵐電』(鈴木卓爾監督)などがある。