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弱さや矛盾を抱えながら、大切な人と向かい合う難しさと尊さ

竹財輝之助×猪塚健太×三木康一郎監督 インタビュー

弱さや矛盾を抱えながら、大切な人と向かい合う難しさと尊さ

目の前にいる大切な人を、傷つけてしまう自分。大切だとわかっているのに、相手よりも自分を守ってしまう自分。大人になればなるほど、なぜか大切に思う人の気持ちを素直に汲み取れなくなっていく自分がいる。そんな経験はありませんか?
2018年、BL(ボーイズラブ)漫画原作で初めて連続実写ドラマ化され、フジテレビが運営する動画配信サービスFODで配信を開始した「ポルノグラファー」。FOD史上最速で100万回再生を記録するなど、異例の大ヒットを記録しました。翌年には2作目となる「インディゴの気分」も放送。毎話の配信・放送後にはSNSのトピックスランキングの上位にあがり、前作同様話題を集めました。そんな人気シリーズの最新作が、『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』(2021年2月26日公開)です。シリーズ3作目となる本作では、嘘つきな官能小説家・木島理生(竹財輝之助)と純情な大学生・久住春彦(猪塚健太)の思いを通わせる2人が、ときにすれ違いながらもその未来について葛藤し、相手と向かい合おうとする姿が描かれています。
竹財さんと猪塚さんは、大切な人との関係性の築き方について、演じる役柄とは正反対だと話します。ドラマ版に続いてメガホンをとった三木康一郎監督とともに、「誰かを大切にすることの難しさ」について伺いました。
『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』竹財輝之助×猪塚健太×三木康一郎監督 インタビュー

一番共感できるのは、
ややこしい大人の感情

配信ドラマとして異例の大ヒットを記録した「ポルノグラファー」は、主人公2人の心理描写が繊細に描かれ、“大人の恋愛作品”として大反響を呼びました。その最終章となる本作も、木島と春彦という大人2人の恋愛が描かれるわけですが、木島は「こじらせ官能小説家」という紹介どおり、「誰かと関係性を築くことにむいていない」と春彦と向き合うことに臆病です。竹財さんご自身は、そんな木島に共感するところはありましたか?

竹財木島先生にですか? 全くですね!

全くですか(笑)。木島は作中、「僕なんか」「僕みたいな」と自分を卑下する言葉を口にすることも多く、その自信の無さから、大切に思っているはずの春彦を傷つけてしまいます。

竹財「自分の気持ちは素直に言っちゃえばいいのに」「言うの遅いよ」と思っていました、これ言っちゃうと元も子もないですけど。

竹財輝之助×猪塚健太インタビュー

2人が仲違いしたあとに書いた手紙も、せっかく素直な気持ちを綴っていたのに、破り捨ててしまうシーンがありましたね。

竹財パートナーを大切にするには、お互いの歩み寄りが必要だと僕は思います。でも木島と春彦の関係性は、春彦のほうからグイグイきてくれて、木島はそれにかまけて甘えているというもので。そのバランスがドラマでは3対7ぐらいだったんですけど、映画ではさらに甘えて1対9ぐらいになってしまったので、一旦壊れたのかなと思いますね。

物語の中盤、2人はあることをきっかけにすれ違い、春彦は木島の元から離れてしまいます。春彦を追いかけることができない木島に、居候先のスナックのママである春子(松本若菜)がかけた「タフになるの、大切な人がいるなら」という言葉がとても印象的でした。

竹財木島が変わることができたのは、やっぱり周りの人に助けられたり、春子に背中を押してもらったりしたことが大きいですよね。自分の気持ちを言う勇気を、みんなからもらったんだと思います。

木島と対照的に春彦は、相手への思いを常に言葉や態度で示しています。感情の表現の仕方もストレートで、2人の大切な思い出だと信じていた「口述筆記」を木島が静雄(奥野壮)に手伝わせていたシーンでは、それに対する悲しみや怒りの感情を爆発させます。猪塚さんは、木島にまっすぐ向かっていく春彦の姿に、ご自身と重ねられるところはありますか。

竹財輝之助×猪塚健太 インタビュー

猪塚僕自身と重ねると…全然一緒ではないですね。あそこまでまっすぐな愛を相手に向けられるのって、僕にとってはある意味うらやましいというか。僕は「人を大切にするために必要なもの」っていうのは、「見返りを求めないこと」だと思っていて。自分がなにかをするときに相手に期待をしてしまうと、うまくいかなくなってしまうと思うんです。

恋愛の関係だと、より求めてしまいがちですよね。

猪塚そうですよね。僕は、心に余裕があるときは、それがうまくできるんですけど、余裕が無くなってくるとすぐに見返りを求め始めてしまうんです。でも春彦は、どんなときも自分の気持ちに正直で、真っすぐに気持ちを伝えていますよね。「好き好き」って。あの真っすぐな気持ちっていうのは僕にないので、うらやましいなと思いますね。

三木監督は、木島と春彦のコミュニケーションの取り方について、どう感じられますか?

三木僕、基本的に木島の考え方はすごくよくわかるんですよね(笑)。

『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』竹財輝之助×猪塚健太×三木康一郎監督 インタビュー

竹財わかりますよね(笑)。

三木僕は高校生が主人公の映画も何本かやっているんですけど、高校生がやったらこれ、「好き」「嫌い」って言って、話5分で終わるんですよ(笑)。

三木監督は『弱虫ペダル』(2020)や『覆面系ノイズ』(2017)など、高校生が主人公の作品も多く手掛けていらっしゃいます。

三木でもこの映画は、“大人の醜い話”だと思っていて。大人の余計な考えというか。

“大人の余計で醜いところ”ですか。

三木誰にでも、それまで生きてきたなかで身に着けてきた「余計な部分」みたいなものがあって、「物語」ってそこを描き出すとややこしくなって辛いだけなんですけど、今作では多分それを描いているんですよね。

『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』
©2021松竹株式会社 ©丸木戸マキ/祥伝社

木島は自分に自信がないから、2人の将来に対して不安をこぼし、それをフォローする春彦の言葉も信じることができない。相手の気持ちよりも「ダメな自分」を信じてしまう姿が映し出されていました。

三木でもその“大人のややこしさ”って、生きていくうえですごく大事な部分だったりするじゃないですか。過去の生きてきた自分をいまさら曲げることができない。そういう大人のろくでもない感情を、じゃあどうやって変えていくのか。どういう人との関わり合いでそれがプラスになったりマイナスになったりするのか。この映画ではそういうものを描いていて。

たしかに今作は、木島と春彦の恋愛を描いていますが、それは同時に木島が自分を知っていく過程でもあるということも描かれています。

三木だから今回の2人の関係には、まるきり答えがないですね(笑)。

『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』竹財輝之助×猪塚健太×三木康一郎監督 インタビュー

弱い、醜い自分を知る…。それが、大人の恋愛の醍醐味、みたいなものなのでしょうか。

三木“年を重ねることで身に着けるややこしさ”って、そこが実は本人にとって大事なところでもあって。若いうちは「好き」「嫌い」で終わってしまうところが、そうじゃない。じゃあそれってダメなのかって言われたら、そうではなくて。そういうものがあるから次に進めたりする。たぶん2人の関係は、大人でややこしいが故に、今後もダメなまま続いていくんでしょうね。

嫉妬を隠すために「どこで、誰と何をしていてもいい」なんてセリフを相手に吐いてしまうような、こじらせてしまっている木島も、あれはあれで良いんだと。

三木まあ、でも気持ちがわかるというか…ああなりますよね。僕も結構なるから。

竹財監督も意外とこじらせてる(笑)。

『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』竹財輝之助×猪塚健太×三木康一郎監督 インタビュー

三木意外とね(笑)。だって相手のこと好きになっちゃったら、思わない?「俺のこと一番好きでいろよ!」って。それで、思ってもないこと言っちゃったりするでしょ? でもそういう人の姿って一番共感できる。

そうやって過去の経験から、こじらせて身動きがとれなくなってしまう大人が、大切な人と向き合っていくために、何を大事にしていますか。

三木なんでしょうね。チューすることかな(笑)。

猪塚めちゃくちゃシンプル(笑)。

三木自分の考えとか、よくわかんなくなってきちゃうじゃん。

「伝える」というのは、言葉だけではないっていうことですかね。

三木そうですね。喋っても伝わらないとき、たくさんありますから。

竹財スキンシップは本当に大事ですよね。

『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』竹財輝之助×猪塚健太×三木康一郎監督 インタビュー

竹財輝之助、猪塚健太、三木康一郎の
「心の一本」の映画

劇中、「寂しさのない人生なんてあるのかい」という印象的なセリフがありますが、みなさんの寂しいときや心細いときに寄り添ってくれた映画について教えていただけますか。

三木難しいなぁ。寂しいときだらけだからなぁ(笑)。

竹財えー!?(笑)。

猪塚「心の一本」ってことですよね。僕は『マイ・フレンド・フォーエバー』(1995)を観ると本当に人恋しくなるし、「人として優しくあろう」って思います。

『マイ・フレンド・フォーエバー』は2人の少年の友情を描いた物語です。当時、VHS化にあたっては主人公2人の吹き替え声優を滝沢秀明さんと今井翼さんが務めたことでも話題になりました。この作品の、どういうところにそう思われるのですか。

『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』竹財輝之助×猪塚健太×三木康一郎監督 インタビュー

猪塚HIVに感染しているデクスターと孤独なエリックという2人の少年が仲良くなって、2人はデクスターの治療薬を探す旅に出るんです。もちろん、薬はみつからない。そんななかある晩、泣きながら眠るデクスターに、エリックは寂しさが紛れるようにと自分の靴を抱かせるんです。物語の最後にデクスターは亡くなってしまうんですけど、エリックはそこで、棺の中で眠るデクスターに自分の汚いスニーカーを抱かせるんですよ。

大好きなデクスターが亡くなったあとも、寂しくないようにと考えたんですね。

猪塚彼らの精一杯の優しさに本当にグッときて…。人に優しくするってこういうことなんだって思います。そういう気持ちを教えてくれる映画ですね。

竹財僕は悲しいときには映画を観ないんですけど、観るとしたら『ハングオーバー!』とかですかね(笑)。

『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(2009)は、独身最後のパーティーに参加した男たちのぶっ飛んだ2日間を描いたコメディ映画ですね。3作公開されたシリーズはいずれも大ヒットを記録しました。監督のトッド・フィッリップスは、日本でも2019年に公開され話題となった、ホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』の監督・脚本も務めています。

竹財単純に何も考えずに観ていて楽しいし、大人になってもあんな風に悪ふざけできたらいいなと思います(笑)。

『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』竹財輝之助×猪塚健太×三木康一郎監督 インタビュー

楽しい気持ちになりますよね。

竹財そうですね。悲しいものを観てさらに同化するよりは、何も考えずに観られる面白い、バカになれる映画とかがいいかな。

三木僕は最近観たなかでいうと『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020)かな(笑)。初日に2回観て…。

一同(笑)。

猪塚めちゃくちゃ行ってる(笑)。

三木とにかく『鬼滅の刃』にハマっちゃって(笑)。知ってます?

竹財輝之助×猪塚健太 インタビュー

はい(笑)。週刊少年ジャンプで連載されていた漫画作品で、2019年にアニメ化されるとすぐに話題となり、昨年10月に公開された映画は歴代興行収入ランキング1位となりました。

三木炭治郎くんっていう主人公がめちゃくちゃ強くて、もうダメだと思うようなときにも頑張るんですよ。高い壁も超えていくの。そんな姿を見ると、50歳を過ぎたおじさんも「この子も頑張っているんだから、それくらい(辛いことも)乗り越えなくちゃな」って思うんですよ。

劇場で泣く人も多いって聞きますけど、三木監督はいかがでしたか。

三木後半はちょっとヤバかったですね。どれだけ強い敵が出てきても頑張る、あの姿勢にね。「負けちゃだめだ!」って気持ちになりましたね。

『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』竹財輝之助×猪塚健太×三木康一郎監督 インタビュー
INFORMATION
劇場版 ポルノグラファー~プレイバック~
出演:竹財輝之助 猪塚健太 松本若菜 奥野壮 小林涼子 前野朋哉 / 吉田宗洋 大石吾朗

原作:丸木戸マキ「續・ポルノグラファー プレイバック」(祥伝社onBLUE comics)
監督:三木康一郎(『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』『弱虫ペダル』)
主題歌:鬼束ちひろ「スロウダンス」(ビクタ-エンタテインメント)
配給:松竹映画営業部ODS事業室/開発企画部映像企画開発室
公式Twitter: @pgpb_movie
©2021松竹株式会社 ©丸木戸マキ/祥伝社
2021年2月26日より新宿ピカデリーほか全国にて3週間限定上映


官能小説の「口述代筆」。奇妙な出逢いをへて恋人になった、官能小説家・木島理生(竹財輝之助)と大学生・久住春彦(猪塚健太)。木島が田舎へ里帰りしてからも、文通で遠距離恋愛を続けていた二人だったが就職したての久住とすれ違い、気まずい空気に…。そんな折、奇しくも再び腕を負傷した木島はかつてを思い出すように、地元で知り合った青年・静雄にペンを握らせる。そこへ久住がやってきてしまい………。
PROFILE
俳優
竹材輝之助
Terunosuke Takezai
1980年生まれ。熊本県出身。ドラマ「きみはペット」「東京男子図鑑」主演「マイラブ・マイベイカー」、映画『未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~(07)』『ハッピーメール(18)』『ママレード・ボーイ(18)』、舞台 タクフェス「あいあい傘」等に出演。舞台・ドラマ・映画で活躍中。
俳優
猪塚健太
Kenta Izuka
1986年生まれ。愛知県出身。主な出演作として、ドラマ「サウナーマン~汗か涙かわからい~」「地獄のガールフレンド」、映画『娼年(17)』『今日から俺は!!劇場版(20)』、ミュージカル「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」「星の大地に降る涙THE MUSICAL」等に出演。舞台・ドラマ・映画とマルチに活躍中。
監督
三木康一郎
Koichiro Miki
1970年生まれ。テレビ番組の演出家として数々のドラマやバラエティ番組を手がける。2012年『トリハダ劇場版』で映画長編デビュー。以降、数々のヒット作品を送り出す。主な作品に『植物図鑑 運命の恋、ひろいました(16)』、『覆面系ノイズ(17)』『旅猫リポート(18)』、『弱虫ペダル(20)』など。
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