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言えるよ どんなにどんなに謙遜したって 嫉妬されるべき人生でしたと」
誰かの背中は追いたくない。
戦う相手は他人ではなく、自分自身
― 今作では、主人公とその親友が、一人の女性を巡って抱く“嫉妬”という感情が、物語のキーとなって展開します。二つの異なる世界を主人公が行き来しますが、“嫉妬”という感情は世界が変わっても自分の中に強く残り続けるものとして描かれていました。自分のコントロールが効かないところも多分にある感情ですが、清水さんは嫉妬することはありますか?
清水 : 嫉妬にも色々な形がありますが、恋愛関係における嫉妬は、誰もが一度は抱いたことのある感情なんではないでしょうか。
― 清水さんは恋人に嫉妬したとき、どうされるんですか?
清水 : 言います! 例えば、彼女が他の男性と一緒にいて嫉妬したときは、「嫌だ」って(笑)
― 恋人に直接ですか?
清水 : はい(笑)。自分の思ったことを直接伝えてくれる人の方が、関係が上手くいくのかなと思います。
これは恋愛に限らずですが、相手には「お互い思ったことを言葉にして伝えよう」という話をするし、喧嘩が起きたら、その場で原因を探ります。「僕はこれが嫌だから、やめてほしい」「君が嫌なら、今後気をつける。ごめんね」とか。そうやって問題を二人で解決することで、同じ性質の問題って起きなくなるじゃないですか。
― 清水さんご自身が思ったことを伝えるタイプだから、相手も同じ価値観で、意見を言い合える人の方が関係が上手くいくんですね。
清水 : 衝突したときに、例えば「わかったわかった。とりあえず、ごめんね。」と言って自分の意見を曲げる人もいるけれど、その場はそれで収まっても結局は問題が解決されていない。だったら、衝突を避けないで、これからより良い関係を築いていくためにも、喧嘩というか、お互いの意見をぶつけることは重要だと思いますね。
― 今作の崇史が智彦の才能に嫉妬を抱くように、友人や周りの俳優に嫉妬することはありますか?
清水 : 一切しないですね。
― 即答ですね!
清水 : はい(笑)。僕はいま19歳なんですが、同世代の役者は誰が頭ひとつ出るのか、やはりみんな周りを伺っている感じはあります。僕らの上の世代の、例えば23、24歳の役者の方は、たくさん活躍されている俳優さんがいらっしゃるので、そこを目指して2~3年後までの助走の一歩目が“現在”という感覚があるんだと思います。
― 山崎賢人さん、吉沢亮さん、二階堂ふみさん、土屋太鳳さん、小松菜奈さんなどが23、24歳の世代の役者さんですね。
清水 : でも、僕はそういうことに一切興味がなくて。誰かに嫉妬する時点で、もう背中を見てしまっているというか。
― 誰かの背中は追っていないと。
清水 : そういう図々しさというか、ある程度の自信は必要だと思っていて。例えば、僕が出演している作品を観て「あのお芝居よかったよ」と言われた時に、「いやぁ、まだまだですよ」と謙遜するのではなく、「ありがとうございます」って素直に答えられるようにしたい。
そうじゃないと作品に対して失礼じゃないですか。せっかく、作品に関わる人みんなが全身全霊をかけてつくっているのだから、自信を持って「すごくいい映画です」って言うためにも、120%のクオリティのものを出したと言えないといけないと思います。
― いい作品をつくるためには、他人の才能に嫉妬している場合ではないということですか。
清水 : そうですね。ネガティブな考えが全くないわけではないですが、基本あまり後ろ向きなことは考えないタイプです。あと、周りと比べてやる気になるよりは、自分との戦いの中でそういう感情を捻り出していきたいと思っています。
清水尋也の「心の一本」の映画
― 今作で清水さんは、主人公と同じ研究所に所属する後輩・篠崎を演じられました。中盤、篠崎は何かに取り憑かれたように変貌していき、そこから段々と主人公が見ている世界が歪み始めます。一瞬で、その世界に“不穏さ”を持ち込む演技が印象的でした。以前、清水さんは映画『ダークナイト』(2008)でジョーカーを演じたヒース・レジャーのように、俳優の中でも少しズレた位置にいたいとおっしゃっていましたね。
清水 : 僕は、この仕事をしている以上、オリジナリティは大事だと思っています。俳優であれば、みなそういう想いを抱くと思うのですが、“代わりのない存在”になりたい。「この役は、清水尋也しかできない」って思ってもらえる役者になりたいんです。
今回共演させていただいた染谷将太さんは、まさにそういう役者さんだと思います。染谷さんが演じる役って、「これは、染谷さんにしかできない!」って感じるじゃないですか。
― 今作の森義隆監督も、智彦という「天才で、障害を抱えていて、内面的で、と非常にアプローチが難しい役」に、「僕があの世代で一番いいと思っている染谷くんに声をかけました」とおっしゃっていますね。清水さんは、15歳の時に観た映画『ヒミズ』での染谷さんや二階堂ふみさんの演技に、大変衝撃を受けたと伺いました。
清水 : 僕はあの時、映画のことも、演技のことも、全くわからなかった15歳でした。それなのに、この作品を観て、染谷さんや二階堂さんの演技に圧倒されて「すごい!」と感じたんです。お二人は、未成年で自分のアイデンティティを確立できなくてもがき苦しむという役柄を演じていました。未成年のもがきって、当事者である場合、それを客観的に捉えることって難しいと思うんですよ。
― 当時、お二人は染谷さんが19歳、二階堂さんが16歳でした。
清水 : だから、自身が未成年でリアルタイムに経験していることを、演技で表現するって相当至難の技だと思うんです。それを、未成年のお二人がリアリティを持って演じられていて、演技のことは何もわからなかった僕にもそのすごさが伝わった。その経験が僕にとっては大きくて。この作品を観て「自分はこの道でやっていく」と役者に本腰を入れました。
僕も「清水尋也」というオリジナルになって、染谷さんと一緒に肩を並べて作品がつくれるようになりたい。だから、「目標とする人はいますか?」と聞かれたら、「目標にされる人になりたいんです」って答えていますね。
― 嫉妬するより、嫉妬される側でいたいと。
清水 : 嫉妬されるのって気持ちいいですよね(笑)。
― では、最後に心の一本の映画を教えてください。
清水 : 悩みますね~。役者としてなら『ユージュアル・サスペクツ』(1995)のケヴィン・スペイシーが一番印象に残っているんですが、作品として一番心に残っているのは『トレインスポッティング』(1996)です。何度も繰り返し観ていて、今でも月に一度は観ます。
― ダニー・ボイル監督のイギリス映画ですね。当時まだ無名だったユアン・マクレガーが主演を務めています。
清水 : 僕はUKロックが好きでよく聴くのですが、この作品には、イギー・ポップやアンダーワールドなどの曲が作中で使われていたり、登場人物のファッションもかっこよかったりして。
― 当時、オアシスのスタイリングを担当していたレイチェル・フレミングが衣裳を手掛けていたんですよね。
清水 : あの作品に込められているカルチャー全部が好きですね。あそこまで泥臭くて汚いのに、オシャレに見える映画ってなかなかない。しかも「俺たちオシャレだろ?」って構えてないのが、さらに良くて。
もちろん続編の『T2 トレインスポッティング』も観ました。なんか悪ガキっぽいテンションになりたい時とか(笑)、ちょっと心が荒んだ時に観たくなる映画ですね。