PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば
うまくいかないときは力をためて 深く沈んで高く跳ぶ

松坂桃李×中川翼 インタビュー

うまくいかないときは力をためて
深く沈んで高く跳ぶ

自分自身の心に素直になれないとき。物事がうまくいかず、腐りそうになってしまうとき。自分との向き合い方や自分の心の扱い方を知っていれば、そんな時間も焦らずに過ごすことができるのかもしれません。
1995年に公開され、青春漫画の不朽の名作として歴史に名を刻んでいるアニメーション映画『耳をすませば』。柊あおいの同名少女漫画を原作に、本が大好きな中学生・月島雫と天沢聖司の甘酸っぱい夢と恋を描いた作品は、多くの人の心を掴みました。そして2022年、漫画・アニメーション映画で描かれた中学生時代に、10年後の夢を追い続ける25歳の二人の葛藤と成長を描いたオリジナルストーリーも加え実写化された映画『耳をすませば』が10月14日より公開されます。
今作で中学生時代の聖司役を務めた中川翼さんと、10年後にプロのチェリストとして奮闘する聖司を演じた松坂桃李さんに、夢を追いかけるなかでぶつかる壁や自分との向き合い方についてお話を伺いました。
松坂桃李×中川翼 インタビュー

自分の「心の声」に耳をすませるとき

今作でお二人は、主人公が恋をする天沢聖司というキャラクターの、15歳と25歳をそれぞれ演じられました。劇中、お二人の姿が似ていると思う瞬間がいくつもあったのですが、事前に相談されたりしていたんですか。

松坂監督から言われていたんだよね。「松坂桃李の癖を盗め」みたいな(笑)。

中川そうなんです。撮影現場で、一度だけ松坂さんに会える日があったんですが、チェロを弾いている松坂さんの姿から、何個盗めるかの勝負というか(笑)。松坂さんが演奏する時の目線の動きを真似したら、撮影の中山(光一)さんに「いま松坂桃李に見えたよ」って言ってもらえました。

©️柊あおい/集英社 ©️2022『耳をすませば 』製作委員会

松坂翼君の努力のたまものです。

夢を追う決意を真っ先に雫に告げる15歳の聖司や、大人になり、イタリアで一人暮らす部屋に雫の写真をたくさん飾る25歳の聖司の姿から、聖司にとって雫がとても特別な存在であることが伝わってきます。

中川聖司にとって雫は、毎日が楽しみになるような存在なのかなと思います。会えるのが嬉しくてドキドキしたり、学校に行くのが楽しみになったり。雫がいるから頑張ろうと思えるし、一緒にいられたら幸せ。そういう、自分自身を引っ張っていってくれるような人だと思います。

松坂大人になった聖司にとっては、出会った頃の、まだ素直に自分自身の「心の声」が聞こえていた、そのときの気持ちを思い起こさせてくれるような存在だと思いますね。一緒にいることによって自分をちゃんと保てるし、自分もこの人の心の支えになりたいと思えるような、そういう存在なのかなと思います。

©️柊あおい/集英社 ©️2022『耳をすませば 』製作委員会

聖司にとっての雫のように、お二人にとって自身の「心の声」がよく聞こえる、自分自身と向き合える場所や存在、時間などはありますか。

松坂僕は台本かもしれないです。役を演じるうえで、「自分だったらどうだろうか」と自身と照らし合わせて考えることもあります。そういうところで、向き合う瞬間というのはありますね。

共感するだけじゃなくて、「全然理解できないな」と感じることもありますか。

松坂そうですね。役柄の置かれた境遇や性格などが自分とは大きくかけ離れていたりしても、その理解できなさを、自分を頼りに少しずつ探っていくというか。例えば殺人鬼の役で、「なぜこんなに人を殺すんだ?」とその行動が全然理解できなくても、「あ、そういう衝動に駆られることがあるんだったら、もしかしたら自分にもつながるところがあるのかもしれない」と接点を考えたりしますね。

中川向き合う…。

松坂ある?

中川ちょっと松坂さんみたいに深くはないんですけど…。

松坂いや、俺のも深くはないから大丈夫(笑)。

中川一人でいるとき、トイレなどにいるときですね。密室や、狭い空間で考えることをよくします。リラックスしているというか、気を抜くことができて。

松坂トイレで考え事するの?

中川はい (笑)。あと撮影後の帰り道にわざと遠回りして、40分くらい歩いて家まで帰ることもあります。周りに人がいないときはぶつぶつ喋りながら、頭の中を整理しながら歩きます。ストレス発散にもなるし、自分を見つめ直せる時間になっていますね。心がスッキリします。

松坂リセットするような感じなのかな。

中川そうですね。散歩の時間にも、いろいろ考えるかもしれないです。

松坂桃李×中川翼 インタビュー

「うまくいかないとき」の自分との向き合い方

中川さんは今作の撮影時、演じられた聖司と同い歳だったそうですね。

中川はい、聖司と同じ15歳の中学三年生でした。小学生で初めてアニメーション映画で「耳をすませば」を観たときは、中学生の恋愛というのがあまりわからなかったのですが、中学生になって改めて観ると「青春の甘酸っぱさ」みたいなものにときめいて。そこから何回も観ました。

松坂ときめくよね。

同い年ということで、ご自身と共通する部分はありましたか。

中川聖司は堂々とした雰囲気を持ちながらも、裏で努力する人だなと思います。雫の前では強がって、なんでも平気だよって顔をしているんですけど、裏ですごく努力している。そういうところは、自分と少し似ているなと。

松坂翼君は、裏で努力するタイプなんだ。

中川表面上は全然頑張ってないですよって言っちゃうタイプなんです(笑)。

松坂僕はアニメーション映画を観ているときから、ちょっと変わった人だなと思っていました。かっこよくて優しいけど、独特な、言葉では説明しづらい浮世離れした空気感があって。そこが魅力の一つかなと。

加えて10年後の聖司には、またそれとは違う一面も垣間見えればと思っていて。

それは、どんな面でしょうか?

松坂チェリストとして活躍することを雫に約束してイタリアに渡ったんですけど、プロとして活動していくなかで、壁にぶち当たる。そういうときに出てくる内面的な弱さというか、人間味も肉付けできればと。

夢に向かっていくなかでは、うまくいかない歯がゆい思いも、絶対に出てくるだろうなと考えていましたね。

お二人はそういう「うまくいかないとき」を、どのようにして乗り越えてこられましたか。

松坂波はありますよね。「絶好調!」っていうときと、「あれ?」っていうときと。「あれ?っていう時期」は、絶好調になるまでの「バネを縮めている期間」だと思うようにしています。次にまたビヨーンと跳ねるまでの準備期間だと思って、無理やり良くしようとはしないで、その状態を保つということですかね。

松坂桃李×中川翼 インタビュー

跳び箱の踏み切りみたいですね。一度深く沈んで、力をためて高く跳ぶような。

松坂そうですね。なので調子がよくないと思ったら、それ以上落ち込み過ぎないように好きなゲームをしたり友達とご飯に行ったり、悩んでいることとは全然違うことをして、なにも考えない時間を作ることで、落ち込む時間をなるべく減らすようにします。

中川僕は耐えて耐えて、一回「どん底」まで落ちる、という感じです。僕は、人生では悪いことがあれば、良いことも絶対あると思っているんです。「悪いこと」と「良いこと」はトントンだなって。

松坂本当!?(笑)

16歳でそういう風に思えるのはすごいですね。

中川ついこの前も、嫌なことがあった後に良いポケモンカードがあたって(笑)。

松坂なるほどね。

中川悪いことがあっても、このあと良いことが起きるんだって、そういう風にポジティブに考えています。もちろん、落ち込んじゃう自分もいるんですけど…。

落ち込んでしまったときの解決方法はありますか。

松坂桃李×中川翼 インタビュー

中川最近は、トイレでクラシック音楽を聴いています。

松坂すごい(笑)。やっぱり狭い空間が大事なんだね。

中川自分の部屋で聴くのとは、やっぱりちょっと違うっていうか。なにかをするスペースがない空間が良いんです。

松坂余計なものがないところがいいよね。

中川そうなんです。最近は、グリーグというノルウェーの作曲家の「朝」っていう、有名なクラシックの曲を流してリセットしています。

反対に、調子が悪くならないよう、なるべく良い状態の自分でいるため、普段から大切にされている習慣や心がけていることなどはありますか。

松坂一日に一回以上「笑うこと」ですかね。口角が上がることで、気分が無意識的にあがると聞いてから、心がけています。テレビや映画を観てでもいいですし、人との会話でもなんでもいいと思うんですけど、笑うことは大事だなと。

松坂桃李×中川翼 インタビュー

一日中「笑わなかったな」っていう日もありませんか…!?

松坂全然ありますね! そういうときは、「一日中、笑わなかったな」ということで笑います。「誰とも喋んなかったなー(笑)」って。そうすると、そういう日もあってもいいなと思えるんです。

中川僕はそのときどきを全力で楽しんで、後悔しないようにするのことを意識しています。それは、迷ったときの基準にもしていて。ちょうど『耳をすませば』の撮影のときに、進学先を迷っていたんですけど、ひとつの学校は、朝6時くらいに起きなきゃいけなくて。

松坂そんな早いの!?

中川そうなんです。朝6時半とかの電車に乗らないと間に合わなかったので。

松坂家から遠かったの?

中川ちょっと遠くて。でも、もうひとつの学校だったら、近いのでゆっくり起きても間に合うんですよ。「全力で遊びたい」とも思っていたので、その学校を選びました。

松坂いいね、だいぶゆっくりできるね(笑)。

中川それでも朝は慌ただしいんですけど。

松坂明日も学校なの?

中川明日は土曜日なので休みですけど、部活がありますね。

松坂なにやってるの?

中川サッカーです。

松坂すごいじゃん! 試合でもバンバン得点を決めたりするの?

中川なかなか決められないです(笑)。『アオアシ』っていう漫画を読んで、チームスポーツをやってみたくなって、高校から始めたんです。中学のときは家庭科部でした。

松坂家庭科部? それも楽しそうだね。

中川裁縫をしたり、夏休みには料理をしたりしていました。

松坂桃李×中川翼 インタビュー

松坂桃李、中川翼の「心の一本」の映画

最後に、お二人にとっての「心の一本」の映画について教えてください。 松坂さんは以前、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)を挙げてくださいましたが、最近ご覧になったなかではいかがですか。

松坂最近、ジブリのすべての作品が入ったBlu-rayを買ったんですよ。それで、製作された順に観てるんですけど、『おもひでぽろぽろ』(1991)を初めて観て、なんていい作品なんだろうと思いました。

高畑勲監督のアニメーション映画『おもひでぽろぽろ』は、自分の生き方に悩む女性が、一人旅に出かけた先で幼少期の思い出を振り返りながら、自分自身にとっての大切なものをみつけていく姿を描いた作品ですね。

松坂今まで自分が観てきたジブリ作品とは少し違っていて、間の取り方や、テンポ感がすごく緩やかなんですよね。主人公の回想シーンのつなげ方や、声を演じられている俳優の皆さんの技術の高さにもびっくりして。

作り手の視点からも、発見がたくさんあったんですね。

松坂そうですね。そういうところでも響きましたね。なんて良い作品なんだ、なんで観ていなかったんだって思いました。

中川さんは、これまで観てきたなかで一番面白かった作品や、何度も繰り返しご覧になる作品はありますか。

中川何回も観てしまうのは、洋画の『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(2008)です。

『イエスマン “YES”は人生のパスワード』は、「ノー」が口癖の後ろ向きな主人公が、「イエス」と答えることをルールにしてから起こる、さまざまな出来事をユーモラスに描いた作品ですね。

中川ちょうど二年前くらいの、気分が落ち込んでいるときに初めて観て、ジム・キャリーさんのコミカルな技に心奪われました。そこから5、6回は観ています。

松坂良い映画ですよね。何がきっかけで観ようと思ったの?

中川ちょうど映画配信サイトに加入したばかりの頃で、「おすすめ」に出てきたんです。なにげなく観たらすっごく面白くて。物事をポジティブに考えようと意識するようになりました。

落ち込んだときや、元気をもらいたいときにご覧になるんですか。

中川凹んでいるときが多いかもしれないですけど、時間があるときも観ます。心から笑いたくなったときに観るかもしれないです。

松坂さんは、笑いたいときに観る作品や、笑って観た思い出のある作品はありますか。

松坂最近、すごすぎて笑ってしまったのは『トップガン マーヴェリック』(2022)です。

1986年に公開されてヒットした『トップガン』の続編となる同作では、前作の主人公であるマーヴェリックが、パイロットの訓練学校“トップガン”に、教官として帰ってきます。

松坂クオリティが高すぎて、思わずにやけちゃうというか、男心をくすぐられますね。なによりあの役はもうトム・クルーズしかできないなと思って。観終わった後も、メイキングまで調べて観ちゃいました。

G(圧力)がかかるシーンは芝居でどう表現するんだろうとか思いながら観ていたので、メイキングを観て「あ、本当に操縦しているんだ」って驚きました。自分たちでカメラや照明のセッティングもできるようになるまで勉強したらしいんですよね。作り手の高い熱量があって、このクオリティの映画ができるんだと思いましたね。

松坂桃李×中川翼 インタビュー
INFORMATION
『耳をすませば』
出演:清野菜名 松坂桃李 山田裕貴 内田理央 / 安原琉那 中川翼 荒木飛羽 住友沙来 音尾琢真 松本まりか 中田圭祐 小林隆 森口瑤子 / 田中圭 近藤正臣
原作:柊あおい「耳をすませば」(集英社文庫<コミック版>刊)
監督・脚本:平川雄一朗
主題歌:「翼をください」杏(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:映画「耳をすませば」製作委員会
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/松竹
©️柊あおい/集英社 ©️2022『耳をすませば 』製作委員会
読書が大好きで元気いっぱいな中学生の女の子・月島雫。彼女は図書貸出カードでよく見かける、ある名前が頭から離れなかった。天沢聖司―全部私よりも先に読んでる―どんなひとなんだろう。あるきっかけで“最悪の出会い”を果たした二人だが、聖司に大きな夢があることを知り、次第に惹かれていく雫。聖司に背中を押され、雫も自分の夢を胸に抱くようになったが、ある日聖司から夢を叶えるためイタリアに渡ると打ち明けられ、離れ離れになってもそれぞれの夢を追いかけ、また必ず会おうと誓い合う。
それから10年の時が流れた、1998年。雫は、児童書の編集者として出版社で働きながら夢を追い続けていたが、思うようにいかずもがいていた。もう駄目なのかもしれない―そんな気持ちが大きくなる度に、遠く離れたイタリアで奮闘する聖司を想い、自分を奮い立たせていた。一方の聖司も順風満帆ではなかった。戸惑い、もどかしい日々を送っていたが、聖司にとっての支えも同じく雫であった。
ある日、雫は仕事で大きなミスをしてしまい、仕事か夢のどちらを取るか選択を迫られる。答えを見つけに向かった先は―。
PROFILE
俳優
松坂桃李
Tori Matsuzaka
1988年生まれ、神奈川県出身。2009年、「侍戦隊シンケンジャー」(EX)で俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。12年には映画『ツナグ』(監督:平川雄一朗)などで第36回日本アカデミー賞新人俳優賞、19年、『孤狼の血』(監督:白石和彌)で第42回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、20年、『新聞記者』(監督:藤井道人)で第43回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をそれぞれ受賞する。ほか近年の主な映画出演作に『蜜蜂と遠雷』(19/監督:石川慶)、『いのちの停車場』(21/監督:成島出)、『流浪の月』(22/監督:李相日)など。12月9日に映画『ラーゲリより愛を込めて』(監督: 瀬々敬久)が公開する。
俳優
中川翼
Tsubasa Nakagawa
2005年生まれ、神奈川県出身。4歳でモデルデビューを果たし、その後は子役として活動する。近年の出演作は、映画『アイネクライネナハトムジーク』(19/監督:今泉力哉)、『浅田家!』(20/監督:中野量太)、『Arcアーク』(21/監督:石川慶)、ドラマ「青のSP―学校内警察・嶋田隆平―」(KTV/21)、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)など。21年には初主演映画『光を追いかけて』(監督:成田洋一)が公開。平川組は本作で3度目の参加となる。
シェアする