PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語
自分の思いを吐き出すことができない少年へ。そこからでも、君の言葉はきっと届く

ANARCHY監督 インタビュー

自分の思いを吐き出すことができない少年へ。そこからでも、君の言葉はきっと届く

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「銃がはびこっているわけではないから、日本にゲットーはないって言う人もいるけれど、今の日本には心の中にゲットーを抱えている人がたくさんいるって感じるんです。」

父子家庭で育ち、荒れた少年時代だった自身の生い立ちをリリックに綴り、日本のヒップホップの新しい道を切り開くラッパーANARCHYさん。15歳でラップを始め、17歳の時に暴走族の総長になり、25歳の時に発売した1stアルバムは、各音楽雑誌でその年のベストアルバムとして選出されます。

少年時代自分が吐き出せなかった思いを、ANARCHYさんは何度も何度も繰り返し音楽や文章で、言葉にしてきました。「心のゲットーを抱える人に向けて、自身が届けられること」を追求するスタイルから生まれた初監督映画『WALKING MAN』(2019年10月11日公開)。そこでは、絶望が希望に変わる瞬間を見ることができたのです。

自分の思いを吐き出すことができない少年へ。そこからでも、君の言葉はきっと届く。

僕の経験を何度もポジティブに物語る。
必死にもがいている人の背中を押せる表現でありたい

今日はよろしくお願いいたします。PINTSCOPEと申しまして…

ANARCHY映画のサイトですよね? 音楽のサイトではなく…。

はい、そうです!

ANARCHY今日は映画関係のメディアの方に、僕からも色々お伺いしたいと思ってるんです。こういう機会をいただいているので、学びたいというか…少しでも成長できればなと。

いつもは音楽関係のメディアの取材が多いということですよね。ずっとラップをつくってきたANARCHYさんが初めて映画を撮られたわけですが、「映画をつくる」ことがANARCHYさんの夢だったと伺いました。

ANARCHY映画って、表現の“究極の形”のような気がしているんです。「あの映画を観て人生が変わった」とかよく聞くじゃないですか。小説や音楽もそうですが、自分が経験したことのないことを体験できて、それが自分の人生の糧にもなりえるってすごいですよ。

映画は、音楽も映像も言葉も全部詰まっているので、観た人の感情を一番大きく動かせる表現なんじゃないですかね。だから、そういう表現に携わりたいと、映画を観ながら自然とそう思っていました。

自分の思いを吐き出すことができない少年へ。そこからでも、君の言葉はきっと届く。

映画がお好きだったんですか?

ANARCHYもちろん! 映画は大好きです。子供の頃は、テレビでよく放送されていたから『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)とか『ホーム・アローン』(1990)とかよく観ましたね。「ホーム・アローン」シリーズは『2』(1992)が好きです(笑)。

『ホーム・アローン』のヒットを受けて2年後につくられた、クリスマスのニューヨークが舞台となった作品ですね。

ANARCHY子供やティーンエイジャーが主人公の映画や、青春ドラマを描いた映画、あとはコメディ映画が好きですね。観た後、救われないような気分になる作品はダメで…(笑)。だから僕が映画をつくるときも、誰かの背中を押せる作品にしたいなと。

今作の『WALKIKG MAN』も、吃音症を抱え人前で話すことも笑うことも苦手だった主人公・アトム(野村周平)が、ラップと出会い自分の思いを表現できるようになっていく姿を描いています。

ANARCHY若者に一番届いてほしいと思っていて。

ANARCHYさんはラップをつくることも、世界を変えることができる「若い世代へ向けて」を意識しているとおっしゃっていますね。

ANARCHY今回も、少年マンガを読んでいる世代に「おもしろい」と言ってもらえれば成功かなと思っているんですよ。僕は15歳の頃とか、アトムと環境の部分で同じことがあって、それを吐き出さないとどうしようもない状態だったところがある。

自分の思いを吐き出すことができない少年へ。そこからでも、君の言葉はきっと届く。

アトムは極貧の母子家庭で、妹と一緒に暮らしながら、アルバイトで生計をたてていましたね。ANARCHYさんも父子家庭で育ち、15歳でラップを始められ、17歳で暴走族総長となるという経歴を持っています。

ANARCHYラップってラジカセひとつあればできるんですよ。お金がなくても、机叩いて、韻踏んで、言葉を並べると音楽になる。そのラップに、15歳だった僕はすごく魅力を感じた。そして、初めてステージ上で、そのラップを披露した時のことは忘れられません。僕の言ったことを、みんなが聴いてくれているんです。そんな瞬間って日常では、なかなかないじゃないですか。何十人、何百人が自分の言いたいことを聞いてくれることって。

その時のことを今でも鮮明に覚えているんですね。

ANARCHYはい。だから、今作でもエンディングでアトムが歌うところは、「みんながアトムの言葉を聞いている」ということを強く伝えるために、沈黙から音楽を始めました。

作品内では、言葉が誰かに伝わる瞬間、そしてその喜びが、何度も丁寧に描かれていました。

ANARCHY今の僕には、自分が経験してきたことしか表現できる力がなくて。だから今回の映画もラップを題材にしました。でも、ラップが好きな人だけに届くようにはつくっていません。僕が映画をつくりたいと思ったのは、音楽を聴かない、ラップを聴かない人たちにも伝えたいことがあるからなんです。

映画で、音楽を聴かない人たちにも伝えたいことがあると。

ANARCHY僕が育った街って、ゲットー(ヒップホップでよく使われる貧民地区という意味を持つ言葉)だと子供の頃は思っていたのですが、上京して東京の方がゲットーだなと思いました。僕が育った街の方が、団地だったからみんなが家族みたいだったし、もしかしたらいい環境だったんじゃないかなと。

銃がはびこっているわけではないから、「日本にゲットーはない」って言う人もいるけれど、今の日本には心の中にゲットーを抱えている人がたくさんいるって感じるんです。どれだけ必死に頑張っても、今いる環境から抜け出せないで、もがいて苦しんでいる人に、僕の経験を何度も物語ることで、少しでも前を向けるようになってもらえればって。僕の体験をポジティブな形で届ける、それが僕の使命だと今は感じています。

自分の思いを吐き出すことができない少年へ。そこからでも、君の言葉はきっと届く。

ジム・キャリーが主演する映画が、目指す地点。
そのために、映画を4時間かけて観る!?

映画がお好きだったとはいえ、ゼロからの映画づくりは大変だったそうですね。まずは、『スカイハイ』などで有名なマンガ家・髙橋ツトムさんに相談しにいったとか。

ANARCHY手ぶらで相談できるのは髙橋さんしかいなくて。だって、スポンサーどころか、脚本もストーリーも全くない時点で相談しに行ったんです。髙橋さんもマジで唖然としてました。「何言ってんだ?」みたいな(笑)。

「映画つくるのは、すごい大変なんだよ。できるのか?」って聞かれて、「できます!」って(笑)。昔から変な自信だけはあるんですよね。で、「映画つくりたいんです!」って言ったら、「よし、わかった!」と。そう言ってくれるのが髙橋ツトムさんなんですよ。

(笑)。

ANARCHY蜷川実花さんにも連絡して、話を聞きに行きましたね。蜷川さんもカメラマンから映画監督もされるようになったじゃないですか。だから、どうやって映画監督になったのか、僕が一番聞きたい事を聞けそうな気がして。

自分の思いを吐き出すことができない少年へ。そこからでも、君の言葉はきっと届く。

今日の取材の冒頭でも「この取材から、学びたい」とおっしゃっていましたが、自分の伝えたいことを表現するために、「ゼロから学んで形にする」という覚悟をANARCHYさんのお話から感じます。まずはその思いを周りに伝えることから始めて、仲間を増やしていくんですね。

ANARCHY今は「映画をつくりたい」と言ったら、カメラがあれば誰でもつくれるわけじゃないですか。今回僕は、みんなの協力のおかげで長編商業映画として公開することができた。そういう環境をつくれることって、幸せですよね。であれば、精一杯できる限りのことをして、表現したいなと。

…実は、すでに次の映画の脚本書いています(笑)。

まだ公開前なのに!? すごいバイタリティです!

ANARCHYそれを髙橋ツトムさんに言ったら、「おまえ、頭変だな。もう、つくりたいのかよ!?」って言われました(笑)。みんなをハッピーにできる映画をつくりたいんですよね。最終的には、ジム・キャリーが主演している映画のような作品をつくりたい。

自分の思いを吐き出すことができない少年へ。そこからでも、君の言葉はきっと届く。

いつも最後に、心の一本の映画を伺ってるのですが、ANARCHYさんは、やはり…

ANARCHY僕の一本は、ジム・キャリーが主演の『マン・オン・ザ・ムーン』(1990)という映画です。実在のコメディアン、アンディ・カウフマンを描いた作品ですね。僕がエンタテイナーとして存在するためのルーツとなった映画と言っていいと思います。

病魔に犯されたとしても、最後まで人を驚かしたり、笑わせたり、人の心をつかんでいく主人公の姿に打たれるんです。もう、何度も繰り返して観ていますね。

どんな時に映画を観たくなりますか?

ANARCHY新しいインスピレーションを入れたくなったときかな。僕、2時間の映画を4時間かけて観るんですよ。

どういうことですか!?

ANARCHY映画を観ていると、自分が感じたことのない感情になることってあるじゃないですか。その時に、一旦映画をストップして考えるんです。「なんで、こんな気持ちになった?」って。それで、それを言葉にしてノートに綴る。人の言葉を使うのが僕は好きではなくて、そうやって言葉をためているんです。それがリリックになるときもあります。

アイデアノートを片手に映画を観るんですね。

ANARCHYだから、だいたい映画観るときは4時間ぐらい空いていないと観ないです。途中で止めて日を改めて観るのは嫌なので。僕にとって映画は、ゆっくりしたい時とか「無」の時に、インプットや思考トレーニングと思って観ていますね。音楽より映画の方が観るかもしれないです(笑)。

自分の思いを吐き出すことができない少年へ。そこからでも、君の言葉はきっと届く。
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PROFILE
監督
ANARCHY
ANARCHY
京都・向島団地出身。父子家庭で育ち、荒れた少年時代を経て逆境に打ち勝つ精神を培い、成功への渇望を実現するため、ラッパーとして活動することを決意。2005年のデビュー以降、異例のスピードで台頭し、京都のみならず日本を代表するラッパーの地位を確立。2014年にはメジャー・デビューを果たし、更にスケールアップした存在感でリスナーを魅了している。
INFORMATION
WALKING MAN
監督:ANARCHY 脚本:梶原阿貴 企画・プロデュース:髙橋ツトム
出演:野村周平 優希美青 柏原収史 伊藤ゆみ 冨樫 真 星田英利 渡辺真起子 石橋蓮司
配給:エイベックス・ピクチャーズ
公開:10月11日(金)、新宿バルト9ほか全国公開
公式ツイッター: @walkingmanmovie
©2019 映画「WALKING MAN」製作委員会
川崎の工業地帯。幼い頃から人前で話すことも笑うことが苦手なアトム。
極貧の母子家庭で、母と思春期の妹ウランと暮らしながら、不用品回収業のアルバイトで生計をたてる日々を送っていた。
ある日、母が事故にあい重病を負ってしまう。
家計の苦しさから保険料を滞納していた一家に向かって、ソーシャルワーカーの冷淡な声が響く。
「自己責任って聞いたことあるでしょ?なんでもかんでも世の中のせいにしちゃダメだからね」。
毎日のように心無い言葉を投げつけられるアトムだったが、偶然ラップと出会ったことでバカにされながらも夢へと向かっていく―。