PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語
追い詰められても、出口はある。果てなきエンタメ道を歩むために【後編】

作家・池井戸潤 インタビュー

追い詰められても、出口はある。果てなきエンタメ道を歩むために【後編】

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社会状況に根ざした骨太なテーマを備えながら、決して堅苦しくなく、読む者の胸を揺さぶるのは、生きる「人」を丹念に描いているから。

公開が迫る初の映画化作品『空飛ぶタイヤ』の原作者である池井戸潤さん。劇団四季のミュージカルなど、普段からさまざまなジャンルのエンタテインメントに触れる作家は、映画からも多くのインスピレーションを与えられているといいます。

「自分には書けない」作品は、素直にリスペクトしたい

初めて観た映画は、アニメーションの『宇宙戦艦ヤマト』(1977年)。学生時代も、よく映画をご覧になっていたそうですね。

池井戸学生時代に映画好きの友人がいて、よく一緒に映画館に観に行っていましたね。印象に残っているのは、ブライアン・デ・パルマ監督のサスペンス『ボディ・ダブル』(84年)と、伊丹十三監督の『タンポポ』(85年)。『ボディ・ダブル』は、ヒッチコックの『裏窓』(54年)に、『めまい』(58年)を加えたような、面白い作品でした。

最近ご覧になって印象に残った作品として挙げられたのは、意外にも、『怪盗グルーのミニオン大脱走』(2017年)。かわいい作品ですね。

池井戸去年、宮崎に行ったとき、台風で予定していたゴルフができなくなり、代わりに映画館に行ったんです。「すげぇ、よくできてるわ!」と、驚かされましたね。

本編はもちろんよかったんですが、いちばん感心したのはエンディング。クレジットが流れ出したところで、おまけのアニメーションが始まるでしょう? あれがすごくよくできてるんですよ「誰がこんなことを思いついたんだろう?」と知りたくなったくらい。エンディングって、普通はただクレジットと歌が流れるだけなのに、グルーたちがもう1回出てきて、面白いことをやる。細かいところまで、気が利いているんです。

全編、楽しませるアイデアの宝庫ですね。見た目はかわいいですが、子供向けだとあなどっちゃいけない。ああいう作品は、なかなか作れないですよ。その頃、『ダンケルク』(17年)も観たんですが、はっきり言って『怪盗グルー〜』のほうが僕には面白かった(笑)。

それはそれは。

池井戸映画でも何でも、作品を観るときは「自分でも書けるだろうか?」と考えるわけですが、『ダンケルク』の脚本は僕にも書けるかも、と思った。でも、『怪盗グルー〜』はちょっと無理。クリエーターとして、素直にリスペクトしたくなりました。DVDも、全部買ったし。次作があったら? 絶対、観に行きますよ。

池井戸潤インタビュー
アイデアは無限。そう信じて、書き続けていく

そのほか、印象に残った作品として、イギリスのクレイアニメシリーズ『ウォレスとグルミット』を挙げておられるのも、同じ理由でしょうか。

池井戸その通り。粘土で作ってコマ撮りしている、あの執念がすごいですよ。1本作るのに何年もかかるんでしょ? 『野菜畑で大ピンチ!』(05年)も面白かったし、ほかの作品も全部、DVDを買って観ました。

『野菜畑〜』の前の、『ペンギンに気をつけろ!』(92年)もよかった。ウォレスとグルミットが機関車に乗って泥棒のペンギンを追いかけるんだけど、レールが足りなくなると、グルミットがスペアのレールを前に取り付けて走り続けるんですよね。それで永遠に追いかけっこをする。あの発想がすごいと思う。

日本人の発想って、暗い方面はわりと得意だと思うけど、ああいう、一見馬鹿げたことを延々とやる、諧謔(かいぎゃく)趣味みたいなものはなかなかない。日本人には難しいんじゃないかなぁ。独特な切り口だと思いましたね。

池井戸潤インタビュー

ご自身にはない発想に、刺激を受けたんですね。

池井戸そうですね。そういう作品を観ると、「自分が考えている限界は、もしかしたら限界じゃないのかもしれないな」と思える。その発見が、すごく重要なんです。

小説を書いていると、主人公は必ずどこかで難しい局面に立たされ、行き詰まります。主人公が行き詰まっているということは、イコール、作者も行き詰まっている、ということなんです。その窮地を脱する打開策をあれこれ考えてみるけれど、何も思い浮かばないときもあり……。でも、ああいう作品を観ると、「どこかに絶対、何かがあるな」と。

「レールがなければ、足せばいいんだ」と。

池井戸そう。どこかに必ず、出口があるはずだと。そう思えるのはすごく励みになるし、参考になりますね。視点とか、着眼点とか、発想の転換のバリエーションは無限で、いままで自分がやってきたものじゃない、もっともっと違うものがあるはずなんだと思えるので。

池井戸潤インタビュー

新しい発想のレールを連ね続けていくのがクリエーターの使命だ、ということでしょうか。

池井戸ええ。先日も1本、新作を脱稿したんですが、まず最終行まで書いてから、何度も何度も推敲して、全体で半年くらいかかったかなぁ。もういい加減、自分でも飽きてくるくらい(笑)。でも、脱稿したあとも、寝ているときに何か気になって、補足の原稿を書いていたりする。いつまでたっても終わらないんです。

作品は、いったん世に出してしまったら、絶対にエクスキューズが効かない。よくSNSとかで読者に酷評されて、それに反論する作者もいるけど、それは間違っている。一度発表してしまった作品には、作家は手出しはできない。となると、出すまでが勝負なんです。

だから、「火事は最初の5分、本は最後の5分」と自分に言い聞かせて、一字一句、最後の最後まで、気になったところは納得がいくまで直します。本が出たら、もう読み直さないですね。恐ろしくて読めない(笑)。たぶん1ページに1箇所くらいは、「こうすればよかった」という箇所が見つかるんですから(笑)。

池井戸潤インタビュー
INFORMATION
『空飛ぶタイヤ』
版」も実業之日本社より発売中)
出 演 : 長瀬智也 ディーン・フジオカ 高橋一生 深田恭子 岸部一徳 笹野高史 寺脇康文 小池栄子 阿部顕嵐(Love-tune/ジャニーズJr.) ムロツヨシ 中村蒼ほか
監督: 本木克英
公開日: 2018年6月15日(金)反撃開始!
配給:松竹
© 2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
累計170万部を突破し、第136回直木賞候補作品にもなった小説「空飛ぶタイヤ」。「半沢直樹」(13/TBS)、「陸王」(17/TBS)など、これまで数多くの作品がドラマ化されているが、映画化は今作が初となる。 池井戸は映画化にあたり、「もし、人を死に至らしめる欠陥を知りつつそれを隠蔽していたなら、それは社会に対する重大な罪だ。それでも大企業なら許されるのかー。問われているのは我々の見識と勇気である。」とコメントしている。重厚感がありながらも、テンポ良く、丁寧に『人を描く』。そして観る者の勇気を問う。原作、キャスト、スタッフファンでなくても必見の世紀の大逆転エンタテインメント!
PROFILE
小説家
池井戸潤
Jun Ikeido
1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒業。98年「果つる底なき」で第44回江戸川乱歩賞を受賞、デビュー。ー2010年「鉄の骨」で第31回吉川英治文学新人賞、11年「下町ロケット」で第145回直木賞を受賞。
「半沢直樹」「花咲舞が黙ってない」「ルーズヴェルト・ゲーム」「ようこそ、わが家へ」「民王」「アキラとあきら」「陸王」など、数多くの作品がドラマ化され、話題となった。
『空飛ぶタイヤ』は、「僕はこの物語から『ひとを描く』という小説の根幹を学んだ」とコメントするほど深い思い入れのある作品であり、2006年実業之日本社より単行本が刊行され(18年「新版」が発売)、09年に講談社、16年に実業之日本社にて文庫化された。第28回吉川英治文学新人賞と第136回直木賞の候補作でもある。2009年にはWOWOWにてドラマ化され、第26回ATPテレビグランプリ2009最優秀賞(ドラマ部門)を受賞。本作は自身にとって初の映画化作品となる。
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