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「経験を重ねて、見えてきたものがある」亀梨和也が培ってきた“ものづくり”への向き合い方とは?

亀梨和也 インタビュー

「経験を重ねて、見えてきたものがある」亀梨和也が培ってきた“ものづくり”への向き合い方とは?

1999年『3年B組金八先生』第5シリーズで俳優デビュー後、『ごくせん』第2シリーズ、『野ブタ。をプロデュース』出演、KAT-TUNとして「Real Face」でCDデビューと、10代の頃からアイドルの第一線を走り続けてきた亀梨和也さん。
そんな亀梨さんが今回挑むのは、『リング』(1998)の中田秀夫監督の最新ホラー映画『事故物件 恐い間取り』(2020年8月28日公開)の主人公、売れない芸人・山野ヤマメ役。「“亀梨和也”というイメージを取っ払うことが自身のテーマだった」と語ります。
お話を伺う中で浮かび上がってきたのは、中田監督が描き出す「“怖い”“おもしろい”が共存する新感覚エンタメホラー」を体現するため、真摯に作品づくりに向き合い、準備を重ねる亀梨さんの姿でした。15年の中で変化したものづくりへの姿勢や、自分を見つめ直す映画について、語っていただきました。
©2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

作品に真正面から向き合い、
細かく細かく準備を重ねていく

ホラー映画初出演ということですが、『女優霊』(1996)『怪談』(2007)『クロユリ団地』(2013)などと、ホラー映画の可能性を切り拓いてきた中田秀夫監督との作品づくりはいかがでしたか?

亀梨中田監督へ完全に身を委ねて、ついていったという感覚ですね。作品づくりに関わったことで、ホラー映画は、観客のことを常に感じながらつくりあげていく作品なんだと学びました。

今作について、「主人公目線でお客さんが怖いことを一緒に体験して、乗り越えていくお話でもある」と秋田周平プロデューサーも語っていますね。

亀梨でも、中田監督の「怖いのとおもしろいのは紙一重だ」という言葉どおり、「怖い!」という感情を湧き起こさせるだけの作品ではなかったので、時に「これは観客にとって“怖い”なのか? “おもしろい”なのか?」と戸惑うシーンもあって(笑)。

「怖い!」と「おもしろい!」の波がジェットコースターのように訪れる新感覚を味わいました。

©2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

亀梨例えば、僕が演じるヤマメに、事故物件を紹介する不動産屋・横水役の江口のりこさんとの掛け合いなどは、「果たしてこれで合ってるのか!?」と思いながら演じていました(笑)。

中田監督はそのためにも「登場人物達の人間ドラマはしっかり描きたかった」とおっしゃっていますが、ヤマメと元相方・中井大佐(瀬戸康史)、ヤマメのファンでありサポーターでもある小坂梓(奈緒)の三人が、「自分の目指すこと」と「周りから求められること」の狭間でもがく青春群像劇も見所のひとつです。

亀梨ホラーやドラマなどといった複合的な今作の魅力を伝えるためには、より人物にリアリティを持たせる必要があると感じました。その上で、僕が演じた、“関西弁を駆使する10年間鳴かず飛ばずの売れない芸人”を続けてきた「ヤマメ」という役は、「亀梨和也」というイメージを重ねにくい人物だと思ったんです。

世間での「亀梨和也」のイメージということですね。

亀梨僕は、役者以外の仕事にたくさん携わらせていただいている方だと思うので、「亀梨和也」というイメージが強くあると思います。だから、劇中の早い段階でそれを取っ払うことが、今回の僕のテーマでもありました。

©2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

亀梨芸人さんのライブを観に行かせていただいたり、実際に普段若手芸人さんが食べたり飲んだりしているご飯屋さんに、自分が若手芸人という設定でその場に居させてもらったりと、関西弁も含めた細かい部分を、実際に体験することで自分に落とし込んでいったんです。そこに、自分が知りうる限りの「芸で身を立てる者」としてのリアリティも加味して、役に反映させていきました。

中田監督は、亀梨さんは作品づくりにおいて、アイデアをたくさん出してくれたとおっしゃっていました。

亀梨冒頭の瀬戸くんとのコントシーンは、絵(視覚)として「このコンビは迷走している」ということを見せたかったので、結果的に女性の格好をさせていただきました。その髪型や衣裳も含めてアイデアを伝えましたね。「大丈夫か? この人たち」と観客に思ってもらえる方法を探したんです。

台本も決定稿の前から読ませていただいていたので…映画の台本というのは何度も修正を重ねて決定まで辿りつくのですが、その過程の台本ということです。その度に「僕はこの稿の、このシーンやセリフが好きだ」ということを伝えて、コミュニケーションをとらせていただきました。それは、アイデアというより、台本を読んだ感覚を共有させていただいたという感じです。

亀梨さんは、映画やドラマなどのものづくりにおいて、毎回そのように準備を重ねていくのでしょうか?

©2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

亀梨映画とドラマでは、関わり方が変わってきます。もちろん、作品にもよるのですが、映画は一本の作品を一人の監督がつくりあげていくので、軸が監督にあります。ドラマは、連続ドラマの場合、10本前後の作品を、回によって監督が変わることもあるし、スケジュール上、前話の完パケ(収録した映像が編集され放送できる状態にあるもの)を次の監督が見られない状態で撮影に入らないといけないこともある。

だから、演じる役者がその役について、つくりあげなければいけない責任はその分大きいと考えています。ドラマの方が構築していく最初の段階で、意見やアイデアをしっかり伝えるかもしれませんね。

そういう意味でも、中田監督に身をゆだねる部分が多かったと。

亀梨正直、今回オファーをいただいた時、引き受けるかどうかすごく悩んだんです。ホラー映画は、人の「生死」を描く作品でもあると思ったので、自身がそこに向き合えるのか自問自答しました。

中田監督はSNSで「畢竟(ひっきょう)、『事故物件』とは前住者がどう生き、どうなくなったかの記憶的痕跡を現住者がどう感じるかなのだろうと。」とおっしゃっていますね。「生死」の痕跡を描いている作品でもあると。

亀梨これまでの自分の人生もそこに対してはしっかり向き合ってきたつもりなので、今作でも描かれている「生死」にちゃんと敬意を持って臨めるか、そのための心の準備ができるか不安がありました。

でも、やはりそこに挑もうと思ったのは、中田監督作品への信頼と、以前僕が出演させていただいた『PとJK』(2017)からの松竹さんとの繋がりがあって、その流れが僕の中にあったからなんです。

©2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

15年前は怖いもの知らずだった。
今は「その先」を見据えて、作品と向き合える

コロナ禍で撮影ができなくなり、テレビでは多くの過去の名作が放送されました。その中のひとつ『野ブタ。をプロデュース』は大変話題になりましたね。亀梨さん演じる修二が「自分らしさ」に気づいていく姿が印象的なドラマですが、15年前の当時と比べると、ご自身のものづくりへの向き合い方に変化はありましたか?

亀梨「準備する時間」でいえば、大きく変わりましたね。当時は、忙しくて物理的に時間がなかったということもありますが、その時間がとれなくても怖くなかったです。今は、お芝居に限らず、何事においても準備して臨まないと、怖くて怖くて仕方がないです(笑)。

あの頃は、瞬発力と怖いもの知らずのエネルギーで突破していたんでしょうね。でも、今の感覚で、ものづくりに携わっていたら、辛くて辞めていたかもしれません。その先にあるものにまで、目を向けられていなかったので。

経験を積んできた今だからこそ、見えるようになったものがあるということでしょうか?

亀梨15年前は、まだ「売れたい」「かっこよく見せたい」という思いの方が強かったので、そのためだけに「準備をしなきゃ」というマインドになっていたら、辛かったと思う。それぞれの仕事への向き合い方や、やりがいがわかるようになった今だからこそ、なぜそれが自分にとって必要なのかが理解できるようになりました。

©2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

今作では、ヤマメが「自分のやりたいこと」が本来何であったかを見つめ直す姿も描かれています。「芸で身を立てる者」としてのリアリティ、とおっしゃっていましたが、そこには亀梨さんの人生の変化も落とし込まれているのですね。

亀梨彼の純粋さが、それぞれの行動に繋がっているように見せる、ということは心がけていました。周りから求められることや、自分で達成したいことに向かっていく姿を、自分勝手、ではなく、一生懸命、の先にあるものとして捉えてもらえるように。

では最後に、自分を見つめ直すことができる「心の一本の映画」を教えてください。

亀梨なんだろう…一本となると難しいですね…。自分を見つめられる…レオナルド・ディカプリオ主演の『バスケットボール・ダイアリーズ』(1995)です。

バスケットボールに夢中だったディカプリオ演じる主人公たちが、あることをきっかけに、麻薬に手を染め、破滅の道へと進み、またそこから立ち上がっていく姿を描いた作品です。

亀梨ジャニーズ事務所に入る前、中学生になる前ぐらいに観た作品です。兄がこの映画のVHSを持っていたんですよ。

「ディカプリオかっこいい!」と洋画の世界に憧れを持ちました。と同時に、ドラッグの怖さももちろんですが、人間の怖さを強烈に感じました。でもその印象が、強く焼きついているからこそ、いまだにすごく自分の中に残っていて、ふと観返したくなるんです。人との繋がりや弱さについて考えるきっかけになった映画ですね。

©2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会
INFORMATION
『事故物件 恐い間取り』
出演:亀梨和也  奈緒 瀬戸康史 江口のりこ 木下ほうか MEGUMI 真魚 瀧川英次 宇野祥平 高田純次 小手伸也 有野晋哉 濱口優
監督:中田秀夫
脚本:ブラジリィー・アン・山田
音楽:fox capture plan
公式ツイッター: https://twitter.com/jikobukken2020
©2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会
売れない芸人が、「事故物件」に住んでみた―
芸人の山野ヤマメ(亀梨和也)は、中井大佐(瀬戸康史)とお笑いコンビ<ジョナサンズ>を組んでいたが、全く売れず、結成から10年目となり、これ以上続けても無理だと感じた中井から、コンビを解散し放送作家になると告げられる。
突然ピン芸人となり途方にくれるヤマメは、番組プロデューサーの松尾雄二(木下ほうか)からTV番組への出演を条件に「事故物件に住んでみろ」と無茶ぶりされ、殺人事件が起きた物件で暮らすことに。そこは一見普通の部屋だったが、初日の夜、撮影した映像には白い“何か”が映っていたり、音声が乱れたり、様々な怪奇現象が。
PROFILE
歌手・俳優
亀梨和也
kazuyakamenashi
1986年2月23日生まれ、東京都出身。1999年、「3年B組金八先生第5シリーズ」で連続ドラマ初出演。TVドラマ出演作品に、「野ブタ。をプロデュース」(05)、「妖怪人間ベム」(11)、「怪盗 山猫」(16)、「ボク、運命の人です。」(17)、「ストロベリーナイト・サーガ」(19)など。映画出演作に、『俺俺』(13/三木聡監督)、『バンクーバーの朝日』(14/石井裕也監督)、『ジョーカー・ゲーム』(15/入江悠監督)、『PとJK』(17/廣木隆一監督)、『美しい星』(17/吉田大八監督)がある。ホラー映画には本作が初出演。
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