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覚悟とは、自分の限界値を暴き出すこと。その先にある「信じるもの」に、たどりつくために

仲野太賀×大島優子×若葉竜也×石井裕也監督

覚悟とは、自分の限界値を暴き出すこと。その先にある「信じるもの」に、たどりつくために

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生きている時間が多ければ多いほど、人生で積み上げてきたものが多くなり、これまでの「自分」を壊すような選択が難しくなっていきます。もし、その先に自分の「信じるもの」があると思っても、なかなか進むことはできないものです。しかし、「信じるもの」にたどりつくためには、覚悟を決めて現実と向き合わない限り、その未来が訪れることはありません。
高校時代から一緒に過ごしてきた男女三人の関係が、とある出来事を境に変わり始めていく姿を描いた映画『生きちゃった』(2020年10月3日公開)。自分の感情に蓋をしながら、寡黙に生きる厚久(仲野太賀)と、厚久の妻として、不安や葛藤をずっと胸に秘めてきた奈津美(大島優子)、踏み込みすぎない距離を保ちながら、二人を見守ってきた武田(若葉竜也)。今作では、三人の「覚悟」を決める瞬間がそれぞれに描かれています。
信じていた未来と、目の前にある現実の狭間で葛藤し、本音を押し殺し続けていた三人が、人生の中で選び抜いた「覚悟」。その魂の動きこそが、この映画の肝となっているのです。石井裕也監督は、「社会人としての妥協や忖度は一切なし。信念と衝動だけの映画づくりに原点回帰したかった」と、今作を振り返ります。三人の役者と監督が、この映画に賭けたそれぞれの「覚悟」とは、そしてたどりついた先に見たものは、なんだったのでしょうか? 

これまでの“自分”を捨てる覚悟の先に、
何が見えたのか?

「イヤなことは一切やらない。やりたいことだけをやる」と、石井監督が決意し取り組んだ本作。キャスティングも「一緒に戦える人、無茶な戦いを面白がってくれる豊かな心を持っている人だけにお願いした」ということでしたが、その想いを託された仲野さん、大島さん、若葉さんは、どんな心持ちでこの想いを受け止められたのでしょうか。

仲野座っている順番でいいんじゃない?

若葉え、俺から?(笑)

(笑)。はい、では、若葉さんからお願いします。

若葉これは…挑戦状だなと思いました。なんかあれですね、学生時代に、怖い先輩から呼び出された時のような感じです(笑)。

仲野そういう感覚だったんだ!

挑戦状というのは、何か挑まれているような…?

若葉なんだろうな…その時点から緊張感があったというか…。

©︎B2B, A LOVE SUPREME & COPYRIGHT @HEAVEN PICTURES All Rights Reserved.

「これは断れない、やらねば!」というような?

大島そうですよね、怖い先輩だったら(笑)。

若葉呼び出されたからには、もう行くしかないな、という。僕は大衆演劇出身で、幼少期から演技というものに関わってきたんですが、その役者人生というか、自分が積み上げてきたものを盾にはできないなと。むしろ、それをどこまで壊していけるのか、そこを問われている。そういう挑戦だと思いました。

若葉さんが演じた武田は、仲野さん演じる主人公・厚久の苦悩に寄り添い、親友の胸の内にある感情を引き出そうと努める役柄ですが、プライベートでも若葉さんと仲野さんは10年来の友人と伺いました。石井監督は、その点も含めて「あらゆる面で若葉君がこの映画の屋台骨を支えている」とおっしゃっています。そして、お二人だけでなく、仲野さんと石井監督も実は長いお付き合いなんですよね?

仲野僕は、初めて石井監督と10代の頃に出会ってから、人としても俳優としてもすごくお世話になってきたんです。

どれだけ年下でも決して呼び捨てで人を呼ばない石井監督が、この世で唯一呼び捨てにしているのが仲野さんだそうですね。かつてはご近所に住んでいたこともあったとか。

仲野そう、だから最初にお話をいただいたとき、武者震いのようなものを感じました。知っているからこそ、この脚本には石井監督の想いが強く詰まっていることが、より理解できたので。…本人を目の前にして言うのも恥ずかしいんですけど、石井組の主人公というのが、目標のひとつでもあったんです。

石井監督の「渾身の一作の主人公」です。仲野さんとしては、ついに来た、と。

仲野そうですね、なんかこう…ものすごく感慨深い気持ちになりました。ちょうど仕事でも名前を変えた(2019年6月に芸名を「太賀」から「仲野太賀」へと改名)節目のタイミングだったので、今作に出ることが、自分の俳優としての人生を何か決定づける瞬間になるんじゃないかという予感がすごくありました。

仲野さんが演じた厚久という役は、複雑な関係性の中心にいて、感情を飲み込み耐え忍びつづけるという、大変難しい役どころでもありました。今作のこの役を演じることが、俳優としての人生の「何かを決定づける」と。

仲野これまで自分が、俳優として「望んでいたもの」や「求めていたもの」が、つかみとれるのか、つかみとれないのか、それを決定づける作品になる…これでダメだったらもうダメだろうと。そのぐらいの覚悟がありました。

大島私も、太賀さんと同じで、こんなに想いが詰まった作品に声をかけていただいたことが本当に嬉しかったです。それで、すぐに事務所へ「いいですか?」と確認しました。私の役柄が、世間のみなさんが私に抱いている印象とはかけ離れていると思ったんです。でも、だからこそ挑戦してみたかった。

大島さんが演じた奈津美は、登場人物三人の中でも、自分の人生をどう進めるのか、最初に覚悟を決めた、物語の起点にもなる役柄でした。その分、序盤からむき出しの人間性をあらわにしないといけない役でもありましたね。

大島これまでの自分を全部脱ぎ捨てて、本気でぶつかれるいい機会をいただけたと思いました。…で、いざ現場に入ってみたら、男子部活に入ったような気分で(笑)。

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仲野すみません(笑)。

大島いや、でも私も、もともとはアイドルグループに所属していましたけど、あれこそ男子の部活みたいなものなんです(笑)。表面上は華やかに見えても、実際はすごく泥臭くて、土まみれで、みんな塩水飲んでゲホゲホしながら必死にもがいている。そういう場所だったから、今回の現場と実は近いものがあって、心地よかったんです。全く新しい場所にきたというよりは、馴染みのある空気というか。

大島さんの本質と馴染んだと。

大島そうですね。私の本質とか気性って、そうだよな、男子部みたいなものだよな、というのは改めて感じました。

石井今回、大島さんは最初の衣裳合わせ(衣裳や小道具を合わせる日程)の日から、もう覚悟が決まっているように見えました。これ、言っていいのかわからないんですけど、すっぴんで来たよね。

大島えっ、普通そうじゃないんですか!?

石井結構違うよ(笑)。

大島えっ! そうなんですか!?(笑)

石井しかも、大島さんにとって、わりとマイナスになるようなある情報を、あっけらかんとした口調で「私こうなんですけど、よろしくお願いします」みたいな感じで言ってきて。

大島そんな言い方でした?(笑)

仲野誰よりも男気あるなー。

石井「命がけでやります」「人生かけてやります」とか言う人はたくさんいるけど、それは言葉にして安心しているだけで、僕はそういう人を一切信用しないようにしてるんです。でも大島さんは、自分は捨て身でだ、という気迫を態度で示してきたというか。覚悟を纏ってきたんです。

覚悟を纏っていた。

石井そう。それは太賀と若葉くんも同じで、三人とも、その纏っていた覚悟は、最後まで貫徹していましたね。

今作は、これまで『舟を編む』(2013)『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)『町田くんの世界』(2019)と映画の新たな可能性を切り拓いてきた石井監督の“再デビュー作”とも呼ばれています。「映画づくりの原点回帰を目指す」というプロジェクト(※)としてスタートしましたが、予算は少なかったそうですね。また、脚本・監督だけでなくプロデューサーも兼任されています。なぜ、そのような条件の中で映画をつくろうと決められたのでしょう?

(※上海国際映画祭で2019年6月に企画されたプロジェクト。「原点回帰、至上の愛」をテーマに、台湾の名匠ツァイ・ミンリャン監督や、香港のフィリップ・ユン監督など、アジアの名だたる監督6名が、共通のテーマで映画製作を行い、日本からは石井監督が参加。)

石井僕は当時36歳だったんですが、30代半ばになってくると、自分の進んでいく道が何となく見えてくるというか、安定してくるんですよね。「でも、それでいいのか?」と思っている自分が絶えずかたわらにいて。それはきっと、映画監督だけじゃなく、どの職業でも訪れるタイミングなんだと思います。特に今は、配信などの隆盛で映画の価値が問われている。映像業界だけでなく、社会全体が変化していく中で、ふと「今自分が携わっている映画の本当の面白さってどこにあるんだろう」と、一度原点に立ち返ってみたくなりました。「映画の本質をつかみたい」という、自分の奥に眠っていた想いが浮上してきたというか。

「映画の本当の面白さ」をまっすぐに追求したくなった。

石井自分のくだらないプライドとか、社会的な常識とかルールとか、そういうのを全部捨てた映画づくり。それを、今試してみたいと思いました。全部捨てたら、最後に何が残るのか。…この三人だったから、それにトライできたということもあると思います。

仲野さん、大島さん、若葉さんの三人と「映画の本当の面白さ」に迫った先にあるものが、「自分の信じているもの」だという確信が、石井監督にはあったんですね。

石井…ちょっと。ちょっとは(笑)。

仲野ちょっと、ね(笑)。

映画の本当の面白さを追い求めるため
自分たちの限界値を、あえてバラしに行く

「映画の本当の面白さ」にたどり着くため、石井監督は「一緒に戦える」と信じられる三人とその旅に出られたわけですが、仲野さんが撮影期間を振り返って「胸が張り裂けるような日々だった」とおっしゃるように、その旅路はとても険しかったようですね。

仲野「どうなってしまうんだろう」という怖さが常にありました。特にラストのシーン。他のシーンでは、ある程度自分の中でもシミュレーションしながら予想して演じることができていたんです。でも、最後の部分は、頭で考えていても明確な正解が見えなかった。とにかく現場に行って、お互いに向き合ってみないと何もわからない。言葉にもしたくないという想いがあって。

若葉撮影しながら、その瞬間その瞬間が、あまりにも必死だったからね。とにかく太賀の芝居を見て、それを全身で受け止める、ということに徹してました。いろいろ頭で考えて、プロテクターを纏って現場に行っても、そんなのどうせバレるな、と思っていたので。もう常に自分をさらけ出さざるを得ない状況でした。

大島そういう、お互いさらけ出している二人の姿や、監督と何度も話し合っている姿を間近で見ることができたので、「あ、ここまで出していいんだ」と、自分も自分の思いを吐き出すことができました。石井監督と太賀さん、若葉さんの信頼関係が体感できたので、私も信頼することができたんです。だから、あそこまで奈津美としての感情を出し切ることができたのかなと思います。

石井この映画は、三人のラストシーンがどうなるのか、それがすべてだったんです。これまで話の中で「さらけ出す」とか「覚悟」「信念」「本気」という言葉で表してきた、自分たちの「信じているもの」すべてが太陽の下にさらされて、バレてしまう。自分たちの限界値がバレる。

怖さ、もありますよね。

石井そう。やっぱりめちゃくちゃ怖かったです。だって、これが今の自分たちの限界なんだ、と完全にバレるので。

仲野うん…。

石井でも、そこに向かうまでの旅をみんなでしている感覚があって、それはすごく面白かったです。それで、そのラストは、自分でも引いちゃうくらいのものが出てきたから、なんというか…俳優の人ってすごいな、と思いました(笑)。

大島なんですか、それ(笑)。

仲野最後、急に素人の感想みたいでしたけど!

(笑)。大島さんのラストシーンについて、石井監督は「カットをかけるのがあと10秒遅れていたら、大島さんは発狂したまま死んでいたのではないか」とさえ思ったとおっしゃっていました。誰よりも早く覚悟を決めながらも、実はずっと過酷な現実に押しつぶされそうになっていた奈津美の感情が剥き出しになった場面ですね。

大島台本に「叫ぶ」と書いてあったんですけど、私、監督に「実際には叫ばないかもしれません」と言っていたんですよね。もっと声にならない感情になるのかな、と思っていて。でも、いざ始まってみたら、悔しさとか大切なものを失う恐怖とか、奈津美としてのいろんな想いが一気にこみ上げてきて、気づいたら叫んでいました。カットの声がかかった後、共演していた北村(有起哉)さんに、“ごめんね、ごめんね”と何度も謝られて。

石井うん、すごかった…。

大島監督にも謝られましたよね。その時に初めて、自分が叫んだことに気づいたんです。「あ、私出せたんだ」って。すごく嬉しいことだったので、自分でもその時のことはよく覚えています。

仲野さんと若葉さんは、お二人でのラストシーンでした。若葉さんは、そのシーンを撮り終えた後、「こんなシーンを(脚本に)書いちゃだめだ」と思わずつぶやいたそうですね。

石井そうそう。本来、若葉くんは、僕という怖い先輩に呼び出されているわけだし、僕の方が年上だし監督だし、そんなことを決して俺の前では言ってはいけないんですよ(笑)。

若葉(笑)。

仲野ふふふ…。

石井でも、鼻水出しながら、涙を拭きながら、そうつぶやいた若葉くんを見て、あぁこの人は出し切ったんだ、と思ったんです。と同時に、これ以上にないものが撮れたんだなと、納得できました。…わざと言ったのかどうか、それは本人に聞いてないけど…。

若葉ずっと思っては、いましたね(笑)。なんでこんなシーン書くんだよって。

石井ははは!

仲野 僕もその時のことは覚えてます。もう、みんな放心状態になってて。「もう、だめだよ!」とか言って。

大島そうなんだ(笑)。

仲野僕と若葉くんは、ラストシーンの撮影前はあまりにも緊張していて。本当は俳優部としてはそんなことしたくないんですけど、この日のいつ頃撮影する、と監督と約束したんです。

若葉(笑)。

石井本当は午後撮影の約束だったところを、午前中の段階で僕は「今いけるな」と確信した瞬間があったんです。それで、急遽変更して太賀と若葉くんに「このまま撮ろう」と提案しました。あの時の二人はすごい顔してたね(笑)。

大島へー、そうだったんですか。

仲野ちゃんっと約束したんですよ! それなのに、バーン! とちゃぶ台をひっくり返されて(笑)。

石井若葉くんが車を運転して、助手席に太賀、後部座席に僕と撮影スタッフが乗った状態で、東京からロケ地まで行ったんです。だからその日はずっと同じ空気、緊張感を二人と共有していた。で、足利のロケ地に着いて、車の後部座席から会話する二人を撮る、というシーンだったんですけど、一台の車に乗ってみんなでグルグル回っているうちに、この二人の思いが痛いほど分かってきた感覚になって、僕自身が高揚してきたんです。

高揚…というのは、車内という狭い空間の中で、全員の熱量や気迫がひとつに高まっていくような?

石井なんだろうなー…。厚久と武田という役における関係とか、そうじゃない普段の、10年来の友人であるという太賀と若葉くんの関係とか、僕との関係とか。そういう映画と実人生の時間を、全部まるごと背負ったまま車がゆっくり動いているような…。撮影中にああいう感覚になるのは不思議でした。同じ車の中にいたから、そうなったんだろうね。

若葉異様な空気でしたよね、車の中が。

大島すごい…。

仲野僕も、急に撮ろうと言われてびっくりしたけど、でもやらない理由はないというか。僕たちも、かなりブレーキがぶっ壊れるんじゃないかっていうくらい、ずっとアクセルがかかりっぱなしの状態だったので「早く離させてくれ」という感じもありました。

だから、撮り終わった後、「こんなシーン書いちゃダメだ」という言葉が思わず出てしまうぐらい、これまでの緊張感が一気に解けたんですね。

仲野このシーンを撮るまでに、それぞれの役がどのくらいの想いを積み上げていって、かけてきたということもわかっていたし、監督もキャストも全スタッフも含めて。だからこそ、そのシーンが終わってからの解放感はすごかったです。

石井そういうものを見ちゃうと、理屈じゃないなと思いますね。でも、申し訳ないという気持ちは一切なかったです!

一同(笑)

「一緒に戦える人、無茶な戦いを面白がってくれる豊かな心を持っている人」と、映画の本当の面白さを追い求めた先に、石井監督は何が見えましたか?

石井脚本を書く前からだいたい自分の中で予想はありましたし、どうにかしてそこにたどりつきたいと思っていたんです。けれど、実際できあがった大島さん、太賀と若葉くんのそれぞれのラストシーンの気迫と熱量を見て、「“その瞬間、必死で生きていたんだ”という人間の姿、その魂の動き、それを撮ることこそが、映画の本質なんだ」と、完全に気づかされました。言ってしまえば、この映画は、その要素以外にないと思っています。この三人の気迫、それで映画が成立しているんです。

自分の原点に立ち戻ることができる
大切な映画

では最後に、みなさんにとって、自分の中にある信念や情熱を思い出すような、原点に立ち戻ることができる映画を教えてください。

仲野なんだろう…。

若葉僕は、好きな映画について聞かれる時はいつも答えるんですけど、『アイデン&ティティ』(2003)ですね。

田口トモロヲさんの初監督作品ですね。若葉さんは、『愛がなんだ』(2019)や『街の上で』(2021年春公開予定)で以前インタビューさせていただいた時も、大切な映画としてこの作品を挙げてくださいましたね。

若葉本当に好きな映画で。一度観たら「楽しかった!」で終わる映画も多い中で、この映画は、時間が経つとまた思い出すし、何回も観たくなるんです。観るたびに印象が違うし、余白があるというか、想像力を掻き立ててくれる。

若葉僕も、そういう人が何回も観たいと思うような映画に参加していきたいとずっと思ってます。…うん、参加していきたいです。

仲野2回言った(笑)。

大島大事なことは2回言わないとね。

仲野僕は、中学生の時に観た『リアリズムの宿』(2003)です。それまで、メジャーな大作映画しか観ていなかった僕が、初めて日本のインディペンデント映画に触れた作品で。自分の原点という意味でも、すごく衝撃でした。

つげ義春さんの同名漫画を映画化したロードムービーで、山下敦弘監督の映画ですね。偶然にも、若葉さんが選んでくださった『アイデン&ティティ』が公開されたのと同じ年に制作された作品です。どのような衝撃でしたか?

仲野わかりやすさや華やかさではない、映画作家のこだわりとか、画面から匂い立つようなものを初めて感じたんです。今若葉くんが言ったように、想像力を掻き立てられるし、映画ってこんなに自由でいいんだ、と視点が広がった作品ですね。その衝撃が、今の自分にも多分つながっていると思います。

大島私は、最初に映画を観た記憶として残っているのが、小学生の時に親がリビングのテレビで観ていた、チャップリンなんです。どの作品だったかまでは覚えていないんですけど、隣で一緒に観てました。

最初の映画体験が、無声映画だったのですね。

大島でも、台詞がないというのが、すごく心地良い記憶としてあるんです。言葉って邪魔な時が多いじゃないですか。気持ちを相手に伝えるためには必要なんだけど、でも、一文字変わったり、ちょっとしたニュアンスの違いだけで、受け取り側の印象も変わって誤解を生んでしまったり。

だから、チャップリンの無声映画のような、言葉のない世界に憧れがあります。人間同士でも言葉を使わずに会話ができたらいいのに、っていつも思います! 表情とか仕草とか、そういう些細なところから気持ちが交わせたらいいのにって。

石井実は…僕の選んだ映画も、大島さんと同じなんです。

仲野・若葉ええー!

大島いつ思い浮かべましたか?(笑)

石井本当に、この質問されたとき、最初に思い浮かんだよ。だから、僕からは何も言うことないです(笑)。

大島いえいえ、教えて下さい!

石井僕は、チャップリンの中でも特に『街の灯』(1931)という作品が好きで。理由は大島さんとは少し違うんですけど、中学生くらいのとき、家族が寝静まった深夜にコソコソとリビングに降りてきて、テレビで録画していた『街の灯』を観た記憶があります。自分で意志を持って観た、最初の映画体験ですね。

その記憶は、どのように石井監督の中に残っていますか?

石井中学生くらいの頃って、全部のことが気に入らないんですよ。家で起こることも、学校で起こることも、全てが納得いかなくて、自分が思っている理想と現実との間にギャップを感じる。それが思春期特有のものなのか、個人的な性質なのかわからないけど、そういう状況の中で、何かに救いを見出そうとしていて。それが、僕の場合は映画だったし、チャップリンの『街の灯』だった。人間や人生に対する愛のある眼差しを、人生で初めて発見したんだと思います。

INFORMATION
『生きちゃった』
監督・脚本:石井裕也
出演:仲野太賀、大島優子、若葉竜也
10月3日(土)より、ユーロスペースにて公開
配給:フィルムランド
公式サイト: http://ikichatta.com/
©︎B2B, A LOVE SUPREME & COPYRIGHT @HEAVEN PICTURES All Rights Reserved.
幼馴染の厚久と武田。そして奈津美。学生時代から3人はいつも一緒に過ごしてきた。そして、ふたりの男はひとりの女性を愛した。30歳になった今、厚久と奈津美は結婚し、5歳の娘がいる。ささやかな暮らし、それなりの生活。
だがある日、厚久が会社を早退して家に帰ると、奈津美が見知らぬ男と肌を重ねていた。その日を境に厚久と奈津美、武田の歪んでいた関係が動き出す。そして待ち構えていたのは壮絶な運命だった。
PROFILE
俳優
仲野太賀
Taiga Nakano
1993年2月7日生まれ。東京都出身。
2006年に俳優デビュー。07年に『フリージア』(熊切和嘉監督作)で映画デビューを果たし、翌年『那須少年記』(初山恭洋監督作)で初主演を務める。その後、『桐島、部活やめるってよ』 (12/吉田大八監督作)、『男子高校生の日常』(13/松居大悟監督作)、『私の男』(14/熊切和嘉監督作)などの話題作に相次いで起用され、14年に第6回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。16年のTVドラマ「ゆとりですがなにか」(NTV/脚本:宮藤官九郎)ではゆとりモンスター山岸を演じ注目を浴びる。
また、深田晃司監督作品の常連で、『ほとりの朔子』(14)、『淵に立つ』(17)、『海を駆ける』 (18)に出演。『淵に立つ』では、第38回ヨコハマ映画祭にて最優秀新人賞を受賞している。
その他の映画出演作に、『あん』(15/河瀬直美監督作)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16/松居大悟監督作)、『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』(16/山口雅俊監督作)、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(16/中川龍太郎監督作)、『南瓜とマヨネーズ』(17/冨永昌敬監督作)、『ポンチョに夜明けの風はらませて』(17/廣原暁監督作)、『来る』(18/中島哲也監督作)、『母さんがどんなに嫌いでも』(18/御法川修監督作)、『きばいやんせ!私』(19/武正晴監督作)などがある。
2019年6月に太賀から仲野太賀に改名。以降も『タロウのバカ』(19/大森立嗣監督作)、『静かな雨』(20/(中川龍太郎監督作)、『今日から俺は!!劇場版』(20/福田雄一監督作)、『MOTHER マザー』(20/大森立嗣監督作)など多くの映画作品に出演している。
石井組への参加は映画作品では『町田くんの世界』(19)に続き2作目。
公開待機作は『泣く子はいねぇが』(20年11月20日公開/佐藤快磨監督作)、『すばらしき世界』(21年2月11日公開/西川美和監督作)。
俳優
大島優子
Yuko Oshima
1988年10月17日生まれ。栃木県出身。
1996年にTVドラマ「ひよこたちの天使」で子役としてデビュー。1998年に『大怪獣東京に現わる』(宮坂武志監督作)で映画デビュー。
2006年に国民的アイドルグループAKB48のメンバーとなり、グループの人気を牽引。女優業にも力を注ぎ、『櫻の園』(08/中原俊監督作)などに出演し、2009年には、『テケテケ』(09/白石晃士監督作)で映画初主演を務める。その後も『銀色の雨』(09/鈴井貴之監督作)、『スイートリトルライズ』(10/矢崎仁司監督作)、『さんかく』(10/吉田恵輔監督作)『闇金ウシジマくん』(12/山口雅俊監督作)、『劇場版 SPEC〜結〜』(13/堤幸彦監督作)などに出演。
2014年6月にAKB48グループから卒業。同年公開された『紙の月』(吉田大八監督作)では、第39回報知映画賞助演女優賞、第36回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第38回日本アカデミー賞優秀助演女優賞など多くの映画賞を受賞。
以降も主演作の『ロマンス』(15/タナダユキ監督作)、『真田十勇士』(16/堤幸彦監督作)、
『疾風ロンド』(16/吉田照幸監督作)などに出演する。
俳優
若葉竜也
Ryuya Wakaba
1989年6月10日生まれ、東京都出身。
作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で数多くの作品に出演。映画『葛城事件』(16/赤堀雅秋監督作)で、第8回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。主な出演作品に、ドラマ「ブラックスキャンダル」(18/YTV)、連続ドラマW「コールドケース2~真実の扉〜」(18/WOWOW)、「令和元年版 怪談牡丹燈籠」(19/NHK)、映画『雷桜』(10/廣木隆一監督作)、『GANTZⅠ・Ⅱ』(11/佐藤信介監督作)、『源氏物語』(11/鶴橋康夫監督作)、『DOG×POLICE 純白の絆』(11/七高剛監督作)、『明烏』(15/福田雄一監督作)、『美しい星』(17/吉田大八監督作)、『南瓜とマヨネーズ』(17/冨永昌敬監督作)、『サラバ静寂』(18/宇賀那健一監督作)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(17/冨永昌敬監督作)、『パンク侍、斬られて候』(18/石井岳龍監督作)、『愛がなんだ』(19/今泉力哉監督作)、『台風家族』(19/市井昌秀監督作)、『ワンダーウォール 劇場版』(20/前田悠希監督作)など多数。
公開待機作品に『朝が来る』(20/河瀨直美監督作)、『罪の声』(20/土井裕泰監督作)、『AWAKE』(20/山田篤宏監督作)がある。また、2021年には映画初主演となる『街の上で』(今泉力哉監督作)の公開や、2020年度後期放送の連続テレビ小説「おちょやん」(NHK)への出演控えている。
監督
石井裕也
Yuya Ishii
1983年生まれ。埼玉県出身。
大阪芸術大学の卒業制作『剥き出しにっぽん』(05)でPFFアワードグランプリを受賞。24歳でアジア・フィルム・アワード第1回エドワード・ヤン記念アジア新人監督大賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭や香港国際映画祭では自主映画4本の特集上映が組まれ大きな注目を集めた。商業映画デビューとなった『川の底からこんにちは』(10)がベルリン国際映画祭に正式招待され、モントリオール・ファンタジア映画祭で最優秀作品賞、ブルーリボン監督賞を史上最年少で受賞した。2013年の『舟を編む』では第37回日本アカデミー賞にて、最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞、また米アカデミー賞の外国語映画賞の日本代表に史上最年少で選出される。2014年に公開された『ぼくたちの家族』では、家族の絆を正面から描き、国内外で高い評価を得る。同年、『バンクーバーの朝日』(14)では1930年代のカナダを舞台に、日系移民の苦悩や葛藤を丁寧に描き、日本国内でヒットを記録するとともに、第33回バンクーバー国際映画祭にて観客賞を受賞した。
2017年には、詩人・最果タヒの詩集から物語を生み出し、映画化した『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』を発表。2017年2月に開催された第67回ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品される。その後、第9回TAMA映画賞にて最優秀作品賞の受賞を皮切りに、第39回ヨコハマ映画祭、第32回高崎映画祭、第30回日刊スポーツ映画大賞など多くの映画賞で作品賞や監督賞を受賞し、第91回キネマ旬報ベストテンでは、日本映画ベスト・テン第1位を獲得するなど国内の映画賞を席捲した。また、国外でも第12回アジア・フィルム・アワードで監督賞を受賞するなど国外でも高い評価を得た。
公開待機作に、初めて韓国の映画スタッフとチームを組んで制作された映画『アジアの天使』(2021年公開予定)がある。
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