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仕事、家事、子育て…一人で抱えなくていい。家族みんなで助け合い、バランスをとるために

篠原涼子 インタビュー

仕事、家事、子育て…一人で抱えなくていい。家族みんなで助け合い、バランスをとるために

アルコール依存症を克服しようと闘う女性、自閉症の息子と日々を生きる母親、娘に暴力をふるってしまう母親、母に虐待を受けて育った娘……これまでに“悩み”ながらも懸命に前に進もうとする女性を多く演じてきた篠原涼子さん。今回、篠原さんが映画『人魚の眠る家』(2018)で演じたのは、人類において答えの出てない“命”の問いと向かい合う、一人の母親“薫子”です。
その母親は、娘が事故に遭い、心臓は動いているが意識は戻らない可能性があると宣告されます。眠っているようにしか見えない娘を前に、周りの家族とぶつかりながら、事実と対峙する母親。その姿は見る者の胸に迫り、自分なら、と考えをめぐらさずにはいられません。
篠原さんの役にのぞむ姿勢からは、家族や一人の大人として「大事に守るべきものがある」という人間の“強さ”を感じました。出演作のことから、お子さんとの映画鑑賞法、ご自身にとっての大切な1本の映画までを伺いました。
篠原涼子インタビュー

“一人”ではなく、“家族”で解決していく

今回演じられた薫子は、答えの出ない難題と向き合う役柄でした。重いテーマですが、役を引きずることはあったのでしょうか。

篠原全く引きずりませんでした! こんな重いテーマなのに、薄情ですよね(笑)。でも、本当に全部楽しかったんです。どんな風に演じようかなと想像する時間も、現場に入って演じている時間もすごく楽しかった。それは、薫子を演じていると感情がどんどん溢れきて、「演じる」というよりは「生きている」という感覚に近かったからだと思います。

「こんな自分もいたのか」という発見があったとも、おっしゃっていましたね。

篠原自分がこんな表情も持っているんだなと、撮影された映像を観て驚きました。この映画が決まってから、堤監督と初めてお会いした際に「薫子は芯が強い人」と説明して頂きました。だから、弱さの中に少しでも「強さ」を感じてもらえるように演じていましたね。絶望の中にあっても、わずかな可能性を信じて進んでいくところは、自分にも似ていると感じました。

でも、実はこの映画のお話を頂いた時、一旦はお引き受けすることを躊躇したんです。それは、私がこういう役を演じることで、自分の子どもが同じような目に遭遇してしまうんじゃないか、ということが頭をよぎったから。

篠原さんは、現在二人の息子さんを子育て真っ最中ですね。

©2018「人魚の眠る家」 製作委員会

篠原そう。だから、そういう思いがあって躊躇していたのだけれど、色んな周りの人に背中を押してもらって、再度作品を見直してみました。そしたら、一人の人間の様々な感情が表されているなと改めて感じて。ひとつの作品でこんなに感情を表現できる役柄には、これから巡り会えないのではないかと思って、お引き受けすることにしました。「怖い」と思う自分の気持ちを乗り越えなきゃって。

夫である市村正親さんに「こんな素晴らしい作品をやらないのは損だよ」と声をかけてもらったとお伺いしました。

篠原よく「“仕事と子育て”どういう風にバランスを取っているんですか?」って聞かれるんですが、私一人でバランスを取っているのではなくて、家族みんなでバランスを取っているなと感じるんです。私だけで「こうしたい!」と思っていても、それぞれ人格を持った人間なんで、私の思う通りに事は進みません。それに、一人で考えるのではなくて、家族みんなで考えた方がいいこともあります。

でも、私は仕事をしているので、子どもともっと向き合いたいと思う時でも、充分に時間が取れないこともある。そんなすれ違いがある時でも、家族がバランスを取って、そういうことも乗り越えてくれている。みんなで助け合いができていると思います。

自分一人で頑張ってるわけではなく、家族みんなで助け合いながら毎日を乗り越えていっていると。

篠原涼子インタビュー

篠原私、「家族を犠牲にする」「仕事を犠牲にする」という考え方が嫌なんです。結婚していようが、子どもがいようが、変わらない。「自分の責任です」といって、すべてに取り組みたいじゃないですか。でも、独身の頃と比べると、子どもがいて仕事をするということは「一人ではない」「しっかりしないと」という強さに繋がっているとは思います。

篠原さんは、この映画で新しい自分を発見したとおっしゃっていましたが、日常の中で家族と接することで、自身に向き合うようなことはありますか?

篠原子どもたちは私が仕事に行く時に、最初は「寂しい寂しい…」っていうんです。でも、いざ行く直前になると子どもの方から「ほらー、行ってきなよ。頑張ってね」と言ってくれるんです。行きやすいんだけれど…逆に行きにくいみたいな(笑)。そういうときは「子どもたち大丈夫かな…」って、後ろ髪を引かれながら仕事に向かいます。

毎日の中で、そうやって子どもの方から成長していってくれるのを感じる時がある。私の精神が、子どもや家族のおかげで、安定しているのを感じます。

©2018「人魚の眠る家」 製作委員会

篠原涼子の「心の一本」の映画

篠原さんがこれまでの人生を振り返って「一番もがいた」と思い出す時期はありますか?

篠原「もがいた」か…。結構、あっけらかんとしているタイプなので「そういう事も人生だ、糧になるな」と思っちゃうんです。古くさいですか?(笑) 答えのない問いに出くわしたときも、「出会えてラッキー」と。若かったときは、特にそうかな。

だから、「もがく」っていうまでのことは、これまでになかったかもしれない。でも、家族ができた今は、そういうことがあるのはちょっと困る(笑)。確かに、主人が胃がんだとわかった時は苦しかったし、自分の手で治すことはできないから「どうすればいいんだろう」って悔しかったりもしたけれど、「思いは強く念じていれば叶う」って私思ってるんです。だから、あんまりクヨクヨする方向にはいかないようにしている。前を向くことを大切にしていますね。

市村さんも大変明るい性格なので、篠原さんのポジティブな性格と相乗効果で、「大ポジティブ家族」ですね。

篠原涼子インタビュー

篠原そうかも、家族みんなポジティブですね! 悩みのない家なんです(笑)。悩み相談とか、家であまりないなー。強いていうなら、子どもが「○○くんに、手をギュッとつねられた〜」とか(笑)。「くだらないー!」って親は微笑ましく思うんだけれど、本人は真面目に悩んでるので「大丈夫大丈夫! そのことで手がもっと強くなるよー!!」って返答して。…意味のわからない回答ですね(笑)。

そんな風に、子どもの悩みも最後は笑い話になってる。悩みを悩みのままにしたくないなって気持ちがあります。

子育てと仕事でお忙しい毎日だと思いますが、お子さんと映画を観ることはありますか?

篠原家で子どもと一緒に観ますね。この前は、藤木直人くんが日本版の吹き替えで出演していた『リメンバー・ミー』(2017)を観ました。『ボス・ベイビー』(2017)も観た!

そうそう、最近私が『新宿スワン』(2015)を家で観ていたら、隣にいた長男も少し観たみたいで、「こういう喧嘩の映画は観たらダメだ!」ってすごい私に言ってきて(笑)。「こういう喧嘩の仕方はよくない!」って言うんです。でも、私は「こういう喧嘩こそ、観ておいた方がいい! こういう喧嘩を仕掛けられたら、どう逃げたらいいかがわかるから。」って言ったんです。こういうことをしちゃいけないのは、わかっているんだからこそ、それを時々観ておくのも必要なんです。でも、そう言ったら「僕は大丈夫だから…」って言って、どっかに行っちゃいました(笑)。

「悪いことも観ておくのが必要」ということですね。役に向き合うことや、日常で子どもと向き合うことのように、映画に向き合うことで自身を知ることになった映画があれば、教えてください。

篠原20歳の頃に観た『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(1986)です。映像も、音楽も、出演している俳優も、シチュエーションも、この映画のぜーんぶが好きです! 中年男性のゾルグと少女ベティが出会って愛を紡ぐという物語なんだけれど、その話が最初に展開される海辺の砂浜にあるコテージもいいんですよね。その家はベティに燃やされてしまうんだけれど。その狂気的な愛もすごく好きで。

どこまでもポジティブな篠原さんが、どうにもならない愛を抱えて、前に進めなくなっていく男女を描いた『ベティ・ブルー〜』をそんなに愛しているのは意外です!

篠原ベティはゾルグを愛しすぎてどんどん狂っていくんですよね…。ゾルグも愛しすぎるが故にラスト彼女を殺してしまう。全部「愛」なんです。愛ですべてを物語っている、その強烈な愛の形が好きで…。この映画を観て、私はどんな形であれ“愛”が表現されているものが好きなんだと気付かされたんです。

フランス映画もこれをきっかけに観るようになったかな。ちょうど、『ピアノ・レッスン』(1993)が流行っていた時期に、とある先輩に勧められて観ました。ゾルグ演じるジャン=ユーグ・アングラードの顔がすごく好きで。もう、かっこいいんですよねー。あー、もう全部が好きですねー。

篠原涼子インタビュー
FEATURED FILM
人魚の眠る家 [Blu-ray]
原作:東野圭吾「人魚の眠る家」(幻冬舎文庫)
監督:堤幸彦
脚本:篠﨑絵里子
主題歌:絢香「あいことば」(A stAtion)
出演:篠原涼子、西島秀俊、坂口健太郎、川栄李奈、田中泯、松坂慶子
発売元:フジテレビジョン
販売元:松竹
発売日:2019年5月22日
©2018「人魚の眠る家」 製作委員会
離婚寸前の仮面夫婦の元に、ある日突然、届いた知らせ。「娘がプールで溺れた―」。愛するわが子は意識不明のまま、回復の見込みはないという。深く眠り続ける娘を前に、奇跡を信じる夫婦は、ある決断を下すが、そのことが次第に運命の歯車を狂わせていく―。
PROFILE
女優
篠原涼子
Ryoko Shinohara
1973年群馬県生まれ。1990年デビュー。2004年『光とともに〜自閉症児を抱えて〜』で連続ドラマ初主演を務める。その後、『ハケンの品格』『アンフェア』など様々なドラマに出演。『アンフェア』は劇場版2作が製作される人気シリーズになった。その他映画出演作品に、『THE 有頂天ホテル』(2006年)『北の桜守』(2018年3月)『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(2018年8月)など。2019年には『今日も嫌がらせ弁当』が公開される。
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