PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

Homecomings 福富優樹「シアタールームの窓から」第14回

moon shaped river life

Homecomings 福富優樹「シアタールームの窓から」
Homecomingsの福富優樹さんは、動画配信が普及した今でもあえてDVDを購入したり、映画のポスターやレコードを手元に置いたりしているそうです。この連載では、福富さんがそうして集めた大切なものに囲まれながら映画を観ている部屋、「シアタールーム」から広がる世界の「声」に耳を澄ませます。
ミュージシャン
福富優樹
Yuki Fukutomi
1991年5月生まれ石川県出身。Homecomingsのギター担当。最近のマイブームはランディ・ニューマン。好きな食べ物はかけ蕎麦と中華。パッと思いつく好きな映画は「ロイヤルテネンバウムス」「スモーク」「ファーゴ」「トュルーマン・ショウ」。ビルマーレイが大好き。シンプソンズも好き。映画の上映とバンドのライブ、zineの制作が一体となったイベント「NEW NEIGHBORS」をイラストレーターのサヌキナオヤとバンドの共催で定期的に行っている。これまでの上映作品は「アメリカン・スリープオーバー」「ヴィンセントが教えてくれたこと」「スモーク」「ゴーストワールド」。Homecomings福富優樹がストーリーを、イラストレーター・サヌキナオヤが作画を手がけた漫画作品『CONFUSED!』の単行本が発売中。

2019年には映画『リズと青い鳥』、映画『愛がなんだ』の主題歌を担当。2021年春IRORI Recordsよりメジャーデビュー、2023年にメジャー2ndアルバム『New Neighbors』をリリース。2024年5月24日リリースのデジタルシングル「Moon Shaped」は映画『三日月とネコ』の主題歌を担当。

LIVE「森、道、市場2024」【5/25(土)愛知】、「東京蚤の市’24 SPRING」【5/31(金)東京】、「hoshioto’24」【6/1(土)岡山】、「Homecomings New Neighbors FOUR Won’t You Be My Neighbor? june.2, 2024 at Hiroshima 4.14」【6/2(日)広島】、「YATSUI FESTIVAL! 2024」【6/15(土)東京】、「many shapes, many echoes」【7/6(土)名古屋、7/7(日)大阪、7/13(土)東京】
ライブ・イベント出演情報はHomecomings公式HPをご覧ください。
Homecomings HP: http://homecomings.jp/
Instagram: @fukutomimurray

5月の公開になる映画『三日月とネコ』に、主題歌として「Moon Shaped」という曲を書かせてもらった。Homecomongsにとって1年ぶりの新曲は、Homecomoingsが3人になってからはじめてリリースされる楽曲で、かつ2月のライブをもってバンドを卒業した、なるちゃんと(いまのところ)最後に一緒に録音した楽曲だ。

「Cakes」を書き下ろした『愛がなんだ』も「Songbirds」を書き下ろした『リズと青い鳥』も、そして『三日月とネコ』もひとりの主人公に観ている人が入り込んでいくような映画ではなくて、観る人それぞれがそれぞれの立ち位置によって気持ちが入っていく人物が変わるような作品で、そんなところもなんだかHomecomingsに合っているようでうれしい。

「Cakes」はジェンダーを特定しない歌詞を書くことのきっかけになったし、「Songbirds」には水面下で解散が決まっていたHomecomingsというバンドが続いていく大きなきっかけになった、とても大切な楽曲だ。バンドとして、アーティストとして、もっというと人生において転機になるようなタイミングで、音楽と同じくらい大好きな映画というものに関わることができていることがとても嬉しくもあり、少し誇らしくもあったりするのだ。

『三日月とネコ』の主題歌のお話をいただいたのが、去年の夏頃。すぐに近所の書店でウオズミアミさん原作の漫画を揃えて買って、お気に入りのファミレスでその日のうちに最後まで読み切ってしまった。

恋人でも家族でもない3人の共同生活を中心に、年齢やジェンダーや人生における立ち位置の異なる人たちが様々な選択肢を前に、手を取り合い、笑い合い、ときには傷ついたりしながら自分が安心していられる答えを選んでいく。この作品は猫や友人に囲まれたふわふわとゆっくりと流れる穏やかな生活をただ映したようなものではない。この時代に生きること、社会の一部としての暮らしのこと、他者から向けられる視線やことば、そして自分が安心できる場所を選ぶことを描いた、どこまでもリアルで肌に触れる感覚のある物語だ。柔らかく、優しくありながらも、はっきりと「NO」とも声をあげる。そんな強さもある作品だと思った。もちろんこの作品はひとりでいることも否定しないし、誰かといることが人が生きるうえで絶対に必要であるともいわない。そんなところがとても優しく、とても素敵で大好きな作品だった。

監督を務める上村奈帆さんと打ち合わせでお話できたのもとてもよかった。上村さんは僕たちの「i care」という曲がとても好きでそのイメージで今回僕たちに主題歌をお願いしてくれたということだった。「i care」も「ケア」をテーマにした曲で、手をとったりときには距離をとったりしながら、ひとりでいながらお互いを、そしていろんな物事や誰かをケアすることについての歌で、自分たちが大事にしていることがちゃんと誰かに届いていて、それがまた新しい作品に繋がっていることがとても嬉しかった。

個人的なことなのだけど、「すいか」と「anone」の2作品が人生のマイ・フェイバリット・ドラマだったするので、そのどちらでも重要な役を演じている小林聡美さんと、『三日月とネコ』では主題歌というかたちである意味“共演”できたことも本当に嬉しかった。

『三日月とネコ』という作品から受け取ったものをそのまま歌詞にして、できあがったのが「Moon Shaped」だ。新しい視点でも自分なりの解釈でもなく、素直にその作品の世界を、作品に流れる時間や空気を歌にした。上村さんやウオズミさんと一緒に書いたような感覚すらある歌詞になっている。お話をもらったときには、もうなるちゃんがバンドを卒業することは決まっていたので、作品のなかの3人が時折感じる、うっすらと膜をはるような「いつかくる別れの予感」のようなものに共振して歌詞のなかにもそんな気持ちを書いた。このタイミングでこの作品と一緒になれたことでしか書けなかった歌詞だと思う。

もうひとつ、小さな裏話を。はじめにこの作品のタイトルを見たときに「三日月」と「ネコ」というワードから、仕方がないくらい大好きなスピッツのことを連想してしまったのだけど、ウオズミさんが今連載している作品のタイトルが『冷たくて 柔らか』と知り(スピッツの「ニノウデの世界」という曲の歌詞の一節なのだ)、これは!と確信したあとで「Moon Shaped」にも自分なりのサインを歌詞のなかに忍ばせてみていたりする。

『三日月とネコ』で描かれる括弧つきの「ふつう」から少し外れたこの暮らしのかたちは、僕たちミュージシャンの暮らしとも重なってみえる。家族でも恋人でもなく、ただの友人や仕事上のパートナーと割り切ってしまうにはどうにもしっくりこないくらいに愛おしい隣人たちと毎日のように美味しいごはんを食べたり、終電もなくなってしまった夜更け過ぎに高架に沿ってくだらないことを話しながら歩いて帰ったり、秘密を分け合ったり、そっと胸にしまっておいたりする。全員がちょっとずつ変わっていて、誰もが完璧でもなければ、正しくあることを放棄したりもしない。なんでも話すことができるけれど、なんでも話さなくてもいい、そんな関係はとてもケアにあふれていて、10年かけて(バンドを組む前から数えたらもっと長い時間)自然と組み上がっていったこの安心できる場所を僕は心から愛している。

人生は大きな川のように止まって見えても絶えずあるひとつの方向に向けて進んでいて、その流れに合わせてときには距離を置くことを選ぶこともある。こんな日々が永遠に続くか、終わってしまうとしたらそれまでに残された時間はどれくらいなのか、それは誰にもわからない。個人の生活、周りの環境、家族、社会の変化、そのどれもが僕らに関係していて、なにがきっかけでどんなことが起こるのか、どんなきっかけで、どんなことでも起こってしまうだろう。それでも僕たちはいま一緒にいる、それがなによりも大切なことなのだと、はっきりと思う。

僕らもそれぞれがどこか欠けながら、そのかたちを愛したり、愛せなかったりしながら寄り添っていくのだ。

moon shaped river life|Homecomings 福富優樹「シアタールームの窓から」
BACK NUMBER
PROFILE
ミュージシャン
福富優樹
Yuki Fukutomi
1991年5月生まれ石川県出身。Homecomingsのギター担当。最近のマイブームはランディ・ニューマン。好きな食べ物はかけ蕎麦と中華。パッと思いつく好きな映画は「ロイヤルテネンバウムス」「スモーク」「ファーゴ」「トュルーマン・ショウ」。ビルマーレイが大好き。シンプソンズも好き。映画の上映とバンドのライブ、zineの制作が一体となったイベント「NEW NEIGHBORS」をイラストレーターのサヌキナオヤとバンドの共催で定期的に行っている。これまでの上映作品は「アメリカン・スリープオーバー」「ヴィンセントが教えてくれたこと」「スモーク」「ゴーストワールド」。Homecomings福富優樹がストーリーを、イラストレーター・サヌキナオヤが作画を手がけた漫画作品『CONFUSED!』の単行本が発売中。

2019年には映画『リズと青い鳥』、映画『愛がなんだ』の主題歌を担当。2021年春IRORI Recordsよりメジャーデビュー、2023年にメジャー2ndアルバム『New Neighbors』をリリース。2024年5月24日リリースのデジタルシングル「Moon Shaped」は映画『三日月とネコ』の主題歌を担当。

LIVE「森、道、市場2024」【5/25(土)愛知】、「東京蚤の市’24 SPRING」【5/31(金)東京】、「hoshioto’24」【6/1(土)岡山】、「Homecomings New Neighbors FOUR Won’t You Be My Neighbor? june.2, 2024 at Hiroshima 4.14」【6/2(日)広島】、「YATSUI FESTIVAL! 2024」【6/15(土)東京】、「many shapes, many echoes」【7/6(土)名古屋、7/7(日)大阪、7/13(土)東京】
ライブ・イベント出演情報はHomecomings公式HPをご覧ください。
Homecomings HP: http://homecomings.jp/
Instagram: @fukutomimurray
FEATURED FILM
出演:安達祐実 倉科カナ 渡邊圭祐
山中 崇 石川瑠華
柾木玲弥 日高七海 小島藤子 川上麻衣子(特別出演)
小林聡美
脚本・監督:上村奈帆
原作:「三日月とネコ」ウオズミアミ(集英社マーガレットコミックス刊)
音楽:小山絵里奈
主題歌:Homecomings「Moon Shaped」(PONY CANYON/IRORI Records)
製作:岡本雄一郎 岩本孝博 高尾和明
エグゼクティブプロデューサー:森谷 雄
プロデューサー:森本友里恵
撮影:重田純輝 照明:水瀬貴寛 美術装飾:秦 悠羅 録音:飴田秀彦 整音:岩丸 恒 音響効果:大河原将
スタイリスト:岩堀若菜
ヘアメイク:大宅理絵
編集:木谷 瑞
フードコーディネーター:藤代太一
助監督:國領正行
制作担当:板井茂樹
ラインプロデューサー:江良 圭
協力プロデューサー:鈴木 剛 小林岳夫
企画協力:小林 修 宮下貴史
製作:映画「三日月とネコ」製作委員会
企画:BOOKS BROTHERS
製作プロダクション:アットムービー
配給:ギグリーボックス
宣伝:ギグリーボックス BOOKS BROTHERS
5月24日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他にて公開
熊本地震をきっかけに出会った同じマンションに住んでいた書店員の灯、精神科医師の鹿乃子、アパレルショップ店員の仁は意気投合し、やがて共同生活をすることになる。年齢も職業も境遇も違う3人だが、共通しているのはみんなネコが好きなこと。
「普通ではない生活」をしている今の暮らしが一番好きという灯、「ふたりといる今が一番マトモ」だという仁、他人と暮らすことに抵抗があったものの「今とても安定している」と思っている鹿乃子、3人とネコとの共同生活は、大いに癒され、それぞれの心の拠り所となっていた。
シェアする