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おしえて! みんなの映画デート vol.2

「友だちが選んでくれた映画が、恋を取り持つこともある。」ミュージシャンSさんの場合(『パリ、テキサス』)

デートの定番といえば「映画デート」。
映画館やおうちでなど、映画鑑賞は今もデートの鉄板です。
「映画 デート」とネットで検索してみると、「気をつけるポイント」「思わぬ落とし穴!」「デート向き映画の注意点」という見出しが。どうやら映画デートには、ちょっとしたコツがいるようですね。映画デートは、暗がりの中、2時間近くを共に過ごすという特殊なシチュエーション。どんな映画を選ぶかもまた、恋の駆け引きや顛末に大きな影響を与えるものです。では、どんなところに注意すればいいのでしょうか…?
そこで、みなさんのいろんな意味で心に残る映画デートを教えていただき、そこから教訓を導きだそうというコーナー、題して「おしえて! みんなの映画デート」をはじめました。
第2回の教訓はこちらです!
映画デート 教訓その2
「デートで観る映画は、好みの合う友だちに選んでもらうぐらいが、ちょうどいい!」
では、その一例をご紹介しましょう。

ミュージシャンSさん(30代男性)の場合
(あるある度★★☆ 思い切った度★★★ いい思い出度★★★)

それは、自分の記念すべき二十歳の誕生日に経験した映画デートでした。当時の僕は大学の文学部に通い、大学内の軽音サークルに所属する、典型的な「文系男子」。その日は居酒屋で、サークルのみんなに誕生日を祝ってもらっていました。

大勢の仲間と散々飲んで騒いだ後、住んでいるところが近かった二人と、僕の家で2次会をしようという話になったんです。一人は特に仲がよかった同学年の男友だち、一人は同じく同学年の女の子、そして僕。

その女の子は同じ大学の教育学部に通っていて、バンド内のパートは僕と同じベースでした。だけど同じバンドではなかったこともあり、それまであんまり話したことがなくて。だからその時点では「好き」とか「付き合いたい」とか思う対象では全然なかったんです。

三人でうちの最寄りの駅に着いてから、酒やつまみを買った後、「何か映画でも借りよう」ということになりました。それでレンタルビデオ店に寄ったら、映画通だった男友だちが、ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』を推してきて。放浪していた男と、その妻子との再会と別れを描く名作ロードムービーです。僕もその女の子もヴェンダースの他の作品は観たことはあったんだけど、この作品は観たことがなかったので、満場一致でそれを借りることにしました。

家に着いてからは、酒を飲んだりレコードで音楽を聴いたりしながら、自分の好きな音楽や映画のコアな話をしていたんですけど、それが彼女に通じて話も弾んだんです。

そう、僕が典型的な文系男子なら、彼女は典型的な「サブカル女子」で。そんなカルチャーに詳しい女の子って、それまで僕の前に現れたことなかったから新鮮でしたね。今でもよく覚えているのは、その子が「ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』が好きなんだー」と言っていたこと。自分の好きなことを共有できる彼女っていいなと早くも妄想が膨らみ始めて、どんどん彼女に惹かれていきました。

で『パリ、テキサス』を観始めて、最初のうちは「いい映画だなぁ」なんて心底思いながらマジメに観ていたんですけど、ふと隣にいる彼女をチラッと観ると、相当真剣に観ているのがわかったんです。こういう映画って、好きじゃない人は途中からつまらなくなって、本読んだり携帯いじったりすること多いじゃないですか。でも、彼女は真剣に観ていて。デートで観た映画の印象って、そのまま相手の印象につながったりしますよね。そういう意味では『パリ、テキサス』が進むにつれて、僕の恋愛のボルテージもぐんぐん上がっていったわけです。

それで「二人きりになりたいなー」っていう気持ちがどんどん募って、「いや、映画に集中している場合じゃない!」と。この映画も観たいけれど、それよりも彼女の気持ちをどうしても確かめたくなったんですよね。今考えると、映画を観終わってから確かめてもよかったんだけど、その時の僕はもういてもたってもいられなくて。

でも、この部屋にはもう一人いるなと。いくら友だちだといえども、彼の前で彼女に気持ちをぶつけるのは恥ずかしいなと思って、彼をどうにか帰さなくてはと考え始めました。でも彼はそんな僕の思惑を全く感じることなく食い入るように映画を観ているから、そんなこと言える雰囲気ではない…ただ早く帰さないと朝まで3人で過ごすのが目に見えている…焦った僕は「誕生日だし…」と意を決し、男友だちに一言、

「そろそろ終電じゃない? か、帰った方がいいんじゃない!?」。

と言い切りました。

僕の彼女への気持ちは、彼の映画のチョイスがあったからこそ高まったのに、帰った方がいいだなんて…。彼も「え、今?」と呆気にとられてました。そりゃそうです。でも、僕が大きく彼の目を見て頷くと、想いを察した彼は「お、おう…」とかなり不服そうではありましたが、黙って帰ってくれました。

二人きりになった僕は、恋愛を見事成就させることができたんです。で、その時思ったんですよね。観た映画が、もし自分の思い入れのある好きな作品だったら、映画に集中しすぎて、途中でやめて告白するなんてできなかっただろうなって。むしろ、観終わった後、押し付けがましく自分の感想を伝えたり、彼女が真剣に観ている表情だけでは満足できずに、どんな感想を言うか期待して待っていたりしただろうなと。

だから、僕と彼女の相性をはかるのに、ちょうどいい映画を選んでくれた彼に相当感謝です。まさか自分の選んだ『パリ、テキサス』で、僕らの恋愛ボルテージが勝手に上がっているとは思いもしなかったと思うんですが…(笑)。しかも、僕が「帰れば?」と彼に伝えた瞬間って、映画はちょうど歴史に残る名シーンが始まるタイミングだったらしく、彼は僕らにそこを一番観てほしかったらしいんですよね…。ちなみに僕は未だに、『パリ、テキサス』の結末がどうなったか知りません。

《教訓その2 まとめ》

自分の大好きな映画を、好きな人に観てもらいたい人は多いでしょう。でも、Sさんの言うように、思い入れがあればあるほど、押し付けがましい気持ちになってしまいがちです。「この映画、どうだった? 面白かった!?」と、鼻息荒く相手に聞くのはNG。映画に気持ちが向きすぎて、引いてる相手の気持ちにも気づいていないなんてこと、ありませんか?

誰が選んだにせよ、自分がいいと感じた映画を、相手もいいと感じているとわかった時、恋愛ボルテージが高まるのは間違いないということが、Sさんの例でわかりました。むしろ、そのぐらい映画との距離感があった方が、意中の人の気持ちに向き合えるかもしれませんね。

これから付き合うかもしれない相手とのデートや、関係の浅い恋人とのデートの場合は、自分と好みの合う友だちに映画を選んでもらうぐらいがちょうどいいのかもしれません!

よかったらぜひ、みなさんの映画デート体験も教えてくださいネ!

PROFILE
イラストレーター・漫画家
日向山葵
Wasabi Hinata
1991年生まれ、東京都出身。多摩美術大学絵画学科版画専攻卒。2年半の会社員生活の後、2018年よりフリーランスとして制作活動をスタート。独特な曲線で描かれる人物イラストからタイポグラフィーまで、その作品はシンプルながらもポップで親しみやすい。近年ではシャムキャッツやTHE FULL TEENZ、1983など、バンドのグッズやジャケットも手がける。2020年にはGINZA WEBにて短期連載漫画『パーフェクトシンドローム』が公開された。
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