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Homecomings 福富優樹のビデオショップ・コーナーズ vol.1

レンタルビデオショップ・アラスカと僕

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ミュージシャン
福富優樹
Yuki Fukutomi
1991年5月生まれ石川県出身。Homecomingsのギター担当。最近のマイブームはランディ・ニューマン。好きな食べ物はかけ蕎麦と中華。パッと思いつく好きな映画は「ロイヤルテネンバウムス」「スモーク」「ファーゴ」「トュルーマン・ショウ」。ビルマーレイが大好き。シンプソンズも好き。映画の上映とバンドのライブ、zineの制作が一体となったイベント「NEW NEIGHBORS」をイラストレーターのサヌキナオヤとバンドの共催で定期的に行っている。これまでの上映作品は「アメリカン・スリープオーバー」「ヴィンセントが教えてくれたこと」「スモーク」「ゴーストワールド」。Homecomings福富優樹がストーリーを、イラストレーター・サヌキナオヤが作画を手がけた漫画作品『CONFUSED!』の単行本が発売中。
5月には、メジャーデビューアルバム『Moving Days』をリリース。
Homecomings HP: http://homecomings.jp/

初めまして。僕の名前は、福富優樹。京都でHomecomingsというバンドをやっている。「映画」にまつわる連載を始めることになったので、どんなテーマがいいかなぁと色々考えていると、近所にあった割と大きなレンタルショップが閉店してしまうというニュースが、スマホの小さい画面から飛び込んできた。

僕が地元の町から進学のために京都に来て8年ほどになるけれど、当時はたくさんあったレンタル屋さんが、今ではほとんど残っていない。西院にあった大きなビルのようなレンタル屋さんも、東山にあったVHS がとても安く手に入ったお店も、そして堀川通りの「WAVE」という僕にとって、とても大事なお店も。最近ではTSUTAYAみたいな大きなチェーン店でさえもどんどん数が減っていく。これは何もレンタルビデオ屋さんだけの話ではなくって、本屋さんもCD屋さんも (ミスタードーナツも! )どんどんと減っていって、自分が好きなものが世界の隅っこへ隅っこへジリジリと追いやられているようで、寂しくなることもある。コンビニとゲストハウスだらけになっていくこの町に住んで、僕は曲を書いている。でも別に「昔は良かったのに」とか「最近はねぇ」とか、そういうことを言いたいわけじゃないし、新しいものや場所にワクワクすることも当たり前のようにあるわけで。でもやっぱり寂しいし忘れたくない、そういう好きなものや場所のことは。だから忘れないように、ここに書いておくことにした。書いておけば忘れないから。「そこにあった」ということだけじゃなくて、その場所の「匂い」や「その時思ったこと」もこの文章の中に閉じ込められたら、何年か経って読み返した時に、忘れてしまったことを思い出せたら、いいなと思う。そして「その場所」を知らない皆さんにも、僕が大好きだった場所が伝わればいいな、とも思う。

さて、まずは僕が育った町を少し説明したい。グーグルマップのような地図を想像してみてほしい。できれば航空写真のものがいいかも。画面の左半分は海があり右半分は一面の田んぼ。もう少しズームしていくと、ちょうどその間の位置に四方を田んぼに囲まれた小さな町があり、スーパーや薬局らしきものが見えてくる。これが僕が育った町。その町から田んぼの海を渡るようにして一本の細い道があり、そこに沿って目線を右に移していくと大きなバイパスがあるのがわかる。その向こう側にはコンビニと大きな駐車場があるスーパー、小さなおもちゃ屋さんに本屋、そして穏やかな坂を登った先に大きな交差点があって、その角に小さなレンタルビデオ屋さんがある。レンタルショップ「アラスカ」。このお店がこれから続く物語の舞台。

小さな長方形のお店にぎっしりと詰まったビデオケース。入り口にはその月の話題作のパネル、たいていの場合それらは筋肉隆々なアメリカの俳優をかたどったものか、アニメや映画を宣伝するカラフルなものだった、が置いてあって、入ってすぐ左手には新作と準新作のコーナー。その奥には邦画が並び、隣のレーンには洋画、その隣がアニメとお笑いのコーナーで、その奥には怪しげな暖簾。右端には、一列だけのCDコーナーが申し訳なさげにちょこんとある。その横にレジがあり、向かいには「三倍速!」とパッケージに大きく書かれた空の五本セットのビデオテープがmentosやポテトチップス赤い編み編みの糸に包まれたポップコーンなんかと一緒に並んでいる。店内はレンタルショップのあの独特なプラスチックの匂いが漂っていて、天井のスピーカーからは流行りのJ-POPが有線で流れている。店主らしきおじさんは少し背が低く、大抵がシワシワのシャツに、お店のロゴも入っていない真っ黒なエプロンを身につけ、真面目そうな髪型。隣では、大学生ぐらいの茶髪のアルバイトがカウンターの中で、ガチャガチャと乱暴な音を立てながら、返却されたビデオテープをケースの中に戻している。

毎週金曜日の夜になると、お父さんとお母さんが僕をこのお店に連れてきてくれる。店に入るとお父さんは真っ先にレジに向かい、可愛いイラストが入った灰色のプラスチック袋を店員さんに渡す。店員さんは中身を確認して、「次回からは全て巻き戻してから返却お願いします~」とかなんとか言って、最後にもう一度本数を口頭で確認する。この一連の作業を店員さんが終えるまでにかかる時間は、だいたい30秒。その間、僕はお父さんの隣でじっとしている。お母さんはもう店内をブラブラしていて、まだ幼い弟は「機関車トーマス」のコーナーに釘付けになっている。家族四人でここに来る時は「今週もビデオが借りられるんだな」とわかるけど、たまに買い物ついでにお母さんと二人で返しに寄る時なんかは、返すだけで終わってしまうこともある。僕も僕で、別に見たい映画があってお店に来ているわけではなかったから、特別わがままを言って何かを借りて帰るなんてことはなかったけど、「今日はなんか借りていくか」となった時はなんだか無性にワクワクした。

新作のコーナーに置かれた『タイタニック』の2本セットの分厚いケースには、大抵いつも赤い紐と貸出中のタグ。なんとなく来るたびに、毎回僕はそれを確認する。レジに向かう途中にちらっと見るだけだけど。たまに「貸出中」になっていないものを見かけると、少しラッキーな気がした。それは僕にとって、ちょっとした決まりごとのようになっていた。でも、『タイタニック』を観たいとは思わなかった。4時間もある映画なんて絶対に我慢できない、と思っていたからだ。その頃の僕にとって、21時から23時に放送される『金曜ロードショー』の2時間という時間が、映画を観るうえで我慢できる精一杯の長さだった。(アラスカに僕たち家族が通っていたのは僕がまだ小学生の頃だった。)

『金曜ロードショー』で育った僕たちは、その2時間の長さでいろんな時間の長さを測った。遠い場所に電車で行くのに1時間かかると聞くと、「映画の半分の長さだな」と考えたし、めんどくさい学校の行事が2時間もあると知ると、「映画1本分もあるのか」と憂鬱になったりもした。金曜日から日曜日、週末の夜には決まってテレビで映画が流れていた。週末の夜の魔法の2時間。ちゃんとそれぞれの曜日の流れる映画に特徴というか、色分けがあったのを覚えている。金曜日はその名も『金曜ロードショー』。夜9時になると、昔の映画音楽と共に、映写機を回すタキシードを着たおじさんのアニメーションが流れた。黄土色のバックに映写機とおじいさん。横向きのおじいさんがテレビの画面に気づいてこっちを向いて挨拶すると、画面が映写機の方にズームして、そこでその夜流れる映画のタイトルがどんっと出てくる。僕は幼心にこのシーンが大好きだった。ジブリの映画は大抵この『金曜ロードショー』で観た。『カリオストロの城』も『ラピュタ』も、観終わった後に胸に残るのはジーンとした心地の良い感動で、僕はこれこそが映画の一番の醍醐味だと思ったものだ。『ゴーストバスターズ2』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に衝撃を受けたのも金曜日の夜だった。土曜日は『ゴールデン洋画劇場』だったり『土曜プレミアム』だったり、ころころと番組の名前が変わった。他の曜日に比べると日本の映画が多かったように思う。何よりも『めちゃイケ』とつながって、そのままテレビを観ていられることが嬉しかった。あの頃の僕にとって、そして多分その頃の男の子みんなにとって『めちゃイケ』というものはこの世で一番面白いものであり、絶対に何があっても見逃してはいけないものだった。日曜日は『日曜洋画劇場』。なにかっていうと“グレネードランチャー”とか“ガトリングガン”みたいなものが出でくる映画ばかりが流れた。『バイオハザード』とか『トゥームレイダー』みたいな映画が多かった。でもその日曜日の映画だけは、ゲームボーイをしながら適当に観ることができて、それはそれで僕はとても好きな時間だった。

21時に始まって23時に終わる。そのあとは歯を磨いてベッドに入る。この2時間は僕(そして僕の町のみんなにとってもそうだったと思う)にとって、とても大事な2時間だった。物語の中に入っている間は、少しだけ自分が何にでもなれるような気がした。だから実際の映画の長さが1時間半ぐらいだというのに気づいた時は、本当にびっくりした。テレビで観る『トイ・ストーリー』と、「アラスカ」で借りてきた『トイ・ストーリー』では30分も長さが違うのだった。しかも驚いたことに、レンタルしてきた映画にはテレビで流れるものには入っていなかったシーンがたくさんあった。CMとかでかさ増ししておいて、肝心の映画をカットするってどういうことなんだろうと、その頃の僕にはさっぱり分からなかった。レックスとスリンキーが、窓から懐中電灯でウッディとバズを探すシーン、『ホーム・アローン2』でケビンがニューヨークの街を自由にぶらぶらするシーン、『ゴーストバスターズ』であの三人がテイクアウトのチャイニーズフードを食べる最高のシーン、そんなちょっとした大事なシーンがごっそりとなくなっていたことに気づいた。お気に入りの映画を、テレビで一度見た後にレンタルして見直す時、僕は間違い探しをしているような気分になった。「あれこんなシーンあったっけ?」そうやって見つけたシーンはやけに面白いシーンに感じられた。テレビでしか映画を観ていない学校のみんなは、知らないシーン。「アラスカ」に行かないと観られないシーン。

そういえば、僕が『タイタニック』を観たのは、それからずっと先のことで、「アラスカ」に行っても『タイタニック』がレンタル中かどうかなんて、全くに気にしないどころか、そんなことをしていたことさえも、すっかり忘れてしまった頃だった。小学校6年生の夏、僕が風邪で寝込んだ次の日に、学校を休んで退屈そうにしていた僕のためにお母さんが借りてきてくれた何本かのビデオの中に、『タイタニック』があった。借りてきてほしい、と頼んだわけではなかったし、お母さんは『タイタニック』のような流行りの映画を観るようなタイプではなかった。もしかして僕が「アラスカ」でこっそりしていた、あの「決まりごと」にお母さんは気づいていたのかもしれない。そう思うと、とても恥ずかしかった。『タイタニック』は、とても悲しい物語で僕は少しだけ泣いた。

穏やかな坂を登った先に大きな交差点があり、その角には小さなレンタルビデオ屋さんがある。レンタルショップ「アラスカ」。これは小さな町と小さなお店のお話です。

金曜/土曜/日曜

夜の映画 2時間の魔法 映写機を回す紳士 2時間の魔法

それは週末の端と端にあるもの 夕食と寝具の間に挟まれた 僕たちは暗闇を知らない 氷の隙間を音を立てないように そっと吸い上げるコツも 地面に落ちたポップコーンを あっさりと諦める適当さも 僕たちは知らない 少なくともその時はまだ それはただ週末の夜の出来事 明るい 家々の灯りが一つ一つ消えていく それは魔法の幕が閉じた合図

FEATURED FILM
出演: レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット
監督: ジェームズ・キャメロン
20世紀最大の海難事故となった豪華客船タイタニック号の悲劇を、総製作費2億ドルという巨費を投じて製作された超大作。監督・脚本は『ターミネーター2』のジェームズ・キャメロン。製作はキャメロンと『トゥルーライズ』のジョン・ランドー。
PROFILE
ミュージシャン
福富優樹
Yuki Fukutomi
1991年5月生まれ石川県出身。Homecomingsのギター担当。最近のマイブームはランディ・ニューマン。好きな食べ物はかけ蕎麦と中華。パッと思いつく好きな映画は「ロイヤルテネンバウムス」「スモーク」「ファーゴ」「トュルーマン・ショウ」。ビルマーレイが大好き。シンプソンズも好き。映画の上映とバンドのライブ、zineの制作が一体となったイベント「NEW NEIGHBORS」をイラストレーターのサヌキナオヤとバンドの共催で定期的に行っている。これまでの上映作品は「アメリカン・スリープオーバー」「ヴィンセントが教えてくれたこと」「スモーク」「ゴーストワールド」。Homecomings福富優樹がストーリーを、イラストレーター・サヌキナオヤが作画を手がけた漫画作品『CONFUSED!』の単行本が発売中。
5月には、メジャーデビューアルバム『Moving Days』をリリース。
Homecomings HP: http://homecomings.jp/
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