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Homecomings 福富優樹のビデオショップ・コーナーズ vol.4

『かいじゅうたちのいるところ』にただよう、寂しさの匂い

Homecomings 福富優樹のビデオショップ・コーナーズ
(京都在住の4ピース・バンドHomecomingsの福富優樹さんが、好きだった場所のひとつである「レンタルビデオショップ」や「CDショップ」の記憶をたどるコラムです。最後には、福富さんがその回のコラムからイメージして綴った詩も。)
ミュージシャン
福富優樹
Yuki Fukutomi
1991年5月生まれ石川県出身。Homecomingsのギター担当。最近のマイブームはランディ・ニューマン。好きな食べ物はかけ蕎麦と中華。パッと思いつく好きな映画は「ロイヤルテネンバウムス」「スモーク」「ファーゴ」「トュルーマン・ショウ」。ビルマーレイが大好き。シンプソンズも好き。映画の上映とバンドのライブ、zineの制作が一体となったイベント「NEW NEIGHBORS」をイラストレーターのサヌキナオヤとバンドの共催で定期的に行っている。これまでの上映作品は「アメリカン・スリープオーバー」「ヴィンセントが教えてくれたこと」「スモーク」「ゴーストワールド」。Homecomings福富優樹がストーリーを、イラストレーター・サヌキナオヤが作画を手がけた漫画作品『CONFUSED!』の単行本が発売中。

2021年春には、メジャーデビューアルバム『Moving Days』をリリース。2022年1月リリースDigital Single「アルペジオ」はドラマ「失恋めし」の主題歌を担当、4月リリース Digital Single「i care」はテレビ東京水ドラ25「ソロ活女子のススメ2」エンディングテーマを担当している。

LIVE「Homecomings 『US / アス』」【12/10(土) 大阪・梅田 CLUB QUATTRO、12/11(日) 愛知・名古屋 CLUB QUATTRO、12/25(日) 東京・渋谷 CLUB QUATTRO】
ライブ・イベント出演情報はHomecomings公式HPをご覧ください。
Homecomings HP: http://homecomings.jp/
Instagram: @fukutomimurray

“寂しいもの”、音楽や物語からうっすらと流れてくる、寂しさの匂いのようなものに敏感になったのはいつからだろう。今の僕にとって、寂しさというものは文章を書くうえでも、マンガのストーリーを考えるうえでも、そして何より音楽をつくるうえでも、とても大事な要素のひとつだ。去年紅白にも出演したあいみょんは、あるインタビューで「寂しさって道とかに落ちてるんでね、歩いてると」と言っていた。僕たちは、そういうものを拾い集めて大事にひっそりと内ポケットに入れるように、いつもの街で暮らしている。

僕がずっと大好きなものたち、たとえばアメリカの小説家スチュアート・ダイベック(※1)の短編集『シカゴ育ち』やエイドリアン・トミネ(※2)によるイラストやグラフィック・ノベルの数々、エリオット・スミス(※3)の歌声にペイヴメント(※4)のメロディ、ウィーザー(※5)の『Pinkerton』のザラザラとしたノイズ、それたちにはどれもそんな寂しさの匂いがある。そして、それらはどれも冬の寒さがよく似合う。マフラーの隙間から、白くなった息が溢れるような帰り道や、暖房で窓が曇る電車やバスの中、足の先まであったかくなるように丸まって、くるまる毛布の中で、それらは僕たちに優しく語りかける。

映画だと、どうだろう。ガス・ヴァン・サント監督の手がける映画には寂しさが儚くて、でも美しいものとして描かれているような気がする。『エレファント』や彼が総指揮をつとめ、写真家のラリー・カールトンが監督をつとめる『KIDS』で、女の子が街をただずっと歩いていくカットなんかもそうだ。デイヴィット・ロバート・ミッチェル監督の『アメリカン・スリープオーバー』でも同じようなシーンがある。どれも夏の映画だけど。音楽にも確かに夏に合う寂しいメロディというものがあって、春だって秋にだってその季節独特の寂しい匂いがある。
じゃあ冬に暖房をつけた部屋で観たくなる映画ってどんな映画だろう。大好きな『ロイヤルテネンバウム』や『スモーク』はもちろんぴったりだし、『ホーム・アローン』や『トイ・ストーリー』みたいな心温まる映画だっていいだろう。でもどうしても寂しい寒い夜には、スパイク・ジョーンズ監督の映画なんてどうだろう。

スパイク・ジョーンズ監督が近年手がける映画には、独特な温度の寂しさがある。モーリス・センダックの絵本を映画化した『かいじゅうたちのいるところ』や近未来を舞台としたロボット同士の文字通り壊れやすい愛を描いた『I’M HERE』、同じく近未来を舞台に、人と肌のないものの恋を描いた『her/世界でひとつの彼女』など、どれも劇中にはひんやりとした寂しさ、それを温めるような優しさが描かれている。そして、どの作品にもそれらを包み込むようなメロディが歌われる。すぐに壊れてしまうロボットたちに、そっと歌いかけられるAska & The Lost Treesによる「There Are Many Of Us」(『I’M HERE』)、カレンOが歌うダニエル・ジョンストンの「Worried Shoes」(『かいじゅうたちのいるところ』)、同じくカレンOによって手がけられ、劇中ではスカーレット・ヨハンソンが声を演じる”A.I”サマンサが歌う「The Moon Song」(『her』)など、映画を観終った後もずっと残り続けるそのメロディと歌声は、スパイク・ジョーンズ監督の映画にとって、とても大切なものである。冬の寒さが似合うメロディ。冬の寒さが似合う寂しさ。そんな彼の映画がとても好きだ。

「かいじゅう」という言葉で思い出す寂しさがある。
僕が「アラスカ」で映画をレンタルして観ていた小学生ぐらいの頃は、そういう寂しい映画を観ることはほとんどなかった。けれど、その時観ていたような映画やアニメ、特撮の中にもなんだか寂しい、ちょっとだけ鼻の奥がつんとなる感覚があった。それは敵のキャラクターが主人公にやっつけられる瞬間にやってくる切なさ。当時の僕には、敵の最期の瞬間がやけに切なく感じられたのだった。初めてそれを強く感じたのは、『ルパン三世 ルパンVS複製人間』という作品の中に出てくる敵、マモーだ。何百年も前から、自らが発見したクローン技術によって、何代にも渡り自分を複製し続けた彼は自分を不老不死だというが、幾度となく重ねたコピーによりDNAの像がぼやけ始める。その命にも限りが見えてきたため、さらに完璧な永遠を手に入れ、世界を終わらせようとするマモー。そんな彼はルパンと対峙し破れる時、最期の最期愛した女性の名前を呼びながら燃えていく姿は、僕にとってただ悪い奴がやっつけられたということ以上に、色々な意味や感情が含まれているものに思えた。そしてその切ない寂しさは、それまでも不思議な感情としてずっとそばにあったものだった。

小さな頃から、僕は特撮やアニメに出てくるヒーローよりも敵のキャラクターに興奮していた。大きな収納箱いっぱいに詰められたソフビや人形は、ほとんど敵のキャラクターのものだった。それは単に街をぶっ壊す姿が、かっこいいからということじゃなかった。なんとなくグッとくるようなそんな曖昧な気持ちからだった。でもマモーの最期のシーンを見てからなんとなく気がついた。その哀愁や寂しさが、小さな頃から「なんとなく」思っていたその気持ちの正体だった。
ウルトラマンの怪獣や宇宙人もそうだった。一番有名といってもいい敵キャラクター“バルタン星人”もとても寂しくて切ない。故郷の星が、ある科学者によって破滅し、難を逃れた宇宙旅行者のバルタン星人はなぜかウルトラマンと戦った個体だけではなく、雲の中に隠れて眠っていた他の自分の仲間も一気に殺してしまう。森の奥で静かに暮らしていたのに、人間の騒音によって暴れ出してしまうマシュマロンやかいじゅう島のレッドキングたち。すみかを追われたものや、すみかを探すものたち、すみかを守ろうとするものたち。

なぜか、今でも記憶に残っている唯一の戦隊ヒーローもの『忍者戦隊カクレンジャー』も他のものに比べて、敵として出てくる妖怪たちはみんな寂しい奴らばっかりだった。第1話で出てくるカッパとロクロクビの夫婦は、人間の毒によって自分の息子が死んでしまう。自分たちが住んでいるゲームセンターで、我が子に似た子供を「可愛いボウヤ」と勘違いして拐ってしまう、という物語だ。他にも家族が欲しいと思うがゆえに、人間の魂を盗んで人形にそれを吹き込み疑似家族をつくるコナキジジイや、タクシー運転手として働いていたけれど人間たちにいじめられ、復讐を考えるオボログルマ。でもその寂しさには、全くといっていいほど目を向けられないまま、彼や彼女たちはヒーローの必殺技を浴びて死んでしまう。次のシーンでは、一件落着した後の平和な世界が少しだけ映り、すぐにエンディングテーマが流れ始める。僕の気持ちは、爆発の煙の中に置いてきぼりになったままになってしまう。そこにあったはずの妖怪や怪獣たちの孤独や寂しさや悔しさはどこにいってしまったのだろう。まだそこにずっと残っているはずじゃないだろうか? 子供部屋のベットに入って眠りつくまでの短い時間にも、そんな想いがうっすらと見える天井をぐるぐると飛び回っていた。幼い頃の僕にとってその不思議な切なさは、事あるごとに顔を出す、変わった友達のようなものでもあった。

彼や彼女たちの寂しさは、もしかしたら多くに人にとっては全く目に入らないものなのかもしれないし、ともすれば作り手側の人たちも意図していない場合だってあるだろう。そのことが寂しさというものを、僕の中に、よりはっきりと浮かびあげる。なぜなら、目を向けられない寂しさ、気づかれることのない寂しさ、それは僕が音楽や物語を作る上でとても大事にしている、掬い上げようとしている、そのものだからだ。

僕が好きな美しいと思うものには、そういった寂しさが包まれていて、「目を向けられない」ものたちにもう一度(それがたった一瞬だとしても)、少しの光を、そして誰かの目線を向けること。僕が感じる寂しさを掬い上げることで、それを僕も形のあるものとして残したい。それは「アラスカ」の子供向けのコーナーの棚にだって、こんな風にこっそりと落ちている。そのかけらを拾った時から、僕は寂しさが持っている、寂しさだけが持つ、この匂いに取り憑かれてしまっているのかもしれない。

Quiet Corners

寂しさはひっそりとそこにある それはきらきらとひかることはない 誰の目にも止まらない

よく目を凝らして歩くこと それが君を観ることができる たったひとつの手段だから

クワイエット・コーナーを覗き込むと かいじゅうたちが声をひそめる そこは本当のすみかではないだろう 君はそこからどこにもいけない

遠回りして帰ること それが君を観ることができる たったひとつの手段だから

※1.スチュアート・ダイベック(Stuart Dybek、1942年-)アメリカ出身の小説家。
※2.エイドリアン・トミネ(Adrian Tomine、1974年-)アメリカ出身の漫画家。
※3.エリオット・スミス(Steven Paul “Elliott” Smith、1969 – 2003年)アメリカ出身のシンガーソングライター。
※4.ペイヴメント(Pavement)主にアメリカで活動するオルタナティヴ・ロックバンド。
※5.ウィーザー(Weezer)主にアメリカで活動するオルタナティヴ・ロックバンド。

PROFILE
ミュージシャン
福富優樹
Yuki Fukutomi
1991年5月生まれ石川県出身。Homecomingsのギター担当。最近のマイブームはランディ・ニューマン。好きな食べ物はかけ蕎麦と中華。パッと思いつく好きな映画は「ロイヤルテネンバウムス」「スモーク」「ファーゴ」「トュルーマン・ショウ」。ビルマーレイが大好き。シンプソンズも好き。映画の上映とバンドのライブ、zineの制作が一体となったイベント「NEW NEIGHBORS」をイラストレーターのサヌキナオヤとバンドの共催で定期的に行っている。これまでの上映作品は「アメリカン・スリープオーバー」「ヴィンセントが教えてくれたこと」「スモーク」「ゴーストワールド」。Homecomings福富優樹がストーリーを、イラストレーター・サヌキナオヤが作画を手がけた漫画作品『CONFUSED!』の単行本が発売中。

2021年春には、メジャーデビューアルバム『Moving Days』をリリース。2022年1月リリースDigital Single「アルペジオ」はドラマ「失恋めし」の主題歌を担当、4月リリース Digital Single「i care」はテレビ東京水ドラ25「ソロ活女子のススメ2」エンディングテーマを担当している。

LIVE「Homecomings 『US / アス』」【12/10(土) 大阪・梅田 CLUB QUATTRO、12/11(日) 愛知・名古屋 CLUB QUATTRO、12/25(日) 東京・渋谷 CLUB QUATTRO】
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