PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語

Homecomings 福富優樹のビデオショップ・コーナーズ vol.2

VHSに貼られた手書きのラベルテープ

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VIDEOSHOP CORNERS

(京都在住の4ピース・バンドHomecomingsの福富優樹さんが、好きだった場所のひとつである「レンタルビデオショップ」や「CDショップ」の記憶をたどるコラムです。最後には、福富さんがその回のコラムからイメージして綴った詩も。隔月連載中です。)

昔通っていたレンタルビデオショップ“アラスカ”の記憶をたどっていると、それまで忘れていた「ある風景」が思い起こされた。それは、実家のリビングのテレビ台の下にある、ガラス張りのちょっとした棚のことだ。そこにはテレビで放映された映画をダビングしたVHSが、所狭しと並んでいた。

実家に映画のビデオがたくさんあったというと、まるでフランス映画や古い日本映画、白黒の名画などが並んでいるように思うかもしれないけれど、実際我が家のコレクションに並んでいたのは、80年代から90年代にヒットしたアメリカ映画がほとんどで、それらは大抵テレビで放送された映画を録画したものだった。その中には、淀川長治が解説をしているあの番組を録画したのもあったりして、そのビデオを見ると僕は幼ながらに「あぁ、この人はもうこの世にはいないんだな」と思ったのを覚えている。ぎっしり並んだビデオテープの背には、お母さんが手書きした映画タイトルのラベルが張られていて、そのカタカナの響きだけで僕はなんとなく内容を想像したりした。文字だけで読み取ると“インディ・ジョーンズ”はみるからに楽しそうだったし、“トータル・リコール”はなんだか難しそうだった。

VHSに録ってあった映画は、シリーズが揃ってないものがほとんどだった。『ゴースト・バスターズ2』(1989年)に『バック・トゥ・ザ・フーチャ3』(1990年)、『ビバリーヒルズ・コップ3』(1994年)に『ホット・ショット2』(1993年)。だいたいどのシリーズも、なぜか肝心の1作目が抜けていることが多かった。でも、僕はそんなことはお構いなしで色んな映画を 「2」や「3」といった中途半端なところから観ていった。だから、当時の僕にとっての“バック・トゥ・ザ・フューチャー”は西部劇のような映画だったし、“ゴースト・バスターズ”たちはなぜかジリ貧でそれでもどうやら過去には栄光の日々があったようで、“ターミネーター”のシュワルツェネッガーは正義の味方だった。まだ小学校の低学年だった僕はどう考えたって話の筋なんてちゃんと理解できる訳ないし、一体どういう風にその物語を受け入れていたのか今となっては全く分からないけど、それでもそれらの映画に僕はとても感動していた。カッコよくて、なぜかジーンとくるその映画たちは、ポケモンだってまだろくにやったことがなかった僕にとって、とても大事な原体験になった。

そしてそんな経験は、どうやら僕だけのものじゃないらしかった。あの頃の僕たちにとって、洋画というものは「=週末の夜にテレビでやっているもの」という感じがまだまだあった。みんながみんな“アラスカ”で映画を借りて観ていた訳じゃなかったのだけれど、テレビのおかげで僕らの日常には洋画が寄り添っていた。そしてその肝心の週末のテレビは、なぜか『ターミネーター2』(1991年)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』を唐突にその1作だけ放送するということを、平気な顔してやっていたのだった。今ならシリーズを「一挙三週連続!」だったり、映画に入る前にそれまでのシリーズをおさらいするような映像が流れたりするけれど、当時はそんな親切なものは当然のように全然なかった。もしかすると、僕が小学生低学年の日々を過ごした90年代の終わりには『ターミネーター』(1984年)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)の第1作を「観たことがない」なんてことは考えられないぐらい、洋画というものが身近にあったのかもしれない。そんな勝手な「当たり前」のせいなのか何なのか、僕たちがテレビで『ターミネーター』や『ゴースト・バスターズ』(1984年)の第1作目を観る夜は、待てど暮らせどやってこなかった。でも僕にはレンタルショップ“アラスカ”があったのだ。ずっと観たかった映画を、順番に1本ずつ親に借りてもらうことは、まだ今のように音楽や小説を好きになる前の僕にとって、とても大きな楽しみだった。

あの頃、そうやって中途半端なジグソーパズルを埋めるようにして観た映画は、今でも大好きなものばかりだ。そして戸棚のビデオテープのジグソーパズルも同じように少しずつ少しずつ隙間を埋めながら完成していった。ついに「バック・トゥ・ザ・フューチャー三部作」が揃った時は本当に嬉しくて、綺麗に並んだ3本のビデオテープの、手書きのラベルを眺めているだけで、胸の奥からワクワクした気持ちが湧き上がってくるようだった。その気持ちは物語の中でマーティーやドクが僕に感じさせてくれるワクワクと似ていて、VHSが増える度に余計に映画が好きになっていくような気がした。だいたいどの回を重ねたシリーズの方がなんとなく雰囲気が明るくて、第1作目はちょっと暗かったり話が重かったりするような気がした。そんな映画を観ている自分が、なんだか少し大人になったような気がして面白かった。僕は他のみんなとは違ってこんなに暗い映画だって観てるんだぞ、とちょっといい気になっていた。そんな中でも、特に『ターミネーター』を観たときは驚いた。「2」と比べてアクションも地味で、色もくすんでいて、何よりやたら無機質で、機械的なシュワちゃんが怖すぎてゾクゾクした。今なら、”2”とはかけられた予算が全然違うからああいった作風なんだと理解できるけど、小さい頃の僕はあのチープ感にゾクゾクするような怖さを感じていた。そしてその怖さはなんとなくかっこよくもあった。ちなみに『ホット・ショット』は、“1”も“2”も関係なくばかばかしくて、そして「2」の方が圧倒的に僕は面白かった。

アラスカでは、録画用のビデオも販売していた。ビデオを借りる時、お父さんは「家にさらの(関西弁で「新品の」という意味)テープあったっけ?」といって3本セットのそれも一緒にレジに持っていく。その光景を眺めながら、あの透明の戸棚の中に、テレビを録画した「2」や「3」のが、またひとつ増えることを考えると、これからどんどん映画を好きなっていく自分を想像して胸が高鳴った。

Glass Shelf Tapes
PROFILE
ミュージシャン
福富優樹
Yuki Fukutomi
1991年5月生まれ石川県出身。京都を中心に活動するバンドHomecomingsのギター担当。最近のマイブームはランディ・ニューマン。好きな食べ物はかけ蕎麦と中華。パッと思いつく好きな映画は「ロイヤルテネンバウムス」「スモーク」「ファーゴ」「トュルーマン・ショウ」。ビルマーレイが大好き。シンプソンズも好き。映画の上映とバンドのライブ、zineの制作が一体となったイベント「NEW NEIGHBORS」をイラストレーターのサヌキナオヤとバンドの共催で定期的に行っている。これまでの上映作品は「アメリカン・スリープオーバー」「ヴィンセントが教えてくれたこと」「スモーク」「ゴーストワールド」。
映画『愛がなんだ』主題歌として書き下ろされたHomecomings新曲「Cakes」が2019年4月17日リリース。
Homecomings HP: http://homecomings.jp/
『Cakes』特設サイト: http://homecomings.jp/special/cakes/
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