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時代の大転換期に正攻法はない!「アウトサイダー」な表現者として、自由なものづくりを

宮嶋風花×幾原邦彦 インタビュー 【後編】

時代の大転換期に正攻法はない!「アウトサイダー」な表現者として、自由なものづくりを

Sponsored by 『愛のゆくえ』
前編に引きつづき、お届けします)
誰もが手軽に動画を発信でき、あっという間にその反応を受け取ることができる今の状況は、30年前には想像もできませんでした。そんな激動のメディア変革期を駆け抜けてきたクリエイターと、今まさに世に出ようとしている若きクリエイター。彼らの目に映っている「今」の風景はどんなものなのでしょうか?
親を失った少女と少年が、喪失と向き合いそれぞれの生き方を模索する姿を描く『愛のゆくえ』(公開中)で長編映画デビューを果たす宮嶋風花監督は、大学の卒業制作として監督した中編映画『親知らず』で、25歳以下の若手映像作家の発掘と支援を目的としたコンペティション「クリエイターズ・ファクトリー」(「島ぜんぶでおーきな祭 沖縄国際映画祭」にて開催)のグランプリを受賞した新進気鋭の映画監督です。その後、商業デビューをかけたワークショップを勝ち抜いて本作の制作を実現させました。
これまで観た映画やアニメーション作品に大きな影響を受けていると語る宮嶋監督ですが、その中でも『少女革命ウテナ』(1997〜)『輪るピングドラム』(2011〜)『ユリ熊嵐』(2015〜)などの個性的な作品を世に放ってきた幾原邦彦監督のアニメーション作品は、自身の軸となるほど特別な作品だそう。メディアの大転換期に、一人ではなく大勢で作り上げる映画とアニメーション制作にプロとして携わるお二人へ、ものづくりの道を歩むきっかけや、いま制作で大事にしていることを伺いました。

先人の言うことはあてにしなくていい!

作品を世に出してからは、いかがでしょうか? 今は視聴者や観客の反応がすぐにわかりますよね。

幾原僕が最初にアニメを作っていた頃は、視聴者の反応はよくわかりませんでした。視聴率で数字としてしか見えない。でも、インターネットの登場で、今はダイレクトに反応がわかるから作り手の感性もガラッと変わったと思います。

やはり、SNSでの反応は気にしますか?

幾原そこと距離を取りたいとは思うのですが、バランスが難しいです。そろそろSNSからは身を引くべきか…とも思うのですが。

宮嶋風花×幾原邦彦 インタビュー

宮嶋私もエゴサはします(笑)。まだ批判的な意見に傷ついたことはないですが、俳優さんの中には絶対に見ないという方もいらっしゃいますね。

幾原批判的な意見を見たときやバッシングを受けたときは凹みますし、大変な時代になったと思います。

ただ、強い支持は強い批判とセットだとも思っているので、強く批判されているということは、それだけ作品の力があったということだとも思っています。慣れないですけどね(笑)。そういう言葉に対する耐性も若い人の方があるんじゃないかと思います。

幾原監督から見て、やはり宮嶋監督のような若い世代と自分たちの世代とのメディアの向き合い方や創作の違いは強く感じますか?

幾原全然違います! インターネットがこの世に出てきてから大体30年くらいで、宮嶋監督はデジタルネイティブといえる世代ですよね。

宮嶋風花×幾原邦彦 インタビュー
宮嶋風花×幾原邦彦 インタビュー

宮嶋SNSは高校に入学した頃から始めて、卒業する頃にスマホを持ち始めていたという感じでした。

幾原もうその時点で、生活の中心がデジタルメディアになっているということなので、やはり世界の見え方が僕らとは確実に違うはずです。昔は世界で何か事件や紛争が起きても、報道の映像がテレビで流れるくらいで、遠い存在に感じました。

でも今は、ウクライナやイスラエルで1時間前に起こったことがすぐに入ってくるわけで、世界がずっと狭くなったと思います。狭すぎて怖い。メディアに対しても、僕らの世代はメディアに権威性を感じながら育ったけれど、宮嶋さんの世代から見たら全く違うでしょうし。

宮嶋テレビを持っていないという友達は多いですね。私も東京にいるときはほとんどテレビを見ませんし。ニュースを追っている人もいれば、まったく興味がないという人もいて、それぞれが全く違う方向に向かっているという印象はあります。

宮嶋風花×幾原邦彦 インタビュー

幾原今、メディアは大きな転換期を迎えています。夏目漱石の『吾輩は猫である』って何部売れたかご存じですか? なんと、2000部ほどしか売れなかったんです。というのも、当時、小説は本ではなく新聞で読むものだったからです。

それが高度成長期に伴って一般にも本が広まり、そのうちテレビの時代になり。僕が子どもの頃は映像の希少性があったから、ドラマやアニメ番組を見ることが楽しみでした。

はい。

幾原録画ができるようになったときは興奮しました、「繰り返し見れる!」って。その後、DVDなどパッケージメディアが登場し、「やった!これでもう永久に劣化しない映像で、好きな映画が何度も見れる」となり、動画配信になった。

そしたら、今その感覚は失われて、映像についてタイムパフォーマンスを求めるような感覚が出てきています。「映画は2時間スマホが見れないし、タイパ悪い」…って、もう僕らが理解できる感性ではないですよね。

宮嶋風花×幾原邦彦 インタビュー

確かに映像を繰り返し見られることが貴重だった時代から考えると、「タイパの悪い作品」って考え方自体が信じられませんよね。

幾原「見る側」の感性もすごい勢いで変化しているので、僕らがこれまで大切にしていたものが10年後に存在しているのかは全くわかりません。

こういうメディアの転換期に仕事ができた自分は運が良いと思いますけど、宮嶋監督はテレビ登場以来の最大の転換期のど真ん中にいるわけです。おそらく作品の作り方みたいなものが、僕らが考えているものとは違っていると思います。

『愛のゆくえ』
©️吉本興業

幾原スマホでぱぱっとショートフィルムを作って、すぐに発表できたりとか、そういう軽やかさも僕の世代にはないものですし。

これからメディアをどう変えていくのかというのも、ネットネイティブの人たちが作っていくと思うんで、そこに、僕が参加できないっていうジレンマはありますよね。悔しさみたいなものは感じます。

幾原監督の作品を見て育った宮嶋監督の世代の人たちが、今後のメディアのあり方を決めていく期待と悔しさとを感じていると。

幾原すごく羨ましい。僕もそこにいたかったです。

宮嶋風花×幾原邦彦 インタビュー

メディア転換期のど真ん中にいる世代として、今後はどのような作品を作りたいですか?

宮嶋今までは過去に向かう作品を作ってきたので、これからは「いま」を描きたいと強く思っています。自分の背中を押してくれるような作品になったらいいなと。

幾原例えば宮嶋監督の作品を見て、「これは商業的に乗りづらい作品だよね」という人もいるかもしれないですけど、それが的を射ているとも思わないんですよ。 「タイパが悪い」みたいなこと言う人がいっぱいいる世界で、そんな普通の理論で発言しても仕方がないですし。

だから正直、僕なんかのアドバイスとか、成功体験なんて、何の意味もないと思っています(笑)。宮嶋監督も、「今はアニメですよね」って言いだして今度はアニメーションをつくるかもしれませんし。宮嶋監督がこれからどんな作品をつくるのか、楽しみです。

『愛のゆくえ』
©️吉本興業

宮嶋私、『親知らず』をつくる前に、映画館のマナーCMを作ったことがあって、それが札幌の映画館で上映されたことがあったんです。生のお客さんの反応を見ることができたんですが、やっぱり作品は人に観てもらって完成するんだなと、その時の高揚感がずっと心の中にあります。

だから、卒業制作の『親知らず』もたくさんの人に観てもらいたいと思って応募しました。『愛のゆくえ』も、お客さんと一緒に映画館で体験したいという気持ちが強くあります。一人一人反応は違うと思うし、それを体感できることが今からとても楽しみです。

宮嶋風花×幾原邦彦 インタビュー

宮嶋風花と幾原邦彦の「心の一本」の映画

最後に、「心の一本」の映画を教えてください。お二人が創作する上で源泉になっているような、そんな映画はありますか?

幾原好きな映画は常に変わるのですが、『愛のゆくえ』を観た今は、フェデリコ・フェリーニ監督作やNHKドラマ映画『四季〜ユートピアノ~』(1979)も思い浮かんだのですが、レオス・カラックス監督の『ポンヌフの恋人』(1991)を挙げようと思います。

『ポンヌフの恋人』はレオス・カラックス監督による1991年の作品で、ホームレスの青年と失明の危機に瀕した画学生の女性との恋を描いた作品です。

幾原実物大の橋のセット、ビックリするようなスケールの大きな撮影、ラストシーン、全てが好きです。台本では悲劇的な終わりだったのを、ヒロイン役のジュリエット・ビノッシュが受け入れず、あのラストシーンになったという逸話も含めて好きですね。

宮嶋さんも特に好きな監督としてレオス・カラックス監督の名前を過去に挙げていらっしゃいました。

宮嶋はい。カラックス監督の作品には男女ふたりの出会いから別れまでを描く作品が多いですが、毎回ふたりとも社会のはみ出し者で、生きづらそうな感じがぶつかり合う。その感じが好きなんです。

『ポンヌフの恋人』もまさにそうですし、生きづらい男女がぶつかり合うという部分は『愛のゆくえ』にも通じると思います。

『愛のゆくえ』
©️吉本興業

幾原ちなみに、僕には『愛のゆくえ』のふたりは男女のキャラクターに分かれたひとりの人物に見えたんです。片や東京に行った可能性であり、片や地元に残った可能性であり、最後にその片方ずつが一体になる……そんなイメージを持ちました。

宮嶋監督の心の一本はなんですか?

宮嶋1本に絞れなかったので2本挙げたいんですが、1本目は七里圭監督の『眠り姫』(2007)です。

漫画家の山本直樹が内田百閒の短編小説「山高帽子」を基に描いた同名コミックを映画化した2007年の作品ですね。いくら眠っても寝不足を感じているヒロインが陥っていく夢と現実の境界のような世界観を表現しています。

宮嶋人がほとんど出てこないのですが、その気配だけが感じられるという作品で、大学生のときに初めて観て衝撃を受けました。例えば電車の景色だったり、部屋の窓だったり、近所の猫だったり、 誰もいないカフェの店内だったりといったシーンで構成されていて、それとまた別に、記憶のシーンみたいな、夢の中のシーンがあって。

実験的な映画なんですが、なんだかすごく懐かしい気持ちになったんです。包まれているような気持ちになる作品です。

幾原DVD化されていないみたいですね。何とかして観てみます!

宮嶋そう言ってくださって、嬉しいです! 2本目はドン・ハーツフェルト監督の『ビルの物語』(2006)三部作です。

ドン・ハーツフェルトは、一人で作画、撮影、編集をこなす個人制作スタイルの現代アメリカを代表するアニメーション作家です。

宮嶋『ビルの物語』三部作は『きっと全て大丈夫』、『あなたは私の誇り』、『なんて素敵な日』というそれぞれ10分程度の短編で構成されています。大学の授業で観たんですが、キャラクターが棒人間なんです。ビルという棒人間が脳の病気を抱えていて、その頭の中を覗いているような感覚になる作品です。

頭の中を素直に表現しているというか、精神的に入り込んで体験できる感じがして好きなんです。映画じゃないと表現できない作品だなと思います。

2作品とも、かなり実験的な作品ですよね。

宮嶋はい。『眠り姫』も『ビルの物語』も、実験的で枠にはまらない映画ですが、私は普通では思いつかないような表現に挑戦しているものに強く心惹かれるという傾向があるんだと思います。

今回「心の一本」を考えてみて、私は見る人の頭の中に、いかにドンッと直観的に感じさせるかということにこだわっているんだと気づかされました。

幾原僕は反対に、直観的にやっているように見せて緻密に考えてるタイプです(笑)。デジタルネイティブの宮嶋さんみたいにイメージの共有も軽やかにできないんです。

今は僕らの世代の人がまだいるからズレを感じることもあるかもしれないけれど、これからは宮嶋さんの世代の方がずっと軽やかにクリエイトしていくんだと思います。

宮嶋風花×幾原邦彦 インタビュー
INFORMATION
愛のゆくえ
出演:長澤 樹、窪塚愛流、林田麻里、兵頭功海、平田敦子、堀部圭亮、田中麗奈
監督/脚本/編集:宮嶋風花
エグゼクティブプロデューサー 中村直史、プロデュース 古賀俊輔、
プロデューサー 谷垣和歌子、濱中健太、キタガワユウキ
撮影監督:岸建太朗 録音・整音:伊藤裕規 音楽:茂野雅道 美術:佐藤高真
ヘアメイクデザイン:升水彩香 衣装:杉本仁紀
助成:札幌市映像制作助成事業
制作:ザフール 制作協力:Allen
製作:吉本興業
上映尺:88分
制作年:2023年
映倫:PG12
Ⓒ吉本興業
北海道で暮らす幼馴染の、愛と宗介。2人の母親はそれぞれにふたりの世界を守ろうとしていたが、宗介の母はうまく愛情を表現できず、愛の母は少しおせっかいとも言えるところがあった。
しかし、そんな世界がある日突然崩壊してしまうー。愛の母が、喧嘩をした宗介を探している途中に亡くなってしまうのだった。
残された子ども達は、その喪失とどう向き合い、どうやって生きていけばいいのだろうか?愛は父親に連れられて東京に引っ越しを余儀なくされ、宗介は北海道に残されることになった。人間の力では太刀打ちできない北海道の大自然の中と、正反対の都会で、孤独な少年少女は何を見つけるのか。
PROFILE
映画監督
宮嶋風花
Fuka Miyazima
1996年生まれ、北海道出身。
高校時代から美術を専門に学び、2018年に札幌大谷大学芸術学部美術学科卒。大学在学中にアニメーション作品『trace』を中心に数々のコンペや映画祭で受賞。卒業制作『親知らず』が、「島ぜんぶでおーきな祭 沖縄国際映画祭」で開催された、次世代を担う25歳以下の若手映像作家の発掘と支援を目的としたコンペティション「クリエイターズ・ファクトリー」で、グランプリを受賞。映画『愛のゆくえ』で商業映画デビューを果たし、第28回スプリト映画祭(クロアチア)・長編コンペティション部門に出品された。
アニメーション監督
幾原邦彦
Kunihiko Ikuhara
アニメーション監督、原作、脚本。小説、漫画原作、音楽プロデュース。代表作として『少女革命ウテナ』『輪るピングドラム』『さらざんまい』など。
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