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映画を観た日のアレコレ No.60

アニメーションディレクター・イラストレーター
木下麦の映画日記
2022年3月26日

映画を観た日のアレコレ
なかなか思うように外に出かけられない今、どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。 誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう? 日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
60回目は、アニメーションディレクター・イラストレーター 木下麦さんの映画日記です。
日記の持ち主
アニメーションディレクター・イラストレーター
木下麦
Baku Kinoshita
多摩美術大学在籍時からイラストレーター/アニメーターとして活動。
アニメーターや監督補佐を経て、オリジナルTVアニメーション『オッドタクシー」で自身初となる監督、キャラクターデザインを担当。

2022年3月26日

夜23時頃、仕事の区切りがついて寝るまでの時間に映画を観る。
ソファーに横たわり、脱力して映画を観る。
2時間丸々観たり、冒頭30分で観るのやめちゃったり、その時の気分によって色々だけど、とにかく、僕は映画が大好きで、映画の映像の質感が大好きで、吸引するように映画を観る。もっと具体的に言うと、シーンの羅列、それによって伝わる感情、演技、ライティング、構図、諸々が好きで。もし映画が固形物なら、ミキサーに入れてスムージーにして飲みたいくらい、好きなんです。
まあ、どうでもいいか。

今日は『カッコーの巣の上で』を観ようと思う。
これも大好きな映画です。

主人公はジャック・ニコルソン演じる、素行の悪い、ならず者のオッサン。
刑務所に入れられそうだったところ、刑務作業がしたくない、という理由で仮病をつかい、精神病院に移されるところから映画が始まるのです。

刑務作業なんてやってられっかあ、という感じで刑務所までサボるという、本当ダメなやつです。ただ、彼はその結果、痛い目をみます。精神病棟の管理体制を甘くみてたんですね。

絶対的な権限を持った師長の管理下で、厳格に決められた規則に従順な患者たち。尋常じゃない閉鎖的な環境に主人公のマクマーフィは違和感を覚えます。

早々に嫌気が差して、なんとか脱走を画策するマクマーフィ。
そんな中で、不良だけど快活なマクマーフィは、周りの患者仲間とコミュニケーションを取りながら、その場の淀んだ空気を段々と明るく、ポジティブな雰囲気に変えていきます。

社会的に見ればただのゴロツキのオッサンが、春のそよ風のように新鮮な息吹を与えていきます。消極的だった患者仲間は段々と能動的になり、笑顔になっていきます。小汚いオッサンが女神のような役割をしているわけです。

でも終わり方は悲しいのです。社会の闇とその中でも僅かな希望を描いたラストシーンは素晴らしいです。僕はこの2時間で大体1リットルの涙を流してます。
まあ全然涙は嘘ですが、すごくいい映画です。

こんな映画の中でも特に好きなシーンは、マクマーフィが大きな洗面台を持ち上げると宣言し、失敗するところ。やっぱり無理じゃないか、という視線を向ける仲間に「でも努力はしたぜ、チャレンジした」というセリフを吐きます。
みんなが無理だと諦めてる中で、挑戦するこのマクマーフィの姿はとてもカッコいいのです。このシーンを見るといつも、立ち止まってるだけじゃダメだろう? と叱咤された気持ちになるのです。
カッコいいっす! マクマーフィ先輩! 一生ついていきます!

あと50個くらいは好きな所挙げれるんですけど、長くなりそうだし、そもそも求められてなさそうなのでここらへんでやめます。日記ですしね。

大体寝るのは夜の2時頃です。
運が良くて、今年はお仕事で映画を作ることができました。
日中は映画の仕事をして、夜は映画を観て、という充実した時間がありました。
好きな物漬け。

自分たちの作った映画が、公のスクリーンに流れるのはなんだか感慨深い、不思議な気持ちになります。映画館で自分で自分の映画を観れるかどうか、現時点で分からない。ドキドキして観れなそう。

でもマクマーフィ先輩がもしそばにいたら、肩をバシっと叩かれて褒めてくれそうな気がする。たぶん褒めてくれるだろ!
そんな心境であります。

木下麦の映画日記
BACK NUMBER
INFORMATION
『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』
キャスト:花江夏樹 飯⽥⾥穂 ⽊村良平 ⼭⼝勝平 三森すずこ ⼩泉萌⾹ 村上まなつ
ミキ / 昴⽣ 亜⽣ ダイアン / ユースケ 津⽥篤宏 たかし(トレンディエンジェル)村上知⼦(森三中)
浜⽥賢⼆ 酒井広⼤ ⻫藤壮⾺ 古川 慎 堀井茶渡 汐宮あまね 神楽千歌 ⻁島貴明 METEOR

企画・原作:P.I.C.S.
監督:⽊下⻨
キャラクターデザイン:⽊下⻨・中⼭裕美
配給:アスミック・エース

2022年4月1日(金)TOHO シネマズ新宿ほか全国公開
公式サイト: oddtaxi.jp
©P.I.C.S. / 映画⼩⼾川交通パートナーズ
偏屈で無⼝な変わり者<⼩⼾川>。
個⼈タクシーの運転⼿として街を流しながら、なるべく他⼈と関わらないように、平凡な⽇々を過ごしていた。
ところが、ある⽇思い掛けず『練⾺区⼥⼦⾼⽣失踪事件』に巻き込まれてしまう。事件には、億を超える巨額の⾦、⽬的不明の半グレ集団、売り出し中のアイドル、カリスマ化されていく⼤学⽣など、様々な事物が絡み、混沌としていく。それでも、ある計画の実⾏をきっかけに、事態は⼀気に収束。⼀連の出来事は、多くの悲しみや不条理をはらみながら、いったんの結末を⾒た。――かに思われた。
関わっていた⼈々は、⼝々に証⾔する。“あの時⼀体何が起きていた”のかを。
それらを繋ぎ合わせることで浮かび上がってくる、事件の新たな輪郭。⼀⼈のタクシードライバーの “⼈⽣を⼀変させるような出来事”がカタチを変え、運命の⻭⾞は再び揺さぶられていく――。
アニメ『オッドタクシー』
Amazon Prime Videoにて見放題独占配信中
©P.I.C.S. / 小戸川交通パートナーズ
平凡な毎日を送るタクシー運転手・小戸川。身寄りはなく、他人とあまり関わらない、少し偏屈で無口な変わり者。趣味は寝る前に聞く落語と仕事中に聞くラジオ。一応、友人と呼べるのはかかりつけでもある医者の剛力と、高校からの同級生、柿花ぐらい。
彼が運ぶのは、どこかクセのある客ばかり。バズりたくてしょうがない大学生・樺沢、何かを隠す看護師・白川、いまいち売れない芸人コンビ・ホモサピエンス、街のゴロツキ・ドブ、売出し中のアイドル・ミステリーキッス…何でも無いはずの人々の会話は、やがて失踪した1人の少女へと繋がっていく。
PROFILE
アニメーションディレクター・イラストレーター
木下麦
Baku Kinoshita
多摩美術大学在籍時からイラストレーター/アニメーターとして活動。
アニメーターや監督補佐を経て、オリジナルTVアニメーション『オッドタクシー」で自身初となる監督、キャラクターデザインを担当。
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