PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば
自分に嘘をつかない生き方は、難しい。…ならば、どう生きるのか?自分らしさを見つめ続けて

家入レオ インタビュー

自分に嘘をつかない生き方は、難しい。…ならば、どう生きるのか?自分らしさを見つめ続けて

凛としたまなざしに、ふわりとやわらかな掌。取材チームに向き合うなり一人ひとりの手を取って、目を合わせながら「家入レオです。よろしくお願いします」とおっしゃったのが、とても印象的でした。
映画『コードギアス 復活のルルーシュ』(2019年2月公開)にて、自身初の映画主題歌を担当した家入レオさん。映画のオープニングにて、楽曲『この世界で』で優しくのびやかな歌声を響かせ、それぞれの大切な人を守るために闘う戦士たちの物語を彩ります。
家入さんは普段から映画をよく観ているそう。シンガーとして、ソングライターとして、映画は家入さんにどんな影響をもたらしてきたのでしょう? そう問いかけると「自分の心の動きを感じ、創作の感性を豊かにしていくために映画を観るんです」という返答が。家入さんにとっては、日々の暮らしも感性を磨くため、映画と同じくらい大切な時間だと言います。自身の「こうなりたい」や他者からの「こうであるべき」といった視線に、きちんと対峙したすえに家入さんが見つけた、自分らしい在り方とは?
家入さんの言葉を、もっともっと聴いていたいと思えるインタビューでした。
家入レオ インタビュー

映画は、“自分の心の動き”を 感じさせてくれる存在。

家入さんは映画がかなりお好きで、日ごろからたくさん観ていらっしゃるとうかがいました。「レオ」という芸名も、映画『レオン』(1994年)からもきているんですよね。

家入そうなんです。映画は昔から大好きで、最近ならネット配信サービスを使って夜中に観たり、時間があれば映画館にも足を運んだりします。だから今回、映画サイトであるPINTSCOPEさんの取材に声をかけていただけたのもうれしかったんですよ。

そう言っていただけて、こちらこそうれしいです! どんなジャンルの映画がお好きなんですか?

家入多少テーマがヘビーだったとしても、“真実”を見せてくれるような映画が好きですね。そっちの方が、無理に明るいハッピーエンドよりも、観終わったあとに「生きよう」と思えるんです。現実ってそんなにうまくできていないから…そういう映画の方が「人生ってこういうものだよね」って、むしろポジティブに私の中に入ってくる。

たとえば、どんな作品でしょう?

家入韓国映画が好きです。とくに好きなのはキム・ギドク監督で、『悪い男』(2001年)とか『絶対の愛』(2006年)とか。『絶対の愛』には、すごく衝撃を受けました。恋人の愛が永遠だってことを信じられない女の子が、同じ容姿のままでは飽きられてしまうと考えて、全身整形をするんです。それで、まったく別の人格として、また彼に出会おうとする。人を愛する純粋な気持ちと、飽きたり疑ったりする気持ちが表裏一体に感じられて、すごく面白かったですね。

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今の語り口調から、家入さんの映画愛が伝わってきます。

家入あとイ・チャンドン監督の『オアシス』(2002年)もよかった! 自分がいつも見ている世界は、こんなにも自分の価値観でしか測れていないんだな、って思いました。韓国映画以外だと『灼熱の魂』(2010年)、『ポンヌフの恋人』(1992年)……それぞれに真実が描かれた作品を観ることで、世界をいろんな角度で感じとれる気がする。

なんというか、元気な状態で感性を豊かにすることって、すごく難しいんですよね。だからいい楽曲をつくるためにも、映画を観て“感性を豊かにしていくこと”が大切だと思っているんです。

「元気な状態で、感性を豊かにすることは難しい」とはどういうことでしょう。

家入自分の生活の範囲で経験できる感情って、どうしても限られているじゃないですか。もちろん人生という大きな視点で見たら、望まなくても大きな悲しみは向こうからやって来るし、喜びも同じだけあると思うけれど、でも日々は淡々としているから、生活の中で起こったことだけを曲にしていくと、あんまり面白みがない。

いい作品をつくるために自ら過激な体験をしに行くこともできるけど、それは……すごく人工的というか、本当にいい作品は生まれない気がしていて。だから「映画の中で起きる出来事を見て、感性を動かそう。自分の心の動きを見よう」みたいな感覚があるんです。

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まるでコンソメスープのように、 物語から汲み取る曲のインスピレーション

リリースしたばかりの楽曲『この世界で』は、大人気アニメ『コードギアス』劇場版の主題歌ですよね。どのように楽曲を生み出していったんでしょうか。

家入実は、主題歌のオファーよりも先に、曲の原型があって。『この世界で』を作詞作曲してくださった尾崎雄貴さん(※北海道が拠点のロックバンドBird Bear Hare and FishのVo.&Gt.。またソロプロジェクトwarbearとしても活動中)とは、前回のアルバムで楽曲を提供していただいてから、ずっと交流が続いているんですね。リリース予定の有無は関係なく、メロディーや言葉の断片を送ってもらったりして。で、今回主題歌のお話が決まり、『コードギアス』の物語に身を浸してみたときに、少し前に尾崎さんがプレゼントしてくれた曲の断片を思い出して……ちょうど、世界観がリンクするような気がしてブラッシュアップしていただきました。

そういう、いきさつがあったんですね! 楽曲『この世界で』と映画『コードギアス 復活のルルーシュ』の、どんな要素がリンクすると思われたんですか。

家入最初に『コードギアス』の映像を観たとき、そのスケール感に圧倒されたんです。いろんな国が出てきて、国民はそれぞれの愛や正義のために闘っている。『この世界で』という曲も、そういういろんなものを包み込める器を持っている、と感じていました。それから、映画に登場する超能力「ギアス」って、相手と目を合わせなければ使えないんです。あれだけさまざまな文明が出てくる近未来的な世界観なのに、ギアスの発動はずいぶん古典的なんですよね。尾崎さんの楽曲も斬新な音はあるけれど、本来シンプルで無駄がない。ただかっこいいだけじゃなくてちゃんと核があるところが、また近しいと思いました。

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楽曲と作品がリンクしていると、歌うときに気持ちを乗せやすそうな気がします。パフォーマンスにも、映画の物語からの影響を受けましたか?

家入もともと楽曲提供を受けたときにはいつも、歌に説得力を持たせるために、自分の中で曲のバックボーンをつくるんです。この曲の主人公はこういうふうに生まれて、こんな日常を過ごしていて……みたいな。

ご自身の中で、物語や世界を構築するんですね。

家入今回は元となるアニメがあることで、想像をふくらませるのはスムーズだったと思います。それから、これはどんなときもそうですが、本番のレコーディングを無心で歌うために、技術面もしっかり練っておきました。そうしたらレコーディング当日、途中で尾崎さんに「次は、ただ“寒い”ってことだけを感じて歌ってください」と言われて、それが結構グっときたんです。そうだよね、“無心で歌うこと”って“感覚で歌うこと”だよなぁって……。結果、すごく澄み切った自分で歌えました。

なんだか、コンソメスープみたいですね。

家入えっ?

コンソメスープっていろんな野菜や肉が入っているのに、最終的にすごく澄み切った液体ができるじゃないですか。家入さんが映画の物語にふれたり、曲の背景やテクニックを考えたりして、最終的に“生まれてくる歌”にも、コンソメスープと同じものを感じました。

家入ああ、面白いですね。本当にそうだと思います。考えて出しているものなんて、やっぱり本物じゃないから。なんの計算もせずに出てくるのが本当の自分だし、それを聴いた人が「家入さんってこういう人なんだな」って思ったことが真実だと思いますね。自分が意図的に伝えようとすることなんて、すごく脆い。

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世の“当たり前”に飲み込まれない。 けれど、周りの想いも抱きしめて生きていく

「なんの計算もせずに出てくるものが、本当の自分」とおっしゃいましたが、ものづくりをする上や、生きていく上で大事にしていることはありますか?

家入嘘をつかないこと。これだけ。憧れの人を真似したくなったりもするんだけど、結局それは自分じゃないから、いずれ苦しくなっちゃうんです。なりたい自分になるために頑張った時期もあったけれど、無理してるから歪みが出てきて、結果苦しくなって爆発するんですよね(笑)。だから、自分自身のまま生きていくしか道はないんです。嘘をつかず、ちゃんと自分を主張していくこと。

……それが一番難しくないですか?

家入難しい!(笑)でも、自分じゃない自分を取り繕っていると、周りのことも愛せないんです。自分も周りもたのしく暮らすためには、やっぱり自分の話したい言葉で、着たい服で、好きな生き方を貫くしかない。一番怖いことだけど、結局はそれが近道だなって気がします。

とはいえ世間からは「家入さんにこうあってほしい」という視線も向けられることも多いのではと思います。

家入多分、人は“納得できないこと”が怖いんですよね。自分が想い描いたその人でいてほしい、というか。本当の自分と、メディアで見えている自分とのギャップに、違和感をおぼえたことはもちろんあります。写真だけだと妙にクールに思われたり、ファンレターで「家入さんって、家に冷蔵庫あるんですか?」って聞かれたり……。でも、普段生活していてもお互いを100%理解するって難しいのに、それを悩んでいても時間が勿体無いなって(笑)。

“本当の自分”と“周囲から求められるイメージ”のギャップへの違和感は、もう気にならないということでしょうか?

家入はい。でも、解消できてきたのは最近かもしれませんね。「どうして私はいつも、クールでどちらかというと暗い人間に見られるんだろう」という葛藤があったから、4thアルバムの『WE』(2016年)では思い切って、ポジティブでポップな自分を出してみたんです。それを経てからは、ポップな面もクールな面も両方あるのが私なんだけど、みんなから求められているのがクールな私なら、それはそれでいいじゃんって思えたんですよね。なんで全部わかってほしいと思うんだろう? 暗い部分だけでも理解してくれてるんだから、それが私の断片だったとしても、もう充分じゃないかって。

それからは「家入さんってこういうイメージですよね」と言われるのも、全然苦じゃなくなりました。むしろ、私自身をわかろうと歩み寄ってくれてありがとうございます、って感じ。それは諦めとかではなくて……自分のことも他者のことも、受け入れられたんだと思います。説明しないとわかってもらえないことに関しては、ちゃんと説明はしますよ。ちゃんと伝えようとはするんだけど、みんなにすべて伝えるってことは無理だな、とも思うんですよね。だから、まだ揺れているし、なかなか行動にうつせていない部分もあるけれど、全てを受け止めながらも、きちんと選んでいくということが大切だと思います。

昔からそういう意識があったんでしょうか。たとえば17歳でデビューした当時はいかがでしたか?

家入いいえ、当時はそんな大それたことはまったく考えていませんでした。ただ最初は手探りで闘っている感覚でした。というのも、たとえばタイアップのお話をいただいたときに、その曲と自分がナチュラルにつくりたい曲は、違うかもしれないじゃないですか。いろんな思いを受け止めた上で、「私の音楽はいいものなんです」と言えるレベルまで、自分の力で持っていくしかない。

周りの思いも汲みながらも、自分が誇れる音楽をつくり続けるのは、並大抵の苦労ではないと思います。

家入そういう意識で7年間活動してきて、作品に対しての後悔はありません。どの楽曲の創作も一緒ですね。最近はようやく、自分の思い描くかたちで制作ができるようになってきたとも感じるし。むしろ、“私がつくりたいもの”をそのまま求められる時代が来ているんじゃないかなと思っています。

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感性を豊かにするために 映画も日々の生活も一心に感じる。

家入さんは、自分の感情の動きを見つめてしっかり伝えることに、すごく真摯なんだなと感じます。「言葉にならないものと向き合っていく」方なんだな、と。

家入そうかもしれません。たとえば、いまAさんのことを好きだと思うじゃないですか。で、Bさんのことも好きだと思う。同じ「好き」という感情でも、Aさんは“茶色い「好き」”で、Bさんは“赤い「好き」”とか、微妙に違ったりする。だったら、同じ言葉を使うのは嫌なんですよね。一人ひとりに、オリジナルの言葉をあげたいって感じるんです。

たしかに既存の言葉を使うのってある意味、思考停止ですもんね。

家入子どもの頃に母がよく、冷蔵庫にある食材を適当に使って、「オムライス」とか「ハンバーグ」とか既存のレシピに当てはまらない、でもとってもおいしい料理をつくってくれたんですね。それを見た当時保育園児だったわたしは「名前のない料理をつくっていいんだったら、言葉も自分でつくっていいんじゃないか!?」と思って……「これから私はワクワクするときに『ピーヒャリランタン』って言葉を使おう!」って決めたんです(笑)。

ピーヒャリランタン! 響きにすごいワクワク感があります。

家入ほかにもいくつか“レオ語”をつくっていたんですけど、もちろん周りには伝わらない。保育園の先生に「言葉はコミュニケーションするためのものだから、そんなことをしていたら一人になっちゃうよ」と言われて、「本当にそうかもしれない」と納得してやめました(笑)。

もっともですね(笑)。

家入もうレオ語は喋らないけど、いまもそういう感覚はありますね。好きな人それぞれにぴったりの「好き」を見つけたいなと思ったり、喜怒哀楽のほかにも感情があるかもしれないから、それを発見してみたいなと思ったりするのも、きっと同じ感覚です。だから感性を豊かにしたいと思ったら、映画を観ることと同じくらい、普段の暮らしもすごく大切だと思っています。生活は人間が離れられないものだし、仕事ばかりに没頭していても、心がやせ細っていっちゃうから。

自分を豊かにするためには、インスピレーションを生む映画や音楽も大事だし、生活も大事、というのが興味深いですね。では最後に、臆病な気持ちになったとき、落ち込んだとき、観て励まされた映画を教えてください。

家入いっぱいあるなぁ……。最近は『ムーンライト』(2016)ですね。あれって最後まで、なんの華も盛り上がりもないじゃないですか。最後だけちょっと報われるかな、って感じで終わるけれど……でも、これこそ本当の人生だなって思う。王子様が迎えに来てくれるわけでもないし、ある日いきなり石油王には出会えない。人生には、辻褄が合わないことも、しんどいこともいっぱいあるけど、淡々と毎日を過ごしていく中で、ちょっとだけ笑えることがあるんだったら、生きてみるのもいいなって思えるんです。

家入レオ インタビュー
INFORMATION
家入レオ
『この世界で』
映画『コードギアス 復活のルルーシュ』オープニング主題歌
発売:2019年1月30日(水)
【初回限定盤 CD+DVD】 VIZL-1517 ¥1,700+tax
【完全生産限定盤 2CD】 VIZL-1518 ¥2,900+tax
【アニメジャケット限定盤 CD】 VICL-37454 ¥1,400+tax
PROFILE
シンガーソングライター
家入レオ
Leo Ieiri
1994年生まれ、福岡県出身。13 歳で音楽塾ヴォイスの門を叩き、15歳で青春期ならではの叫び・葛藤を爆発させた『サブリナ』を完成させ、音楽の道で生きていくことを決意。翌年、単身上京。都内の高校へ通いながら、2012 年2 月メジャーデビューを果たし、1st アルバム『LEO』がオリコン2週連続2 位を記録。第54 回日本レコード大賞最優秀新人賞ほか多くの新人賞を受賞。以降数多くのドラマ主題歌やCM ソングなどを担当。2017年2 月にはデビュ-5 周年を記念し初のベストアルバム『5th Anniversary Best』を発売。4 月には同じく初の日本武道館公演『5th Anniversary Live at 日本武道館』を開催し、チケットは即日完売・大成功に収める。2018年はツアーファイナルの模様を収録した映像作品『TIME ~ 6th Live Tour ~』などをリリース。2019 年1 月30 日には映画『コードギアス 復活のルルーシュ』オープニング主題歌となるニューシングル『この世界で』をリリースした。
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