PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語

たかが人生、されど人生。映画でも見る?

樹木希林さんの言葉「表現者は最後までひとりぼっち」を考え続けている。映画は、生きづらさの支えだった

吉村界人 インタビュー

樹木希林さんの言葉「表現者は最後までひとりぼっち」を考え続けている。映画は、生きづらさの支えだった

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まっすぐな眼差し。物怖じしない姿勢とその佇まい。ゆっくりと紡がれる、嘘のない言葉たち。若手俳優の中でも強烈な存在感を持つ、吉村界人さん26歳。沖田修一監督の『モリのいる場所』(2018年)で共演した樹木希林さんからは「若い時のジュリー(沢田研二)に似てるわ」と評されました。

人と交わるのが苦手で、「現実に葛藤や生きづらさを感じた時、映画を観ることが自分の支えになった」という吉村さん。映画ばかり観ていたという学生時代から現在に至るまで、映画と向き合うことで、現実のつらさを乗り越えてきたといいます。

10万枚のDVDがぎっしり並ぶ映画の森のような空間(代官山 蔦屋書店)を巡りながら、吉村さんの「人生において大切な意味を持つ映画」のお話を伺いました。話を聞く中で、吉村さんの熱の塊のような反骨精神と、爆発寸前の表現欲求。そして、生きづらさを乗り越えるための、力強いヒントが見えたインタビューです。

「表現者は最後までひとりぼっち」 樹木希林さんの言葉を考え続けている。 生きづらさの支えは、映画だった
映画の中にある「枠にはまらない人生」に、僕の希望があった

ここには、全国屈指10万枚ものDVDが揃っているそうです。

吉村すごい数ですね! こんなふうにレンタルDVDショップの店内を歩くのも久しぶりなので、なんか楽しいです。

まずは、たくさんの映画を見ながら、吉村さんの人生のそれぞれの転機に寄り添った大切な作品をお伺いできればと。学生時代から映画をよく観ていたとお伺いしましたが、こうしてDVDを借りに来たりしましたか?

吉村しょっちゅう通ってましたよ。以前は、1週間で10枚というペースで借りて観てたときもありました。旧作だと1枚100円なので、映画館よりも家で観る方が多かったですね。

かなりのハイペースですね! 同じ作品を繰り返し観ることはありますか?

吉村『真実の行方』(1996年)は何度も観ましたね。『ファイト・クラブ』(1999年)を観たときに、エドワード・ノートンがかっこいいと思って、彼のデビュー作を観たくなったんです。どこにありますかね…?

代官山 蔦屋書店スタッフこちらですね。

吉村これ、観ました? めちゃくちゃいいですよね

代官山 蔦屋書店スタッフはい、いいですよね(笑)

「表現者は最後までひとりぼっち」 樹木希林さんの言葉を考え続けている。 生きづらさの支えは、映画だった

その時は、どういう映画を選んで観ていたんですか?

吉村映画のジャンルにこだわりはなく、アクション、SFと何でも観るんですけど…(邦画のクラシック作品が並ぶ棚の前で)古い日本映画もよく観ていましたね…。

…これ! 寺山修司監督の『書を捨てよ町へ出よう』(1971年)は、引きこもっていたときに本当に何度も観ていました。原作を先に読んでいたんですけど、主人公と年齢が近かったこともあって、抑圧に抗ったり悶々としたりしている姿も、共感できました。これは、当時の自分を支えた映画かもしれない。

引きこもっていた時期があったんですか?

吉村大学時代、学校を途中で辞めてしまって、「この先の人生どうなるんだろう」という強迫観念に襲われていた時期があったんです。一人で部屋にこもって、読書と映画鑑賞ばかりに時間を費やしていましたね。

「表現者は最後までひとりぼっち」 樹木希林さんの言葉を考え続けている。 生きづらさの支えは、映画だった

吉村あとは、アメリカン・ニューシネマみたいな非日常的な映画も好きでした。『明日に向かって撃て!』(1969年)とか『俺たちに明日はない』(1967年)とか。

1960年代後半から70年代にかけての、アメリカの若者たちの時代精神を反映した映画です。社会体制からの逃避や、日常からの脱却を描いた作品が多いですよね。

吉村高校時代から、学校の規則とか理不尽なルールに、いつも怒りを抱えていたんです。髪を染めて怒られるとか、そういう些細なことなんですけど。先生との衝突も多くて、3回くらい停学させられてました(笑)。何でこんなことで自分を判断されなきゃいけないんだとか、いつもイライラしてて。不公平なこととかに、人よりも怒りを抱いてしまう方でした。

そういうのが大学でも続いて、途中で学校を辞めたんです。だから、日常を壊していくような映画に惹かれたのかもしれないですね。

そういう葛藤を感じた時も、誰かに相談するのではなく、部屋にこもって映画を観ていたんですか?

吉村なんか、相談したいと思うような、憧れられる存在が当時は周りにいなかったんです。っていうと、偉そうですけど(笑)。言葉にならない葛藤を共有できる友だちもいなくて、映画を観ることでそれを埋めていたんでしょうね。

「表現者は最後までひとりぼっち」 樹木希林さんの言葉を考え続けている。 生きづらさの支えは、映画だった

映画の中に、友達を見つけていたと?

吉村希望が欲しかったんだと思います。こういう、枠に収まらない人生もあるんだって。当時の人間関係の中にはなかったので……あ、これ! 『血と骨』(2004年)は、自分の表現欲を強烈に駆り立てられた作品です。主人公の暴力的な欲望の強さとか、北野武さんやオダギリジョーさんの、表現者としての存在感も記憶に残ってますね。

この映画もそうですけど、何かに抗っている主人公たちの姿を観るうちに、自分の存在を表現して、認められたいという想いが出てきました。自分の中の「表現したい!」という欲が刺激されたというか。僕の場合、その方法がたまたま俳優だったんです。

小説を書いたり絵を描いたりと、様々な表現方法がある中で、なぜ俳優を選ばれたのでしょう。

吉村そもそも一人でいるのが好きなので、人前に出ることも未だに緊張するし、向いてないなとも思います。辞めた方がいいんじゃないかとも何度も思ってきたし。それでも俳優を選んでその道を歩き続けているのは、やっぱりずっと映画を観てきたから、その場所で評価されたかったんだと思います。そういう時に度胸や信念をくれるのが、映画の主人公だったりするんです。

例えば、どんな映画の主人公が、吉村さんの背中を後押ししてくれましたか?

吉村『告発』(1995年)のクリスチャン・スレーターが演じる主人公ですね。もともと僕は『トゥルー・ロマンス』(1993年)が大好きで多分29回くらい観てるんですけど、この映画でクリスチャン・スレーターを好きになって、そこから『告発』を観ました。

刑務所の中で理不尽な扱いを受け続けている一人の囚人(ケヴィン・ベーコン)を守ろうとする弁護人の役なんです。地獄のような刑務所からその囚人を抜け出させるために、希望を捨てずに戦い続ける姿が描かれていて、そこに自分を重ねて観ていました。何かに抗っている人の姿を観るのが好きなんですね。

「表現者は最後までひとりぼっち」 樹木希林さんの言葉を考え続けている。 生きづらさの支えは、映画だった
僕みたいなのが評価されたら、もっと映画は面白くなる

現実で戦い続ける力を映画にもらい、その後、俳優として表現する場も手にしていったと思うのですが、そうすることで、学生時代から抱えていた吉村さんの怒りや葛藤に変化は起こりましたか?

吉村さらに暴走していきました(笑)。

えっ、落ち着いたのかと思いきや(笑)…暴走とは、つまり…?

吉村たとえば、映画の現場でも、疑問に思ったり違和感を感じたりすると、黙っていられなくてすぐ言っちゃうんです。だから、衝突が多いんですよ、周りと。本音を言い過ぎちゃうから…。でも、なんでみんな(本音をいうことに)そんなに色々恐れてしまうんだろうとも思います。

そういう想いに対して、なかなか理解を得られないことへの葛藤があるのですね。

吉村周りに、こういう悩みを話しても、だいたい「仕方ないよね」って言われるんです。でも、僕は諦めたくない。そういうときに誰かに「そうだよな」って肯定して欲しかった。でも、映画の中で抗う主人公たちを観ていると「やっぱりそうだよな、突き進んでいいんだよな」って思えてくるんです。

「表現者は最後までひとりぼっち」 樹木希林さんの言葉を考え続けている。 生きづらさの支えは、映画だった

誰にもわかってもらえなかった言葉にならない葛藤を、映画の主人公が肯定してくれたんですね。だから、自信を持って突き進むことができた。

吉村たとえば、僕は黒澤明監督の映画もすごく好きで。このあたりの、『野良犬』(1966年)『羅生門』(1950年)『七人の侍』(1954年)とかも、それぞれ5回ずつは観ているんですけど、一番観ているのは、この『酔いどれ天使』(1948年)なんです。病気を抱える主人公が、医者に止められながらも「それじゃ俺のメンツが立たねぇ」とか言いながら、敵との抗争に挑むんですけど、一度決めたら貫き通す、そういう意志の強さに惹かれましたね。

本音や信念を貫き通すことで生まれる、周囲との衝突は怖くないんですか?

吉村本当はこんなふうに見られたいわけじゃないのに、とは思います。周りからの自分のイメージが、どんどん本当の自分から離れていくというか。…でも周囲の目を気にするよりも「いい作品にしたい」「面白くしたい」という欲の方が強いので、そのためなら戦って、多少嫌われてもいいかなって思ってます。

吉村さんにとって「面白い」とはどういうことでしょうか?

吉村本気で表現したい人や、本当にいい作品がちゃんと評価されて報われる世界になればいいなって思います。…こんなこと、僕が言ってもしょうがないんですけど…でも、だからこそ、僕みたいなのが評価されたら夢があると思うんですよ。そこから、少しずつ変わるんじゃないかなって。

吉村さんは、映画が本当にお好きなんだなと感じます。

吉村僕は『リリィ・シュシュのすべて』(2001年)とか『GO』(2001年)とか、2000年代初頭あたりの日本映画がすごく好きで、現場のエネルギーを感じて、こういう映画に関わりたいと、ワクワクしながら観ていたんです。そういう日本映画に対する思い入れもあるから、いい作品にしたいと思うし、そのためには衝突してでも本音でぶつかりたいんです。

「表現者は最後までひとりぼっち」 樹木希林さんの言葉を考え続けている。 生きづらさの支えは、映画だった
樹木希林さんの言葉
「表現者は個であるべき」の意味を考え続けている

今までのお話を伺って、吉村さんの周りと衝突しながらも自分を貫き通す姿が、映画『ハッピーアイランド』(2019年3月2日より公開)で演じられた真也とぴたりと重なりました。真也は現実にうまく向き合えない青年でしたが、農業を営みながら懸命に「今」を生きる福島県の人々と過ごし、存在を認めてもらうことで、自分の道を見つけ始めます。真也にとっての福島県の人々のように、吉村さんにとってそういう存在の方はいらっしゃいますか?

吉村そうですね…『モリのいる場所』で共演させていただいた樹木希林さんや加瀬亮さん、昔一緒に仕事をした柳楽優弥さん、あと有田哲平さん! 本当に尊敬していて、信頼している方々です。その人たちのお芝居が好き、ということがまず根底にあるんですけど、自分の葛藤なんかに対しても、「界人もそう思ってたんだ。俺もだよ」と肯定してくれたり、共有してくれたりしたんです。

そういう共演者の方とご一緒されて、どういう変化が自身の中にありましたか?

吉村樹木希林さんとは、共演した際、本当にいろんな話をさせていただきました。その時に、樹木さんが「表現者は個であるべき。最後までひとりぼっちでいないといけないのよ」とおっしゃっていて、その言葉について、よく考えるようになりました。なんでだろう…、一人で考えることをやめちゃいけないって言ってましたね。死ぬまで一人ぼっちでいないといけないって。

「表現者は最後までひとりぼっち」 樹木希林さんの言葉を考え続けている。 生きづらさの支えは、映画だった

なぜ、でしょう…?

吉村多分、ひとりの時間がないと、表現者として爆発できないからじゃないですかね。そう、表現って僕、爆発だと思うんです。ひとりでいる時間に溜め込んできた怒りとか悲しみが、今の自分の表現欲求を作ってきたと思っているんです。

吉村さんは、俳優というお仕事だけではなく、音楽やファッションなど、あらゆる分野で表現や活動をされていますよね。

吉村一人で歌詞を書くとか絵を描くというのが好きで、今でも休みの日はやっていますね。頼まれてもいないのに、脚本を書いて、プロデューサーに見てもらったり(笑)。

これだけ多忙な中でも、常に渇望して、走り続けている、その吉村さんの強い表現欲求は、どこから来るのでしょうか?

吉村俺も知りたいんですよ。なんで表現し続けたいんだろうって。でも、その時間が一番楽しいんです。そこに自分が感じた世間への違和感や怒りも込めているのかもしれないですね。

この仕事が向いてないと思う時もあるし、辛い時もあるんですけど、でももっと映画を面白くしていきたいという理想があるから、周りとぶつかってでも表現し続けることができてるって思います。

これまで吉村さんが観た映画の中の主人公のように、信念を貫き通して戦い続けるということですね。

吉村自分の生き方を変えるぐらいなら、俳優を辞めた方がいいと思ってます。自分の人生を、固有名詞ひとつで言い表せるくらいになれればいいなとも思っていて。マイケル・ジャクソンって、ダンサー、歌手とかではなくて、「マイケル・ジャクソン」で存在が通ずるじゃないですか。だから、俳優という枠に収まらない生き方ができればいいなと。

吉村さんが、今思う、「かっこいい大人」とはどんな人でしょうか?

吉村自分自身と仲がいい人。「一番の親友は自分」だと言える、ひとりぼっちの人だと思います。今回の『ハッピーアイランド』で渡邉監督とご一緒したように、親交のある人と一緒にものづくりをする楽しさももちろんあって。でも、そこに向かうためには、「個」である時間が必要なんです。だからこれからも、学生時代のようなひとりの時間や、映画に向き合う時間が、現実に立ち向かっていくための原動力になっていくと思います。

「表現者は最後までひとりぼっち」 樹木希林さんの言葉を考え続けている。 生きづらさの支えは、映画だった
INFORMATION
『ハッピーアイランド』
監督・脚本:渡邉裕也
キャスト:吉村界人、萩原聖人、大後寿々花
音楽:古舘佑太郎
主題歌:古舘佑太郎「ハッピーアイランディア」
公開日:東京2019年3月2日(土)、福島3月8日(金)、大阪3月16日(土) ほか順次全国公開
©ExPerson2019
福島県出身の新人監督のこころの叫びに、第一線で活躍するキャストたちが集結。”最優秀賞”受賞のほか国内の映画祭で絶賛された本作は、福島県須賀川市出身の渡邉裕也が初監督。原発事故による風評被害を受けながらも農業を営み続けた自身の祖父の姿を見て企画した。主演は、映画・ドラマで注目を集める吉村界人(『サラバ静寂』『モリのいる場所』)。農業に誇りを持ち、主人公の背中を後押しする正雄役の萩原聖人も、渡邉監督の直接オファーを快諾した。2015年冬に福島の人たちの全面協力のもと行われた撮影には当時の農家の人々の声が記録されている。「目に見えない不安」との闘いが始まった原発事故から8年。本作が過去と現在をつなぎ、日本の未来を照らす。
PROFILE
俳優
吉村界人
Kaito Yoshimura
1993 年 2月 2 日生まれ、東京都出身。2014年、映画『ポルトレーPORTRAITー』 (内田俊太郎監督)で映画主演デビュー。以降、多数の映画、ドラマ、CMに出演。主な近作に、主演作『太陽を掴め』(16/中村祐太郎監督)他、映画『獣道』(17/内田英治監督)、『ビジランテ』(17/入江悠監督)、『劇場版 お前はまだ グンマを知らない』(17/水野格監督)等。今年は主演映画『サラバ静寂』(宇賀那健一監督)、『悪魔』(藤井道人監督)が2作公開。話題作の『モリのいる場所』(18/沖田修一監督)にも出演を果たし、ドラマ『スモーキング』(TX系列)、『獣になれない私たち』(NTV系列)他数々のドラマに出演をする等、活躍の場を広げている。

【衣装協力】Juun.J(GEM PROJECTOR TEL:03-6418-7910)、doublet(STUDIO FABWORK TEL:03-6438-9575)
INFORMATION
代官山 蔦屋書店
電話番号:03-3770-2525
営業時間
1F:朝7時~深夜2時、2F:朝9時~深夜2時
定休日:無
公式ホームページ: http://real.tsite.jp/daikanyama/
今回の取材場所となった1号館2階にある映画フロアには、10万枚のDVDが揃っています。リクエストに沿って映画を探してくれたり、解説してくれたりする“シネマコンシェルジュ”というスタッフも在中しています。