PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

cinecaのアイスクリーム・ノート ザ・ムービー vol.1

はじまりの味
『ローマの休日』

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(映画を題材に物語性のある菓子を制作する「cineca」を展開している、菓子作家の土谷未央さん。そのアイディアの源は8年以上書き留めている、映画の中のモチーフを細かく分類したノート。「クッキー」「傘」「ねこ」「お葬式」…様々なモチーフの中でも、「アイスクリーム」は別格だといいます。そんな土谷さんに、「アイスクリーム」から広がる映画の世界を教えてもらいましょう! アイスクリームのレシピ付。土谷さんを取材した連載「DVD棚、見せてください。」はこちら。
菓子作家
土谷未央
Mio Tsuchiya
菓子作家。東京都生まれ。多摩美術大学を卒業後、グラフィックデザインの職に就く。その後製菓学校で製菓を学び、2012年に映画をきっかけに物語性のある菓子を制作するcineca(チネカ)を創める。2017年頃からは菓子制作にとどまらず、企画や菓子監修、アートワーク・執筆業なども数多く手がける。日常や風景の観察による気づきを菓子の世界に落とし込む手法を得意とする。菓子の新しいカタチ、価値の模索、提案を行う。
Instagram: @cineca

モノクロ映画が好きだ。モノクロ映画をみることは、私にとって小説を読むイメージに近い。わかりすぎない映像世界にこちらのイメージを付け足しながらみるのが楽しくて、カラー映画とは一味違う満足感を持って観終える。

最近の映画は映像もかなり鮮明なものが多く、部屋や風景の奥の方までしっかりと見渡せてしまう。それはそれで面白さがあるのだけれど、モノクロ時代の映画では、コントラストの弱い奥の方のぼんやりとしたモチーフへの果てしない想像や、青や赤のように明度が近い色を当ててみる作業がちょっと癖になる。

このあいだ久しぶりに映画『ローマの休日』を観て泣いた。
言わずもがなの名作『ローマの休日』は、ローマへ公務で訪問したアン王女(オードリー・ヘプバーン)が滞在先から飛び出し、ローマ市内で偶然に出会った新聞記者(グレゴリー・ペック)と恋に落ちる、そんなたった1日の恋を描いた作品。二人は恋に落ちてずっと幸せに暮らしましたのハッピーエンド。ではなくて、もう一度自分の道を歩いてみようと、(女性の選択肢が少ないこの時代に)恋以外の選択をする女としての強さと切なさに改めて心打たれた。

アンは日々管理された自由のない生活に息苦しさを感じて、突然街へ飛び出す。トラックにこっそりと乗り込み、街の音が大きくなってきたあたりで道に飛び降りる、その瞬間に、映画がカラーになる(気がする)。そのくらいに映画のテンポもアンの表情もパッと変わる。

自分の足で歩き、自分で選びたい。当たり前のことが当たり前ではないアンにとって、街での一日は、全てがはじめてに輝いていた。自分で決めた髪型も自分で買ったアイスクリームも、目にするもの手にするものの全てがアンに溶けて、本当の彼女の姿へとなっていく様にみえる。

これは個人的な解釈だけど、アイスクリームをShe(女性名詞)かHe(男性名詞)かに当てはめるとしたら、Sheなんじゃないかと。女性をアイスクリームに例えるセリフをいくつかの映画で耳にしたということもあるけれど、アイスクリームの柔らかい美味しさや、とろりとした食感は女性になぞらえるものがある気がする。

『ローマの休日』で、アンのはじめての買いものは「アイスクリーム」だった。スリムなコーンにたっぷり盛り付けられたアイスクリームを片手に、街をぶらぶらと散策する。そしてあのスペイン坂に腰掛け、日差しなど気にもせずアイスクリームを頬張る姿に、アンの心の自立が垣間みえる。と当時に、この映画がモノクロ映画で良かったと思う瞬間でもある。CMのワンシーンの様なカットに、アンのシャツやスカートの色、アイスクリームの味への想像がかき立てられ、自由に色をつけながらストーリーに参加する気分にワクワクするからだ。

多分、あのアイスクリームはミルク味。と私は願っているが、何回も観かえしてみると、バニラとチョコレートのミックスな気がしている。それに数年後には、デジタルリマスターで『ローマの休日』のカラー版が出て、私が描いた夢も消えてしまうかもしれない。でも、今はまだミルクの味ということで許してほしい。生まれたばかりの赤ちゃんがミルクを飲むように、はじめてを楽しむアンが食べたアイスの味もミルクに違いないと。そして、いつかアンが次の恋を手にした時、ローマでの時間を「はじまりの味」と懐かしんでくれる日を想って。

【豆知識】
イタリア語でアイスクリームは「GELATO」(ジェラート)。『ローマの休日』でもオードリー・ヘプバーンが買うアイスクリームのお店には「GELATI」(GELATOの複数形)の文字が。ジェラートはイタリアでは日本における氷菓全体を表す言葉。日本のアイスクリームに比べると少し乳脂肪分が少なめなものが多い。

◎レシピ:
「はじまりの味の“ミルクのジェラート”」

材料(3~4人分)
牛乳 250ml
生クリーム 100ml
グラニュー糖 80g
バニラビーンズ 1/4本

◎つくり方

  • 1. バニラビーンズはさやから種子をしごき出す。
  • 2. ナベに牛乳、生クリーム、グラニュー糖、バニラビーンズを入れ、中火にかけ、ヘラで混ぜながら温める。フツフツとしてきたら火からおろす。(沸騰させないように)
  • 3. 2をシノワ(漉し器)でこしてボウルにうつし、荒熱が取れたら冷蔵庫で3時間以上冷やす。
  • 4. アイスクリームメーカーに入れ、20分程度攪拌して完成。
  • 〈アイスクリームメーカーが無い場合〉
  • 3. 2をシノワ(漉し器)でこしてボウルにうつし、ボウルごと冷凍庫で冷やし固め、淵のあたりから半分くらい生地が固まったら取り出し、ハンドミキサーでかき混ぜる。均一になったら、再度、冷凍庫で冷やし固める。
  • 4. 3の作業を2、3回繰り返し、滑らかな状態になったら、保存容器などに入れて冷凍室で完全に凍らせて完成。
FEATURED FILM
監督:ウィリアム・ワイラー
出演:オードリー・ヘプバーン、グレゴリー・ペック
ヨーロッパ最古の王室の王位継承者、アン王女は、公務に縛られた毎日にうんざりして、親善旅行で訪れたローマの宮殿から脱走を図る。
そんな彼女にたまたま出会ったアメリカ人の新聞記者ジョーは、突如転がり込んだ大スクープのチャンスに俄然興奮。
王女と知らないふりをしてローマのガイド役を買って出た彼は、市外観光にはしゃぐアンの姿を同僚のカメラマン、アービングにこっそりと撮影させる。
束の間の自由とスリルを満喫するうちにアンとジョーの間に強い恋心が芽生えるが……。
PROFILE
菓子作家
土谷未央
Mio Tsuchiya
菓子作家。東京都生まれ。多摩美術大学を卒業後、グラフィックデザインの職に就く。その後製菓学校で製菓を学び、2012年に映画をきっかけに物語性のある菓子を制作するcineca(チネカ)を創める。2017年頃からは菓子制作にとどまらず、企画や菓子監修、アートワーク・執筆業なども数多く手がける。日常や風景の観察による気づきを菓子の世界に落とし込む手法を得意とする。菓子の新しいカタチ、価値の模索、提案を行う。
Instagram: @cineca
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