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cinecaのアイスクリーム・ノート ザ・ムービー vol.2

やさしい嘘の味

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cinecaのアイスクリーム・ノート ザ・ムービー

(映画を題材に物語性のある菓子を制作する「cineca」を展開している、菓子作家の土谷みおさん。そのアイディアの源は8年以上書き留めている、映画の中のモチーフを細かく分類したノート。「クッキー」「傘」「ねこ」「お葬式」…様々なモチーフの中でも、「アイスクリーム」は別格だといいます。そんな土谷さんに、「アイスクリーム」から広がる映画の世界を教えてもらいましょう! アイスクリームのレシピ付。土谷さんを取材した連載「DVD棚、見せてください。」はこちら。

昔聞いた話で、ゴハンやデザートを食べおわった後、「ああ美味しかった」と思うか、「ああ食べ過ぎてしまった」と思うかで体への栄養の吸収のされ方が違うというのがある。「美味しかった!」と思って終われれば食べ物のいいところだけ体が吸収して美しくなれるけど、「食べ過ぎてしまった」と思うと、醜く太ってしまうらしい。そんな嘘のような話を、私はこっそりずっと信じている。
毎日の生活の中で、食べすぎた! と思うことは山のようにあるけれど、どんな時でも「最高に美味しかった、ありがとう。」とか「ああ幸せだ。」などと心の中で呟いてから、終わらせるようにしている。

気持ちが少し落ち込んだとき、映画『リトル・ミス・サンシャイン』を観たくなる。強すぎる個性が集まる、ちぐはぐでバラバラに見えるフーバー一家が、一つの旅を経て“家族”を取り戻していく物語。
7歳の少女オリーブは美少女コンテスト“リトル・ミス・サンシャイン”での優勝を夢見る、ちょっとぽっちゃり体型の女の子。ある日、大会への出場が叶い、家族総出で会場へ向かうことに。ボロボロのワゴンに6人が乗り込むも、車のエンジンやクラクションの故障に、突然のおじいちゃんの死と、様々なアクシデントが続いていく。

途中立ち寄ったアメリカンダイナーでのシーン。4ドル以内ならなんでも頼んでいいという条件のもと、それぞれが朝食をオーダーしていく。オリーブのオーダーは、“アイスクリーム・ア・ラ・モーディ”。チョコレートアイスクリームにワッフルが添えられたデザートだ。
アイスクリームが運ばれてくるのを待つ間、「ア・ラ・モードはフランス語なんだよ。訳すと“当世風”という意味で、なんちゃらかんちゃら…」と、わくわくするような言葉を添えようとするオリーブの叔父さんの言葉に、みんな笑顔になるのも束の間のこと、「アイスクリームの主成分は生クリームで、牛のミルクから作られて、脂肪分がこってり」と、オリーブの父が口を開く。すっかり空気は静まり返るが、それに足りず、「アイスクリームを食べると体に脂肪がたっぷりつくということは、知っておくべきだ」などと爆弾を投下する。
そう、真実を知ることはどんなときも役に立つ。たしかに、アイスクリームは、生クリーム、牛乳、卵、砂糖、そしてチョコレートなどのなかなかハイカロリーな材料で作られる。クリームの脂肪分は、高ければ高いほどこっくりと奥深くなり、とろりとした舌触りのアイスクリームが出来上がる。そんなわけだから、たくさん食べれば太るに違いない。だけど、厳しい現実はいったん横に置いて、思い切りたのしむ時間もいいもの。それがあまり体に良くないことはわかっていても、心ときめかせて食べてしまえば、すべて綺麗に消化されてしまうかもしれないから。

『リトル・ミス・サンシャイン』を観るたびに、フーバー一家に憧れてしまう。不器用で愛おしい家族のかたちに惚れ惚れする。真実しか語れない人、嘘ばかり語る人、両方を包もうとする人、何も語らない人、どれもがバランス良く、真実だけでも嘘だけでもなくて、両方がちょうどいいボリュームで散らばっているから、豊かな時間があるんだと気付かされる。
家族ってなんだろう。30年以上家族とともに生きてきたけれど、いまだにわからない。すごく難しくてすごく簡単で、近すぎたり遠すぎたり、愛の距離感もいまだに計りきれない。ただ、家族とだけ持てる時間はある。近くなっても許される関係だから、一番苦しいとき、傍に寄り添うことができる。遠くても許される関係だから、悲しみを一人で抱えたいとき、そっと距離をとることもできる。どの家族にもそれぞれのドラマがあるから、完成された家族の見本のようなものはない。

チョコレートアイスクリームの真実を知ると、食べることをためらうかもしれない。けれど、その真実に少しの間目を瞑り、“ア・ラ・モード”という言葉に導かれてみれば、いつもの生活が少し新しく、少しファッショナブルな空気を纏うだろう。優しい嘘に助けられる、束の間の甘い時間を、心から美味しいとため息する時間を、今日も罪悪感なくたのしんで生きていきたい。

cinecaのアイスクリーム・ノート ザ・ムービー

【豆知識】
「ア・ラ・モード」という名前がつくデザートは日本発祥。似たようなデザートで「パフェ」や「サンデー」があるが、「パフェ」は、「parfair(完璧な)」という単語に由来するフランス発祥のデザート、「サンデー」は日曜日に限定して販売されてたというアメリカ発祥のデザートと言われてる。

◎レシピ:
「やさしい嘘の味の“チョコレートアイスクリーム”」

材料(3~4人分)

卵黄 2個

砂糖 50g

牛乳 200ml

生クリーム 150ml

ミルクチョコレート 90g

◎つくり方

  1. 1.チョコレートは細かく刻み、湯せんにかけて溶かしておく。
  2. 2.ボウルに卵黄と砂糖を入れ、白っぽくなるまで泡立て器でよく混ぜる。
  3. 3.ナベに牛乳と生クリームを入れ、中火にかける。
  4. 4.ふつふつとして、煮立つ直前で火を止め、2のボウルに、泡立て器で素早く混ぜながら加えていく。
  5. 5.4を全てナベに戻し、再び火にかけ、弱火で混ぜながらよく混ぜる。とろみがついたら火を止める。
  6. 6.ナベに溶かしておいたチョコレートを入れ、よく混ぜ合わせる。
  7. 7.シノワでこしてボウルにうつし、荒熱が取れたら冷蔵庫で3時間以上冷やす。
  8. 8.アイスクリームメーカーに入れ、30分程度攪拌して完成。
cinecaのアイスクリーム・ノート ザ・ムービー
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PROFILE
菓子作家
土谷みお
Mio Tsuchiya
菓子作家。1984年東京都生まれ。多摩美術大学を卒業後、グラフィックデザイナーとしてデザイン事務所勤務。その後製菓学校を経て、2012年に映画をきっかけに物語性のある菓子を中心に制作するcineca(チネカ)を立ち上げる。「日常や風景の観察による気づきを菓子の世界に落とし込み、新しいおいしいをつくる」を大切に菓子作りに取り組む。雑誌やwebマガジンなどでコラム連載、執筆業も手がける。
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