PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

cinecaのアイスクリーム・ノート ザ・ムービー vol.7

くだらなくて、かけがえのない味
『オータム・イン・ニューヨーク』

SNSで最新情報をチェック!
cinecaコラム
(映画を題材に物語性のある菓子を制作する「cineca」を展開している、菓子作家の土谷未央さん。そのアイディアの源は8年以上書き留めている、映画の中のモチーフを細かく分類したノート。「クッキー」「傘」「ねこ」「お葬式」…様々なモチーフの中でも、「アイスクリーム」は別格だといいます。そんな土谷さんに、「アイスクリーム」から広がる映画の世界を教えてもらいましょう! アイスクリームのレシピ付。土谷さんを取材した連載「DVD棚、見せてください。」はこちら。
菓子作家
土谷未央
Mio Tsuchiya
菓子作家。東京都生まれ。多摩美術大学を卒業後、グラフィックデザインの職に就く。その後製菓学校で製菓を学び、2012年に映画をきっかけに物語性のある菓子を制作するcineca(チネカ)を創める。2017年頃からは菓子制作にとどまらず、企画や菓子監修、アートワーク・執筆業なども数多く手がける。日常や風景の観察による気づきを菓子の世界に落とし込む手法を得意とする。菓子の新しいカタチ、価値の模索、提案を行う。
Instagram: @cineca

何も考えず、ただただ超ド級のラブストーリーを観たくなる時がある。むずかしくストーリーを追うことをしたくないからか、だれかの幸せそうな顔や恋のトキメキを浴びたいからか、あるいは、無条件に安心な物語が欲しいからなのかもしれない。そんな時に、決まって取り出すとっておきの映画は『オータム・イン・ニューヨーク』だ。

48歳のウィル(リチャード・ギア)と22歳のシャーロット(ウィノナ・ライダー)、歳の差が20以上もある二人が出会い、恋に落ちる物語。ここで改めて説明する必要もないほど多くの人が思い描くようなラブストーリーだけれど、私にとってこの映画は、好きな理由を答えることのできない恋人のような存在なのだ。

中盤、こんなシーンがある。

シャーロットがウィルに、亡くなった自分のお母さんについて、私のお母さんはどんな人だったの? と尋ねる、そうすると彼は、君のお母さんは、フォークでアイスクリームを食べるような人だったよ、と答える。

なんてチャーミングな人だろう…!

この瞬間、この作品に恋したことは今でも憶えている。

フォークでアイスクリームを食べるとは…果たしてどんな意味を持つのだろうと何度も考えた。大好きなアイスクリームをちびちびと大事に食べたいからか、食べ終わるまで一緒にいると約束した人と少しでも多くの時間をともにするためか、たまたま「スプーン恐怖症」だったせいか…たった一つの台詞からぐんっと物語が広がる、魔法のような言葉だと思う。

すっかりこの言葉の虜になった私は、大切な来客があるときには決まって、“フォークでアイスクリームを食べる”おもてなしをする。それは、シンプルに、アイスクリームにフォークを添えて出すだけのことだけれど、自分の気持ちを話すことがあまり上手でない私にとっては、「たくさんゆっくり話したいです」という気持ちを代弁してくれる、とびっきりのアイテムとして活躍してくれる。

向かいに座る人と一緒に、フォークでアイスクリームをつつく時間は、雲ひとつないお天気の日の空にピカピカッとカミナリが光るような、突然の非日常を楽しむ時間になるからおもしろい。そうして、「私たち人間は、いつからスプーンでアイスクリームを食べるようになったんだろう?」なんて愚問を持ち出して、ああでもない、こうでもない、と妄想を膨らませた仮説を立ててみたり。決して、検索窓にテキストを打ち込み答えを求めることなんかはしないで。なんだかくだらないけれど、くだらないことをたまには抱きしめてみるのも良いものだ。

先の展開がわかってしまうラブストーリーも、フォークの隙間からこぼしながらにアイスクリームを食べることも、もしかしたら、くだらないことかもしれない。でも、くだらないことがこの世の中に存在できることは、考える以上にずっとずっと大切なことのようにも感じられる。生産性の高い製品や建設的な関係が求められる社会において、心はちょっと疲れ気味だ。そんな中で、なんだかくだらないことが、きっと、心の休憩地点となり得るような気もしてしまうからだ。

cinecaのアイスクリーム・ノート ザ・ムービー vol.7

◎おもてなしのレシピ:
くだらなくて、かけがえのない味の“フォークですくうアイスクリーム”

材料(2人分)
お好みのアイス…好きなだけ
用意するもの
お気に入りの器…2つ
フォーク…2本
  • 1.お好みのアイスクリームをお気に入りの器に丸く盛る。
  • 2.フォークですくって、いつもよりゆっくり食べてみましょう。
cinecaのアイスクリーム・ノート ザ・ムービー vol.7
FEATURED FILM
監督 : ジョアン・チェン
出演:リチャード・ギア、ウィノナ・ライダー、エレイン・ストレッチ、アンソニー・ラパグリア
秋のニューヨークを舞台に、リチャード・ギア、ウィノナ・ライダーという2大スターの主演で贈る珠玉のラブ・ストーリー。
PROFILE
菓子作家
土谷未央
Mio Tsuchiya
菓子作家。東京都生まれ。多摩美術大学を卒業後、グラフィックデザインの職に就く。その後製菓学校で製菓を学び、2012年に映画をきっかけに物語性のある菓子を制作するcineca(チネカ)を創める。2017年頃からは菓子制作にとどまらず、企画や菓子監修、アートワーク・執筆業なども数多く手がける。日常や風景の観察による気づきを菓子の世界に落とし込む手法を得意とする。菓子の新しいカタチ、価値の模索、提案を行う。
Instagram: @cineca
RANKING
  1. 01
    嗚呼、こんなにも魅惑的な登場人物たち! 第4回
    ホラーよりも怖い!?
    究極の恐怖が一人の父親を襲う『震える舌』
  2. 02
    おすすめ恋愛映画(邦画)特集!
    特別な一本を選ぶなら…
    おすすめ恋愛映画12選【邦画】
  3. 03
    オダギリジョー×池松壮亮×麻生久美子 インタビュー
    不確かな世界に対抗するための
    ユーモアとラジカル
  4. 今日の一本を迷ったらこれ! U-NEXTおすすめ映画15選【洋画】 04
    U-NEXTおすすめ映画(洋画)特集!
    今日の一本を迷ったらこれ!
    U-NEXTおすすめ映画15選【洋画】
  5. イタくて尊い、あの時間… 映画好きにオススメしたい青春映画17選【邦画】 05
    おすすめ青春映画(邦画)特集!
    イタくて尊い、あの時間…
    映画好きにオススメしたい青春映画17選【邦画】
  6. 映画界・新エースのインスピレーション源は、名作日本映画にあり!? 06
    『ミッドサマー』アリ・アスター監督×画家 ヒグチユウコ×デザイナー 大島依提亜
    映画界・新エースのインスピレーション源は、名作日本映画にあり!?
  7. 「5年後は未知の世界 ただ今を生きている」 07
    映画の言葉『アナザーラウンド』劇中曲「What a Life」より
    「5年後は未知の世界 ただ今を生きている」
  8. 恋愛映画に酔いしれたい…。 おすすめ名作恋愛映画16選! 08
    これぞ名作!恋愛映画特集
    恋愛映画に酔いしれたい…。
    おすすめ名作恋愛映画16選!
  9. 自分を変えたい! 一歩を踏み出させてくれた映画 09
    自分を変えたい時、観たいオススメ映画5選
    自分を変えたい!
    一歩を踏み出させてくれた映画
  10. 今日の一本を迷ったらこれ! U-NEXTおすすめ映画12選【邦画】 10
    U-NEXTおすすめ映画(邦画)特集!
    今日の一本を迷ったらこれ!
    U-NEXTおすすめ映画12選【邦画】
シェアする