(相談者:amaotoさん)
私はとんでもない他力本願男で
なんとアドバイスしていいのやら…
そうだ! 他の落語家に話を聞こう
amaotoさん、お便りありがとうございます!
お悩みを伺って、とても心苦しく、またとても申し訳なく感じております。なぜなら私はとんでもない他力本願男で、amaotoさんを悩ませるような人たちの総本山のような人間だから。そんな申し訳なさを感じると同時に、amaotoさんの考え方、つまり「他人は変えられない」と自分の感じ方を変えるよう意識して、疲弊して、それでも「他人は他人」と考える周りの人たちへの優しさ、思いやりには本当に感服致しました。感服なんて大人っぽい言葉を使うとウソ臭く聞こえてしまいそうですが、本当にです。
私は、いつも周りの人たちに助けられて今の今までどうにか生きながらえてきました。自分のできないことは、いつも誰かに頼って生きています。少しはできるようになった方がいいんだろうとは思うのですが、どうも苦手なことから逃げてしまいます。そして、仲間や身内に頼ってどうにかしていく…そんな人間です。ただ、損はさせたくない。何もできないなりに、私を助けてくれた人への恩義は忘れずに、その人が困っている時、何かできることがあるなら、それは全力でやってきたつもりです…などという言い訳を添えてしまいますが。
今回は、いつものコラムとは一風変えて、いつも私のそばにいてくれる仕事仲間たちにアンケートを取ってみました。「私から受けた迷惑や被害などが、もしあれば送ってください。あればで結構です」と送ってみたところ、ものの数分とかからずに何十件という返信で私のメールボックスが溢れてしまいました。これがホントの迷惑メールです! その中に「ほぉほぉ。そいつはなかなかだ」というようなものがあったので、今回はそのうちのいくつかを紹介させてもらいます。
一人目は、とぼけたキャラクターが愛らしい弟弟子の柳亭明楽さん。
「兄さんの落語会では、初めて行く土地で初めて会うお客さんを前にしているにも関わらず、私が高座に上がっただけで変な笑われ方をする。兄さんのマクラで変なイメージがついてしまっている」
うん。確かに、落語の本題に入る前の「マクラ」というフリートークのような時間に、明楽さんの人となりの話をすると必ずウケるからなぁ。
続いてもう一人も弟弟子で、慶應義塾大学を卒業して落語界に入ってきた弟弟子の柳亭信楽さん。
「兄さんが高座で『信楽は大学出ているからって上から目線なんですよ!』と常に言っているものだから、知らないお客さんから『君、学歴なんかで先輩に偉そうなこと言っているみたいだけど、人としてそれはどうかと思うよ?』といきなり本気の説教されたことがあります」
うん。確かにねぇ。中卒の私はよくこの人の名前を高座で出すものねぇ。
さらに、私より17歳年上で落語界では3年後輩という、変わった関係性ながら仲良しの春風亭柳雀さんからは…。
「私のお金で呑んでいるのに、突然勝手にそのお店にいる他のお客さん、そして店員さんみんなにお酒を振る舞い始め、『ここは全部俺の奢りだから!』と言って、その日は無一文だった兄さんが手柄も横取りして帰った」
あらぁ…人のお金をなんだと思ってんだろうね! とにかくその日は、楽しかったんだろうね!
修業時代から毎日のように一緒に酒を呑んでいる春風亭昇也さんからは…。
「前座時代、新宿末廣亭での修業中に突然『うんこ漏らしたから急いでパンツ買ってきて!』と言われて、しょうがねぇなぁと思いながらコンビニに買いに行こうとしたら、伊勢丹のブランド指定をしてきやがった」
おえっ。当人ごと水に流してやりたいね!
一番の仲良し、瀧川鯉八さんから…。
「泊まりの仕事の時、翌朝自分で起きられないから僕に起こしてもらうために勝手に部屋に入ってきて、勝手に目覚ましのアラームを設定していきます。しかも、支度があるのか私が起きたい時間よりめちゃくちゃ早くに設定されています。翌日それで起こしに行ったら、『うるせぇ! わかってるよ! 勝手に部屋に入ってくんじゃねぇよ!』と怒鳴られました。思いっきりビンタしてやりたいです」
とんでもねぇ、理不尽野郎ですな。ビンタの一つじゃ足りないと思います!
さらに鯉八さんからはもう一つ。
「兄さんはお金を持ってなかったのに、たくさんの後輩を連れて呑みに。『今度返すからお金貸して』と、こっそり僕にお願いをしてきました。かっこいい先輩を演じさせてやろうと、快くお金を貸した僕に、たくさんの後輩がいる前で落語のダメ出しをしてきました。山に埋めてやりたいです」
こういう奴は一度埋めてやらないと分からないのかもしれないね。
というように。
何が「というように」だ! これはほんの一部ですが、とにかく皆さんに迷惑をかけ続けている私ですが、なんとかみんなに仲良くしてもらっています。なぜみんなが私を見捨てないでくれるのかを自分なりに考えてみました。多分それは、私の周りの人たちはamaotoさんのように“損”とは感じていないから、なのかも。芸人はネタとして色々な思い出を消化? 昇華? どっちの意味としても、させることができる。この職業性に助けられている部分があるんだという結論が生まれました。
それに、定年もなく、生涯一緒にいなくてはならない狭い世界。ですが、ありがたいことに本当に嫌いな人とは会わずに済む世界でもあるのです。その人と一緒になる仕事を断ればいいだけですから。仕事はなくなってしまうかもしれないが、そこは選べるというノンストレスの世界。amaotoさんがどのような職業なのかは分かりませんが、会社勤務だとするとそうはいきませんよね? 気持ちが萎えるような人たちとも一緒に仕事をしなくてはいけないツラさも分かりはしますが、なんとアドバイスしていいのやら…正直なところ、いい言葉がなかなか浮かんできません!
なんですが、そんなamaotoさんにピッタリな! 自分のことのように感じられそうな映画がありました! 願わくば、自分を重ねるというより、他人事として笑いながら観てもらえたら幸いです。
南極にあるドームふじ基地が舞台の、ほっこり笑えるコメディ。仕事となるとプロフェッショナルだけど、普段はふざけた困り者揃いの南極観測隊。そこに渋々やってきた生真面目な料理人・西村は、食欲旺盛な隊員たちのわがままな無理難題に振り回されていく。たとえば、イセエビのエビフライとか。その都度、呆れながらも奮闘する西村。でもある時、どうしても許せない理不尽な目に遭って、西村は部屋に閉じこもってしまう。隊員たちはどうするのかと思いきや、西村の代わりにおぼつかない手つきでベチャベチャの唐揚げを作り、いつもとは逆に西村に振る舞う。観測隊の間には、いつの間にか不思議な絆が生まれる。キーパーソンは西村だ。隊員が持つ科学の知恵を借りながら、西村がイチからラーメンを作り上げるシーンも面白い。彼みたいに他人に期待しすぎず、仕事に没頭したら、自ずと職場に居場所ができるのかも。同時に「もし自分がバックれたら終わるからな」と、最終兵器のボタンを胸の中に持っておくのも大事かもしれないね! ラストで西村が日本に帰国してからの、家族と遊園地に行って迎えるオチが気持ちよく、そこは落語家としても感激でした。
ありがとうございました。
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