PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

有賀薫の心においしい映画とスープ 13皿目

正解のない問いを持ち続ける
『機動戦士ガンダム』

シンプルレシピを通じ、日々ごきげんな暮らしを発信する、スープ作家・有賀薫さん。スープの周辺にある物語性は、映画につながる部分があるかも? とのことで、映画コラム連載をお引き受けいただきました! 題して「心においしい映画とスープ」。映画を観て思いついたスープレシピ付きで、隔月連載中です。
スープ作家
有賀薫
Kaoru Ariga
1964年生まれ、東京都出身。スープ作家。2011年から10年間、3000日以上にわたり朝のスープづくり『スープ・カレンダー』を日々更新。スープの実験室「スープ・ラボ」をはじめ、イベントや各種媒体を通じ、おいしさに最短距離で届くシンプルなレシピや、日々楽に料理をする考え方などを発信中。著書に『ライフ・スープ くらしが整う、わたしたちの新定番48品』『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)、『おつかれさまスープ』(学研プラス)、『なんにも考えたくない日は スープかけごはん で、いいんじゃない?』(ライツ社)、『有賀薫の豚汁レボリューション』(家の光協会)、『こうして私は料理が得意になってしまった』(大和書房)など多数。『朝10分でできる スープ弁当』(マガジンハウス)で第7回レシピ本大賞入賞。2023年3月10日に新刊『有賀薫のベジ食べる!』(文藝春秋)が発売予定。

感染防止か経済か、ステイホームかGO TOか。健康の心配だけでなく、仕事はこの先どうなるのだろうかと悩み、人との価値観のずれを感じながら暮らす日々。さすがに心がじわじわ疲れてきました。この先どうなるのかな……と不安になったとき、なぜか私の頭に浮かんだのが『機動戦士ガンダム』劇場版3部作でした。

私はむかし、玩具メーカーに勤めていて、ガンダムのプラモデルを扱う部署にいました。新卒の私に与えられた仕事は営業補佐。最初のうちは、ひっきりなしにかかってくるファンからの問い合わせ電話に対応したり、見本市で問屋相手にプラモデルの説明をしたり。仕事での「初めて」はもちろん、それまでロボットアニメやプラモデルに触れたことのなかった私にとってはまったくの異世界です。いわゆる「ファーストガンダム」と呼ばれる『機動戦士ガンダム』との出会いも、販促物を作るために知識が必要になって、にわかに勉強したのですが、観てみるとその作品は、想像していたよりもずっと人の内面に寄ったものでした。

人類が移住した宇宙を舞台に、戦争が勃発。主人公のアムロは、なりゆきから戦闘機であるガンダムに乗り、戦いに巻き込まれていきます。甘えん坊で、死への恐怖や戦いのプレッシャーに押しつぶされて部屋にこもり、爪を噛むアムロは、決してかっこいいだけのヒーローではありません。一方、敵方のシャアも絶対悪ではなく、運命に翻弄され苦悩する、憂いを含んだキャラクターです。それぞれの登場人物たちは、何が正しさか、本当の望みかを自身に問いかけながら命をかけて闘うことで、真の仲間や強い意志を育んでいきます。
今でこそアニメーションは大人も楽しめる作品性の高いものが主流ですが、当時のロボットアニメといえば子供向けの、勧善懲悪の価値観なものばかりでした。スケールの大きな舞台設定やメカデザインの素晴らしさはさることながら、どの登場人物にも人間らしい普遍的な悩みを持たせている、それこそガンダムという作品が多くの人の心を惹きつける作品になりえた理由だろうと思います。

このタイミングでガンダムを思い出したのは、戦争という大きな暗いうねりに巻き込まれ、もがき続ける登場人物たちと、未知のウイルスによって世界全体が大きな不安に包まれる中で、立ち位置を見失いそうになる自分が、重なって見えたからかもしれません。 先が見えなくなると、わかりやすい正解や、自分と同じ意見を持った人を求めがちです。でも今の私たちに必要なのは、「新しい生活様式」などという既製品のような言葉ではなく、たどたどしくても自分の頭と心で「どう生きるか」という正解のない問いを追い続けること、そして違う意見を持った相手とも共に生きる方法を編み出すことではないでしょうか。ぶつかりながら間違えながら、やっていくしかありません。
誰かと対立しても、自分と正反対の意見を耳にしても、おそれずにじっくりと、自分がこれだと納得できる答えを見つけていくしかない。そのことが久しぶりにガンダム3部作を観て少し腑に落ち、ちょっぴり弱気になっていた自分にあらためて喝を入れたのでした。

+++

『機動戦士ガンダム』は戦時中という設定なので、食事のシーンは少なく、あってもパンをかじるだけなど、どこまでも効率優先でした。あたたかい食卓がいかに平和を前提にして成り立っているかを感じます。

どんなときも、まずはエネルギー補給から。リモートワーク中、ササっと作ってライトに食べたい日もあるかなと思います。一皿で食事が簡単に済む、パン入りのスープをご紹介しましょう。トマトの酸味が、パンを入れることで少しマイルドになるのです。心身が疲れているときに、スープのようなあたたかいものを食べることはとても大切です。食はまさに生きる力の源。大切にしてくださいね。

◎映画のスープレシピ:
疲れた心をいやし、明日への活力をつなぐ
パン入りのトマトスープ

◎材料(2人分) 所要時間 30分
鶏もも肉 1/3枚(100g、カット済みのものでもOK)
たまねぎ 1/2個
トマト缶 1缶
にんにく 1片
塩 小さじ1/2
バゲット 少々(20gほど)
オリーブオイル 大さじ2
(好みで)粉チーズ

◎つくり方

  • たまねぎとにんにくをみじん切りにする。トマトはざく切りにする(カットトマトならそのままでOK)。鶏肉は小さく切る。
  • オリーブオイルを鍋にひき、たまねぎとにんにくを炒め、しんなりしたらトマトを、手でつぶしながら(カットトマトならそのままでOK)汁ごと入れる。空いた缶に水を1/2ほど入れて加え、塩小さじ1/2を加える。沸騰したら鶏肉を加えてさらに20分ほど煮る。
  • 煮込んでいる間にパンをキューブ状に切り、2に加えてスープを吸わせる。味を見て、塩胡椒(分量外)でととのえる。好みで粉チーズをふる。
  • トマト、たまねぎ、にんにく、そしてパンにもうまみがたっぷりあるので、鶏肉はなければ省略しても大丈夫です。
BACK NUMBER
FEATURED FILM
スタッフ
原作:矢立 肇・富野喜幸(現:富野由悠季)/総監督:富野喜幸/脚本:星山博之・荒木芳久・山本 優・松崎健一/キャラクターデザイン・アニメーションディレクター:安彦良和/メカニカルデザイン:大河原邦男/美術監督(Ⅰ)・アートディレクター(Ⅱ・Ⅲ):中村光毅/音響監督(Ⅰ):松浦典良/オーディオディレクター(Ⅱ・Ⅲ):浦上靖夫/音楽:渡辺岳夫・松山祐士(※松山祐士の「祐」は「示」+「右」です)/製作:日本サンライズ(現サンライズ)/配給:松竹 他

キャスト
アムロ:古谷 徹/ブライト:鈴置洋孝/リュウ:飯塚昭三/カイ:古川登志夫/ハヤト:鈴木清信/ミライ:白石冬美/セイラ:井上 瑤/フラウ:鵜飼るみ子/マチルダ:戸田恵子/スレッガー:井上真樹夫/シャア:池田秀一/ガルマ:森 功至/デギン:藤本 譲(Ⅰ)、柴田秀勝(Ⅲ)/キシリア:小山茉美/ギレン・ザビ:田中 崇(現:銀河万丈)/ドズル:長堀芳夫(現:郷里大輔)(Ⅰ)、玄田哲章(Ⅲ)/ランバ・ラル:広瀬正志/ハモン:中谷ゆみ/マ・クベ:塩沢兼人/ララァ:潘 恵子/カマリア:倍賞千恵子/ナレーター:永井一郎 他
1981〜1982年にかけて上映され、社会現象を巻き起こした『機動戦士ガンダム』。TVシリーズ全43話に新作カットを加えて再構成し、劇場版3部作としてまとめられた。3部作のタイトルはそれぞれ『機動戦士ガンダム』『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』。
PROFILE
スープ作家
有賀薫
Kaoru Ariga
1964年生まれ、東京都出身。スープ作家。2011年から10年間、3000日以上にわたり朝のスープづくり『スープ・カレンダー』を日々更新。スープの実験室「スープ・ラボ」をはじめ、イベントや各種媒体を通じ、おいしさに最短距離で届くシンプルなレシピや、日々楽に料理をする考え方などを発信中。著書に『ライフ・スープ くらしが整う、わたしたちの新定番48品』『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)、『おつかれさまスープ』(学研プラス)、『なんにも考えたくない日は スープかけごはん で、いいんじゃない?』(ライツ社)、『有賀薫の豚汁レボリューション』(家の光協会)、『こうして私は料理が得意になってしまった』(大和書房)など多数。『朝10分でできる スープ弁当』(マガジンハウス)で第7回レシピ本大賞入賞。2023年3月10日に新刊『有賀薫のベジ食べる!』(文藝春秋)が発売予定。
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