PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語

生島淳の映画と世界をあるいてみれば vol.2

LA舞台の映画は“フリーウェイ”に注目すると100倍面白い!

SNSで最新情報をチェック!
生島淳の映画と街をあるいてみれば

私にとって、ロサンゼルスは「刺激」の街だ。
私がこの街で話を聞いたり、プレーを見たりした選手たちの名前を思いつくままに挙げていくと……。
グループインタビューで話を聞いたクリント・イーストウッド。『スチームボーイ』のポストプロダクションに入っていた大友克洋。
メジャーリーグでイチローを初めて見たのはロサンゼルスだったし、黒田博樹はドジャースの開幕投手を務めた。
そして、ロサンゼルスでいちばんの人気チーム、バスケットボールのレイカーズで活躍していたシャキール・オニールに、コービー・ブライアント。
スターたちのプレー、言葉がいまも鮮やかに甦る。

ロサンゼルスは様々な映画の舞台にもなってきた。サーフィンをモチーフにした『ビッグ・ウェンズデー』はハンティントン・ビーチが舞台。
フォレスト・ガンプが走り続けて折り返したのは、ルート66の最果て、サンタモニカだった。
ロサンゼルスとはいっても、それぞれの街の印象はずいぶんと違っているので、「ここに行けばロサンゼルスが分かる!」という象徴的な場所がない。
個性の違う街をつなぐのがフリーウェイで、フリーウェイこそがロサンゼルスの大動脈なのだ。
フリーウェイに乗っていると、スケール感がハンパない風景に出くわすことがある。深夜、ロングビーチあたりを走っていると、オレンジ色の明かりに照らされた工場群が浮かび上がり、煙を吐き出す工場地帯の美しさは感動的ですらあった。
ただし、いつも渋滞に悩まされる。これが問題だ。
そういえば、ミュージカルの『ラ・ラ・ランド』では、渋滞でイラついたロサンゼルスの人たちがフリーウェイで躍り出すという素晴らしいオープニング・シーンがあるが、「渋滞からの解放」というロサンゼルスに住む人たちの夢を、あれだけ見事なアイデアに昇華してあることに舌を巻いた。

『ラ・ラ・ランド』のオープニングでライアン・ゴズリング演じるセバスチャンは渋滞の最中にエマ・ストーン演じるミアとすれ違うが、ライアン・ゴズリングはもうひとつ、ロサンゼルスという街で、車が重要な役割を果たす映画に主演している。
2011年に製作された『ドライヴ』だ。
『ドライヴ』でゴズリング演じる主人公は、昼はスタントマン、夜はプロの運び屋を生業にしている。相当“ヤバい仕事”にも手を染めているのだが、映画のなかでは彼には名前がない。単に「ドライヴァー」と記されている。ロサンゼルスという大きな街に飲み込まれ、裏世界で生きる名前のない男。
オープニングの車による逃走劇は、カーチェイス・シーンの傑作だ。
実は、このシーンの流れをじっくり見ていると、ドライヴァーが完璧な仕事をするために、細心の注意を払っていることが分かる。
彼は銀行強盗を助けるために運び屋となるが、完璧な逃走劇をやりきるために、プロバスケットボールの試合を利用する。
ドライヴァーはホテルの一室から仕事に向かうが、その部屋にいる時からロサンゼルス・クリッパーズの試合中継が流れている。そして試合が終わる時間を見越して、部屋を出る。
なぜか? 試合終了後の渋滞に紛れこんで逃げ切ろうという魂胆なのだ。
漫然と見ていると気づかないのだが、脚本がロサンゼルスのスポーツと、渋滞という悪名高き「名物」をうまく隠し味にしたことにより、ドライヴァーがこの街を知り尽くした凄腕であることがこの冒頭のシークエンスだけでよく分かる。

『ドライヴ』の主人公は、大都会ロサンゼルスで匿名性を確保し生きている。スタントマンは映画でも顔は出ないし、運び屋は裏稼業だ。しかし、人間は闇の中ばかりでは生きられず、彼はキャリー・マリガン演じるアイリーンに惹かれると、闇から抜け出し、ロサンゼルスの太陽の下で、彼女とその息子とともに時間を過ごす。
ロサンゼルスで生きている限り、夜の世界では生き続けることは難しい。なぜなら、太陽はあまりにまぶしく、空は人生観を変えてくれるほど青いからだ。

いまでも忘れられないロサンゼルスの空がある。
友人の元メジャーリーガーが住むコンドミニアムを訪ねると、そこには共用のプールがあった。「淳さん、入りますか?」と聞かれ、水着を借りてプールに入った(後で聞いたら、知り合いでプールに入ったのは私が初めてだったらしい)。
小さなプールだったが、力を抜き、水に身を任せた。
空を見ると、雲ひとつないロサンゼルスの空が広がっていた。
そのとき突然、本のアイデアがひらめき、私はあわてて友人の部屋に戻ってメモをした。
「どうしたんですか、そんなに慌てて」とびっくりされたが、きっと、開放的な空の色が、私の何かを刺激したのだろう、と思った。
ロサンゼルスにいると、いろいろなアイデアが湧いてくる。プールから見た青空もそうだが、ドジャー・スタジアムでのんびりと野球を見ていたら、ちょっとしたことを思い付き、メモに書き込んだりする。
フリーウェイで渋滞にハマった時でさえ、複雑に絡み合う道路を眺めるうちに、コラムのアイデアが湧いてきたこともある。渋滞なんか嫌いなのに、悪くないとさえ思ってしまう。
ひょっとしたら、『ドライヴ』や『ラ・ラ・ランド』だって、クリエイターたちは渋滞中にアイデアを思い付いたに違いない、とも思うのだ。
今度は、どんなアイデアが浮かんでくるんだろう? また、ロサンゼルスに行くのが楽しみだ。

生島淳の映画と世界をあるいてみれば vol.1
MLBのロサンゼルス・ドジャースのホーム球場「ドジャー・スタジアム」。
RANKING
  1. No.01
    間宮祥太朗 インタビュー
    「えぐみ」のある、キミが好き。
    “あたりまえ”を逆転させた、あなたと映画
  2. No.02
    山崎まさよし×篠原哲雄監督 インタビュー
    泥棒とミュージシャンは、似ている?一人の「個」として自分を守るために必要なこと
  3. No.03
    熊谷和徳の映画往復書簡 #2
    ハナレグミ永積崇から
    熊谷和徳へ
    「こちらNICE西日なう」2通目
  4. エンディングを見届ける。 “終わり”があるからこそ、人生は豊かだ No.04
    渡辺大知 インタビュー
    エンディングを見届ける。
    “終わり”があるからこそ、人生は豊かだ
  5. 「役者は向いてないと思うこともある」 揺らぎ、悩み、前進する有村架純25歳。 No.05
    有村架純 インタビュー
    「役者は向いてないと思うこともある」 揺らぎ、悩み、前進する有村架純25歳。
  6. 理解できない! それなのに、危険な存在に惹かれてしまう怖さって? No.06
    嗚呼、こんなにも魅惑的な登場人物たち! 第2回
    理解できない! それなのに、危険な存在に惹かれてしまう怖さって?
  7. 映画を通じて、未知の自分を探求する。市川実日子はそこで“本来の自分”の姿に出会った No.07
    市川実日子 インタビュー
    映画を通じて、未知の自分を探求する。市川実日子はそこで“本来の自分”の姿に出会った
  8. 映画を通して見つけだした、福士蒼汰の考える「本当の優しさ」とは No.08
    福士蒼汰 インタビュー
    映画を通して見つけだした、福士蒼汰の考える「本当の優しさ」とは
  9. 熊谷和徳から ハナレグミ永積崇へ 「生きてグルーヴ」1通目 No.09
    熊谷和徳の映画往復書簡 #1
    熊谷和徳から
    ハナレグミ永積崇へ
    「生きてグルーヴ」1通目
  10. 『希望のかなた』のノックの音 No.10
    滝口悠生 映画音雑記 第7回
    『希望のかなた』のノックの音
FEATURED FILM
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:ライアン・ゴズリング、キャリー・マリガン
『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリング主演によるクライムサスペンス。第64回カンヌ国際映画祭での監督賞受賞をはじめ、世界中の映画祭で高く評価された。天才的な運転テクニックをもつ寡黙な“ドライヴァー”は、昼は映画のカースタントマン、夜は強盗の逃走を請け負う運転手という表と裏の顔をもつ。彼はある晩、同じアパートに子どもと暮らしている女性アイリーンと偶然エレベーターで乗り合わせ、一目で恋に落ちる。二人が徐々に惹かれ合っていく中、アイリーンの夫が服役から戻って来て……。
PROFILE
スポーツジャーナリスト
生島淳
Jun Ikushima
1967年生まれ、宮城県気仙沼市出身。早稲田大学社会科学部卒業。スポーツジャーナリストとしてラグビー、駅伝、野球を中心に、国内から国外スポーツまで旬の話題を幅広く掘り下げる。歌舞伎や神田松之丞など、日本の伝統芸能にも造詣が深い。著書に『エディー・ウォーズ』『エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは信じること」』『気仙沼に消えた姉を追って』(文藝春秋)、『箱根駅伝 ナイン・ストーリーズ』(文春文庫)、『箱根駅伝』『箱根駅伝 新ブランド校の時代』(幻冬舎新書)、『箱根駅伝 勝利の方程式』(講談社+α文庫)など多数。