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櫻井智也の恋愛映画ガブ飲み日和 第4回

リリーの幸せは、リリーが決める。
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』

櫻井智也の恋愛映画ガブ飲み日和
映画といえば、ジェイソン・ステイサムが出演する映画しか観ないという演出家・脚本家 櫻井智也さんが、普段自分では絶対選ばない「恋愛映画」を観てみるという実験コラム。さて恋愛映画を観ると、どんな記憶がよみがえって来るのか!?
演出家・脚本家
櫻井智也
Tomonari Sakurai
MCR主宰。
MCRに於いて脚本・演出、出演。
映像作品では、テレビ朝日「相棒」や
NHK「ただいま、母さん」,「越谷サイコー」,「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」
映画「ここは退屈迎えに来て」、テレビ朝日系列ドラマ「破天荒フェニックス」の脚本を担当。
平成24年度 文化庁芸術祭賞ラジオ部門にて優秀賞(作品名「ヘブンズコール」)受賞。

皆さんは、わかっていても辞められないものってありますか? 僕の場合、タバコがそうなんですけど、前回のコラムで言いましたが猫アレルギーなので咳がひどく、医者からは「タバコだけは吸ってないよね!?」と毎回念を押されて言われているのですが、その度に「吸ってません」と嘘をついて煙をプカプカ揺らし続けています。 そんな、タバコの害に勝る言い訳なし、と分かっていながら「タバコがないと落ち着かない」とうそぶく僕が鑑賞した今回の恋愛映画こちら

『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』

「男はつらいよ」と言えば不朽の喜劇映画として名が知れておりますが、なんのなんの、素敵な恋愛映画としての側面もあるのです。
実際、恥ずかしながら僕も今回「男はつらいよ」を初めて観たのですが、いわゆる「古典的な」「名作」と呼ばれているものってなかなか敷居が高いところないですか?
「古い作品なので感性が古そう」
「ビジュアル的に格好悪そう」
「なんだか諸々難しそう」
そういった「イメージ」がなんとなく付き纏うのが「古典的名作」だと思うのですが、劇中で繰り広げられる寅次郎の軽快なお喋りと市井の人々が繰り広げる掛け合いの数々、寅次郎とリリーの「お互いを思いつつ踏み込まない感」はもう、なんでしょう、時代を選ばず万民に直撃するものでありました。

細やかな話の流れは、これから観る人もいるでしょうから(是非観て欲しいので)割愛しますが、劇中、寅次郎にリリーが言い放つセリフ群がありまして、それがもう、リリー曰く「男の思い上がり」を一刀両断する切れ味で、鈍い野郎には切られたことすら感じない(しかし殺されている)ものであり、例えば、寅次郎の旅仲間である船越英二が
「私は、たった一人の女性すら幸せにしてやる事のできないダメな男なんです」 と呟く場面。
こちらは船越英二の頑張りも苦悩も知ってるもんですから、思わず
「そんな事ないよ、タイミングとか色々あるし、仕方ないよ」
と慰めてやりたくなるところ、リリーは「ずいぶんキザったらしい言い方だね」と、ひとまず鼻で笑った後、自分が船越英二に言われた訳でもないのに(ここ重要)

「幸せにしてやる? 大きなお世話だ」
「女が幸せになるには男の力を借りなきゃいけないと思ってんのかい?」

などと、それはもう「ですよね、すいません」と、黙るしかない言葉を畳み掛け、寅さんから「可愛くない女だね」と言われた際には、こう言い返します。

「女がどうして可愛くなくちゃいけないんだい?」

リリー、リリーよ、その通りさ、みんなが喉の奥に詰まって吐き出せない言葉たちを、君はどうしてそんなにスムーズに披露できるのか。
私は、まあ、男でありますから、男のダンディズムは理解できますし、男たちがダンディズムと呼んでいるその言葉の意味するところが

「結局は身勝手なセンチメンタルとただの浮かれたロマンチック」

を主成分としていることもわかっています、だって、だってね、男って
「傘もささずに雨に濡れている自分をなんだか野良犬みたいでかっこいい」
と思っちゃうようなドングリ野郎な訳ですよ、ドングリ野郎って僕が今作った言葉なのであんまり突っ込まないで欲しいし、なんとなくのイメージで掴んで貰いたいんですけど、そんなドングリ野郎を前にしたら、そりゃあ

「思い上がってんじゃねえよ、ドングリくん」

と言ってやりたくなる気持ち、分かります。

だけど! ああそうさ、負け戦だと分かりつつ言わせて貰いますが、だけどね!?
「男を気持ちよくさせといて損はない」と思うのですよ、だって、男はセンチメンタルとロマンチックがガソリンになる訳ですから、うまいこと操ってれば害はないどころか、色々とうまく回りそうじゃないですか?
僕も昔、世間的に賛同を得られないような、ちょっと複雑な恋愛をしたことがありまして、それが世間というかですね、世間まで行かないですけど周囲に漏れたことがあり、彼女が窮地に立たされる、という事態が巻き起こった際、僕の中の「思い上がりアドレナリン」が噴出して、彼女に対して

「世界中が君の敵になっても、俺だけは君を守る」
と言ったことがありまして、それはもう、俺頑張るよ! 俺やる気だよ!という、誰も俺を止められねえ感じのエネルギー満載でその気になってたので、きっと彼女は涙を流して僕に抱きついてきて「嬉しい!」「ありがとう!」「愛してる!」と言ってくれるだろうと予想していたんですが、実際の彼女は僕の目を見据えつつこう言ったのです。

「守ってくれる前に、まずは私を世界中の敵にして欲しくなかった」

そりゃそうだ、ああ、そりゃそうだね。
至極まっとうな、すこぶる冷静な対応で「思い上がりドングリくん」を一刀両断されまして、その時に、ああ、これはとても恥ずかしいですね、と冷静になって、勝手なことにそれまで湧き上がっていた「やる気エネルギー」はしぼんでいき、この恋もここまでかもしれない、とクソ野郎丸出しですが思ったものです。
前述のリリーと寅さんのやりとりも、その後に言い争いになり、リリーはその場を離れて寅さんは葛飾に一人で帰ることになるのですが、あの時の僕同様、自分の思い上がりを一刀両断されたことから来る「気恥ずかしさ」を誤魔化すために相手を攻撃しただけなので、寅さんは馴染みの面子を前に「とんでもねえことしちまった」「この土間に手をついて謝りたい」とこぼします。
そうやって口に出して反省できるところが寅さんの素晴らしいところであり、誰からも好かれるところなのだとは思いますが、結局は、自分の愚かしさをそこまで理解している寅さんなのに、結局は
「男の身勝手な思い上がりから派生する、一方通行の気づかい」
によって、諸々をダメにしてしまいます。
それは「優しさ」にも「思いやり」にも見えますが、きっと女の人からしてみたら「自分が幸せかどうかは自分が決めるので、お前が勝手に判断して引くな」ってことになるんでしょうけど、うん、わかってるんですけどねえ、男ってのはどうしても、そこで躓いちゃうものなんですよねえ。
それはきっと、僕にとってのタバコのように、寅さんをはじめとした、センチメンタルとロマンチックだけが自分を突き動かす男たちにとって、一生つきまとう「くだらない悩み」なのかもしれません。

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PROFILE
演出家・脚本家
櫻井智也
Tomonari Sakurai
MCR主宰。
MCRに於いて脚本・演出、出演。
映像作品では、テレビ朝日「相棒」や
NHK「ただいま、母さん」,「越谷サイコー」,「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」
映画「ここは退屈迎えに来て」、テレビ朝日系列ドラマ「破天荒フェニックス」の脚本を担当。
平成24年度 文化庁芸術祭賞ラジオ部門にて優秀賞(作品名「ヘブンズコール」)受賞。
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