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櫻井智也の恋愛映画ガブ飲み日和 第13回

何にもできない無力な僕は、彼女にキスをした。
『パーティーで女の子に話しかけるには』

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(映画といえば、ジェイソン・ステイサムが出演する映画しか観ないという演出家・脚本家 櫻井智也さんが、普段自分では絶対選ばない「恋愛映画」を観てみるという実験コラム。さて恋愛映画を観ると、どんな記憶がよみがえって来るのか!? 隔月連載中です。)

こんなことを皆さんに読んでもらうのも恐縮なんですけど、何だか最近様々な事に対するやる気が出なくてですね、いや、違うな、やる気はあるんですけど行動が追いつかないと言いますか、心の底から取り組みたいことがあるのに体が一歩も動かない感じでして、つまりは空っぽな状況に陥っています。
それはまずいので自分を奮い立たそうと音楽を聞いたり映画を観たりするんですけど、どうにもこうにも駄目でして、よし、これは違った方向からテンション上げようということで陰毛を剃ってみたんですけど、結果としては肌が荒れて猛烈な痛みにテンションがどん底まで下がり、それとは関係ないところで奥歯が一本抜けました。
「毛が抜けて、歯が抜ける、それはいよいよ終わりのサイン」
いや、毛は自分で抜いたんですけど、事象だけ取ってみるともう終わりのサインじゃないですか、一晩で毛が抜けて歯が抜けた自分を想像してみてください、どんなに前向きになろうとしていたとしてもそれはもう「ワイはここでお終いや」って感じになりません?

なりません! 駄目だ! こんな所で立ち止まっていられない! ここは自力でどうこうしようとするのではなく、全力で他人に甘えよう!

と言うことで愛するパートナーのお尻にかぶりついてみたんですけど全然乗ってこなくてですね、おい、なんだよ、たまにはお前からもアクション起こしてこいよ! と言ったらですね、こう言い返されました。

「先に不能になったのはそっちでしょう」

誰が不能だ馬鹿野郎! 全然現役だよ! やめてやめて! ほんとにいや!
彼女が何を以って俺を不能呼ばわりしたのかは分かりませんがほんとにショックで、その発言をきっかけに不能になりそうな勢い、制して、前向きに、なれるかバカ!
そんな、やる事なす事全て裏目、改善の兆しすら掴めない僕がそれでも地べたを這いずりながら鑑賞した恋愛映画はこちら!

『パーティーで女の子に話しかけるには』

© COLONY FILMS LIMITED 2016

1970年代のイギリス、パンクロックに夢中な高校生のエンはあるきっかけでザンという女の子と出会い恋に落ちるが、彼女はどうやら宇宙人で惑星に帰るまで48時間しかない。

まあ、簡単に言えばそういうお話なんですけど、なんでしょうね、タイトルから想像するイメージ通りに進まないお話と言いますか、うん、別にエンもパーティーの会場で「女の子に話しかけたいのに話しかけられないよう! モジモジ! 」みたいなことも無いですし。
じゃあこれは一体どういう映画なのかと言いますと、つまりは「体制に組み敷かれている若者たちの、そこから解き放たれた未来を生きている自分を掴み取る映画」だと思います。
常識的な生活に組み敷かれながらパンクロックに傾倒するエン、しきたりに浸りながらも得体の知れない不快感を抱いているザン、その二人が出会って縛り付けられた魂を解放し限りなく広がる宇宙に自由を解き放つ映画、それが『パーティーで女の子に話しかけるには』だと思います。
個人的なアレですが、僕も高校生の時はパンクに傾倒してまして、特に明確な不満とか主張とかもなかったんですけど、それなのに何故だかいつでも苛立っていて、何故だかいつでも満たされない、足掻いてももがいても何にもならない無力さを痛感しながら、どうしたってここにしか居られないし自分で望んでここに居座っているくせに「ここじゃなければどこだっていい」と唇を尖らせていました。
「長生きするつもりなんかねえよ、どうせすぐ死ぬんだから好き勝手に生きるわ」
そんな言葉を暇さえあれば吐き捨て、くだらねえ、やってらんねえ、つまんねえという何の肥料にもならない言葉を呪文のように繰り返し、危うく「一般常識という毛布」に包まれて安堵を感じようもんなら「吐き気がするほどロマンチックだぜ」と中指立てて背を向ける、そんな生き方をしていました。
大人という理不尽、社会という無理解、そこに抗う事で掴める未来は「ない」と分かっていても「ドブネズミみたいに美しくありたい」と、47歳で突然抜けることになる歯を食いしばって進み、いつの間にか得意になった猫背でしか通れない道を通ってきました。
二十歳を少し過ぎたぐらいの頃、僕は完全に無秩序な自分に酔っていて、人生を生きる上で荷物を背負い込んでいく人たちとは正反対の何も無い自分が誇らしかったし、だからこそ「何も無いけど何でもできそう」な気もしていたんですけど、そんなある日、飲み屋の外でぼんやりと座ってる女の子と知り合って仲良くなったんです。
彼女はとっても可愛くて、明るくて、だらしない笑い方をするけれど目の奥は冷たくて、僕は彼女の横に座って世の中を蔑んで憂い、くだらねえと笑い合いました。
その頃仲良くしていた反体制の連中からは何故か「あの子とは喋るな」と言われていたけれど、それすらも「体制側の言葉」に思えて聞く耳持たず仲良くお喋りする毎日が続きました。
「何にもできねえけど、何でもできるぜ」
彼女と出会って何度目かの夜、彼女の横でそんな言葉をタバコの煙と一緒に吹き出していると、彼女が「じゃあキスできる?」と言ってきました。

「じゃあキスできる…だと…?」

思いもよらず訪れた突然のドラマ展開、童貞には刺激の強すぎる言葉(すいません童貞でした)、こちらを見ながら微動だにしない彼女、ああ、星が綺麗だ、綺麗すぎる。

「吐き気がするほど、ロマンチックだな」

そんなお得意の言葉も出せずに黙っていると、彼女がポツリとこう言ったのです。

「私を連れて逃げてって言ったら、トモ君どうする?」

僕は彼女が「悪い大人に騙されてここにいる事」と「ここにいたく無いのにここにいるしかない事」を知っていました。
だから彼女がいつもなんとなく、でも必死に「腕に残る注射痕」を隠している事に気がついていたし、だからって僕は何も言えずにいました。
「ここじゃなければどこだっていい」
僕がいつも冗談まじりに吐きだしている言葉を、彼女はやっとの思いで伝えてくれた、のに、なのに、なのに僕は何にもないから何にもできなくて、だから、だからなんのムードもないタイミングでキスをしました。
彼女はちょっとびっくりして、笑って、ありがとうと言って、その場を立ち去って、それから彼女と会うことは二度とありませんでした。

© COLONY FILMS LIMITED 2016

あの時彼女を連れて逃げていたら今頃僕はどうなっていただろうか、という事を、たまに考えたりもします。口先だけの「社会や大人に対する反抗」ではなく、実際に行動に移していたら彼女は自由を掴んでいたのだろうかと思いを巡らせ、いやきっと何も変わらない、俺ごときができることは何もなかったと言い聞かせるダサイ時間を過ごしています。
この映画のエンやザンが掴み取ったもの、こぼれ落ちたものを目の当たりにして、ふと、そんな事を思い出してこの文章を書いています。

あれから何十年も経って、荷物をいくつも背負い込んで、これだけは守りたいというものができた今でも、それを見ながらふと、そこに「埋もれる」事が是か非か分かりかねる時があるのも事実です。
こんな、何にもわからない奴に何を言われても響かないとは思いますけど、一つだけ皆さんに言えることがあるとするならば、社会や大人に組み敷かれる事から逃れる術は「生きる事」だという事です。

ムカつきながら、抗いながら、時に組み込まれながら生きていく。
未来を変えられるのは、未来、そこに生きているあなたしかいない、と言う事を、状況を改善するために陰毛を剃ることぐらいしか思いつかなかったおじさんは思います。

ああ、何かムカついてきた、読んでくれて本当にありがとう。
こうして僕はいつだって「死にたくなる夜」を超えていきます。

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FEATURED FILM
Blu-ray:\2,000(税抜)
DVD:\1,143(税抜)
発売・販売元:ギャガ

PROFILE
演出家・脚本家
櫻井智也
Tomonari Sakurai
MCR主宰。
MCRに於いて脚本・演出、出演。
映像作品では、テレビ朝日「相棒」や
NHK「ただいま、母さん」,「越谷サイコー」,「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」
映画「ここは退屈迎えに来て」、テレビ朝日系列ドラマ「破天荒フェニックス」の脚本を担当。
平成24年度 文化庁芸術祭賞ラジオ部門にて優秀賞(作品名「ヘブンズコール」)受賞。
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