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映画の中の女同士 第2回

For Independent Girls.
『下妻物語』

映画の中の女同士
仲良くはないのになぜか意識してしまうクラスメイト、 人生のある時を濃密に過ごした女友達、 自分を重ねて苦悩する母娘…。
女性が二人一緒にいるだけで、そこに物語が生まれます。
映画は愛すべき女同士の関係を、様々な時代を通じて描いてきました。
そんな女同士の姿から見つかる光をたどるコラム「映画の中の女同士」。

「好き」で結びついた17歳

利害を超えて連携する、友情以上の関係性をもった女同士を意味する「シスターフッド」という言葉がさまざまな場所で語られるたび、まっ先に思い出すのは映画『下妻物語』のロリータファッションに身を包む桃子と特攻服姿のイチゴが、バイクにまたがり田舎道を走る映像。あの映画は、紛れもなく、私が女の共闘に憧れるきっかけとなったシフターフッド・ムービーだ。

舞台は、四方八方田んぼだらけの田舎町・茨城県下妻市。父と祖母の3人で暮らす竜ヶ崎桃子(深田恭子)は「できればロココ時代のおフランスに生まれたかった」と願う、ロリータファッションをこよなく愛する高校生だ。保守的な田舎において、フリルやリボンのついた現実離れしたファッションの魅力を理解するものは一人もおらず、彼女は「変わり者」として扱われてしまう。しかし、大好きなロリータファッションを着られることが何よりも幸せである彼女は、学校ではいつもひとりでも、土日に遊び相手がいなくても、凛とした立ち姿で自分の「好き」を貫く。ある日、桃子の父親が作ったヴェルサーチの偽物を買いに、一人のヤンキーが家を訪ねてくる。桃子の大切な友だちになっていく白百合イチゴ(土屋アンナ)だ。レディースの一員であり、時代錯誤な特攻服をいつも身に纏っている。
すぐにキレたり、暴れたり。ロマンチックな世界を夢見る桃子とは一見対極の世界を生きるイチゴを、「別の世界の人」として桃子は煙たがっていた。しかし、偽物ヴェルサーチを激安の値段で譲ってくれた桃子に恩義を感じたイチゴは、彼女のことを「変わっている」と言えど蔑んだりカテゴライズしたりしない。「人を見かけで判断しちゃいけねえよな」とイチゴ、「人は見かけだよ」と桃子。次第に桃子はイチゴの素直で真っ直ぐなところに惹かれていく。“運命の人“のような濃密な関係性ではないものの、相手に興味を持ったり持たなかったり、喧嘩したり仲直りしたりしながら、互いを尊重し、互いを「絶対に守る」という絆が生まれていたように思う。

“女性が救われるのは恋愛だけじゃない”

『下妻物語』を観たのは、高校二年生のとき。学校の帰りに、渋谷のミニシアターで、ひとりで観た。当時の私は、深夜ラジオや渋谷系(※)とよばれた岡崎京子の漫画や小沢健二の音楽が大好きだった。しかし、それは一世代上の人たちのカルチャー。高校生だった2000年代は浜崎あゆみや宇多田ヒカルなどJ-POP全盛期で、わかりやすく流行があり、『SevenTeen』など多くのティーン誌では「モテ」が推奨された息苦しい時代だった。他人に好かれることを第一優先にした女の子像に倣うことが当然とされ、制服のない自由な学校だったのに、ほとんどの女の子がイーストボーイのカーディガンにチェックのミニスカートを履いていた。果たしてそこに、桃子のような「自分の好き」が介在していたのだろうか。同じものを身につけ、同じような格好をし、はみ出ず社会の好む私になろうと他人の目ばかりを気にしていたあの頃の女の子たちは、とても窮屈だったのではないか。中学時代に友だち作りに失敗した私は、友だちの輪から外れてしまうことが何よりも恐怖で、大きな声で自分の趣味を自慢できるような勇気はなかった。友だちの話に合わせて、J-POPや流行りの恋愛漫画の話をし、なんとなく笑っていた。私にはなかなか、桃子にとってイチゴのような存在ができなかった。

しかし、ストリートファッションや裏原系が流行したことで、「個性を楽しむ」意識へガラリと変わった。その風潮を後押ししていたものの一つが、宝島社から発売されていた『CUTiE』という女性向けファッション誌。他の人とかぶらない古着を用いた個性的なスタイルは、それまでのモテ系ファッションと対極にあった。前髪の半分を黒、半分を金髪に染めたツートーンヘアを「可愛い」ものにしたシャカラビッツ Ukiのヘアは未だに忘れられない。大きく「CUTiE」と雑誌名が印字された隣には、「For INDEPENDENT GIRLS」──自分が楽しくなるために服を着る、そんな女の子たちへというメッセージが添えられていた。他人の目を気にせず、私の判断で、私の好きなものを身につけていい。今となっては当たり前のように思える価値観だが、個性を祝福するそのムードは私たちを一気に生きやすくしてくれた。そんな時に、「自分の好き」に対して真っ直ぐな桃子の自立した姿と、「それがどんな非常識な生き方だとしても幸せならいいじゃん。気持ちよければオッケーじゃん」という考え方は、キラキラとした目標になった。当時、救いを求めるように桃子やイチゴを見つめていた人は私だけではなかったはずだ。
そこから古着や裏原系ファッションにのめり込み、同じカルチャーを愛する友人と出会い、何度も原宿に出向くようになった。自分の趣味に自信を持てるようになり、彼女になら岡崎京子の話もできるし、小沢健二やフリッパーズ・ギターの話もできた。私も彼女が好む人形劇や児童小説の話が好きだった。周りが恋に憧れ、恋人作りに勤しんでいたころ、私はどうしたって彼女との時間を優先したかった。理解も同調もしなくても自分の「好き」を認めてくれて、お互いに「好き」を持っているたくましい存在。「女性が救われるのは恋愛だけじゃない」と言ったのは、聡明なシスターフッド小説を何作も発表されている山内マリコさんの名言だが、私にもそう思える時間があったことは何よりも幸せなことだったんだと思う。

©2004 「下妻物語」製作委員会

「桃子はいつもひとりで立ってんだよ。自分だけのルールを決めて。お前らとは格がちげえんだよ」
新しい総長の考え方と折り合いがつかず喧嘩沙汰になってしまったイチゴが、友人である桃子をバカにされた時に、こう言い放つ。イチゴは桃子の自立した姿に惹かれ、孤高であった桃子はイチゴの存在によって強くたくましくなっていく。二人の姿は、守られるだけではない私たちの可能性を見出してくれるようだった。
志を同じくする女の子と共闘する世界を臨むとき、その手前にある「自分の好きを大切にする」という気持ちを忘れないようにしたい。そうしたら、濃密な時間を過ごせる仲間とこの世界をもっと楽しく生きられるのだと思う。

※1990年代前半に、渋谷(渋谷区宇田川町界隈)を発信地として流行したJ-POPの1ジャンル。

FEATURED FILM
DVD発売中
発売元:小学館
販売元:東宝
©2004 「下妻物語」製作委員会
PROFILE
ライター
羽佐田瑶子
Yoko Hasada
1987年、神奈川出身。映画会社、訪日外国人向け媒体などを経て、現在はフリーのライター、編集。PINTSCOPEの立ち上げから参加。関心事はガールズカルチャー全般。女性アイドルや映画を中心に、マンガ、演劇、食などのインタビュー・コラムを執筆。主な媒体はQuick Japan、She is、テレビブロス、CINRA、ほぼ日など。岡崎京子と寅さんと女性アイドル、ロマンチックなものが好きです。
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