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おしえて! みんなの映画デート vol.3

「まるで映画のような、忘れられない…(?)私の初恋」
ご婦人Sさんの場合(『哀愁』)

おしえて!みんなの映画デート

デートの定番といえば「映画デート」。
映画館やおうちでなど、映画鑑賞は今もデートの鉄板です。

「映画 デート」とネットで検索してみると、「気をつけるポイント」「思わぬ落とし穴!」「デート向き映画の注意点」という見出しが。どうやら映画デートには、ちょっとしたコツがいるようですね。映画デートは、暗がりの中、2時間近くを共に過ごすという特殊なシチュエーション。どんな映画を選ぶかもまた、恋の駆け引きや顛末に大きな影響を与えるものです。では、どんなところに注意すればいいのでしょうか…?

そこで、みなさんのいろんな意味で心に残る映画デートを教えていただき、そこから教訓を導きだそうというコーナー、題して「おしえて! みんなの映画デート」をはじめました。

第3回の教訓はこちらです!

映画デート 教訓その3
「映画でひと泣きすれば、身も心もきれいスッキリ、次にGO!」

では、その一例をご紹介しましょう。

ご婦人Sさん(80代女性)の場合
(あるある度★★☆ 泣ける度★★★ いい思い出度★★★)

それはね、私の初恋の人。
いくつだったかしら? もう忘れてしまったけれど、10代の終わりの頃だったと思うわ。私はもう働いていて、通勤途中の橋でいつもすれ違う彼がいたの。いつからか、なぜか意識するようになってしまって、もう顔を合わすだけで真っ赤になっちゃうの。おかしいでしょ?

ある日、私は仕事から家に帰る時、いつもの橋に彼がいたの。私を見つけるなり、近づいてきて「映画に行きませんか?」って。どうやら、私の帰りを待っててくれたみたい。男の人に誘われたのなんか初めてだから、私はもうゆでダコみたいに真っ赤で、恥ずかしくて、でも嬉しかった。

それから、何度か映画デートを繰り返した。二人とも映画が好きだったからね。喫茶店にも行ったわ。薄暗い店内で、初めて手をつないだの。ドキドキが止まらなかったのを今でも覚えているわ。

彼とそうやってデートを繰り返してた時、うちの家に彼のご両親がいきなり怒鳴り込んできたのよ。どうやら二人が付き合うことに、ご両親は反対していたようなのね。私の兄が乱暴者だったから、その噂を聞いてよく思ってなかったみたい。ただ、怒鳴り込まれた時、母は私たちのことを庇ってくれたわ。「あなたの息子さんも、うちの娘もいい子だから、心配ないです」って。でも、彼のご両親は許してくれなかった。

私たちは、反対を押し切ってまで付き合う価値があるかどうか考えようとなったの。それで、次の日、映画を一緒に観に行く約束をしたわ。私は、もし待ち合わせの場所に彼が現れなかったら二人の関係は終わりにしよう、でももし彼が来たら、どこまでも付いて行こうと覚悟を決めたの。

待ち合わせ場所は、彼と出会ったあの橋。そこで、私は待ったわ。でも、待っても待っても彼は現れなかった。1時間以上たった時、私はやっと諦めて、一人で映画館に向かったの。

『哀愁』(1940年)
ヴィヴィアン・リーが主演の映画ね。私は、一人でこの映画を観て、泣いたわ。もう、ただただ泣いたの。……いい思い出ね。60年以上前のことだけど、こうやって覚えているものね。

彼のことを、今でもたまに思い出すことはあるかって? 全然。思い出すことなんてないわ。だって、泣いたらきれいさっぱり忘れて、もう次に行かなきゃでしょ? あなた、そんな風にして未練残しちゃうの? ダメよそんなの…(心配な目)。

おしえて!みんなの映画デート

《教訓その3 まとめ》

初恋の君でも、どれだけ愛した人でも、その恋が終わったのならば、きれいさっぱりその人のことは忘れてしまいましょう。Sさんのように、まるで映画のようなエピソードが想い人との間にあったとしても、記憶は残酷なもの、忘れてしまうものです。そして、そんな時、映画は次に進もうとしているあなたの背中を押してくれる存在となります。

映画館や自宅で、真っ暗の中一人で映画の世界に没入して楽しむと、悩んでいたことや迷っていたことに追い詰められた自分を、少し冷静に見れることがありますよね。もちろん、アクションやホラー映画にドキドキしたり、ロマンスに大号泣したりすることで、感情を動かしてスッキリする効果もあるでしょう。

「映画は、失恋から次の恋に向かうために一役買う」。覚えておいて損はありません!

よかったらぜひ、お友だちの映画デート体験を聞いてみてください! 泣けたり笑えたりするエピソードが出てくるかもしれませんよ。

FILM GALLERY
PROFILE
イラストレーター・漫画家
日向山葵
Wasabi Hinata
1991年生まれ、東京都出身。多摩美術大学絵画学科版画専攻卒。2年半の会社員生活の後、2018年よりフリーランスとして制作活動をスタート。独特な曲線で描かれる人物イラストからタイポグラフィーまで、その作品はシンプルながらもポップで親しみやすい。近年ではシャムキャッツやTHE FULL TEENZ、1983など、バンドのグッズやジャケットも手がける。2020年にはGINZA WEBにて短期連載漫画『パーフェクトシンドローム』が公開された。
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