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河野知美「揺れる泪、闘う乳房 〜Pはつらいよ映画日記〜」vol.2

2022年12月
映画について考えた年末。

Sponsored by 映画『水いらずの星』
揺れる泪、闘う乳房 〜Pはつらいよ映画日記〜
俳優は、プロデューサーは、どんな日常生活を送り、どんな思いで作品の劇場公開までを過ごすのか。そして、もしもその間に、大病を宣告されたとしたら——。
あるときは、唯一無二のルックスと感性を武器に活躍する俳優。またあるときは、悩みつつも前に進む自主映画のプロデューサー。二つの顔を持ち、日々ひた走る河野知美さん。
2023年初冬、河野さんが主演・プロデュースを務める新作映画『水いらずの星』が公開されます。越川道夫監督、松田正隆原作、梅田誠弘W主演の本作。この連載では、その撮影から公開に至るまでの約1年間の日記を、河野さんが綴ります。
第2回は2022年12月の日記です。
俳優・映画プロデューサー
河野知美
Tomomi Kono
映画『父の愛人』(13/迫田公介監督)で、アメリカのビバリーフィルムフェスティバル2012ベストアクトレス賞受賞。その他のおもな出演作に、映画では日仏共同制作の『サベージ・ナイト』(15/クリストフ・サニャ監督)や、『霊的ボリシェヴィキ』(18/高橋洋監督)、『真・事故物件パート2/全滅』(22/佐々木勝巳監督)、ドラマではNHK大河ドラマ『西郷どん』(18)、Netflixオリジナルシリーズ『呪怨:呪いの家』(20/三宅唱監督)、HBO Max制作のテレビシリーズ『TOKYO VICE』(22/マイケル・マン監督ほか)など多数。また、主演映画『truth~姦しき弔いの果て~』(22/堤幸彦監督)ではプロデューサーデビューも果たし、『ザ・ミソジニー』でもプロデュース・出演を兼任。2023年初冬、梅田誠弘とのW主演作であり、プロデューサーとしての3作目でもある映画『水いらずの星』(越川道夫監督)が公開予定。|ヘアメイク:西村桜子
Twitter: @kono_tomomi

12月1日

薬の副作用なのか、おとといから体温が高い。
ポカポカする。体温が低めのタイプなので逆にいいかもって思ったりする。

なんだかんだとプロデューサーとして、新作映画の企画を押し進めることにした。
そして、なんだかんだちゃんともろもろ整えていた自分に気づく。たぶん完璧だ。

その作品も来年シネマカリテでの公開が決まりそうと、財前さんがちょっとテンション高めで電話してきてくださった。財前さんすごい!と言ったら、河野さんの実績ですよ。とかなんとか。お互いに褒めあったりして。テヘヘってなった。

私は昔っから岡本太郎さんが大好きで、『強く生きる言葉』をもうボロボロになるくらい読み返していて、併せて『愛する言葉』もまたボロボロになるくらい読み返して、最終的に敏子さんの大ファンになって、吉本ばななさんとの対談とかそれはもう読みあさっていた。

最近本を読む時間、強いては映画をみる時間もないくらいなんやかんやと事務作業なり、人に会うことなりに追われている。たまには素敵なカフェにでも寄ってゆっくり珈琲を飲みながら読書にふけりたい気分だ。
BGMはノラ・ジョーンズがいい。

「素敵な男でなければ、女はつまらない。男を、そういう魅力的な存在にするのは、実は女の働き、役目なのよ」

岡本太郎、岡本敏子『愛する言葉』より

この敏子さんの言葉は、私のバイブル。
実は自分が素敵になることってあんまり興味ないかも。素敵の価値観がよくわからないから。それより、私の周りにいる人たち、特に男性たちが魅力的になることのほうがワクワクする。なんかたまらなく嬉しくなる。

魅力的な男性の定義って何かしら?と考えてみたりすると、それはお金をもっていたり、有名だったりすることではなくて、好きなことや今日あったことや嬉しかったことをそのまま共有してくれる人なのかも。だって、それを聞くだけでこちらもなんか幸せになる。うんうん。そうなんだ!って良かったねぇって嬉しくなる。

そんな単純なこと。

実は人の話を聞いていたいタイプ。仕事以外では。

だからよく、「なんか面白いこと話して?」っというのが口癖。

老若問わず、男の人のちょっと意気揚々とした瞬間を見ると、あぁ本当に素敵。ってうっとりする。

『愛する言葉』 (イースト・プレス)

12月2日

昨日は『鬼が笑う』の三野龍一監督が参加する、監督5人によるスペースを聴く。とても興味深いリアルな話が聞けた。だけど、どこかみんな沈んでるようにも聞こえた。特に配給・宣伝について。

①宣伝みんな頑張ってる。だけどそんなに拡散しない。
②宣伝しても、興行につながらない。
③引っかかったこと。作品紹介の時に「みんなの心に響く…」とか「誰しも抱えている…」というフレーズ。

自分なりに考えてみた。

① 情報は、水物。といわれるくらい情報の消費のスピードは半端なくオンラインだと3日が限度と言われている。それこそ短期戦が普通。
でもよく、昔事務所のゴリ押しなどと言われて、売れてない俳優さんをバンバンCMに出して、最初「これだれ?」って思っていたのが知らぬ間に「この人知っている」ということがあった。とにかく短期戦の情報消費スピードに、あえて長期戦で挑むことで、その3日の消費限度が3日に一度更新されれば、それが更新、更新となり、常に目にすることで「あ、この映画知ってる」にならないか?

② ①がきちんと出来た上で、ここばかりは難しい。実はこれ、もしかしたら③とも関連している気がする。
まず、あくまでこの監督たちの作品は「自主映画的」であり、公開するのは、「ミニシアター」であるということ。
この、ミニシアターに行く客層がどんな人たちか。ということが大変大事だと考える。
それは、映画館に足繁く通う人たちである。つまり、単純に③のような大衆に届く映画を作っても、大衆(ここではたぶん、ミニシアターに行かない人、自主映画を見ない人)はシネコンでアニメを見るよ。ハリウッド映画を見るよ。なので、ミニシアターにそもそもこないよ。
そして、現状シネコンでさえ人が入らないわけで、ミニシアターよりキャパの多いシネコンに自主映画が挑んでも、最後に残されるのは目に見えてる。
だったら自分のフィールドで、自分のできる範囲の多くの人を狙った作品作りをしたほうがいい。そこには確実に届く作品作り。

どなたかが、映画館に通う人はオタクみたいに思われている。っておっしゃっていたけど、本当にその通りで、そこにこそ宝があると私は考える。オタクの人を満足させる映画が何かを、ずっと問い続ける映画作りを全力でして、ミニシアターの箱が埋まり、埋まったら上映を延長し、さらに上映館が増えていく。という流れにならないか? そもそも大衆受けなんてものは、多様化した今、私は存在しないと思っている。

よって、③のような作品紹介はあまり意味がない。むしろ、「分かる人にしか分からない」ぐらいのフレーズの方が届くのではないか。映画館に観にきて欲しいなら。

なんてことを、スペースを聞きながら考えていた。

と思ったら、深夜に蓬莱竜太氏来訪。私の病気のことを聞きつけてわざわざ会いにきてくれた。嬉しかった。蓬莱さんとはもう10年くらいの付き合いで、コンスタントに会う仲ではないけど女友達みたいに何でも喋れる。とにかく、わざわざ会いにきてくれた。ありがとう。と言って見送った。深夜4時。。

12月3日

プロデューサーという仕事は過酷だ。きっとやったことがある人じゃないとわからないと思う。どれだけ頭を下げ、闘い、時にわざと負けているものか。

プロデューサーなめんなよ‼

とあえて、ここで叫んでおく(不快にさせたらごめんなさい)。 監督だって、脚本家だって、スタッフだってみんな頑張ってるの一番知ってるけど、だけどだけど特に監督の皆様、出来ることならプロデューサーを労わってあげてほしい。私が製作する規模の映画なら、多分プロデューサー、結構頑張っていると思う。多分。。プロデューサーだって作品がよくなることを心から望んでいる。でも、予算とか、スタッフの意見とか、状況とか色んなものと闘わなければならない。お菓子一つでもヒヤッとするくらい。いやいや、監督もだよね?

プロデューサーとは何か?
実は色々ある。

1. 名前だけのプロデューサー
2. お金を集めるだけのプロデューサー
3. 企画から脚本、製作過程から公開マネージメントを担うプロデューサー
4. 3に加え宣伝プロデューサーも担うプロデューサー

私はたぶん4。

でも、4までやる監督もいらっしゃるから脱帽。

俳優やって、プロデューサーやって大変ですね。と言われるけど監督さんやってプロデューサーやるほうがもっと大変。

書いていたら胸がスーッとした。

それはさておき、昨晩は俳優の小沢まゆさんが企画・プロデューサーをされた『夜のスカート』初日舞台挨拶へ。

主人公のお母さんが乳がんで亡くなるところから始まり、主人公がお母さんの話をしながらラストを迎える短編映画だった。観るまで知らなかった。

主人公の語るお母さんのたくましい思い出。
昔の私ならこんな風に映画を見なかっただろう。みんなはこの主人公の話をどんな風に聞いているんだろう。
私は主人公が語っている母親の立場なんだって、自分はもしかしたらこんな風に語られるのかなって。

「お母さんの胸は、最後(男の胸筋より) ずっとカチンコチンだった」

そうか。そうなのか。そうか。。。

悲しいとか。辛いとか。キツイとかの感情ではなくて、ただただ、そうか。。と思った。

「お医者さんに、切り取った乳房見ますかって聞かれたら、ひょうひょうと『はい』ってこたえるの」

とか。そうか。でも、それは本当にひょうひょうだったのか。そうか。

私はわからなかった。これは感動のシーンなのか? 主人公の喪失に共感するシーンなのか、主人公の語る母親の逞しさに心が揺らぐシーンなのか? どう捉えればいいかわからなかった。

病気を抱えている人はこんな風に映画を観るのか。と思った。

病気で亡くなる花嫁の映画とか、命にまつわる医療のドラマとかあるけど、本当にそれは残された人の話であって、その病気で闘っている人は感動出来るのか。

これは実はかなり、繊細な話だ。と私は思った。

主演のキム兄にもなんと言えばいいのかわからなくて、一人歩いて帰った。

あくまで、映画の評価ではないことご理解ください。新井葵来ちゃんとても良かった。 小沢さんお疲れ様でした。そして初日おめでとうございます㊗

プロデュース、本当に大変だったと思います。

©︎夜のスカート

12月4日

新作映画のキャスティング大詰め。

5時間電話をし続け、監督が何をしたいのか、意志を明確にする。そして、予算的な部分できっちり現実を伝える。予算はプロデューサーが管理するもの。というのは前提としても、脚本が予算的に破綻している場合、今後そこに対してどう整合性や妥協点をつけていかなければならないかは、監督もきちんと数字を見た上で把握してもらわないと困る。大事な時間だった。

自主映画は、ロケーションの数が多いと美術を作り込みするという予算はない。予算が倍々ゲームで増えていくから。なので、「作り込み」を基本しなくていい場所に対して、美術を必要な数だけ入れて魅せるやり方が通常だ。なるべく検討しながらかつ撮影も成立する場所を見出していかなければならない。その事も監督に身を以て実感してもらう。その上でお金の使い所と、ロケーション選定を慎重にやってください。とお伝えした。

やりたい。と やれるは違う。ということだ。

こだわりばかりあっても、それは映画のためにならない。映画だけ作ってあとは続かない。身を滅ぼすだけだ。そういう映画作りは私は違うと思っている。映画を1本撮る=映画を作り続けなければならないということだから。

越川道夫監督特集映画祭は、あとリリースが出るのを待って、チケット販売開始の流れとなる。今日、明日くらいでチラシが来着する予定だ。

映画祭なんてやったことがなかったけど、なんかどうにか形になりそうな気がしている。

たぶん、私は人のためなら頑張れる。自分のためだけにはあんまりがんばれない。人のために何かをする。というのが私の原動力らしい。だから、映画というのは最高のやりがいなんだと思う。絶対に一人では成立しないから。否が応でもたくさんの人の思いを背負う。関わった人たちの顔を思い浮かべて、一歩ずつ進む。みんなが笑ってくれたらいいな。みんなを笑顔にできたらいいな。やって良かったと言ってもらえたら最高だな。越川監督がまだまだ映画作るぞ河野!って言ってくれたらいいな。と思う日々である。

12月9日

久しぶりに実家に帰る。
母はがんになって、顔を半分失った。
皮膚だけでつながっている右側半分。
うまく食べることも出来ないし、飲み物もストローを使って飲んでもやっぱりこぼれてしまう。
それでも笑って、いろいろな話をしてくれた。

本当にこれは私のエゴだけど、やはり母には頑張って生きていて欲しいと思った。
例え、顔を半分失ったとしてもその存在が私にとってどれだけ大きいことか。
手術をしてから6年たったって。すごいよ。本当に。

「あんたも頑張んなさいよ」と。
「歳が違うでしょ」とかなんとか。

私と母の顔は本当によく似ている。日本人離れしたその若き頃の写真は、エキゾチックであの時代にはなかなかいない個性的な顔だ。
それを引き継いだ私は、小学校ではよく「外人」と言われて石を投げられたりした。
「おまえなんか日本に住む資格ないんだよ」と言われたりした。

姉も「ともが妹だって知られたくない」と言っていた。

いつもこの星自体が自分の生まれた場所じゃない気がして、ずーっと歌っていた。
部屋に籠もって、自分の感情から溢れるメロディーをずっと奏でていた。

私は歌う人ではない。曲を奏でる人だ。

ピアノにしても、恥ずかしながら神童と言われたこともあった。
あっという間に上達し、本来子供なら発表会の前半で演奏するのが常なのに、私は後半の大人の部でいつも演奏していた。そういう子だった。将来有望だと言われた。

でも、やめた。

水泳に関しても、オリンピックコースに行くべきだと何度も説得されるほど本当にクロールが早かった。そういう子だった。きっとオリンピックに行けると言われた。

でも、やめた。

なぜやめたのかって、生まれ変わりたかったから。周りや大人たちからの自分の顔を含めた異物感的な視線が耐えられなかった。
誰もその時の私のことを知らない場所に行きたかった。地元にいたくなかった。
だから、必死で中学受験して洗足学園大学付属の中学校に入った。

そこでももちろん運動神経はいいし、マラソンはいつも6学年中常に10位以内だったし、遊んでいた高2の時以外は勉強もちゃんと出来た。
でも、女子校という世界は私を特別視せずに並列に扱ってくれた。
不思議なもので、それは私にとってものすごく居心地のいい世界だった。

何が変わった?

でも、何かが変わった気がした。
今でも中学校からの友人たちには会ってるし、私の映画も観にきてくれる。

今振り返ると、私が演技をするというのは、自分以外のものになれるということに由来するのかもしれない。好きというのと違う気がする。ネガティブに言えば逃避なのかもしれない。

有名になりたい。とか誰かに認められたい。というより自分以外の自分になれるという価値。
この顔があって与えられる役。私がこの顔でいていい場所。そういうところから始まったのかもしれない。

演技だけは答えがない気がしていて、私は安心する。到達点がずっと見えない。
だから安心する。最終的な答えは監督が、演出家が出してくれる。だから安心する。
私は下手だってわかってるから安心する。一生懸命やるしかないってわかっているから安心する。相手がいるから安心する。一人で完結しないから安心する。

その一方で、全てにずっと不安だから、また安心する。

大切なのは、私ではなくあなただから安心する。

一人で完結出来るようなものは、私はもう要らない。そんな評価はつまらないものだ。
人から影響をうけ、人に答えを投げ、そしてまた考えて、その先にある集合体としての答えを探しに泳ぎ続けるほうが私には合っている。

12月12日

早朝から木更津でのセカンドオピニオンへ。

全摘出しかないと決めつけるのは早計だと先生。
やはり、たくさんの患者さんから「切除」をせずに治療したい。という声を日々もらう。それに対して極力傷を少なくした上で対応できないかは常に考えていますよ。とのことだった。

乳腺科の権威であるこの先生をご紹介くださったのは、お世話になっている税理士の原口先生だ。超多忙なのに、人のためにいつも一歩踏み込んで行動を起こしてしまうから、より多忙になってしまう。そんな方。割愛するが、いろいろと奇跡が重なり、今日のセカンドオピニオンに至ったと聞いた。

原口先生に、帰り際にお伝えした。「私が先生にしていただいたことを、私は誰かにできる人になります。それが先生への恩返しです」と。そしたら、先生が笑って「知美ちゃんと私、似てるのよー。だから、今日みたいなことが起こる」と言った。「え?」と思ったけど、そうか。そうなのか。と思い。「それなら嬉しいです」と答えてさよならした。この人の周りに素敵な人がたくさんいることが納得できた。

先生の言葉が本当なら、私の周りにも素敵な人がたくさんいるということが、なんか納得できた。そうならいいな。と思った。

俳優がプロデューサーやることも、このコロナ禍で結構当たり前になってきてて、私は何も特別じゃない。それより、助成金の後押しもあり、映画がやけに多産されていることが最近は気になっている。切磋琢磨につながればいいのだが、単純に作られ過ぎているようにも感じる。映画を作ることが当たり前になる怖さ。ということだろうか。
捻くれた見方なのかもしれないが、作ればいいってもんじゃないぞ。とも思っている。

どれだけの人がこのブームが終わる先を見据え、どう生き残るかを考えながら、映画をつくっているんだろう。私の勘は結構あたる。今こそ冷静さが必要だ。

みんながやっていること。みんなが出来ることの先の先を見据える。

最近は時間があれば、劇場に行って自主映画を主軸に映画を観るようにしている。
このブームは本当に日本の映画界にとって吉なのか? それとも凶なのか?

自分の行末と共に見つめる必要がある。『水いらずの星』を多勢に飲み込まれないものにするためにも。

ヘアメイク:西村桜子

12月13日

朝は雨が降っていて、雨の音で目が覚める。
最近はよく、オフコースを聞いている。
オフコースの好きな曲で言えば、「愛を止めないで」なんですが、もう一つ。「眠れぬ夜」。

この曲のアレンジ、冒頭「え? なんでこんな軽快?」と思うのだけど、メロディーの良さはピカイチで、出来ることならピアノ一本か、アコギ一本で演奏してほしい。といつも思う。裏をうつアコギのリズムが最高だ。

それはさておき、PINTSCOPE編集長の小原さんから、1月から始まるコラム連載のタイトル候補が来着した。

この日記を日々読んでいただき、そこから出たタイトル候補。なるほど。ほぉ。と、人からはそのように見られているのか。と思った。

「自分の弱さをさらけだせる人は、強い人だ」と誰かが言っていたけど、どうなんだろ。私が日々綴っている言葉は弱さを晒しているのか、さらけ出して誰得なのか。と思ったり。

かっこ悪いなぁ。私。

キャスティングというのも何だかなぁ。と思う時がある。自分が人を評価出来る立場ですか? ジャッジ出来る立場ですか?と本当に思う。

私は出来るプロデューサーではないよ。みなさま。もうほんとにちまっちました、つまらない奴ですわ。だから、どうかあんまり硬くならずにそのまんまの貴方を見せてもらえたらいい。

がんばっちゃうと、いいものが出てこなくなっちゃうから。

そうそう、映像資料。俳優はこれがないとやっぱり厳しい。全くわからない。役者なら特に物語の中で演技している映像がないと全くわからない。なので、みんな役者をやって、オーディションを受けたいなら映像資料ちゃんと作りましょう。または作ってもらいましょう。それもなるべく、長く演技しているもの。

短編映画でもいいし、ちゃんと自分が演技したって思えるものが本当に必要。

私は、演技力というよりも画を埋めてくれる存在か?ってことの方が重要だと思っている(画力というのかな?)タイプですが、それでも初見の方の場合、どんな演技をするのかはちゃんと確認します。演技力というより、どんな風にその世界にいるのか。ということなのかな…。

とか言うと、またプロデューサー風吹かせているみたいで本当にいや。でも本当にそう思います。

ちまちまプロデューサーからのちまちましたアドバイスです。どうぞ、どの顔が言ってるんだって言ってくださって大丈夫です。自分でもそう思ってるので。

そんな風にぐちゃぐちゃしている時は、やっぱりオフコース、優しい小田さんの声を聞きます。

12月14日

時代の節目を感じる。
スローラーナーの事務所が移転したり、知り合いの監督のお母様がなくなったり、偉大な映画人たちがこの世をバタバタと去って。なんだか一つの時代が終わっていく感じが身に染みている。

残されたもの。であり続けられるか?
そのまま何の気なしにすぎてしまうわけには行かない気もしている。

ねぇ。梅田くん。私たちしっかりしないといけないよね(って一番身近なのでとばっちりごめん)。
私と梅田くんが越川組で、ずっと越川監督に教えてもらってきたこと、話してもらってきたこと。他人からすれば大それた事じゃないかもしれないけど、多分監督から私たちにとても大切なものを引き継がれた気がするの。私の気のせいかな?

映画をつくるというのは、情熱だけじゃじょんならん。
俳優やりたいってのも情熱だけじゃじょんならん。
私は少し心細くなったよ。
ちゃんとやってけるのかなって。ちゃんと大切なもの繋いでいけるのかなって。

私は。私はみんなに頑張ってもらうばかりでじょんならん。

私は監督じゃない。脚本家でもない。プロデューサーという名前がついている人だ。 プロデューサーって何している人?

私は、プロデューサーって日本の映画界を正しい道に導くための作品を作り続ける人。育て続ける人って言えるようになりたい。

越川監督が言っていた。「『水いらずの星』は日本映画。僕らが日本映画が面白いと思っていた頃の日本映画にしたいんですよ」と。

そうなんですよ。監督。私、日本映画がつくりたいんですよ。
でも、まだわからないからずっと教えててほしいんですよ。

ヘアメイク:西村桜子

12月16日

「あやまるということは、何の役にも立ちませんね。特に、自分が何もしていないときに罪の意識を感じるのは、具合の悪いものです」

寺山修司『ポケットに名言を』より
(映画『審判』のセリフ)

朝起きたらひどい頭痛。久しぶりに二日酔い。

昨日は沢山嬉しいことが重なったからお酒が美味しくてグビグビ飲んでしまった。ちょっと反省したけどそういう日があってもいいかな。あんまり詳しく覚えてないけど、すごくはしゃいでしまったような気がする。楽しい時間をみんなありがとう。

そして、ジャジャン! 私の連載タイトルが決定しました!
その名も、「揺れる泪、闘う乳房 〜Pはつらいよ映画日記〜」。

最後の最後までぱっくり二つに意見がわかれましたが、木村マネージャー、鶴の一声で決定となりました。
どうぞみなさまよろしくお願いいたします。

昨日、今日と映画を沢山観れてる幸せ。
読めてなかった本も少しずつ。

深川栄洋監督『光復』、藤原知之監督『誰が為に花は咲く』。

この二つの作品を鑑賞して、冒頭の『審判』の言葉が思い浮かんだ。
劇中、常に「特に自分が何もしていない時に、罪の意識を感じることの具合の悪さ」が充満している(と私は感じた)。

作品の良し悪しは、私が評するべきところではなくて、この「具合の悪さ」とやらが、コロナ以前にも増して昨今の映画の中に、やけに充満している気がするのは私だけだろうか。

決して、私はこの「具合の悪さ」が苦手な方の人間ではない。
例えばソフィア・コッポラ監督『ヴァージン・スーサイズ』にも、「具合の悪さ」が充満しているといえば充満している。だけど何かが違う。描き方なのだろうか。
一方で、上記二つの映画は、リアル?をまっすぐに描き続けているが故、「具合の悪さ」の濃度が濃かったように思う。

連載のタイトル会議の時にも話したけれど、私は「毒」というのがとても大事だと思っている。「毒」というのは、言い換えれば「ギャップ」とでもいうのだろうか。

ダークなものをダークに描くのじゃなくて、ダークなものをライトな視線でどこか描くことで、心に侵入してくるものが世の中にはあると思う。逆もしかり。ストレートに伝えることばかりが、伝わることでもない。ということか。

もっとわかりやすく言えば、世の男性を敵にまわしてしまうかもしれないけど、かっこいい人が、かっこつけてると「うっ」となる。逆にかっこいい人が、意外とおちゃめだったり不器用だったりすると「グッ」となる感じ。

完全に私見ですね。

とにかく、物づくりの何かを学んだ気がする。 とにもかくにも、簡単に謝ることは極力やめようと思う今夜です。
そして、とにもかくにもとにもかくにも、明日は久しぶりに各所で『ザ・ミソジニー』が 上映再開。お客様に会えるのが嬉しいな。

『ポケットに名言を』 (角川文庫)

12月21日

越川道夫監督特集映画祭3日目。今日のゲストは川瀬陽太さんだった。
川瀬さんがプロデューサー的に関わった『激怒』という作品は、私がプロデューサーを務めた『ザ・ミソジニー』がシネマカリテで6週続映した際、新宿武蔵野館にて6週続映していた。
顔を合わせてお話しするのは初めてだったけど、しょっぱなからその話で始まり、プロデュースとは。これからの日本映画とは。まで話が途切れることなく発展。
『ザ・ミソジニー』みたいな映画を作る奴いないよ。と(多分)お褒めのお言葉をいただいた。
沢山の映画に出演もしているし、きっと観ている川瀬さんに、そう言われたのはとても嬉しかった。

一方で、川瀬さんと越川監督のトークを聞いていると自分の経歴の薄さにもちろん気づく。
私はいろんなものをまだまだ知らない。人なので趣味趣向はあるけれど、特に日本映画についてはまだまだ勉強不足だな。と思うところがある。

川瀬さんは二度とプロデューサーはやりたくない。とおっしゃっていたけど、きっとまたやるんだろうなぁと思ったり。その大変さを共有出来ただけでもなんか少し救われた。

12月22日

誰かが乳がんではそんな死なないんでしょ?と言う。
死ななければいいのか?と私は思う。

藤原新也さんの写真展。
『祈り』。

ガンジス川の岸辺に横たわる人骨。の写真の横に、藤原さんの文章がこう添えられていた。
「あの人骨を見たとき、
病院では死にたくないと思った。
なぜなら、
死は病ではないのですから。」

私は平和な日本に生まれて、安泰な家庭に生まれ、
それなりに色々あったけど、未だ路上に横たわる死体も人骨も肉眼で見たことはない。

それが、幸福なのか不幸なのかもわからない。

ただ、生きるってことはそんなに長いタームの話ではない気がした。
一瞬、一瞬を笑って泣いて喜んで悲しんで。
それでいいんじゃないかと思った。

誰かの記憶に残そうなんて、そんな大それたことを考えるより自分の記憶に目の前の出来事を刻んでいく。それでいいんじゃないか。と思った。

写真:河野知美

12月23日

本日は出演作の『真・事故物件パート2/全滅』の公開日初日。
試写会に行けなかったので、シネマカリテへ。

正直、冒頭からセンスの良さに毛細血管がブワッてなりっぱなしだった。
とにかく編集のセンスと音楽のセレクトが抜群。
役者の表情をアップで堂々と捉えるところの愛情の深さが佐々木勝己監督の醍醐味だ。
確かに予算の関係か、撮影期間の問題か、数カ所ザクザクとなっている部分は後半につれいくつかあったけど、やっぱり私は佐々木監督のセンス大好きだ。

いつか、商業がやれるようになったら必ず呼びます。と言っていた監督が、約束をはたしてくださった。役者を続けていて良かったと思えた。
興奮しすぎて、上映後、マネージャーの木村さんに思わず電話してしまった次第。。。

シネマカリテの館長さんにもご挨拶をさせていただき、今年の感謝と来年の公開についてもろもろお話し。本当にお世話になりました。

そして、新作映画の脚本詰め作業へ。撮影ギリギリまでこの作業は続くのだろう。越川組とは全く別パターンだ。
プロデューサーの必要性はなんなのか。常に考える。監督がやりたいことが明確であれば、プロデューサーなんて本来いなくてもいいんじゃないか。

昨日は事務所の忘年会だった。
業務提携先の西田社長に「河野、がんばったな」と言われた時、何かが報われたみたいに泣けた。よくわからない。なんで私は泣いてるんだ。
もしかしたら、ずっと言われたかった言葉なのかもしれない。
西田さんに言われたから泣けたのかもしれない。
ずっと見ててくれたのかと思って泣けたのかもしれない。
とにかく、嬉しいとかそういう感情じゃない。許された気がしたんだと思う。

©︎2022 REMOW

12月24日

今、日付を書いていてクリスマスイブだと気づく。
こんな日にこんなことを書くのは自分的には非常に残念だが、最近食を身体が受けつけない。頑張って食べたとしても、大抵の場合吐き出してしまう。

薬の副作用なのかな。変な感覚だけど、吐き出せたあとホッとする。
それまでのムカムカしているのが一番辛いから。

木村さんに映画祭などでいただいたお菓子などを引き取ってもらった。
量が。というより0に近く食べられない。大好きなクッキーも食べられない。
みんなでよしなに食べてくださいと言ってお渡しした。

そんなわけでずっと仕事をしていたけど、なんか集中力が出ないでいる。

先日、別件で試写会を行った際、監督のお父様とお母様がいらっしゃっていた。
挨拶をさせていただいた。

プロデューサーとしての立ち位置をどう決めていくか。という考えを今日も引きずっていたら、監督から「父から連絡があり、先日河野さんにご挨拶いただき、とても喜んでおりまして、またしっかりした方で安心したとのことで…」と連絡がきて鼻血が出る。
まいったなぁ。こりゃぁ。

昨日も、撮影部と音響部に愛情をもってボコボコにされながら、監督と意見を交わしながら、ずっと関わり方について考えていた。

責任を果たしながら、距離を置くのもいいのではないかと思っていた矢先だった。

私をずるい。という人もいるだろうし、無責任という人もいるかもしれない。
でも、プロデューサーって何?って話で、プロデューサーの仕事の範囲が決まっているわけではないわけで。
大事なのは監督が後悔ない作品を作ってくれればいい。ってだけだ。

何故、こんな奴の日記が読みたいのか。って思い出してもいる。
他人を巻き込んで、動いていただいて。何になるのだ。と思い出している。

「私なんか」って思うたびに、いつもバンプの「Bell」を思い出す。

この曲をきくと、ひとりぼっちでクヨクヨしてた小さい頃の自分を思い出す。
そして、聴いた後に少し優しくなれる。

今日はクリスマスイブ。
何が欲しいですか?と聞かれたら、「健康な身体とありったけの笑顔と優しい心」。

12月26日

今日は、新作映画の劇中に登場する、私の肖像画の絵コンテを描いていただく会だった。 リアルに肖像画を描いていただくのは初めてで、正直少し緊張した。
画家の先生が私を目の前にして、鉛筆を動かし始めると、何か自分の体全体から見えない魂のようなものがグーっと引っ張られて、それが鉛筆に宿っていくような感覚があって、どんどん新しい役の身体になっていくような現象が起こった。
自分の記憶なのか、その役の記憶なのか炎の中で誰かが燃えていて、それをみて茫然とするしかない、自分の記憶みたいなものが脳裏に浮かんだ。

先生曰く、その外側の面を描くのは本当の絵画じゃなくて、被写体が何を今考えているのか、どんな感情にあるのか、それを描き出すのが絵画だと思っているので、その感覚は正しいです。とのこと。

そのあとは、セカンドオピニオンの結果を聞きに木更津へ。
結果は受けいれたくないものだった。
右胸の張り巡らされている乳腺に癌細胞が火花のように散っているとのこと。
木更津の先生は、乳腺科の権威であり、先生に伺えば何か希望が見出せるかと思っていたけど、「残念ながら、全摘出以外ありません」と言われてしまった。
救いなのは、今の状況なら自分の皮膚と乳首をのこして中を根こそぎ取り除いた後でパックを入れる手術が可能かもしれないとのこと。
明後日、某医大の整形科の先生と乳腺科の先生の意見も合わせて鑑み、今後の対応を考えてみてください。とのこと。
今服用している薬についても言及があった。わかってはいたけど、先生からこの薬を服用するということは、子供が産めない身体になるということです。と言われた。
今まで子供が欲しいと強く思ったことなんてなかったけど、産めばよかった。産めたらよかった。
女として何かを残しておけばよかったんじゃないか。なんて変な欲望が顔を出す。

ずっとずっと泣いちゃだめだと身体中に溜め込んで過ごしてきたけど、大洪水を起こしてしまった。声を出して泣かせてもらった。泣いていいよと言ってもらった。
ずっとずっと、思いっきり泣きたかったんだ、私。

越川監督に結果を伝えたら「うむ。がんばろう」とだけきた。

監督、みんな。『水いらずの星』は私にとって生命の証明です。
知らずに導かれ、私の身体の、魂の記録を刻み込んだ作品です。
だからどうかこの作品をよろしくお願いします。この作品がどうぞ私の懐から飛び出して、
日本を飛びだして世界に羽ばたいていくよう。何卒よろしくお願い申し上げます。

とか言ったら、きっと監督は「んなことわかってるよ! 俺もだよ!」と言って怒るのだろうな。

写真:河野知美

12月27日

最近よく、事務所をやめるべきかやめないべきか。という考えが頭を過ぎる。
今後自分が俳優として使い物にならないかもしれない。そんな時、私は木村さんのお世話になっていてよいものなのか。と考える。

まだまだこれからじゃないか。という人もいるし、もう40歳過ぎているしね。という人もいるだろう。

私は木村さんに頼りっぱなしで反省点だらけ。何も事務所に貢献できていない。
きっとフリーランスでやってきたし、このままフリーランスになっても、もしかしたら私は私なりにやっていけるのかもしれないけど、迷惑をかけてしまうことが一番辛い。
木村さんごめんね。やっかいな病気になって。本当にごめん。
今日、昨日の結果を木村さんに電話で伝えた。木村さんが唸ったのがなんか印象的だった。
ごめんなさい。って言葉ばかり出てきてしまった。ごめんなさい。って言ってごめんなさい。

『死ぬまでにしたい10のこと』を改めて鑑賞。
映画に触発され、自分なりのしたいことリストを考えてみた。

1. 愛している人たちに愛しているとタイミングがある度に伝える。
2. 思いついたやりたいことは、臆せずやってみる。閃きを大事にする。やれることは全部自分でやる。
3. 愛している人たちに向けた遺書を書いておく。動画でもいい。残せるようにしておく。もし生きながらえることができたら、1年に1度更新するようにする。
4. マチュピチュとサクラダファミリアを見に行く。
5. 今まで行ったことがない場所に行く。日本でも海外でもいい。きっかけがあれば臆さず行く。
6. 思っていることを話す。それがとりとめのない話でも、無駄話でも、相手にとって面倒な話でもいい。思っていることを話す。話すというより伝える。素直に伝える。いつか死ぬので嫌われてもいい。
7. 恋をする。男女に関わらず、恋をする。素敵な人がいたら一緒にいろんなものを見たり聞いたりして、その人が話したいことを沢山聞くようにする。
8. アメリカの親友エバとマリアスに会いに行く。絶対に会いに行く。二人を心から愛している。二人に会いたい。
9. 私が死んだらクッキーパーティー(ウォーカーのありとあらゆる種類のクッキーを会場に飾る会)をして、ダンスミュージックと美味しいお酒で弔ってもらう。そのためのお金を貯める。骨は海に撒いてもらう(オーストラリアの孤島の海がいい)。これもみんなが行けるようにお金をためる。海に撒いてもらうのには理由があって、私は水瓶座だからやはり海に還りたいと願う。
10. 2023年1月1日から毎朝空の写真を撮る。先日おとずれた、萩原朔美さんのコレクション展で、ありとあらゆる電柱に映るご自身の影を撮り続けた写真がとても魅力的で、どこにでもある風景なのにその瞬間しか切り取れないものを撮っていて、「なんて素敵な試み!」と思って影響されることにする。

新作映画の監督に言われた。
「河野さんは生きることと活きることなら、0対100の比率の選択をしそうで怖い。でもその危うさがたぶん河野さんの俳優としての魅力であって、私が魅了されるところだ」と。

死ぬことはあまり怖くない。(とかっていうと批判されるかもしれないな…)
自分はそんなに誰かに求められているものじゃない。ただ生きているだけ。
だから私は自分の死についてあまり恐怖を感じない。それよりも苦しみながら、もがきながら、闘病しながら生きる方がよっぽど辛い。

とかなんとか、こんなことを書きながら、この後私は衣装合わせ兼打ち合わせに行く。
大いに矛盾している。

私のデビュー作からの付き合いの監督と、カメラマン。
沢山いい話が出来た。こうやって、ゆっくり改めて話すのは初めてかもしれない。
厳しい強敵でもあるけど、ずっとお互いこの世界でやってきた者同士。
今は同志になれた気がする。一番信頼している人かもしれない。
私はやっぱり人に恵まれている。恵まれ過ぎている。
これからプロデューサーをやってくのなら、彼らに恩返しができるプロデューサーにならないと、たぶん一人前とは言えないんだろうな。そこまで行けるだろうか。
年末も結局、脚本詰めの打ち合わせになってしまった。
少しゆっくりしたいな。いろいろ考えたい。
関東近郊出身者のあるある。我々には帰郷という言葉が私たちにはなくて、永遠に地続きの感覚があって、夢が敗れたとしても帰る場所がないプレッシャーみたいのが結構あって、本当に敗れたならきっと私は旅に出るしかない。そうじゃないと永遠と何かとつながっていて切り替えができない。
だから必死に走り続けなくちゃいけない。みたいな感覚はずっとある。

12月28日

午前中から病院へ行き、帰宅したのが17時を過ぎていた。
今日はたまたま何も予定を入れていない日だったのでよかったけれど、今後病院へ行く日はいろいろ調整が必要だなと改めて思う。

そんななか、久しぶりに本当に一人でゆっくりと色んなことを考える時間が出来た。
身体的にはものすごく疲れたけど、良かったのかもしれない。

私は笑っていようと思う。
改めて、私がちゃんと大事にしたいことが明確になった。
今日わかったのは、当事者の私よりも周りの人の方がよっぽど辛いんじゃないかということ。
私と病気を代わってあげたいと泣いていた父や、木更津まで連れて行ってくれた原口先生の涙や、昨日話した時に聞いたことのない奇声をあげた木村さんや、私の今を残しますと言って写真を撮り続けてくれる上澤さんや、私の感情の全てを曝け出した出来るなら目を背けたいような本音を毎日見て絵を描いてくれようとしてくれる梅田くんや、映画チームのみんな。
きっと私よりみんなの方がしんどいのかもしれない。私が健康ならみんなつまらないこと考えたりしなくていいのに、 河野が病気になったことでみんなに変に気を遣わせたり、付き合わせたりして。
だから、私はやっぱり笑っていようと思う。悲しい時は一人で泣こうと思う。
さみしさや、悔しさを薄めるために誰かと向き合ったことは決してないつもりだけど、
私はこの人たちが安心するために、最善の策をとらなければならない。

だから、全摘出することにする。
それでみんなが安心して、よかったって言って、煩わしく私に気を遣うことから開放してあげようと思う。みんなを思いやれてなかった。私。

そしてみんなが笑ってくれればいいな。安心して自分の人生に集中して歩んでくれればいいな。。。

整形の先生と沢山話をして、整形後の事例やリスクについて伺った。

私は俳優なので、できる限り最小限の傷で済ませたい。と伝えた。
その場合は人工物を入れることになる。
8ヶ月ほど乳房の裏に水を入れたパックを入れて徐々に大きくしていくやりかた。
そのあと、シリコンを入れる。

乳頭を残せるか否かはメスを入れるまでわからないとのことで、万が一リンパに転移が見られた場合は胸に横一に傷が残る。
それは私が目を覚ますまでわからないこと。

手術の日程はこれから木村さんに電話して決める。
とりあえず、私はもう大丈夫。

Pとしての仕事が山積みに残っている。
さぁ笑って笑って。

12月29日

全摘出後の再建についていろいろ調べる。
エキスパンダー(シリコンを入れる前に空洞をつくる装置)を入れるのは約8ヶ月。エキスパンダーには金具が付いているから、もしかすると飛行機のるのにもいろいろ手続きが面倒になりそう。それを考えたら、現在最短でも手術が4月7日と言われているから、その前にやっぱり上澤さんと約束したスペインに行きたい。
でも3月はヨーロッパは寒いかもしれない。それか手術をもう少し先に延ばすか?

命の期限とは言わないまでも、何かの期限があるのは人生にとっていい。
それを基準に自分のなり振りがある程度決定できるから。

『水いらずの星』の公開が決定していることも同じことが言える。
余裕を持って色んなことを画策できる。

昨日の日記を読んだ、編集のミリさんから素敵な言葉をいただいた。
「どういう言葉も間に合わないのですが、河野さんの2023年がきらきらとした1年になることを心から祈ります。私も微力ながら、河野さんの作品や河野さんの言葉を、世の中に伝えるお手伝いができたらと思います」と(ミリさん書いてしまってごめんなさい。許して♡)

なんかしんみり。何も持ち合わせていないような私が、こんな言葉を頂けるなんて、生きててよかったな。と思えたりする。ミリさんありがとう。私がんばるね。

何者でもない誰かでも、誰かの何者かになれることがあるのかもしれない。

ミリさんに言われて、まっすぐ。ということばを知って。
自分はまっすぐな言葉を並べているというよりは、捻くれた考えばかりを書いているつもりだったけど、まっすぐなのか。これがまっすぐ。という意味なのかと思ったり。周りの人から、その言葉の意味を教えてもらうばかりで。

今日久しぶりに、堤幸彦監督とやりとりもろもろ。乳がんのこともお伝えした。
「なんもできないけど、なんかできることがあれば連絡を」と。
監督って実は、本当に有言実行の方で、口だけの人じゃないことを知っているから、ありがたくそのお言葉を頂戴している。
堤監督と『truth~姦しき弔いの果て~』でご一緒したあと、高橋組や越川組、そしてそのあとの組と、私はなんとなく堤組を愛していない風に思われているかもしれないが、本当にそんなことはなくて。
そもそも堤監督と出会わなければ、その後の作品は一つもこの世に生まれていなかったとさえ思う。監督が私に新しい道を作ってくれた。それは高橋監督でもなく、越川監督でもない。堤監督だ。

あの日が懐かしい。監督が私たちがイギリスの映画祭に行くために、成田空港まで自家用車で送ってくれて、みんなで吉野家のすき焼きセット肉盛りを最高にうまい!といいながら食べた日を。いつでも、監督が率先してくれた。何をするにも監督がまず前に出ていってくれて、くだらないおしゃべりをし倒して場内を盛り上げて、そして私たちに丁寧にふってくださった。私は堤監督が大好きだ。立場上一歩端から見ているような感じだったけど、 監督が最後に「あなたなら大丈夫」といってくれたことで、より手術も大丈夫な気がしてきた。

私が精進して、いまだ!って思ったらまた一緒に作品をつくれるように、 元気でいてください。とお伝えしたら「生きてたらね 笑」と返ってきた。
本当に素敵な人。

“The best thing you can do is find a person who loves you for exactly what you are.”
「あなたが出来る最善のことは、ありのままのあなたを愛してくれる人を見つけること」

映画『ジュノ』より

12月30日

今日はお昼から23時まで脚本の詰め会議。
年末だというのに、スタッフが集まってくれて脚本を言葉にしながら、脚本の精査に当たる。
高橋洋さん(この座組では監督と呼ぶなと注意を受ける)も同席してくださった。

なんかなぁ。私の生きてる理由ってなぜだかわからないし、 どこからきたものか。
映画を作るってことに全てあるなぁ。
映画のことを考えている時はやっぱり自分らしく生きている気がする。
いじめられっ子の一人ぼっちだった私が、こんなにたくさんの人と作品をつくるようになるなんて想像出来ただろうか。
だから、小学校の頃の私に言いたい。
あんた大人になったら結構頑張ってるよ。たくさんの素敵な人に囲まれているよ。
だから大丈夫。もう少し頑張ってみて。って。

高橋さんにも乳がんになったことをお伝えした。
「それゆえ、確実に来年私は新作をとらなくちゃいけない。いつまで撮れるかわからないんだから」と脅したら。
「えっ。ちょっとショック過ぎて。なんて言えばいいのか。でも、はい。そうしましょう。撮りましょう。」と男の約束みたいな感じで、二人でうなずいた。
たぶん、それでちゃんと伝わった。やるぞ。来年も。みたいな感覚。

2月の頭に企画会議をして、撮影の中瀬くんとも打ち合わせをして撮影は10月だな。 となった。
目標があるのはいい。人生に活力が生まれる。今私には「これをやりたい」と思ったら一緒にやってくれる人たちがいる。本当に幸せ者。

どこまで行けるかわからない。でもどこまで行けるかみてみたい。
確実に2022年は私にとって大事な年だった。それだけははっきり言える。
でも、まだここはゴールじゃない。越えるべきものを越えた先のもっと先に行こう。

どこまで行けるかわからない。でもどこまで行けるかみてみたい。
確実に2022年は私にとって大事な年だった。それだけははっきり言える。
でも、まだここはゴールじゃない。越えるべきものを越えた先のもっと先に行こう。

高校生の頃大好きだったピロウズ。
親友と未だにライブに行ったりする。
さわおさんに会いたくてそれが夢だった頃もあるけど、それもやっぱり叶ったし。

夢はちゃんと追い続けていれば叶うもんだ。
がんばれ私。がんばれみんな。

12月31日

サンクス! 2022年。

https://youtu.be/sXxxNMChtYA

INFORMATION
『水いらずの星』
時代の流れで造船所の仕事を諦めビデオ屋でバイトをしている男は、ある日余命が僅かだと宣告される。そんなとき頭に浮かんだのは、6年前に他の男と出ていった妻の顔だった。瀬戸内海を渡り訪れた雨の坂出。しかし再会した妻は独り、男の想像を遥かに超えた傷だらけの日々を過ごしていた…。
公式Twitter: @Mizuirazu_movie 
公式Instagram: @mizuirazu_movie
©2022 松田正隆/屋号河野知美映画製作団体
監督:越川道夫
原作:松田正隆
主演:梅田誠弘 河野知美
プロデューサー:古山知美
企画・製作:屋号河野知美映画製作団体
制作協力:有限会社スローラーナー/ウッディ株式会社
配給:株式会社フルモテルモ/IhrHERz 株式会社
2023年初冬公開予定
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