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映画は永遠ではなかった。

大下ヒロトのいつかの君とつながりたい。第20回

映画は永遠ではなかった。

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俳優という仕事や、自身の日々の葛藤を綴ったInstagram「大下ヒロトの青春日記」が話題の俳優・大下ヒロトさん。映画好きな大下さんが、青春にまつわるテーマと自身と映画を交錯させて“等身大の今”を語るコラムです。こんな時だからこそ、気持ちだけでも遠くへ行きたいあなたへ、今月のテーマは「2021年の僕と映画」です。
俳優
大下ヒロト
Hiroto Oshita
1998年生まれ、岐阜県出身。オフィス作所属の俳優。2016年に上京し、翌2017年、映画『あみこ』でデビュー。同作が第 68 回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)にて観客賞、下北沢映画祭グランプリを受賞するなど話題に。近作に、映画『あの頃。』、『花束みたいな恋をした』『とんかつDJアゲ太郎』、『転がるビー玉』、ドラマ『惑星サザーランドへようこそ』をはじめ、映画・TV・ミュージックビデオなどに出演。デビュー前よりInstagramで公表している「大下ヒロトの青春日記」が話題を集めている。待機作に映画『死刑にいたる病』(白石和彌監督/2022年5月6日公開)など多数控えている。

深夜、眠る前に思い出す。確認の為、スマートフォンを開いてカレンダーを見て日付を確認する。やはりそうだ。明日は映画館に行く日だ。そんな夜はいつだって、眠れないなんて事がなくて、僕は今日になんて簡単に区切りをつけて目を閉じる。明日行くのは、下高井戸シネマ。僕の大好きな映画館だ。

映画館に向かう道のりを歩いている時、僕は他のどんな瞬間よりも気持ちが高まり、気付けば自分の顔は笑っている。いつも観る映画は大体が映画館のサイトを見て決めるのだが、上映前の予告で決めたり、友達に勧められた映画を観たりもする。この世に意味のない映画などないが、つまらない映画は存在する。そんな映画を観た時は、僕はいつだって必ずその夜に別の映画を観る。面白い映画を観て眠りたいのだ。映画が終わり少し歩いて喫煙所で電車を観ながら、観た映画を思い返す。今日も、いい映画を観た。僕はあまり外さないのだ。

『サマーフィルムにのって』を観た。映画の中で未来人の凛太郎が「未来には映画が無い。映像は5秒が主流になる。未来人は忙しいんだ」と言った。

僕もこのことは、よく考える。映画はいつまで残るものなのだろうか。もっと言えば僕の好きな映画館はいつまで残るものなのだろうか。

この間、近所のTSUTAYAが閉店した。「閉店」の文字の前で僕は何秒か動けなくなり、「ふぅ」と息を吐いてお店の中に入った。もうわかっているはずなのに店員さんに聞く。「TSUTAYA、閉店しちゃうんですか」「はい。今はもう配信ですからね」

配信で映画を観るという事が、本当に流行っているなあと思う。さらにコロナ禍を経て配信の方が勢いよく力を持ち始めた気がする。

映画をはじめ、音楽、お笑い、様々なジャンルで配信が増えた。確かに、配信は家にいながらも観れるし、好きな時間に観ることが出来るし、なにより、席というものを必要としないから誰でも観られる。つまり、僕らにとっては便利だし、見せる側からすればより多くの人に観てもらえることが出来たりするのだ。もちろん金儲けの為だけの人もいるだろうけど。

僕たちは映画館に行く必要なんてあるのだろうか?
1000年後いや、100年後の人間たちは映画を観ているのだろうか?

映画が無くなる可能性を考えた。

先ほども話した通り、もっともっと配信が主流な世界になる。この場合、映画館は無くなる。あり得ない話ではない。例えば、新たにとんでもなく危険なウィルスが流行った世界(もしくは、流行ったとされる世界)。この場合、人間は外に出られなくなり人々の生活は基本的に家で行われる。映画館は無くなってしまう。

実際に若者の映画離れは、存在する。確かに、今の若い世代は短い動画が好きだ。某アプリの自動で流れてくる動画なんて中毒性の塊じゃないか。一度見始めたら、自分の気になるものがどんどん流れては、終わる。また新しく気になるものが流れる。そしてそういうアプリが僕らより若い人たちは、既に日常生活の中に入り込んでしまっているではないか。

決して、便利ということが悪いとは思わない。しかし、便利なものは使い様だと言うけれど、本当にそれで済まされているのだろうか。そういうものが、生活において少しでも当たり前のものになってしまったら、僕らは抜け出す事が出来なくなると思う。

他にも映画が無くなる可能性はある。

表現の自由が無くなった時。

つまり政府や政府と繋がる企業にとって都合の悪い映画は上映出来なくなった世界。 その場合、もちろん政治的な映画は消えていくだろう。しかしこれもあり得ない話ではない。香港では映画の検閲が始まった。(※)

“政府の審査機関が反政府的な動きを取り締まる香港国家安全維持法に基づいて映画を検閲し、描写や内容が国家の安全に悪影響を与えると判断した場合は上映を禁止するとしていて、検閲を強化する。”と発表しているのだ。

「コロナが落ち着いたら映画館に行こう」というような言葉を友だちからも政府からも聞いたが、僕は例え世の中が緊急事態宣言中だとしてもやっている映画館があれば、絶対に観に行くだろう。そもそもなぜ、落ち着いた先に映画や映画館が存在していると思えるのだろうか。人間には、他にも楽しみがある。お酒だってそうだ。僕が映画を愛して、生きる力になっているのと同時にお酒を愛して生きる力になっている人だっている。それでも居酒屋は不要不急なのだろうか。他のたくさんの場所だってそうだ。人間一人一人に生きるための場所がある。それらは一切比べられる事なんて出来なくて、全くもって同じであると僕は思っている。

僕は映画が好きで、映画館が好きだ。

2021年最初に映画館で観たのは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』だった。観終わった後言葉が出なかった。映画が始まり、エンニオ・モリコーネの音楽が流れてから165分、画面に釘付けだった。

配信にはあるけど映画館で観たいと思って観ていなかった『仁義なき戦い』をやっと観た。「盃がないけん、これで腕切って血すすろうや」大迫力な芝居と大迫力なテーマソング。それから二ヶ月は日常会話で昔の広島弁を話すのにハマった。

そんな話を近所のバーの映画好きのおっさんに話したら映画の話で盛り上がり、まだ観れてないアッバス・キアロスタミの『オリーブの林を抜けて』を貸してくれた。やっと「ジグザグ道三部作」も観終わったのだが、好きな映画館で上映するらしい。映画館でもう一度観たい。

2021年最も好きだったシーンがある映画は、チェン・ユーシュン監督の『熱帯魚』。少年が誘拐されている部屋のテレビで偶然観た男性アイドルの映像に、ファンとして映り込んでいた同じ学校の好きな女の子が号泣しながら、アイドルを見つめている姿を観て、号泣。そして誘拐犯に心配されるシーン。僕も号泣した。

2021年が終わり、当たり前のように2022年が始まったが、いつまでたっても当たり前の生活には戻らなくなり、新しい当たり前が生まれている。時代の変わり目だ。それはとてつもない力を持っているし、僕らはその策略に気付いていないか、もしくは従うしかない。

「世の中の本当の事を知ろうとする行為は大事だ」と僕は言った。「知らないで死んだままの方が楽だ」とあなたは言った。「もっと政治の事を考えていかないと」と僕は言った。「じゃあ政治家になれよ」とあなたは言った。

映画は永遠だと思っていたが、僕達は映画を永遠にしなければならないのだ。そうでなければ映画は永遠ではなくなるのだ。

(※)2021年10月、「映画検閲(改正)条例案2021」(Film Censorship [Amendment] Bill 2021)が、香港立法会で可決。「国家の安全を守る」ことを目的に映画の検閲を強化、国家安全保障上の利益に反すると判断されたコンテンツを制作した者には100万香港ドル(約1460万円)以下の罰金、及び3年以下の禁固刑が科される。

PROFILE
俳優
大下ヒロト
Hiroto Oshita
1998年生まれ、岐阜県出身。オフィス作所属の俳優。2016年に上京し、翌2017年、映画『あみこ』でデビュー。同作が第 68 回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)にて観客賞、下北沢映画祭グランプリを受賞するなど話題に。近作に、映画『あの頃。』、『花束みたいな恋をした』『とんかつDJアゲ太郎』、『転がるビー玉』、ドラマ『惑星サザーランドへようこそ』をはじめ、映画・TV・ミュージックビデオなどに出演。デビュー前よりInstagramで公表している「大下ヒロトの青春日記」が話題を集めている。待機作に映画『死刑にいたる病』(白石和彌監督/2022年5月6日公開)など多数控えている。
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