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熊谷和徳の映画往復書簡 #1

熊谷和徳から
ハナレグミ永積崇へ
「生きてグルーヴ」1通目

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熊谷和徳の映画往復書簡

(手紙だからこそ、語れることがある。ニューヨークと日本を拠点に世界で活躍されているタップダンサー熊谷和徳さんが、交流のあるアーティストたちと日常の気づきや心に残った映画について語り合う「映画往復書簡」。初回は、ミュージシャンのハナレグミ永積 崇さんとの往復書簡を全4回でお届けします。まずは熊谷さんから永積さんへ、8月下旬に書き綴った1通目をどうぞ。)

熊谷和徳の映画往復書簡

タカシくん、お元気?

今頃はLAの夏を満喫して、アメリカ西海岸の広大な大地からたくさんのインスピレーションを得ているのではないかと思います。

僕は逆にNYから日本に来て、ものすご〜く暑い夏を二ヶ月ほど過ごしたけれど、そろそろこの夏も終わりに近づいていて少しの寂しさを感じているところだよ。

日本に来てから楽しいことが沢山ある反面、ほんとに色んなニュース、例えば京都アニメーションでの事件のようなショッキングなニュースや日韓問題などの政治の情勢

そして子供の虐待の問題などが、テレビから流れてきて毎日のように起こるその出来事に、耳を覆いたいくらい少し不安定な気持ちにもなっているよ。

でも一番心配なのは、そういった情報の多さに心が慣れてしまって、世の中のことに無関心になっていってしまうのではないかということ。

心が「無」になっていくと、何にも感動したり、心が揺さぶられたりするような体験が少なくなってしまう。

それはとても寂しいことだよね。

熊谷和徳の映画往復書簡 #1

僕自身もこの時代に何を感じて、表現していくべきかという問いにぶつかって常に葛藤している気がするけれど、

この往復書簡は、この状況のなかで自分の心と向き合って整理する意味でもいい機会になればいいなあと思っている。

この第一回目にタカシくんとできることを本当に嬉しく思ってるよ。ありがとう!

タカシくんにはいつも元気をもらうんだよね。陽のエネルギーがいつも充満しているよね。ラテン的な。笑

今年の僕の誕生日も、仕事で神戸に一人でいた時も、たまたま神戸に居合わせたタカシくんがお祝いに来てくれて本当にありがたかったよ。

そんなタカシくんにオススメしたい映画で『Mad Hot Ballroom』〈邦題『ステップ!ステップ!ステップ!』(2005)〉っていう映画を思い出したんだ。

これはニューヨークの色んな地域に住む子供達が、社交ダンスを教育の一環として学んでいく過程を追ったドキュメンタリーなんだけど、最高なんだ。

特に映画に登場するスパニッシュのチームのノリやグルーヴは格別なんだけど、先生も子供と一緒に思いっきり楽しんだり泣いたりしている雰囲気が良いなあと思うんだ。

熊谷和徳の映画往復書簡 #1

犯罪率の高い区域の学校のスパニッシュの先生が泣きながら言った言葉が印象深かった。

「できることならアラジンの魔法のジーニーのように子供達の心の中に入って、『あなた達は完璧な存在で、行こうと思えば大学にも行けるし何にだってなれるのよ。』ということを伝えたい。」

「でも実際にはとても難しくて数年後には悪い道に行ってしまう子供達がいるのが現実なの。」

僕が19歳でNYに行った時、タップダンサーの先人達が差別を乗り越えて今の状況作ってきたということを先生が泣きながら教えてくれたことをふと思い出した。

NYのような街では有色人種の子供達がまともな職業につく前にギャングなどの道を選んで殺されてしまったり、逮捕されてしまったりすることも少なくない。

でも、その危うさが身の周りにあったからこそ、心の闇の中で彼らは必死に光を生み出す術も編み出してきたんだと思う。

その手段の一つが踊ることであったり、音楽を奏でることであったりして、彼らにとってそれは楽しみ以上の意味を持つ、「生きる上で重要な何か」なんだろう。

この映画で先生と生徒は踊りを教えること、学ぶことを通して、「生きる」という喜びのギフトに出会ってるんじゃないかな。まさに生きてグルーヴだね。

熊谷和徳の映画往復書簡 #1

一方で日本の子供達の心は豊かなんだろうか? と、日本に来るたび感じるよ。

物質的に豊かではあるけれど、ワクワクする気持ちとか、冒険心、喜びも悲しみも思いっきり表現していくことがもしかしたら昔よりも少なくなっているのかもしれないなあと思う。

それは、情報が多すぎて、心が大人になっていってしまうのが早いのか、子供達の心から「子供らしさ」が失われているように感じる時があるからだよ。

日本では今の季節、夏の終わりで新しい学期がスタートする頃、子供達の自殺が急増するらしいんだ。自分も学校という社会にはうまく馴染めなかった方だから、

そういう子たちの気持ちは痛いほどよくわかるんだよね。学校という社会が子供達のすべてだから、そこに居場所を見出せないと彼らの心が閉じて感情が闇に包まれていってしまう。

僕の大好きなピクサーの映画『Inside Out』〈邦題『インサイド・ヘッド』(2005)〉というアニメーションでは、子供達の心の中で「喜び」や「悲しみ」、「怒り」といった

様々な感情のキャラクターが共存して依存し合いながら成長していく過程が見事に描かれているんだけど、

子供の心が闇に包まれそうになった時に、最後に心を救ったのが「悲しみ」の感情だったんだ。これは本当に目からウロコというか、目から涙がボロボロと流れたよね。

熊谷和徳の映画往復書簡 #1

悲しみは閉じ込めるんじゃなくて、そこには大切な記憶が隠れていて、悲しみに向き合うことで心は豊かに成長することができるということが描かれているんだ。

タカシくんの歌にも『光と影』という歌があるけれど、誰の心にも存在する光と影は、その人にしかない個性や、人としての深みとして重要なことなんだろうね。

逆に言えば悲しみを消し去るのではなくて、受け止めていく分だけ人は深みを持って成長していけるのかもしれない。一見マイナスと感じるような心の感情の中にも大切な要素が含まれているのだろうな。

自分も40代になっても未だに自分の感情をコントロールできないことも多々あるけれど、そういう時は、できるだけ自分の感情を静かに受け入れるようにしようと心がけている。

揺れ動く感情も自分にとって大切な「今」を映す感情だと思うから。そしてその感情をリズムとして表現していきたい。タップを踊ることで、僕はこれまでずっと救われてきた気がするなあ。

タカシくんの歌にもずいぶん要所要所で勇気付けてもらったよ。僕以外にもそういう人たちは本当にたくさんいるだろうね。

それでは、タカシくんの最近の近況もぜひ教えてください! お返事待ってます!

熊谷和徳の映画往復書簡 #1
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PROFILE
タップダンサー
熊谷和徳
Kazunori Kumagai
1977年 宮城県生まれ。15歳でタップダンスを始め、19歳で渡米。ニューヨーク大学で心理学を学びながら、本場でタップの修行に励む。20歳でブロードウェイのタップダンスミュージカル「NOISE/FUNK」のオーディションに合格。その後、ニューヨークをはじめ世界各国のダンスシーンで活躍し、タップ界のアカデミー賞ともいわれる「フローバート賞」「Bessie Award最優秀賞」と数々の権威ある賞を受賞。19年にはNewsweek Japanにて『世界で活躍する日本人100人』に選ばれる。現在はNYを拠点に世界中で公演を行うかたわらKAZ TAP STUDIOを日本に構え東京と故郷仙台にて後進の育成にも取り組んでいる。
FEATURED FILM
ニューヨークの小学生たちが、社交ダンスとの出会い、コンテストでの優勝を目指して奮闘する姿を追ったドキュメンタリー映画。
監督: マリリン・アグレロ
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