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柳亭小痴楽 映画世渡り術 第七回

人を頼るのが苦手な皆さんへ。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と、「成金」の話

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柳亭小痴楽映画世渡り術
(2019年9月、30歳で真打への昇進を果たした、今注目の落語家・柳亭小痴楽さん。聞けば、ヤンチャだった子どもの頃から大の映画好きで、仕事が今ほどなかった二ツ目時代には、1日3本は平気で観ていたほどだそう。この連載では小痴楽さんが人生に悩んでいる誰かに向けて、1本のおすすめ映画を通じ、世の中を飄々と渡っていく術を教えます!)

昨今、一人で物事を抱え込み過ぎている人が多くないか?
SNSやインターネットを使い過ぎて、生身の相手とのコミュニケーションが不足してしまっているからだろうか。誰かを頼るというハードルがどんどん高くなってきている気がする。
自分のことは自分で解決する、それは素晴らしいことだと思う。だけどね、私は真逆で、なんでも人を頼る。正直、「それくらいは自分でやれよ!」ということでも、得意な人が側にいれば、すぐに自分でやるのを諦めてやってもらう。
例えばだ、ネットショッピング一つ取っても、いつも周りに頼んでいる。買いたいものがあれば「これが欲しい」と伝え、スマホで調べてもらい、そのまま代わりに買ってもらう。正直なことを言えば、自分でもできるよ? だけど、ネットショップに個人情報を残すのが嫌いなの。なんか関連商品をオススメとかされるのもイヤだし。だからついつい、すでにアカウント登録をしている後輩や家内にお願いしてしまう。
朝起きるのもそう。修業時代に寝坊で何度もしくじっては反省し、どうすればこの悪癖が直るのかと色々悩みもした。だがやはり、決めた時間に起きるという行動においてどうも自分を信用し切れず、独り者の頃は実家暮らしだったので母に、今では家内に頼りっ放しだ。 そう、何を隠そう私の座右の銘は「他力本願」。実例はいくらでも挙げられるが、どれだけ私がだらしない人間か露呈してしまうのは避けたく、これくらいでやめておく。でも、苦手なことや嫌いなことに多くの時間を割くより、できる人に任せた方が効率的だし、何よりそこにはコミュニケーションが生まれる。頼り頼られ、楽しい人生になると思う。

先日、こんなご時勢だからか、「笑いながらスカッとできる映画ないかなぁ」と探していたら、前にも一度観た『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)が目に留まった。 やっぱり、マーベルいいよねぇ! マーベル・コミックスは小さい時から絵が好きでよく読んでいたし、映画もたくさん観てきた。でもさ、スパイダーマン、キャプテン・アメリカ、アイアンマンなど、ヒーローたちはみんなほぼ一人でなんでもこなして、すご過ぎない? もちろんそれがカッコいいんだけど、自分とは遠い存在に感じてしまう。
その点、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のよさは、主人公クイルが軽くて、いい加減で、チャランポランなところ(そこまで言うことはないか)。母の形見のカセットウォークマン(ソニーの初代!)で70〜80年代のポップナンバーを聴いて踊るのが好きで、凶悪な敵にもなぜかノリノリでダンスバトルを仕掛けたりする。
クイルは幼少期、母の死の直後に、宇宙海賊ラヴェジャーズの手により地球から宇宙へと連れ去られる。やがて成長したクイルは、一匹狼のトレジャーハンターとして宇宙を飛び回っていた。ある時、ラヴェジャーズを出し抜き、超高額がついたお宝「オーブ」を盗み出したことで、懸賞金をかけられて追われる身に。そこへさらに、オーブによる世界征服を企む闇の帝王サノスと、その手下ロナンにまで命を狙われてしまう。
まさに四面楚歌になったクイル。そこでどうしたか? 偶然出会った、自分と同じアウトローで強烈な個性を持つ4人と、その場しのぎで手を組むのだ。賞金稼ぎのアライグマのロケット。その相棒で樹木型ヒューマノイドのグルート。妻子を殺したロナンへの復讐心に燃える囚人ドラックス。そして、ロナンの刺客としてクイルを追ってきたが、実は闇の勢力を倒したい女戦士ガモーラ。初めは利害が一致しただけの5人。でも、ともに時間を過ごす中で互いの真摯な思いを知り、絆が芽生えていく。こうして一致団結した宇宙最凶チームは、銀河滅亡の危機を救うべく強大な闇の勢力に立ち向かう。
クイルの在り方に、私はとても共感した。どんなに行動力や閃きがあっても、個人でできる範囲って、自分が思うより小さいんじゃないだろうか。もちろん「全て自分でできる。任せる方が非効率」って言う人もいるかもしれない。でもそんな人は天才で、凡才の私には無理な話。だから、何か大きなことをしたいと思ったら、私はみんなに力を借りる。精一杯借りる。借りるからには、必ずいい結果に結びつくように頑張る。また借りたからこそ、無駄にしないように頑張れる。手と手を合わせて成功した時の喜びや達成感は、一人の時の何倍にもなるはずだ。

落語界に身を置いて16年が過ぎた。前座修業の4年間は訳もわからず修業に努めた。それから3年間は上の師匠方から、身分不相応なくらい大きなホールでの前方(まえかた。寄席や落語会で、トリの前に出演すること)の仕事も頂いた。高座にのぼれば経験値が上がるし、とてもありがたいこと。ただお客さんが誰も、まだ無名の私を求めていないことをまざまざと感じた。アウェーな状況に、「俺には何が足りないんだろう?」「どうしたら求めてもらえるのかな?」という悩みを抱え、悶々と一人でもがいていた。
そんな時に、飲み仲間だった前座時代の同期11人で、「成金」というユニットを組もうという話になった。これで、もともと可愛がって頂いていた師匠方との“縦の繋がり”に加え、今同じ時代をともに過ごしている仲間との“横の繋がり”もしっかりとできた。最初に2つのルールを決めた。それは「誰かが真打に昇進したら解散しよう」、それから「毎週金曜日に落語会を開こう」。落語会の会場は、当初は都内の小さなコヤを借りていたが、だんだん規模が大きくなり、地方公演に行くまでになっていった。
ほぼ毎週、同期たちの高座を間近で見る中で、不思議と自分の悩みに答えが見えてきた。たとえばあるメンバーのマクラ(噺の本編に入る前のフリートーク)を聴き入っている時に、「あれ? 俺いつもマクラで、オチを先に言っちゃってたじゃん!」と自分の話下手に気づいたり(笑)。自分に足りないもの、長所と短所、やりたい芸とやりたくない芸、どうやってもできない芸、求められているものと求められていないもの……、それら全てに少しずつ気付くことができた。
ところで成金を組んでいる間、私達は頻繁に全員で集まり、じっくり話し合いをした。ユニット名を付けるだけで、夕方から話し合いを始め、日付が変わって朝になるまで続いたほど。毎度本音をぶつけ合っていたので、側から見れば喧嘩のようだったかもしれない。それだけ本気だった。おかげで、お互いの落語に対する考え方や人となりを熟知し合うことができた。そのうち落語界が我々を応援してくれるようになった。取材を受ける機会が増え、また新しい落語会が生まれるなど活動が広がっていった。みんなそれぞれ忙しくなり、なかなか話す時間が作れない……。でも、集合を朝イチや終電過ぎにするなどして、なんとか集まった。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の宇宙最凶チームのように、成金もまた11人が目指している方向性はそれぞれ違った。それでも、そこには絶対的な“信頼関係”があった。個々の強さが、一つにまとまった時のすさまじさ。自分で言うのはおこがましいかもしれないが、成金は落語界において軽視されがちだった“若手”のイメージを、多少なりとも上げることができたんじゃなかろうか。別に私達が天才だったからではない。それは我々が持ちつ持たれつの信頼関係の中で、個の能力を最大限発揮できたから。そして何より、私達に伸び伸びとやらせてくれた落語界の先輩師匠方の懐の深さゆえだと思っている。

落語とは一人で高座に上がり、一人で喋って完結する“究極の個人商売”なんて思われがちだが、決してそうではない。寄席で高座に上がる時に出囃子を弾いてくれる三味線のお師匠さん方や太鼓を叩いてくれる前座さん。ホールでの落語会の主催者さんやスタッフさん。もちろん共演者の方達も。みんなが支えてくれている。決して演者たった一人でできるものではない。何よりもお客さんがいなければ成立しない。客席に誰もいなければ、ただの独り言になってしまう。お客さんの笑い声や反応あっての芸事だ。
成金メンバーは私に始まり、松之丞(現・伯山)、A太郎、鯉八、伸衛門、宮治、小笑、昇々、羽光と、続々と真打に昇進した。まもなく最後の二人、柳若、昇也も昇進を決めるだろう。成金が解散してもうすぐ2年が経つ。最初に昇進した者として、私は過大評価を受けている気がする。これは他のメンバーの高い実力による弊害だ。今私が努めなくてはいけないのは、この過大評価を「勘違いです」と世の中に知らせることではない。勘違いしてもらっているうちに、それが正当な評価になるようにと、シャカリキに成長し続けることである。

柳亭小痴楽  映画世渡り術 第7回
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FEATURED FILM
監督:ジェームズ・ガン
脚本:ジェームズ・ガン、ニコール・パールマン
出演:クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、デイヴ・バウティスタ
宇宙のお尋ね者たちが偶然出会い、銀河滅亡を阻止すべく力を合わせて活躍するSFヒーローアクション。幼くして地球から誘拐され、トレジャーハンターとなったピーター・クイル。彼は巨万の富を夢見て「オーブ」を盗み出すが、悪党たちの標的になってしまう。これをきっかけにクイルは、賞金稼ぎのアライグマのロケット、その相棒で樹木型ヒューマノイドのグルート、殺された妻子の復讐を誓う囚人ドラックス、そして美しくも危険な暗殺者ガモーラというお尋ね者たちと宇宙最凶チームを組み、銀河を救うために立ち上がる。
PROFILE
落語家
柳亭小痴楽
Kochiraku Ryutei
1988年生まれ、東京都出身。落語家。2005年10月、二代目桂平治(現:桂文治)へ入門し「桂ち太郎」の名で初高座。2008年6月、父・柳亭痴楽の門下に移り「柳亭ち太郎」と改める。2009年9月に痴楽没後、柳亭楽輔門下へ。同年11月、二ツ目に昇進し「三代目柳亭小痴楽」となる。2013年、落語芸術協会所属の二ツ目で構成されるユニット「成金」を昔昔亭A太郎、瀧川鯉八、桂伸三、三遊亭小笑、春風亭昇々、笑福亭羽光、桂宮治、神田松之丞、春風亭柳若、春風亭昇也と共に結成し、落語ブームを牽引。2019年9月、真打への昇進を果たす。
Twitter: @kochiraku
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