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山田真歩のやっほー!シネマ 第1回

「ありがとう、トニ・エルドマン」たち

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(「彼女がいないと日本映画界が回らない」と言っても過言ではない、ユニークな魅力と幅広い演技で、映画にドラマに引っ張りだこの女優・山田真歩さん。そんな山田さんがある映画を出発点に、暮らしのことや仕事のこと、思い浮かんだ情景を感性豊かに書き綴る連載「やっほー!シネマ」、隔月連載中です。)

仕事が一段落したときに、ときどき一人でふらりと寄るお店がある。見た目は古本屋なのだけど、奥に小さなカウンターがあって、私はそこで本を読みながらお酒を飲んだりする時間が気に入っている。この間も、そこでビールを飲んでいたら、店主から一枚の小さな紙を渡された。何だろうと見ると、そこには「自由研究(100人のしごと)」と書いてあって、「しょくぎょうは何ですか」とか「どうしてそのしごとをはじめたのですか」とか、ひらがなの質問が10個くらい書いてある。小学2年生の息子さんの宿題らしく、「よかったらアンケートに協力してくれませんか」とのこと。「いいですよ」と気軽に答えたものの、このシンプルな質問たちを前にしばし「うーん」と腕組みしてしまった。

先日、「ありがとう、トニ・エルドマン」という映画を観たときも同じ気持ちになった。バリバリと働く一人暮らしをしている娘のところに、父親がふらりと訪ねてくる。この父は、悪役ジョーカーや猫のモノマネをしたり、人が驚くような冗談が大好きらしい(でも、大抵の人には彼のそのユーモアは伝わらない)。娘からしたら「ふざけてばかりいないで真面目に生きたら」とため息をつきたくなるような父なのだけど、時々ハッとするような質問を投げかけてくる。「お前は人間か?」「お前は幸せか?」ーーその単純で子供のような質問に、娘はとっさに答えられない。彼女の仕事や人生はいつの間にか複雑なものになっていたし、ちょっと視点を変えれば笑い飛ばせることも笑えなくなってしまっていた。私にもそういう経験がある。今の仕事を始めたばかりのころ、周囲の期待に応えようとするばかりに「ダイジョウブデス」と「ガンバリマス」しか言えなくなった時期があった。もっともっとと背伸びするうちに、気づけば地面から足が離れて「何でこんなことしてるんだろう?」とふと分からなくなってしまった。そういうとき、なんだか世界で一人ぼっちになってしまったような気がする。
この映画の後半にこんな場面がある。驚くような民族衣装に身を包んだ父が、娘の誕生日に訪ねてきて花束をプレゼントするシーン。よく見ると、それは泥だらけの“根っこつき”の花束だった。それを見た瞬間、私の中で突然何かがはじけてあふれ出した。大爆笑と大号泣が同時にやって来て、どちらも止まらなくなってしまったのだ。笑いと涙と一緒に、いつのまにか心に分厚く着込んでいた服がはがれ落ちて、真っ裸の子供に戻っていくような気がした。映画館を出たとき、私はとてもシンプルな世界にいた。シンプルで、手に持った分だけの重みの感じられる世界に。

そんなことを思い出しつつ、ちょっと酔っぱらいながら小学2年生の質問に答えてみた。書き終わったとき、「ああ、そうだよね。こういうことが好きでやってたんだよな」と思った。

「自由研究(100人のしごと)」

  • 1.しょくぎょうは何ですか。
    (俳優)
  • 2.どこではたらいていますか。
    (いろんな場所)
  • 3.どんなしごとをしていますか。
    (いろんな人や動物に同化して生きること)
  • 4.いつから そのしごとをしていますか。
    (お金をもらうようになったのは29歳からですが、小学生のころからやっていました)
  • 5.どうして そのしごとをはじめたのですか。
    (それをしているときが一番自然だからです)
  • 6.そのしごとのどういうところが すきですか。
    (いろんな人や動物と仲良しになれるところです)
  • 7.そのしごとのどういうところが たいへんですか。
    (ときどきすごく一人ぼっちになった気分になるところです)
  • 8.これから やりたいことはありますか。
    (たくさんの人を笑顔にしたいです)
  • 9.すきなれきし上の人物は だれですか。
    (宮澤賢治です。農民であり詩人であり科学者であり芸術家でした)
  • 10.こどもたちへ 一言メッセージをください。
    (自分が一番ワクワクすることを一生懸命やってみてください)

私にとっての“根っこ”を思い出させてくれて、ありがとう。

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FEATURED FILM
BD / DVD発売日: 2018年1月6日
製作年: 2016年
製作国:ドイツ・オーストリア合作
監督: マーレン・アデ
出演: ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラー
性格もキャリアも正反対な父娘。お互いを大事に思い合っているのに、つい衝突してしまうーー そんな親子の姿をやさしく描くヒューマンドラマ。アカデミー賞ノミネートをはじめ、世界の映画祭・映画賞を席巻。また名優ジャック・ニコルソンが本作に惚れ込んだことがきっかけで、ニコルソン主演でのハリウッド・リメイクも決定している。
PROFILE
女優
山田真歩
Maho Yamada
1981年生まれ、東京都出身。女優。大学卒業後、出版社勤務を経て、2009年に映画『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』でデビュー。同年の『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』で主演に抜擢され、NHK連続テレビ小説『花子とアン』(2014年)をはじめ、映画・TV・舞台で活躍。2016年、主演作『アレノ』で高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞。2019年は日本テレビ新日曜ドラマ『あなたの番です』や、フジテレビ月曜9時「シャーロック」に出演し、話題に。映画『夕陽のあと』など。女優業の傍ら、ブログでの文章・イラスト執筆なども行う。
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