PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

山田真歩のやっほー!シネマ 第2回

私の出会ったワンダーランド

SNSで最新情報をチェック!
(「彼女がいないと日本映画界が回らない」と言っても過言ではない、ユニークな魅力と幅広い演技で、映画にドラマに引っ張りだこの女優・山田真歩さん。そんな山田さんがある映画を出発点に、暮らしのことや仕事のこと、思い浮かんだ情景を感性豊かに書き綴る連載「やっほー!シネマ」、隔月連載中です。)

知人の芝居を観に、ゆりかもめのモノレールに乗って「市場前」という駅に来た。はじめて降りる駅。早く着いたのでカフェに入って本でも読もうと改札を出ると、なんと一面の野原だった。クローバーやツクシがそこらじゅうに生えていて、その間に大きなプレハブのような劇場が見える。コンビニも喫茶店もレストランも見当たらない。遠くに「COFFEE/FOOD」と壁に大きく書かれている建物があったので近づいてみると、入口が見当たらない。食品を扱う工場なのかな、とウロウロしていると、従業員用のドアから男の人が出て来た。「あの、近くに珈琲を飲めるような場所はありますか?」と聞いてみると、「この辺りにはないですね。ずっと歩いて、豊洲駅まで戻っていただければ沢山あるんですけど」と言われた。彼の話によると、ここは築地市場の新しい移転地で今は準備中なのだという。「今年の秋からは、ここも一気に賑わう場所になると思いますよ」とのことだった。

半年ほど前、ある方から『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』というDVDをいただいた。1年4か月もの間、築地に通って取材し、完成させたドキュメンタリー作品だという。その日の夜、家のテレビで観ていたらひどく懐かしい気持ちになった。築地に個人的な思い出があるわけでもないのになんでだろう。「ここに来れば何でもある」というごちゃっとした感じ、そこに集ってくる人たちの生き生きした表情、「築地で働いていることを誇らしく思っている」ということが一人ひとりの体中からあふれ出している。「市場はね、俺の人生を狂わした場所だよ」と、苦笑いしながらもちょっぴり嬉しそうに答える男の人を見て思い出した。私にもそんな“場所”があったのだ。
あれは大学1年の秋、私はある演劇サークルを見学にいった。扉を開けた瞬間、「ああ、ここだ!」と思った。木材や小道具がごちゃごちゃと積み上げられた空間の中で、演劇サークルの人たちが汗だくになりながら大声でラブシーンか何かを演じていた。そのすぐ後ろでは民族研究会の男女がスイスかどこかの民族衣装姿でくるくる踊り回っている。「なんてにぎやかで統一感のない場所なんだろう」。それが大学4年間通いつめることになる“地下ホール”の第一印象だった。
通称“地下ホール”と呼ばれるその場所には、まるで日本中から面白い人たちが集まって来たんじゃないかと思うほど個性豊かな人たちがいた。身長150センチくらいのハンフリー・ボガート似の先輩に、「君、演技がうまくなりたいならドストエフスキーを読めよ」と言われてたくさん本を読むようになった。行けば誰かしらいて、何人か集まると自然にコントや即興劇が始まった。授業が終わると、「今日はどんなことが起きるだろう」とスキップして通ったのを思い出す。
季節ごとに公演があり、書きたい人が台本を書いてきて、皆で投票して作品を選ぶ。ある時はシチュエーション・コメディーだったし、ある時はSF時代劇、またある時は台本なしの即興劇だった。毎回書く人が違うからジャンルはバラバラ。ただ「もっと面白いものをつくりたい」ということだけは一緒だった。背中を見ていきたい人たちがたくさんいたのだ。そこは私にとって日本で一番面白いことが起こっている場所だった。ここが世界の中心なんだと誇りに思える場所だった。『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』に出てくる人たちの顔にもそう書いてあったので懐かしくなった。画面に映るエンドロールを見ながら、「こういう場所を私は今も探しているんだなあ」とつぶやいた。

劇場の外に出ると、もう夕方だった。モノレールの窓から「市場前駅」に広がる野原を見晴らした。ここも昔は海だった。今は埋め立てられて、そして何年か後にはこの光景ももう思い出せなくなるのだろう。
“地下ホール”は今もあるんだろうか。あの時あそこに集った仲間は今どこで何をしているんだろう。そう考えるとなんだか幻だったような気もしてくる。でも、そんなことはない。目を閉じれば、いつでもあの仲間たちのいるにぎやかな場所へ行くことが出来る。そこは、私の出会ったワンダーランドだった。

FEATURED FILM
TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)
BD / DVD発売日: 2017年7月26日
製作年: 2016年
製作国:日本
監督: 遠藤尚太郎
出演:築地で働く人々(仲卸ほか)、すきやばし次郎、鮨さいとう
世界7か国9つの国際映画祭で上映され、絶賛されたフード・ドキュメンタリー。世界一の魚市場と称され、世界中のトップシェフから観光客まで多くを魅了する“築地市場”。撮影困難といわれる築地に、初めて1年4か月に渡る長期撮影を敢行。そこに集う魚のプロフェッショナルたちの日々の営みと、彼らの使命感に満ちた、熱き生き様を捉える。豊かな四季と世界で唯一無二の市場の姿を通して、知られざる日本の食文化の神髄に迫る1作。
PROFILE
女優
山田真歩
Maho Yamada
1981年生まれ、東京都出身。女優。大学卒業後、出版社勤務を経て、2009年に映画『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』でデビュー。同年の『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』で主演に抜擢され、NHK連続テレビ小説『花子とアン』(2014年)をはじめ、映画・TV・舞台で活躍。2016年、主演作『アレノ』で高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞。近作にドラマ『あなたの番です』『シャーロック』、映画『夕陽のあと』など。女優業の傍ら、ブログでの文章・イラスト執筆なども行う。2021年1月よりBSテレ東 土曜ドラマ9『ナイルパーチの女子会』に出演。
RANKING
  1. 01
    映画を観た日のアレコレ No.38
    2021年2月23日
    アナウンサー
    山本匠晃の映画日記
  2. 02
    嗚呼、こんなにも魅惑的な登場人物たち! 第4回
    ホラーよりも怖い!?
    究極の恐怖が一人の父親を襲う『震える舌』
  3. 03
    嗚呼、こんなにも魅惑的な登場人物たち! 第2回
    理解できない! それなのに、危険な存在に惹かれてしまう怖さって?
  4. 「ゆだねられている」という幸せ。緊張と付き合うためのバランス力とは? 『スパイの妻<劇場版>』 04
    蒼井優×高橋一生 インタビュー
    「ゆだねられている」という幸せ。緊張と付き合うためのバランス力とは?
    『スパイの妻<劇場版>』
  5. 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』 05
    どうしても語らせてほしい一本「大事な人と観たい、大事な人に届けたい映画」
    夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
  6. 僕や君が世界とつながるのは、いつか、今なのかもしれない。『チョコレートドーナツ』と『Herge』 06
    シアタールームの窓から 第5回
    僕や君が世界とつながるのは、いつか、今なのかもしれない。『チョコレートドーナツ』と『Herge』
  7. ホラー映画好きが偏愛する、 おすすめホラー映画10選! 07
    歴代の名作から話題作まで。おすすめホラー映画特集!
    ホラー映画好きが偏愛する、
    おすすめホラー映画10選!
  8. 「そうか 戦ってもいいんだ」 08
    映画の言葉『砕け散るところを見せてあげる』蔵本玻璃のセリフより
    「そうか 戦ってもいいんだ」
  9. 街があるから人がいて、 人がいるから出会いがある。 『街の上で』  09
    若葉竜也×穂志もえか×古川琴音×萩原みのり×中田青渚 インタビュー
    街があるから人がいて、
    人がいるから出会いがある。
    『街の上で』
  10. 吉野北人が夢を実現させるため、問い直す「なりたい自分」 10
    吉野北人(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE) インタビュー
    吉野北人が夢を実現させるため、問い直す「なりたい自分」
シェアする