PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語
「好き」と「かっこいい」を突き通すことで、生まれる世界があるそうだ。【後編】

演出家・いのうえひでのり インタビュー

「好き」と「かっこいい」を突き通すことで、生まれる世界があるそうだ。【後編】

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前編に引き続き、「劇団☆新感線」主宰・いのうえひでのりさんにお話を伺います。

いのうえさんは、ご自身の好きなヘヴィメタル・バンドのロックTシャツとジーンズ、そしてキャップがスタンダードスタイルだそうです。取材当日は、“ジューダス・プリースト”というヘヴィメタル・バンドのキャップとTシャツを身につけられていました。日によって、“メタリカ”など、バンドが変わるということ。

「劇団☆新感線」でタッグを組む、脚本担当の中島かずきさんは、いのうえさんと芝居を一緒にするようになってから、小難しい作品ではなく、自分が「おもしろいと思っている」「信じている」マンガ的で映画的な活劇を書こうと決意したとおっしゃっていました。「劇団☆新感線」の舞台の魅力のひとつには、いのうえさんの演出と中島かずきさんが書く脚本の、見事な化学反応にあると言えます。

映画研究会に入りたくて、しかたなく演劇部に入ったいのうえさんと、漫画研究会に入りたくて、しかたなく演劇部に入ったという中島さん、おふたりの出会いから、どうぞ。

「好き」と「かっこいい」、を突き通す。追及することで、生まれる世界があるらしい。【後編】
誰かの思いを駆り立てる「勢い」
それが、劇団☆新感線

前編のインタビューで、いのうえさんは映画研究会に入りたかったけれど、高校にはなかったので演劇部に入ったとおっしゃっていましたが、「劇団☆新感線」の座付作家である中島かずきさんは、同じく漫画研究会に入りたかったけれどなかったので、演劇部に入ったと他のインタビューでおっしゃっていました。そのお二人の出会いは、高校演劇の県大会で中島さんが、いのうえさんの作品に感銘を受けたことがきっかけと伺いました。

いのうえ県大会で僕らが演じた『桃太郎地獄絵巻』を、当時同じく高校生だった中島くんが観ていて、「自分と同じようなことを考えている人がいて、しかも舞台表現として一歩先をいっている!」と感銘を受けてくれたみたいで。後日、彼なりにその台本を書き直して僕に送ってきてくれたんですよ、「鬼殺しの鬼」の話にして。それがよくできた台本で、そこからの付き合いですね。

いのうえさんの好きなものに向かって突き進むパワーが、その頃から中島さんを突き動かし続けているんですね。「劇団☆新感線」の舞台衣装をご担当されていて、映画『GANTS』(2011)の衣裳デザインもされている竹田団吾さんも、県大会でいのうえさんの作品を観て衝撃を受け、後を追うように大阪芸大に進み、「劇団☆新感線」に入られたそうですね。

いのうえ誰かの想いを駆り立てるような「勢い」みたいなものは、昔からあったかもしれません。

「好き」と「かっこいい」、を突き通す。追及することで、生まれる世界があるらしい。【後編】

多くの観客の想いを駆り立てるのは、いのうえさんの「好きなものへ突き進むパワー」を感じてのことかもしれません。大阪芸大では舞台芸術学科へ進まれますが、高校で演劇に出会ってからは「好き」のベクトルが、他にブレることなく演劇へ向いていたということでしょうか。

いのうえ県大会と学園祭で「観客にウケた」ということが僕の中では大きな出来事で、高校卒業の頃には気づけば演劇にどっぷりハマっていました。大阪芸大へ進む頃は、つかこうへいさんの演劇が自分の中で盛り上がっていて、そういう演劇の流れもハマっていく一因でしたね。

つかさんがつくり出す演劇の、どんなところがお好きだったのですか?

いのうえ大学に入って、初めて観たつかさんの作品で今まで味わったことのない感覚を覚えたんです。『いつも心に太陽を』という風間杜夫さんと平田満さんが出演されている男性同士の恋愛の物語なんですが、最初はゲラゲラ笑いながら観ていたんですけど、次第に切なくなっていって。最後は心をぐっとつかまれるような気持ちになりました。映画とはまた違う、演劇の力量みたいなものを感じたんですよね。

「劇団☆新感線」旗揚げ時には、つかさんの作品『熱海殺人事件』を上演され、その後も数多くのつか作品を演じられてきました。それから現在まで、演劇の世界にどっぷりないのうえさんですが、お好きだった映画に少し浮気心が沸くことはありませんでしたか(笑)。

いのうえ高校に入った当初は映研に未練はあったけど、その後はしばらく映画を観るより、仲間と演劇をしている時間の方が楽しくなっちゃったんでしょうね。映画を観ないわけではないけれど、それまでみたいにガンガン観に行くわけではなかったかな。大学入って以降は、学校が山奥にあったということもあって、ずっと芝居していましたね。芝居するか、飲んで寝るか(笑)。でも稽古の合間の一週間に一度だけ、映画館のある大阪・阿倍野に出て、餃子食べて、日活ロマンポルノを観て帰っていました。当時は、根岸吉太郎監督や相米慎二監督など、いわゆる名将と呼ばれる監督が撮っていて、いい作品が多かったんですよ。最初はいやらしい気持ちで観に行くんだけど、最後は感動して帰るんです。「いい映画だったな〜」とか言いながらね(笑)。

(笑)。もし、高校に映研があって、演劇をつくる楽しさを知る前に、映画を撮っていたら、いのうえさんは映画監督になっていたかもしれませんね。

いのうえたまたま先に出会ったのが舞台だっただけで、もし高校で映画を撮っていたら、その後も映画をつくっていたかもしれませんね。それこそ、中学校の同級生に中島哲也監督がいるんですよ。僕も映画にかかわっていたかもしれないですね。

「好き」と「かっこいい」、を突き通す。追及することで、生まれる世界があるらしい。【後編】
「おもしろい」作品を
もっと多くの人に「おもしろい!」と感じてほしい

旗揚げ当時、いのうえさんは「舞台の上に映画やマンガの世界を持ってくる」とおっしゃっていました。まさしく、いのうえさんが「好き」な世界を「大好き」な演劇に詰め込むという、「好き」と「好き」の掛け算でできた世界ですね。

いのうえ映画やマンガ、アニメのようなことを演劇ですれば、お客さんも来やすいかなと思ったんです。当時、舞台はまだ敷居が高い表現だったんですよ。だから僕は、「気軽に来なよ!」と伝えたかった。でも今では、そういうエンターテイメント色が強い演劇の方が多数になってしまって、逆にどうしたものかと思っています。古田新太には「お前のせいだ」と言われましたし(笑)。

敷居が下がって誰でも来やすくなったのはいいけれど、今は作品自体よりもキャストの方に、観客は目がいってしまっているように感じます。演劇独特の「わかりにくさ」や「堅さ」がなくなってしまったような。わからなくても「なんか、おもしろいよな」という部分が。

「敷居が低くなって、より多くの人が観に来てくれるようになったのはいいけれど、演劇特有のおもしろさが伝わっていないかもしれない」というジレンマですね。

いのうえ今って、キャスティングだけでチケットが売り切れることも多いんです。「おもしろい芝居だから」観客が入るわけではなくて、「人気のある出演者が出ているから」チケットが売れる。僕らもキャスティングに力を入れているので、何を言っているんだと思われるかもしれませんが(笑)、その力だけで券が売れて評価されるのではなく、作品自体が単純におもしろいから評価されて、人が入るようになってほしいです。

『恋人たち』(2015年)の映画プロデユーサー深田さんにインタビューした際も、同じジレンマを抱えているとおっしゃっていました。

いのうえ映画も同じ状況ですよね。おもしろい作品でも、東京でさえあまり上映されていない状況があります。でも、最近の「絶叫上映」などの、映画館で臨場感やライブ感を楽しむ盛り上がり方はいいですよね。『アベンジャーズ』の一連の映画のように、お祭りのように楽しむ映画があってもいいと思います。

舞台もチケット代が映画より高いことが多い上に、時間と場所が限定されてしまうから、周りに演劇が好きな友人や親御さんがいないと、なかなかアクセスできない。

「好き」と「かっこいい」、を突き通す。追及することで、生まれる世界があるらしい。【後編】

演劇の映像を映画館で上映する「ゲキ×シネ」は、演劇・映画文化に一石を投じる取り組みでしたよね。カメラを20台ほど入れて舞台を撮影しているので映像に臨場感があり、音響にも迫力があるので、舞台とはまた違ったライブ感の中で楽しむことができます。

いのうえ「ゲキ×シネ」のようにして観ることで、生で演劇を観たいと思ってもらうキッカケにもなるかなと。舞台中継をするのは「演劇を撮りっぱなし」のものが多いように感じていて、あまり好きではなかったんです。でも、舞台を「映像作品」として残すことには興味がありました。デジタル映像を映画館に上映できる体制が整った2003年ごろに声をかけていただいて、ちょうど『阿修羅城の瞳』の再演をしていた時だったので「じゃあ、試してみようか」と。

カメラワークにも、いのうえさんのこだわりがかなり詰まっていると、「ゲキ×シネ」担当の方に伺いました。

いのうえ舞台で観るのと、「ゲキ×シネ」として映画館で観るのと、クオリティに差がでないものにしようと、カメラアングルは結構こだわりましたね。『阿修羅城の瞳』で一度実験的にやってみて、舞台を映画のように見せられることがわかったので、2004年の『髑髏城の七人~アカドクロ』から継続的に「ゲキ×シネ」でやろうと決めたんです。

映像作品として上映するならば、いちばんいい見せ方を考えようと。

いのうえそうですね。舞台は映画でいうと「長回し(長い間カットをかけずにカメラを回し続ける技法)」。だから、映画とはまた違った緊張感がある。そのため「ゲキ×シネ」は、舞台とも映画とも違ったメディアとして扱っています。普段から舞台演出でも、自分なりのカメラアングル的なものを意識して演出しているから、「ゲキ×シネ」で観ても違和感がないんでしょうね。

「好き」と「かっこいい」、を突き通す。追及することで、生まれる世界があるらしい。【後編】

舞台演出における「カメラアングル的なもの」とはどういうことでしょうか。

いのうえ『アテルイ』(2015年歌舞伎NEXT『阿弖流為〈アテルイ〉』として上演。その後、シネマ歌舞伎としても公開)で登場する“阿弖流為”と“坂上田村麻呂利仁”、“鈴鹿”の三人が舞台に立つクライマックスシーンは、時間をかけてそれぞれの立ち位置を決めていきました。客席の真ん中から観ると、どの瞬間も誰に邪魔されることもなく、それぞれの人物が見えるようになっています。だから、映像になった時も違和感がない。

一朝一夕ではできない、長い経験則を経てつくることができたシーンのひとつです。

7月23日からは『メタルマクベス』が上演されます。いのうえさんが宮藤官九郎さんに「シェイクスピアの『マクベス』を映画『マッドマックス』の世界観で」とオーダーして出来た作品と伺いました。いのうえさんの「お好きな映画」とハードロックやヘヴィメタルといった「お好きな音楽」が詰め込まれた舞台を、『髑髏城の七人』に引き続き、観客席が360度回転する新しい劇場“IHIステージアラウンド東京”で。この劇場はいのうえさん以外、演出できないのではないでしょうか。

いのうえそんなことはないと思いますけどね(笑)。でも、どんどん劇場が少なくなっているので、未知数の新しいことに挑んでいかないとなと。劇場がないと僕らはできないですからね。演劇が廃れて欲しくないので、なんとかしなきゃと思います。

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PROFILE
演出家
いのうえひでのり
Hidenori Inoue
1960年1月24日生まれ、福岡県出身。大阪芸術大学芸術学部舞台芸術学科に入学し、在学中の1980年に劇団☆新感線を旗揚げ。「髑髏城の七人」「SHIROH」の演出が評価され第14回日本演劇協会賞を獲得。その後も第9回千田是也賞、第57回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第50回紀伊國屋演劇賞の個人賞などを受賞し、演劇界に地位を築く。2017年にはIHIステージアラウンド東京にて劇団☆新感線『髑髏城の七人』花鳥風月極と上演。2018年7月23日より、劇団☆新感線『メタルマクベス』を同劇場にて上演する。