PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画の余韻を爪にまとう 第12回

カラフルな影を見る
『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』

さりげなく大胆に重ねられた色の配色と、抽象的なモチーフの組み合わせで、10本の爪にイメージを描き出す。そんな爪作家の「つめをぬるひと」さんに、映画を観終わった後の余韻の中で、物語を思い浮かべながら爪を塗っていただくコラム。映画から指先に広がる、もうひとつの物語をお届けします。
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。

今回は1992年に公開された『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』です。
小さい頃から日曜の夕方はちびまる子ちゃんを観ていて、家には録画していたVHSのテープがありました。
そのVHSの中に劇場版の『ちびまる子ちゃん 大野くんと杉山くん』もあって、何回も観た記憶があります。
今年の4月にNetflixで『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』が配信されたのですが、昔観た大野くんと杉山くんの映画には合唱のシーンがあるので、その映画のサブタイトルが「わたしの好きな歌」だと勘違いしてしまい、懐かしい気持ちで再生したところ、全く観たことのない映像が飛び込んできました。
大瀧詠一の「1969年のドラッグ・レース」とともに、極彩色の映像が次から次へと流れてきます。
こんなシーンあったか? と思いながら観続けても、やっぱり観た記憶がない。
まるちゃんが静岡の駅で絵描きのお姉さんに出会うシーンでようやく「これは大野くんと杉山くんの映画ではない」と確信しました。

そんな勘違いで観始めたわけですが、まるでミュージカルのように音楽パートが所々に組み込まれていて、アニメーションには湯浅正明が手がけているパートもあり、92年に作られたとは思えないクオリティーにいちいち衝撃を受けてしまいます。
選曲にもかなり癖があって、中でも花輪くんの好きな音楽として登場する「ダンドゥット・レゲエ」のシーンは、インドネシアの大衆音楽である「ダンドゥット」を曼荼羅のような模様とともに映し出すというかなり攻めたパートで、だんだん「とんでもないものを観てしまった」という気持ちになってきます。
他にも、細野晴臣の「はらいそ」や、笹置シヅ子の「買い物ブギ」、たまの「星を食べる」など、音楽に対しての偏愛が感じられるような選曲になっています。
ここ数年でよく聞く「偏愛」という言葉を今あえて使いましたが、92年に作られたこの映画は今観ても新鮮で、それは「偏愛」が昔から存在していたという、よく考えたら当たり前のことを改めて突きつけられたことの衝撃が「新しさ」に変換されているような感覚。うまく言えませんが、この映画を観ながら感じたのはそういう感覚なのかもしれません。

「わたしの好きな歌」でもう一つ書き留めておきたかったのが、人生の選択についてです。
作中に登場する絵描きのお姉さんは、東京で多くの人に自分の絵を見てもらいたいという夢がありましたが、恋人から一緒に北海道へ行こうとプロポーズをされます。(その恋人は北海道が地元で、両親は酪農を営んでいます。)
今の時代に作られる映画であれば、結婚だけが幸せじゃない、自分の夢を追うべき、という展開になりそうなところを、まるちゃんの後押しもあって、この絵描きのお姉さんは結果的に北海道へ嫁ぐことになります。
東京へ行くことを諦めて結婚を選ぶという展開は、この時代らしさと言ってしまえば簡単なのでしょうが、まるちゃんが後押しをする時に「絵は北海道でも描けるけど、お兄さん(恋人)は一人しかいないんだよ」「お兄さんはいつもお姉さんを見てたよ」というセリフは、結婚や夢という括りで語るのではなく、個人の関わりをシンプルに表しながらも、小学3年生らしさもある、とても絶妙なセリフです。
夢を捨ててまで結婚する意味があるのか、結婚だけが幸せなのか、と他人に語るのは簡単かもしれませんが、実際に自分が選択を迫られると簡単には決められないものだと思います。
私も映画を観ていて「そりゃ北海道でも絵は描けるけど東京で活動したいのも分かる」と共感しつつ、
まるちゃんから放たれる言葉は、世情に左右されたものではなく、あくまでも目の前にいるお姉さんに向き合った言葉だからこそ響くものがあります。

今回の爪は、映画の中で流れる楽曲とその映像をイメージして描きました。
「1969年のドラッグ・レース」や「ダンドゥット・レゲエ」のシーンで描かれる鮮やかな配色だけでなく、「はらいそ」「星を食べる」のシーンで描かれる夜の美しさ、星の集まりを描いた爪や、まるちゃんの好きな歌「めんこい仔馬」をイメージした爪など、多くのシーンを取り入れて制作しました。
肌馴染みなどはあまり考慮せずに作っていますが、映画の世界観や受けた衝撃を忘れないために記録していくような感覚で作りました。
爪のタイトルは「星を食べる」の歌詞からつけています(この歌詞もまた素晴らしいです)。
ただ名曲が矢継ぎ早に繰り出されるだけでなく、制作側の揺るぎない偏愛、一人一人が人生について考えてしまうほどの難しさも含めて一つの映画になっていて、その様子を表す言葉として「カラフルな影」という言葉にはかなり近いものを感じました。

「カラフルな影」

● Pick Up ネイルポリッシュ

Kure BAZAAR ネイルカラー 150 カクタス

Kure BAZAAR ネイルカラー 150 カクタス
右手薬指のストライプ模様や、左手中指の左半分の部分に使用しました。
濃い黄緑で、一度塗りでもしっかり発色します。
ビビッドカラーとしてモチーフを描く時やフットネイルにも使えますが、ネオンカラーではないので柔らかい色とも合います。
初夏から夏にかけてたくさん使いたくなる色です。

● 使用ネイル

○親指
・NAILHOLIC GR713
・NAILHOLIC OR202
・NAILHOLIC PU104
・NAILHOLIC YE502
・et seq.羽根ペンネイルポリッシュ OD1945 斜陽
○人差し指
・NAILHOLIC BL913
・NAILHOLIC SP011
・NAILHOLIC GD036
・paネイルカラー ワンコートONE05
・paネイルカラー ワンコートA186
○中指
・ADDICTION THE NAIL POLISH 007C Pitch Black
・NAILHOLIC YE502
○薬指
・sundays ネイルポリッシュカラー 13 チリペッパーレッド
・Kure BAZAAR ネイルカラー 150 カクタス
○小指
・paネイルカラー S025
・NAILHOLIC BR308
・NAILHOLIC PK830
○親指
・ADDICTION THE NAIL POLISH 026C Good 4 U
・ADDICTION THE NAIL POLISH 008C The Arctic
・ADDICTION THE NAIL POLISH 007C Pitch Black
・ACネイルエナメル 006 濃密 青
・sundays ネイルポリッシュカラー 13 チリペッパーレッド
・SMELLY マニキュア 335 バンビーノ
○人差し指
・ADDICTION THE NAIL POLISH 007C Pitch Black
・OSAJI アップリフトネイルカラー 33 Sunahama
○中指
・Kure BAZAAR ネイルカラー 150 カクタス
・paネイルカラー S025
・sundays ネイルポリッシュカラー 33 ティールブルー
・NAILHOLIC WT080
○薬指
・OSAJI アップリフトネイルカラー 26 Mitsu
・paネイルカラー S025
・NAILHOLIC RD414
○小指
・TMネイルポリッシュ ペールイエロー
・OSAJI アップリフトネイルカラー 24 Rojiura
・KURASHI & Trips PUBLISHING シンボリックネイルカラー 02 フォレスト
・ACネイルエナメル 006 濃密 青

◯Netflixで『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』を観る

↓映画『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』を読む!

『ちびまる子ちゃん―わたしの好きな歌― 』(りぼんマスコットコミックスDIGITAL)

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FEATURED FILM
企画:宮永正隆
原作・脚本:さくらももこ
学校で「めんこい仔馬」という歌を習ったまる子ことさくらももこは、それを図工の時間の絵のテーマにするがどのように描いたらいいか分からなかった。ある日、静岡のおじいちゃん、おばあちゃんの家近くで似顔絵描きのお姉さんに出会い、「めんこい仔馬」は、実は戦争で馬と別れなければならない悲しい歌なのだと5番の歌詞まで教えてもらう。まる子は少年の気持ち、いつまでも忘れないよという心を描く。絵が賞をとった事をお姉さんに知らせようと訪ねると、お姉さんにその歌詞を教えたボーイフレンドが、田舎に帰って牧場をするので一緒に来て欲しいとプロポーズしていた。絵を描きたいから行けないと断るお姉さんに絵はどこでも描けると精一杯の気持ちで言うまる子。そして結婚式の日、そっと学校を抜け出し、絶対忘れないからねと叫ぶのだった。しばらくしてお姉さんの絵が掲載された本が届く。それはまる子が、にわとり小屋の掃除と引き換えに手に入れたばかりの宝物の本と同じものだった。
PROFILE
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。
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