PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画の余韻を爪にまとう 第14回

楽園のような音楽で絶望を悟る
『CLIMAX クライマックス』

さりげなく大胆に重ねられた色の配色と、抽象的なモチーフの組み合わせで、10本の爪にイメージを描き出す。そんな爪作家の「つめをぬるひと」さんに、映画を観終わった後の余韻の中で、物語を思い浮かべながら爪を塗っていただくコラム。映画から指先に広がる、もうひとつの物語をお届けします。
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。

今回はギャスパー・ノエ監督『CLIMAX クライマックス』です。
この映画は、ちょっと検索しただけでも賛否両論で、賛も多いですが、否の意見が「徹底的に否」であるところが興味深いです。
中には「人生で一番嫌いな映画」と書いている人も。人生で一番といえる何かになれるのは、ある意味賞賛にも見えます。
私が数年前に観た際は、「ものすごい映画だけど、もう一度観たいとは思わない」という感想でしたが、時が経つにつれて「何故かはわからないけどもう一度観たい」と頭をよぎるようになりました。
この連載で『CLIMAX クライマックス』についての爪を作ってみたいという興味もあって、最初の鑑賞から数年経った今、あらためてこの『CLIMAX クライマックス』を観てみることにしました。

(今回の記事はややネタバレありです。ラストには触れませんが、これから観ようと思っている人は鑑賞後にお読みください。)

22人のダンサー達が参加するのは、海外公演に向けてのリハーサルも兼ねた打ち上げパーティー。
そこで振る舞われたサングリアに、何者かがLSDを混入。集団薬物中毒に陥る。
内容そのものはシンプルで、基本的には時系列順で進むので、そういう意味ではわかりやすいのですが、癖が相当強いです。
映画の締めであるはずのエンドロールが最初に現れ、中盤では怒涛のような数のロゴで表示されるスタッフクレジット。
反転した字幕。画面が上下が逆さになったまま何分も続くシーン。映画タイトルは一番最後。
奇を衒うどころではなく「他と同じことをして何が面白い?」と言われているような、アッパーな喝を感じます。

私が最初の鑑賞で感じたのは、前半のダンサー達によるオーディションインタビューや雑談パートの異様な長さです。
後半ではかなりの胸糞要素もあるのですが、私はそれ以上にこの雑談の長さが気になっていました。
一体何を見せられているのか。この時間は必要なのか。 映画を観た人の感想でも、あの長さについて書く人は多くて、私自身もそのことは強烈に覚えていました。
しかし、映画を最後まで観て、そのあと数年経って、今回の記事を書くために二回目の鑑賞をしたところ、あの雑談が実は結構大事な箇所であることに気付きました。

冒頭のインタビュー映像もそうですが、あの雑談はちゃんと後半に繋ぐ要素が散りばめられていたのです。
薬物についてどう思うか。兄による妹への干渉。徐々に猥談の質が生々しくなっていく人。中絶についての問い。
最初は統率のとれていたダンサー達が徐々に狂い始め、各々のストッパーが外れていく様子は、インタビューや雑談でそれぞれが抱えていた事情や思想と繋がる部分が見えてきます。
兄妹のシーンが一番わかりやすいですが、他にも発言と行動が一貫している登場人物は多いです。

私がこの映画で好きなのはなんといっても音楽です。
1996年という時代設定を反映した選曲にもなっていて、サントラは何周でも聴けてしまうほど大好きです。
私は昔、仕事が辛い時に再生していたプレイリストがあって、通勤時に何度も聴いていたのですが、その中には『CLIMAX クライマックス』のサントラにも収録されている、Aphex Twinの「Windowlicker」も入ってました。もう何回聴いたことか。
曲自体は「辛い時に聴く音楽」という感じではないし、何にそこまで励まされたのか自分でもわかりませんが、聴いているだけでなんだか平気な気がしてしまう。無敵な気がしてしまうのです。

Cerroneの「Supernature」に合わせて約5分間繰り広げられるダンサー達のパフォーマンスは何度でも観たくなります。
Daft PunkのThomas Bangalterによる「What to do」に合わせて流れるスタッフクレジットのシーンでは、作中で使用された楽曲のアーティスト名が、ちゃんとアーティストロゴになっている部分も、観ていて心を掴まれます。
(Daft Punkのロゴが一番わかりやすいかもしれません。)
ちなみにそのThomas Bangalterの「Sangria」は、この「CLIMAX」のために提供された楽曲です。

映画の終盤では、ダンサー達の興奮状態が加速して、もう収拾のつかない最悪の状況になるのですが、その絶望的な空間で流れるのがGiorgio Moroderの「Utopia Me Giorgio」です。

携帯のない時代なのでどこにも連絡できない、声をあげても届かない、誰も頼りにならない。
欲望の箍が外れて性と死と狂気に満ちた地獄絵図。決して誤字ではなく、生のない性がそこにはあります。
そんな閉鎖的空間の中でこの曲は、もう絶望から戻ってこれないことを暗示しているかのようです。
「もう終わりだ」という時に、やたらと明るい音楽がかえって絶望を増幅させるというこの演出。
何かに似ていると思ったのですが、スタジオジブリの『かぐや姫の物語』で、月から天人たちがかぐや姫を迎えにくるシーンをご存知でしょうか。
人間の手では太刀打ち出来ない、抗いようのない圧倒的な天人たちの登場の際に、サンバのような音楽が流れた瞬間の絶望感。
陽気で優しい音楽に、ここまで絶望的で怖くてぞっとしたのは初めてでした。
Giorgio Moroderの「Utopia Me Giorgio」は、その時の衝撃に近いものがあります。

今回の爪は、そんな絶望的空間を象徴する赤に、人間とは思えない肉体の動きや、制御できない精神性を描きました。
あらぬ方向に曲がる腕や、手と足が上下逆さに見える様子。
薬指の水色と白は、雪のシーンや、とあるシーンの部屋の色を、混沌とした模様で表しています。
台紙に置かれたつけ爪の配置も、上段は逆さに置いています。どちらが上で、どちらが下なのか。人の判断を乱す爪を作ってみました。
タイトルはフランス語で「神」という意味です。作中にたびたび出てくる言葉は妙に記憶に残ります。

「Dieu」

● Pick Up ネイルポリッシュ

NAILHOLIC RD414

NAILHOLIC RD414
今回9枚の爪のベースカラーに使用しました。
シアーなポリッシュだと結構透けてしまうのですが、今回は解放感をおさえて、どっぷりとした見え方にしたかったので、できるだけ透けないポリッシュを使いたくて、この色を選びました。
マットコートを重ねてツヤを抑えることで、より映画の閉鎖的空間に寄せています。

● 使用ネイル

薬指以外はベースカラーにNAILHOLIC RD414とSP011(マットコート)を使用。
○親指
・TMネイルポリッシュM ブラック
・TMネイルポリッシュM ホワイト
・sundays ネイルポリッシュカラー Tara stiles Inspire
○人差し指
・sundays ネイルポリッシュカラー 05 ライトライラック
・paネイルカラー S064
○中指
・NAILHOLIC YE505
○薬指
・TMネイルポリッシュM ホワイト
・ACネイルエナメル 007 濃密 緑
○小指
ベースカラーのみ
○親指
・TMネイルポリッシュM ブラック
・TMネイルポリッシュM ホワイト
・paネイルカラー S064
・sundays ネイルポリッシュカラー Tara stiles Inspire
・NAILHOLIC BL908
・NAILHOLIC YE502
・NAILHOLIC RD414
○人差し指
・TMネイルポリッシュM ホワイト
・NAILHOLIC BR306
○中指
・ヴィーガンネイル 003 フレッシュグリーン
・NAILHOLIC SV029
○薬指
・カラーネイルセレクション 12a
・TMネイルポリッシュM ホワイト
・NAILHOLIC RD408
○小指
・OSAJI アップリフトネイルカラー 33 Sunaarashi
・NAILHOLIC RD403

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FEATURED FILM
Blu-ray 発売中

Blu-ray:5,280円(税込)
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
© 2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS
PROFILE
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。
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