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映画の余韻を爪にまとう 第9回

人間がもつ機微の面白さ
『アメリカン・ユートピア』

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さりげなく大胆に重ねられた色の配色と、抽象的なモチーフの組み合わせで、10本の爪にイメージを描き出す。そんな爪作家の「つめをぬるひと」さんに、映画を観終わった後の余韻の中で、物語を思い浮かべながら爪を塗っていただくコラム。映画から指先に広がる、もうひとつの物語をお届けします。
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。

今回は2021年5月に公開された、スパイク・リー監督の『アメリカン・ユートピア』です。
元Talking Headsのデイヴィッド・バーンによるアルバムがブロードウェイで舞台上演の後、映画化された本作。
ライブストリーミングスタジオ「DOMMUNE」で特集番組が配信されているのを観たり、委託先や仕事でお世話になっている方からも勧められたりして気になっていたのに、個展の制作や引っ越しの内見をしているうちに上映期間が終わってしまいました。
今年の1月に個展を終えて、3月に引っ越しをしたのですが、諸々が落ち着いたタイミングでAmazon Primeでの配信が開始されたので、これはご褒美なのでは、と勝手に解釈しながらようやく観ることができました。
個人的にはTalking Headsの「Once in a Lifetime」という曲が好きなので、あの遠くで鳴っているようなキラキラした音が聞こえた時は興奮しました。

『アメリカン・ユートピア』はライブやミュージカルのようでもあり、政治的主張もまじえながら演劇の要素もあって、何かを発信することにおいてのあらゆるジャンルを詰め込んだ作品です。
ジャンルの詰め合わせ自体は最近だと珍しくないかもしれませんが、この作品では、出演者が裸足で舞台上を移動し、アンプなどの機材やケーブルも置かず、舞台装置や小道具も最小限に抑えられていて、徹底的に無駄が排除されているので、大事なところだけ濃縮されたものを観ているようでした。
濃縮された作品というのは、出る側も見る側もついつい肩に力が入って、張り詰めた緊張感の中で観てしまいそうにもなるのですが、デイヴィッド・バーンを始めとする出演者たちは肩に力が入りすぎておらず、風刺やユーモアをまじえた軽快なパフォーマンスで、観ているこちらも気楽に観ることができます。

重厚なものを軽快に見えるように伝えること、緻密に作られたものを「緻密ですよ」と伝えないことは簡単なようで難しいです。
こう書くと拙いかもしれませんが、演奏陣は演奏だけに特化しているわけではなく、歌唱もできて、身体の動きには鈍さがなく、むしろ「慣れ」まで感じるので、相当技術のある人が集まっているんだろうなという印象を受けました。
鍛錬された技術があるからこそ生まれる余裕。基礎があるからこそできる応用。
音楽や映画、演劇だけでなく、何かを作る人(広すぎますが)には刺さるものがあると思います。

作中には「ウルソナタ」(※)という言葉が出てきます。
人間の声を特定の言語でも擬音でもなく音として、楽器を演奏するように発するものです。
昨年、東京都現代美術館で開催された「クリスチャン・マークレー トランスレーティング [翻訳する]」という展示の関連イベントで、グラフィック・スコア(図形楽譜)「NO!」という作品を、ヒカシューの巻上公一さんが声で演奏されていましたが、それを思い出すような「音」としての声が発せられていました。体から出るものが”音声”ではなく”音”になった瞬間、人間が楽器の一種のような、物体と化してそこにいる様子を見て、ぞくぞくしたのを覚えています。

「ウルソナタ」と繋げていい話かはわかりませんが、映画の中で「人間を見ているのが面白い」というセリフがあります。
人が何かを享受することや、何かを発することは、数ミリ単位の違いで全く異なるものとして広がり、一つとして同じものがない多様な表情をこの世に生んでいくのだと思います。
舞台を裸足で歩くことで、足の裏から直に感じるものがあってこそ出る音もあるでしょうし、なんでもないような言葉(作中では「未払いの請求書」や「ソニーのテレビ」といった言葉が登場します。)が、私たち一人一人に、それぞれ微妙に違うであろう感情を置いていくのです。
それらの身体的な触覚や、精神的な感情としての受け取り方・発信のやり方は、人の数だけ無数に存在していて、隣にいる人間一人のことを観察するだけでも、わずかな情報から分かることがたくさんあって、私たちの生活や関係を彩っていくのだと思います。

今回の爪は、映画を観たあとに感じた「人間がもつ機微の面白さ」を爪にしてみました。
右手中指の白と水色が滲んだような模様は、液を多めにのせたあと、ネイルポリッシュの刷毛や筆を使わず、小指の腹をつかって色を滲ませて作ったものです。
指にネイルポリッシュがつくと「ついてしまった」という残念な感情になると思いますが、今回は「身体で描いてみる」ということを存分に楽しんでみました。

※ウルソナタ…ドイツの芸術家、クルト・シュヴィッタース(-1948)が発表した、音(声)を使ってソナタ形式に構成される「音響詩」のこと。

「physical」

● Pick Up ネイルポリッシュ

エレガンスラズル「Cocalero」

エレガンス ラズル エナメルラッカー 02 「Cocalero」
薬指の爪には、エレガンスラズルの「Cocalero」という名前のネイルポリッシュを使用しました。
コカレロはクラブやキャバクラ、音楽フェスなどで飲まれているお酒で、南米のハーブが使われており、鮮やかな黄緑色をしています。
映画の世界観とは違うと思われるかもしれませんが、『アメリカン・ユートピア』に登場する人物たちは ヨーロッパや南米など、多様なルーツをもつメンバーで構成されており、その世界の広さが感じられるような色を使いたくて選んでみました。

● 使用ネイル

○親指
・paネイルカラーワンコート ONE05
・MP AT濃密グラマラスネイルエナメル21
・OSAJI アップリフトネイルカラー 13 Yorimichi
・TMメタルカラーネイル ゴールド
・seas by merewif coney island
○人差し指
・OSAJI アップリフトネイルカラー103 Yoin
・MP AT濃密グラマラスネイルエナメル21
・TMメタルカラーネイル ブルー
・sundaysネイルポリッシュカラー 13 チリペッパーレッド
○中指
・NAILHOLIC PU140
・MP AT濃密グラマラスネイルエナメル21・11
○薬指
・エレガンス ラズル エナメルラッカー 02 Cocalero
・NAILHOLIC RD414・WT080
○小指
・sundaysネイルポリッシュカラー 27 パウダーローズ
・TMネイルポリッシュA ペールイエロー
・NAILHOLIC RD417
○親指
・UGTカラーネイルセレクション12a
・OSAJI アップリフトネイルカラー 21 Juuniji
・ホーリーネイル GREEN CHILI
○人差し指
・NAILHOLIC PK830
・ACネイルエナメル 008 濃密黒
○中指
・OSAJI アップリフトネイルカラー28 Pandora
・paネイルカラー S004
○薬指
・OSAJI アップリフトネイルカラー28 Pandora
・paネイルカラー S004
○小指
・paネイルカラー S025
・NAILHOLIC RD414・OR207・YE502・BL924
・ホーリーネイルARABIAN PURPLE
・sundaysネイルポリッシュカラー 13 チリペッパーレッド

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FEATURED FILM
グラミー賞受賞アーティスト デイヴィッド・バーン×オスカー監督 スパイク・リー
一生に一度の、至福の体験!
伝説のブロードウェイショーがいま幕をあける。
2020年世界的コロナ禍のため再演を熱望されながら幻となった伝説のブロードウェイショー。グレーの揃いのスーツに裸足、配線をなくした自由自在に動き回るマーチングバンドが圧倒的なダンスパフォーマンスを見せる。元トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンと11人の仲間たちが、混迷と分断の時代の悩める現代人を”ユートピア”へと誘う。80年代の傑作『ストップ・メイキング・センス』から、更なる進化を続けるデイヴィッド・バーンが、何よりも人生を楽しむことの大切さを呼び掛ける。この喜びに満ちたステージを⻤才スパイク・リーが完全映画化。
監督:スパイク・リー
出演ミュージシャン:デイヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン、クリス・ジャルモ、ティム・ケイパー、テンダイ・クンバ、カール・マンスフィールド、マウロ・レフォスコ、ステファン・サンフアン、アンジー・スワン、ボビー・ウーテン・3世
字幕監修:ピーター・バラカン
配給:パルコ
PROFILE
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
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