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映画の余韻を爪にまとう 第3回

歪でも異常ではないギラつきと揺らぎ『勝手にふるえてろ』

さりげなく大胆に重ねられた色の配色と、抽象的なモチーフの組み合わせで、10本の爪にイメージを描き出す。そんな爪作家の「つめをぬるひと」さんに、映画を観終わった後の余韻の中で、物語を思い浮かべながら爪を塗っていただくコラム。映画から指先に広がる、もうひとつの物語をお届けします。隔月連載です。
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。

今回は2017年に公開された、松岡茉優主演、大九明子監督の『勝手にふるえてろ』を観ました。
『あまちゃん』や『桐島、部活やめるってよ』の頃から、なんだか演技が頭から離れない、松岡茉優さんの初主演映画です。
イチ(北村匠海)とニ(渡辺大知)の間で揺れ動く主人公・良香(松岡茉優)の群像劇、と一言で言うのは簡単かもしれませんが、良香がかなり振り切った演技をしていながらも、実際こういう人はたくさんいるし自分もこういうところあるな、と思わざるを得ないような、現実の人間にかなり近い描写が多いので、個人的にも大好きな映画です。
クイーンのフレディ・マーキュリーに似ていることから良香が勝手に「フレディ」と呼んでいる課長とのシーンや、大音量で音楽を聴きながら家事をしたり、好きなものにキラキラした笑顔を見せたりと、全部書いたらキリがないくらい、この主人公にはどうしても親近感が湧いてしまいます。

私は中高生の頃、30代になった自分はもっとしっかりしていると思っていました。
しかし、実際30代になってみると全然そんなことはなくて、今でもいろいろな物事にあたふたして、浮いたり沈んだり、弾けたり微動だにしなかったりします。
子供が好きそうな食べ物が好きだし、寝相は悪いし、おまけにぬいぐるみと一緒に寝ます。改めて書いたら恐ろしいですね。
かえって20代の頃のほうがまだ大人だったというか、生活に必要なことがだいたい一人で出来ていたので、しっかりしていたような気もするのですが、恋愛のことだけでいえば、20代の私は今よりもちゃんと(?)子供 だったなと思います。

例えば、作中で良香が「好きなんだから耐えろ!」といったことを言うシーンがありますが、自分も過去にそういう振る舞いをしてしまっていたのかもな……と振り返っては黒歴史〜と忘れ去りたくなる人は私だけではないはず。

この映画で一番印象的なシーンが、良香のアパートの廊下でニと口論し、ご近所さんに見られたことで二が良香の部屋に入り込む瞬間、玄関に踏み入れる彼の足がスローで強調されているシーン。
心の中に土足で入りこむというよりも、良香のテリトリーに初めて他者が介入できた象徴のようなシーンです。
二が良香に、いくら好きでも相手に全部むき出しでしなだれかかるのはよくないよ、といったことを言うシーンでは、相手を傷つけずに真理を伝える天才かと思いました。
それまで人との関わりがあるようで実は孤独だった良香が、初めて人となにかを交わし、
ニもニで割と言ってることはめちゃくちゃなんですが、良香と向き合うことにただただまっすぐで、どちらも人間臭さがあって愛着が湧きます。
(余談ですが、ご近所さんとして登場する片桐はいりの存在感も健在です。
 一緒にいる柳俊太郎はD.A.Nの「SSWB」という曲のMVで知ってから気になっている俳優さんです。こちらも存在感大。)

あまりに好きなシーンが多すぎて(なんなら書き足りない)、好きなシーンの羅列のような文になってしまいましたが、今回の爪は、イチとニと良香をはっきりとそれぞれの色にあてはめて制作しました。
過去の思い出の中で儚くもありながら、あっさりと消えてしまいそうなイチは、細かい粒子で構成されたベージュの爪に。
ニの爪は、前述した玄関のシーンから、まっすぐと、良香のテリトリーに足を踏み入れようとしている時の、コンクリートのようなグレーの爪にしました。
その間に漂っているメタルグリーン。
作中に「歪」という言葉が出てきますが、
歪でありながらも、異常とまでは言い難いような良香を、ギラつきと揺らぎを持ち合わせたグリーンのモチーフで表してみました。
親指に2色で滲ませたモチーフを描いたのは、登場人物それぞれに二面性があることを示しています。
特にイチは、良香から見たイチと、実際にイチ本人が感じていたこと、周囲の同級生からみたイチとのギャップがまた印象的でした。
印象的印象的とうるさくなってしまうほど印象に残りすぎですが、それくらいいろいろと心をかき乱される感じがなぜか心地よい映画なので仕方ないです。

●使用ネイル

  • ベージュ OSAJI アップリフトネイルカラー 16 Eri
    (白の上から塗っています)
  • 濃いグレー FIVEISM×THREE ネイルアーマー 07 JG xkss
  • メタルグリーン TMメタルカラーネイル ブルー
    (どう見ても緑にしか見えませんが色の名前はブルーで販売されています)
  •  MP AT濃密 グラマラスネイルエナメル21
  •  HOLI NAIL ARABIAN PURPLE
  •  NAILHOLIC RD 408
BACK NUMBER
FEATURED FILM
監督・脚本:大九明子
原作:綿矢りさ 『勝手にふるえてろ』(文春文庫)
出演:松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海、趣里、前野朋哉、古舘寛治、片桐はいり
芥川賞作家・綿矢りさの原作を松岡茉優主演で映画化したラブコメディ。24歳のOL・ヨシカは、中学の同級生・イチに10年間片思い中。イチとの思い出や趣味に浸りながら、忙しい毎日を送っていた。そんなある日、会社の同期である男性に告白される。
PROFILE
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。
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