PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画の余韻を爪にまとう 第13回

綺麗事など存在しない世界
『首』

さりげなく大胆に重ねられた色の配色と、抽象的なモチーフの組み合わせで、10本の爪にイメージを描き出す。そんな爪作家の「つめをぬるひと」さんに、映画を観終わった後の余韻の中で、物語を思い浮かべながら爪を塗っていただくコラム。映画から指先に広がる、もうひとつの物語をお届けします。
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。

今回は11月23日公開の、北野武監督による最新作『首』です。
私は、小さい頃に親が『Dolls ドールズ』(2002)を観ていた記憶と、高校の文化祭でダンス部の女子達が『座頭市』(2003)のテーマ曲で踊っていたのを見た記憶があるだけで、その後は北野作品に触れる機会がありませんでした。
単純に触れる機会がなかっただけで、なぜか通ってこなかった北野作品。

©2023 KADOKAWA ©T.N GON Co.,Ltd.

そんな私がなぜ『首』について書くことになったのかというと、織田信長役で出演されている加瀬亮さんの「柔らかいイメージから離れた役」の演技が昔から好きで、『首』の予告編で尾張弁を撒き散らす加瀬亮さんを観て、これは絶対公開日に見ようと意気込み、前々から観たかった『アウトレイジ』(2010)と、夫に勧められた『HANA-BI』(1997)を今更ながら鑑賞しました。
この連載では「アウトレイジ」について書こうと思っていたのですが、担当の方から「それなら北野監督の最新作『首』で書くのはいかがですか?」とお声がけいただき、9月頃に試写会へ。
北野作品に触れて間もない私が書くのは恐縮ですが、ここはせっかくの機会。文章も爪も、念入りに取り組んでまいります。

とはいえ、当然ネタバレなしで書くことになるので、どうしても俳優さんの話に偏ってしまうのですが、今回私が一番驚いたキャスティングが副島淳さんです。
いつも朝はNHKの朝ドラからの流れで「あさイチ」を見ているので、どうしても「あさイチの副島淳さん」というイメージが強く、この『首』にどう登場されるのか全く想像できなかったのですが、作中では織田信長の側近・弥助として出演されています。
(Netflixのオリジナルアニメ『Yasuke』で主人公・ヤスケ役を副島淳さんが演じられていることを後から知りました。こちらは弥助が主人公として描かれていて、音楽がフライング・ロータスというのも気になります。)
弥助は、戦国時代に日本に渡来した黒人男性で、実際に本能寺の変でも明智軍と戦った人物とされています。
『首』は「戦国版アウトレイジ」と言われているのをたびたび目にすることがあり、確かに戦のシーンでもそうでないシーンでも、人がばったばったと死んでいく様は『アウトレイジ』に近いものがありますが、私がより具体的に、そして瞬間的に「アウトレイジだ」と感じたのは、この弥助が出てくるシーンの“とあるセリフ”でした。
本能寺の変の描き方もかなり独特で、最初は脚色だと思っていたのですが、後から調べると忠実かもしれない諸説の部分が入っていたりして、時代考証の面でもかなり練られていることが分かります。
(『首』の完成報告会見でも北野監督が、本能寺の変についての動機や詳細は80ほどの説があるという話をされています。)

会見でも北野監督が「戦国を題材にした映画やドラマはどれも綺麗すぎる」という話をされていましたが、この『首』にはヒーローがいません。
明智光秀(西島秀俊)は一見すると真面目で、忠誠心がありながらも自分の中にある正義を奮い立たせて信長に立ち向かう、という人物に見えますが、そんな光秀を含む全員が互いを探り合い、騙し合う様子には生優しいものが存在しません。
黒田官兵衛(浅野忠信)が人を言いくるめる時の胡散臭さや、千利休(岸辺一徳)の何かを刺すような目線は、観ているだけで畏怖からくる笑いのようなものがこみ上げてしまいます。
実際に私は観ながら口角が上がっていました。
予告編では戦にびくびく怯えている様子だった百姓の茂助(中村獅童)ですら、だいぶ序盤で裏切られます。もう誰も信じられません。
(余談ですが、そんな中で私が唯一親しみを持ってしまった人物は「鯛を食べるおじいさん」です。一瞬の登場なので、ぜひ劇場で確認してみてください。)
綺麗事ばかりではなく、というよりも、綺麗事など最初から存在しないような世界観は、一貫性があって気持ちが良いです。
北野作品らしいお笑いの要素も入っているのですが、笑いと死が間髪入れず交互にやってきて、それがあたかも日常であるかのように誰一人として疑うことなく、淡々と互いの命が消えていきます。
そんな彼らは正気なのです。
その正気を、私たちは「常識を覆す」「破壊的」「狂気」という言葉で表したとしても、彼らからすると誰かをヒーローに仕立てて、正義感と誠実さをもって正面から敵に立ち向かう人物、なんてもののほうが嘘に思えるのかもしれません。
『首』のキャッチコピーとして「狂ってやがる。」という言葉が書かれていますが、それがあの時代の日常で、生活そのものだったとしたら、今の私たちがおかれている状況や常識、時代劇とはこういうものだという認識のほうが、あの時代を生きた人から見ると正気ではないのかもしれません。

今回の爪は、戦国時代の壮烈さや、腹の中が読めない様子を黒や金で表しています。
映画の公式サイトや、ポスタービジュアル、そして『首』というタイトルの字にも所々に走っている棘のようなモチーフを親指の爪に描いています。
個人的にはっとしたのは、安土城のシーンで織田信長と家臣たちのいる部屋の壁の藍色です。
あの藍色をネイルポリッシュで探すのは難しかったのですが、白に紺を重ねたり、青に深めの青を重ねたりして、試行錯誤しながら親指の青を作りました。
『首』には山や森での戦闘シーンが多く、かなり緑が映えている印象もあったので、小指には何色もの緑を重ねて塗っています。

左手薬指の赤い爪は、円柱のような物体が切断されたようなモチーフにしていて、その断面は心臓のような形をしています。 左手の小指の爪は、黒の上から赤いラメを描いたように見えますが、これは赤いラメの上から黒を殴り塗りしたものです。
赤い液体がへばりついているような質感を出したかったのですが、黒の上から赤を描いてしまうと、どうしても赤いポリッシュが下地の黒の影響を受けてしまって鮮やかに見えなかったり、通常の赤だと少しマットすぎる見え方になるので、赤と黒を逆にしてラメを使うことで、赤の鮮やかさと液体としてのテカりが出るようにしました。
つけ爪が乗っている台紙は、黒い台紙を首の皮一枚でつながっているような形に切り取ってみました。

「刎ねる天命」

● Pick Up ネイルポリッシュ

SMELLY マニキュア 011 シアープール

SM34-4NA001 シアープール

安土城にいる信長のシーンで印象的だった壁の藍色。青すぎず、紺すぎないあの色をなんとか爪に取り入れたくて、何通りもの青を重ねて試行錯誤した結果、通常の青(今回はNAILHOLIC 908を使用)に、このシアープールを重ね塗りすることで、あの藍色に近い色を出すことができました。
シアーネイルの良いところは、下に重ねる色次第で、何通りもの色を作り出せるところ。
単色でもよく使っていますが、青をもっと深くしたい時にもぴったりの色です。

● 使用ネイル

○親指
・NAILHOLIC BL908
・NAILHOLIC SP011
・NAILHOLIC WT080
・SMELLY マニキュア 011 シアープール
○人差し指
・TMネイルポリッシュM ブラック・ホワイト
・sundays ネイルポリッシュカラー 13 チリペッパーレッド
・NAILHOLIC GD037
○中指
・TMネイルポリッシュM ブラック・ホワイト
・sundays ネイルポリッシュカラー 13 チリペッパーレッド
・NAILHOLIC GD037
○薬指
・TMネイルポリッシュM ブラック・ホワイト
○小指
・TMネイルポリッシュM ホワイト
・paネイルカラー S058
・Kure BAZAAR ネイルカラー 150 カクタス
・NAILHOLIC GR 706
・NAILHOLIC GR 713
○親指
・FIVEISM×THREE ネイルアーマー 07 JG xkss
・NAILHOLIC SP011
・TMネイルポリッシュM ホワイト
○人差し指
・TMネイルポリッシュM ブラック
・NAILHOLIC GD036
○中指
・TMネイルポリッシュM ブラック・ホワイト
○薬指
・NAILHOLIC RD414
・TMネイルポリッシュM ブラック・ホワイト
○小指
・NAILHOLIC RD403
・NAILHOLIC RD471
・TMネイルポリッシュM ブラック

↓映画『首』の原作を読む!

『首』 (角川文庫)

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INFORMATION
『首』
監督・脚本・編集:北野武
ビートたけし
西島秀俊 加瀬亮 中村獅童
木村祐一 遠藤憲一 勝村政信 寺島進 桐谷健太
浅野忠信 大森南朋
六平直政 大竹まこと 津田寛治 荒川良々 寛一郎 副島淳
小林薫 岸部一徳
原作:北野武『首』(角川文庫/KADOKAWA刊)
©2023 KADOKAWA ©T.N GON Co.,Ltd.
天下統一を掲げる織田信長(加瀬亮)は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・荒木村重(遠藤憲一)が反乱を起こし、姿を消す。信長は明智光秀(西島秀俊)、羽柴秀吉(ビートたけし)ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じる。

「働き次第で俺の跡目を指名する。いいか、荒木一族全員の首を斬ってしまえ!ただし、村重だけは殺すな。俺の前に必ず連れてこい!」

秀吉は弟の羽柴秀長(大森南朋)、軍司・黒田官兵衛(浅野忠信)とともに策を練り、千利休(岸部一徳)の配下で元忍(しのび)の芸人・曽呂利新左衛門(木村祐一)に村重の探索を指示する。秀吉は逃亡した村重を利用し、主君の信長と光秀を陥れ、密かに天下を獲ろうと企んでいたのだ。新左衛門によって捕らえられた村重は光秀に引き渡されるが、光秀は村重を殺すことができず、城に匿う。同じころ、成り上がり者の秀吉に憧れる百姓の難波茂助(中村獅童)は村を飛び出し、戦場へ。そこで出会った新左衛門は、出世して大名を目指そうとする茂助に天下一の芸人になることが夢の自分を重ね、ふたりは行動をともにすることになる。村重の行方が分からず苛立つ信長は、村重の反乱の黒幕が徳川家康(小林薫)だと考え、光秀に家康の暗殺を命じる。だが、秀吉は家康の暗殺を阻止することで信長と光秀を対立させようと目論み、その命を受けた新左衛門と茂助がからくも家康の暗殺を阻止することに成功する。家康を排除したい信長は、京都・本能寺に茶会と称して家康をおびきよせる計画を光秀に漏らす。信長を討つ千載一遇の好機を得た光秀は、村重に問う。

「これは……天命だと思うか?」

信長への愛憎入り乱れた感情を抱きながら、ついに信長の“首”を獲る決意を固めた光秀。
一方、秀吉は家康を巻き込みながら天下取りのために奔走する。
武将たちの野望、芸人と百姓の野望、それぞれの野望が“本能寺”に向かって動き出す。
果たして、この“首”の価値は如何に?
PROFILE
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。
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