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映画の余韻を爪にまとう 第6回

楽譜から見える人柄と情景
『蜜蜂と遠雷』

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さりげなく大胆に重ねられた色の配色と、抽象的なモチーフの組み合わせで、10本の爪にイメージを描き出す。そんな爪作家の「つめをぬるひと」さんに、映画を観終わった後の余韻の中で、物語を思い浮かべながら爪を塗っていただくコラム。映画から指先に広がる、もうひとつの物語をお届けします。
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。

私は子供の頃、10年ほどピアノを習っていました。
最初はクラシックを習っていましたが、中学の頃に映画『アメリ』を観たことでアメリのピアノ曲を弾くようになり、ピアノの発表会でも「La valse d’Amelie」というアメリのテーマ曲を弾いたのを覚えています。
私が映画を観るようになったのはその頃からかもしれません。

今回は2019年に公開された、松岡茉優主演、石川慶監督の『蜜蜂と遠雷』です。
昨年Amazonプライム・ビデオで見て、この記事を書くために再度鑑賞しました。

松岡茉優の演技は終始、瞬きが惜しくなるほど見入ってしまいますし、鈴鹿央士の演技も新人とは思えなくて、昨年観たときにはエンドロールで思わず検索してしまったほど。
そして中盤で存在感を放つのは、鹿賀丈史演じる指揮者・小野寺。
小野寺が登場した瞬間、あまりの迫力に圧倒されて、初見の時は少し笑ってしまいました。
鹿賀丈史という、もうそこにいるだけで威厳という文字が見えるような方に、紫のタートルネックを着せたスタイリストさんに拍手を送りたいです。
個人的に好きなシーンは、マサル(森崎ウィン)が黄色のランニングウェアを着て海岸やビルの近くを走るシーンです。
ピアノコンクールが舞台の映画なので、終始「音」が主軸となった描写が多いなか、
このシーンは視覚的に観ていて気持ちがよく、無駄がなくてシンプルで、整頓されたバランスの映像が印象的です。
的確な例えかは分かりませんが、どこを切り取ってもMacの壁紙にできる。そんなシーンです。

この映画に出てくる演奏者たちと自分を重ねられるほどの実力は全くありませんが、小学校の卒業文集に、将来の夢はピアニストと書いたような気がします。
今はもう全く弾けないのですが、でもピアノを習っていた経験があるからこそ、練習していた頃を思い出すシーンは所々にあります。
映画の中盤、マサルがオケとのタイミングに苦戦し、本番前に一人で練習しつつも、うまくいかずに頭を抱えるシーンがあるのですが、私も子供の頃、練習でうまくいかない時があるとこんな感じでイライラしたことを思い出しました。弾けなくて悔しい時はああなります。

ピアノが弾けない時のイライラに共感する場面もあれば、思い通りに弾けた時の達成感や気持ち良さに共感する場面もあります。
亜夜(松岡茉優)がセルゲイ・プロコフィエフの「ピアノ協奏曲第3番・第1楽章」を弾くところは、息が止まるような爽快感(ちぐはぐな言葉ですね)があって、とにかく見ていて胸を打つものがありました。
まずこの曲自体がめちゃくちゃかっこいいので聴いてみてほしいです。
この記事を書いているときも、今回のつけ爪を制作しているときも、この曲ばかり聴いていました。

爪を制作するにあたって、ずっと頭から離れなかったのが、「春と修羅」のカデンツァ部分(自由演奏)の各登場人物が用意した楽譜です。
「春と修羅」はこの映画のために作られたオリジナル楽曲ですが、このカデンツァをどう作り上げていくかが演奏者に委ねられており、楽譜ひとつをとっても、それぞれのキャラクターが色濃く出ています。
家庭をもち、仕事とピアノとの両立を図りながら、「生活者の音楽」を追求する明石(松坂桃李)の楽譜には、子供のものと思われるシールが貼られていて、明石の家庭の暖かさや空気感が、そのシールに集約されているように見えました。
(個人的には明石の「春と修羅」がすごく好きです)
亜夜の楽譜はカデンツァの部分が白紙でした。なんて潔い。繊細でありながらも雄大な草原をイメージさせるようなカデンツァは即興演奏だったのです。
この映画の芯でもある「世界が音を鳴らす」という部分にも繋がっていて、こうして文章にするとチープに伝わってしまうんじゃないかと躊躇ってしまうほどの演奏でした。
マサルの楽譜で印象的だったのは電子楽譜を使っていたところです。見た瞬間に衝撃を受け、検索したら価格が20万円弱で、マサルの境遇を垣間見たような気がしました。
楽譜をどう書くか(あるいは書かないか)だけではなく、使う道具にもそれぞれの個性が出ています。

謎めいた少年・風間(鈴鹿央士)の楽譜は図形楽譜(五線譜ではなく、自由な図形などによって視覚的に音楽を捉えた楽譜)を彷彿とさせます。
そして今回のつけ爪は、そんな風間の楽譜をイメージして制作しています。
私は大学生の頃、図形楽譜に魅了された時期があり、深夜にひたすら「図形楽譜」で画像検索して、気づいたら朝8時だったことがありました。
実際に検索してみてほしいのですが、いろいろな図形楽譜を見ていると、呪文のようなものや、絵画のようなもの、異国の言語のようなものもあって、この楽譜から生み出される音楽はどんなものなんだろうと想像するだけでも楽しくて、今見てもぞくぞくしてしまいます。

そんな図形楽譜がもつ独特の雰囲気を爪にしたくて、今回は線の描写を多めにしています。
背景の色は、亜夜が冒頭で着るドレスの赤、随所で登場する馬をイメージした輝く黒(風間が練習で使っていた無音鍵盤や、ラストの亜夜のドレスも黒)など、登場人物のキャラクターや場面を反映させた色にしています。
右手小指の、緑色に白やラメで線を走らせたような爪は、ピアノ工房で連弾をする亜夜と風間のシーンをイメージして描いています。
風間の楽譜から飛び出したような音や、それぞれの演奏者が放つ躍動感を線や点のモチーフで描き、身につけながらピアノの音を聴きたくなるような爪にしました。

●使用ネイル

右手(写真上段、左から)
●親指、人差し指
・NAILHOLIC BL918
・NAILHOLIC BK081
●中指
・NAILHOLIC YE562
・OSAJI アップリフトネイルカラー 25 砂浜
●薬指(左手小指)
・NAILHOLIC PK814
・NAILHOLIC BK081
●小指
・NAILHOLIC GR706
・NAILHOLIC SV029
・AT濃密グラマラスネイルエナメル 21
左手(写真下段、右から)
●親指、人差し指
・TMジェルスタイルマニキュア ライトグリーン
・sundays ネイルポリッシュカラー 33 ティールブルー
・NAILHOLIC WT080
・NAILHOLIC BK081
・NAILHOLIC OR207
・NAILHOLIC RD414
・NAILHOLIC GR703
●中指
・sundays ネイルポリッシュカラー 13 チリペッパーレッド
・NAILHOLIC WT080
●薬指
・OSAJI アップリフトネイルカラー 15 洞窟

↓『蜜蜂と遠雷』のピアノ演奏を聴く!

◯映画「蜜蜂と遠雷」 ~ 河村尚子 plays 栄伝亜夜

◯映画「蜜蜂と遠雷」〜 福間洸太朗 plays 高島明石

◯映画「蜜蜂と遠雷」 ~ 金子三勇士 plays マサル・カルロス・レヴィ・アナトール

映画「蜜蜂と遠雷」〜藤田真央 plays 風間塵

FEATURED FILM
原作:恩田陸「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎文庫)
監督・脚本・編集:石川慶
キャスト:松岡茉優 松坂桃李 森崎ウィン 鈴鹿央士(新人) 臼田あさ美 ブルゾンちえみ 福島リラ / 眞島秀和 片桐はいり 光石 研 平田 満 アンジェイ・ヒラ 斉藤由貴 鹿賀丈史
芳ヶ江国際ピアノコンクールに集まったピアニストたち。復活をかける元神童・亜夜。不屈の努力家・明石。信念の貴公子・マサル。そして、今は亡き“ピアノの神”が遺した異端児・風間塵。一人の異質な天才の登場により、三人の天才たちの運命が回り始める。それぞれの想いをかけ、天才たちの戦いの幕
が切って落とされる。はたして、音楽の神様に愛されるのは、誰か?
PROFILE
爪作家
つめをぬるひと
Tsumewonuruhito
爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る。
「身につけるためであり身につけるためでない気張らない爪」というコンセプトで
爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、ライブ&ストリーミングスタジオ「DOMMUNE」の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」や、コラム連載など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。
作品ページや、書き下ろしコラムが収録された単行本『爪を塗るー無敵になれる気がする時間ー』(ナツメ社)が発売中。
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