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ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」vol.07

酒飲みのために作られた(!?)カンフー映画、『酔拳』で味わう家飲み時間

ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」
鹿児島の騎射場で、焼酎・日本酒・ワイン・果実酒・ウイスキー・ジン・クラフトビール…など300〜400種類のお酒を楽しむことができる居酒屋「ペンギン酒店」を営む岡田六平さんが、映画を通してお酒との出会いを教えてくれる連載「ペンギン酒店のお酒がすすむ おつまみシネマ」! お酒に合うおつまみを選ぶように、今夜の一本(一杯)となる、お酒と映画の組み合わせを見つけてみませんか?
ペンギン酒店 店主
岡田六平
Roppei Okada
1978年生まれ、香川県出身。居酒屋店主。2019年3月、鹿児島市・騎射場に夫婦で居酒屋『ペンギン酒店』を開店。薩摩焼酎の蔵元や、個性的な酒屋、同業の飲食店と数々のコラボイベントを開催している。
大学卒業後、成城石井、ホットペッパー飲食営業の後、飲食店ではリゴレット、ポンデュガールで働く。
2014年、ソムリエの資格を取得した直後から世界一周の新婚旅行に出発。1年間、妻と2人で41ヶ国を回る。バックパッカーで旅をしながら、ホームステイを繰り返し、地元の料理を食べ、現地の食材で料理を作る。カリフォルニア、アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス、イタリア、ハンガリーではワインの産地を巡り、チリの田舎にあるワイナリーでは一週間住み込みで働いた。
2015年の帰国後、生まれた息子たちは現在4歳と0歳。
日々、家族との時間をたいせつにしながら楽しく飲食店で働ける方法を夫婦ふたりで模索している。

「カンフー映画」の醍醐味は、なんといっても鍛えられた肉体によるハイスピードの武術アクションを楽しむこと。カンフー映画から生まれたワイヤーアクションは海を渡り、ハリウッド映画のあり方も変えていきました。
スピード感があり、目が離せないアクションシーンの連続。そんな映画を観ながら、人はゆっくりお酒を飲めるのでしょうか。いや、飲めません。飲むヒマがないです。

しかし、ジャッキー・チェンの『酔拳』(1978)は他のカンフー映画とは一線を画しています。
この映画は、ちゃんと飲む人のことを考えて作られています。それぞれのシーンが酒がすすんで仕方ない、まさに“おつまみ映画”です。

カンフー映画というものはそもそも香港からはじまりました。初期のものはDVDにもなってなくて、もう観るのは難しいですが、世界でヒットした最初のカンフー映画、ブルース・リー主演の『燃えよドラゴン』(1973)は今でも大人気です。
香港カンフー映画で一番たくさん描かれたヒーローは清朝末期に実在した武術家、黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)。2007年までに彼を描いた香港制作のカンフー映画は84本にのぼり、同一人物を主人公に作られた映画として世界一多いということでギネスブックにも掲載されました。ちなみに一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズとして、ご存知フーテンの寅さん『男はつらいよ』シリーズもギネスブックに載っています。

ところで最近やっとNetflixがわが家でも観られるようになりました。Netflixによるとカンフー映画は武術映画(martial arts movie)というジャンル。今Netflixで人気の武術映画を調べると『ベスト・キッド』、『カンフーハッスル』、『カンフーパンダ』、『マトリックス』、『ラッシュアワー』などけっこう知ってる映画が並んでいました。Netflixさんはこうやって僕らを誘ってきます。
「爆弾や銃撃戦なんて邪道。武術はいわば心技一体の芸術。拳ひとつで相手を倒す空手やカンフーなど、華麗なる武術の世界に浸りませんか?」

たしかに華麗なる武術の世界に浸りたいけど、やっぱり今夜は楽しくお酒を飲みたい。
そんな時に僕がおすすめするのがこの映画『酔拳』です。

それでは『酔拳』に散りばめられている数々のバリエーションに富んだメニューのなかから、いくつかのおすすめのおつまみシーンを紹介していきますね。

おつまみシーン その1 
師範代を道場であしらう
ジャッキー・チェンと監督ユエン・ウーピン(のちマトリックスでアクション監督をつとめてます)は今まで国民的ヒーローとして描かれることが多かった武術家、黄飛鴻をめちゃくちゃコミカルに描きました。
タイトルで流れるのは従来のカンフー映画の格闘シーン。それと比べて、このシーンはとてもゆるいスピードでコミカルに仕上げているのでこちらもダラダラみながらお酒が飲めちゃいます。それにしても師範代のヒゲが気になりすぎます。この後も格闘シーンは基本的にコミカル要素が満載で、だいたいお酒がすすみます。
おつまみシーン その2
食堂での無銭飲食
とにかく料理がめちゃくちゃ美味しそうです。
ガチョウのもも肉焼き、豚肉の炒め、魚の蒸しもの、エビの汁そば、アワビの煮物。素材も調理法もいろいろあって目移りしてしまいます。見てるだけでお腹がすいてきます。ただジャッキーの食べ方は豪快といえば豪快で気持ちいいんですけど、汚いと感じてしまう人も一定数いると思うので注意が必要です。早送りしてもいいと思います。
おつまみシーン その3 
逆さにつるされながら水を汲む修行
柱に逆さ吊りにされたジャッキーが地面に置いてある水がめから、両手に持ったお茶碗で水を汲み、柱の上にあるバケツがいっぱいになるまで続けるという修行のシーン。
筋トレを頑張ってる姿そのものがおつまみになる人もいると思いますし、ジャッキーのすばらしい筋肉の動きがじっくり見れる、それだけでお酒がすすむ人もいるんじゃないでしょうか。
最もオススメの『酔拳』おつまみシーン
ふたりで酒飲みながら詩を吟じる

中国の昔の詩人たちが酒について詠んだ詩はたくさんあります。その中でも教科書に載るほどの名作を、師匠とジャッキーが交互に歌っていきます。

どんどん飲んで、歌って、酔っぱらっていくのがほんと気持ち良さそうで、見ているこちらも酒がすすみます。個人的には机につっぷしながら見たいです。

今回がんばって詩の作者やタイトルもせっかく調べたので、全部載せときますね。

『将進酒』

いざ飲まん 君らに歌を送る 聞きたまえ 音曲珍味 貴するに足りず ただ長酔を願うのみ 古来 聖者賢者もその影は薄く 酒飲みが名を留める ただ酒飲みが名を留める

–李白

『少年行四首』

新豊の美酒 斗十千 咸陽の遊侠 少年多し

–王維

『飲中八仙歌』

天子 招くも行かず いわく 臣は酒中の仙人

–杜甫

『月下独酌』

杯を上げ 月を迎える 影と合わせて三人

–李白

『涼州詞』

葡萄の美酒 夜光の杯 飲まんとすれば 琵琶の音 酔って伏す 君 笑うなかれ 笑うなかれ

–王翰(おうかん)

最終決戦で師匠がジャッキーに与えるお酒「三鞭酒(さんべんしゅ)」が気になってしかたなかったので取り寄せてみました。これは滋養強壮を目的として鹿・オットセイ・狼の陰茎と睾丸を中心に、各種の強精動植物生薬を処方して漬け込んだものだそうです。

飲んでみると、クセがある養命酒みたいな感じのお酒です。そのまま飲むのはあんまりでしたがウイスキーとコーラにほんのちょっと加えるとスパイシーになっておいしかったので、ペンギン酒店では「元気びんびん! コカインハイボール」としてメニューにしてみました。

今年は猛暑なので夏バテに三鞭酒、いいかもしれませんね。知らんけど。

あなたの「心の一本」にぴったりの
お酒を見つけてみませんか?
「お酒を飲みながら観たい」と思う映画をお送りください!
居酒屋「ペンギン酒店」と営む岡田六平さんが、あなたの選んだ(好きな)映画にぴったりなお酒をお答えします。
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FEATURED FILM
監督:ユエン・ウーピン
製作・脚本:ウン・シーユアン
出演:ジャッキー・チェン、ユエン・シャオティエン、ウォン・チェンリー
カンフー道場のドラ息子、ウォン・フェイフォンは真面目に練習しない、町に出れば悪戯ばかりという放蕩ぶり。見兼ねた父親は、息子を改心させようと、カンフーの達人、ソウ・ハッイーを呼び寄せた。厳しい修業で知られるソウ・ハッイーの元での修行を強いられたウォンは、酔えば酔うほど強くなる、という秘伝の拳法“酔八仙を受け継ぐために苛酷な修業に励む。そしてついに、奥義“酔八仙 を修得する!
PROFILE
ペンギン酒店 店主
岡田六平
Roppei Okada
1978年生まれ、香川県出身。居酒屋店主。2019年3月、鹿児島市・騎射場に夫婦で居酒屋『ペンギン酒店』を開店。薩摩焼酎の蔵元や、個性的な酒屋、同業の飲食店と数々のコラボイベントを開催している。
大学卒業後、成城石井、ホットペッパー飲食営業の後、飲食店ではリゴレット、ポンデュガールで働く。
2014年、ソムリエの資格を取得した直後から世界一周の新婚旅行に出発。1年間、妻と2人で41ヶ国を回る。バックパッカーで旅をしながら、ホームステイを繰り返し、地元の料理を食べ、現地の食材で料理を作る。カリフォルニア、アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス、イタリア、ハンガリーではワインの産地を巡り、チリの田舎にあるワイナリーでは一週間住み込みで働いた。
2015年の帰国後、生まれた息子たちは現在4歳と0歳。
日々、家族との時間をたいせつにしながら楽しく飲食店で働ける方法を夫婦ふたりで模索している。
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