「カンフー映画」の醍醐味は、なんといっても鍛えられた肉体によるハイスピードの武術アクションを楽しむこと。カンフー映画から生まれたワイヤーアクションは海を渡り、ハリウッド映画のあり方も変えていきました。
スピード感があり、目が離せないアクションシーンの連続。そんな映画を観ながら、人はゆっくりお酒を飲めるのでしょうか。いや、飲めません。飲むヒマがないです。
しかし、ジャッキー・チェンの『酔拳』(1978)は他のカンフー映画とは一線を画しています。
この映画は、ちゃんと飲む人のことを考えて作られています。それぞれのシーンが酒がすすんで仕方ない、まさに“おつまみ映画”です。
カンフー映画というものはそもそも香港からはじまりました。初期のものはDVDにもなってなくて、もう観るのは難しいですが、世界でヒットした最初のカンフー映画、ブルース・リー主演の『燃えよドラゴン』(1973)は今でも大人気です。
香港カンフー映画で一番たくさん描かれたヒーローは清朝末期に実在した武術家、黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)。2007年までに彼を描いた香港制作のカンフー映画は84本にのぼり、同一人物を主人公に作られた映画として世界一多いということでギネスブックにも掲載されました。ちなみに一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズとして、ご存知フーテンの寅さん『男はつらいよ』シリーズもギネスブックに載っています。
ところで最近やっとNetflixがわが家でも観られるようになりました。Netflixによるとカンフー映画は武術映画(martial arts movie)というジャンル。今Netflixで人気の武術映画を調べると『ベスト・キッド』、『カンフーハッスル』、『カンフーパンダ』、『マトリックス』、『ラッシュアワー』などけっこう知ってる映画が並んでいました。Netflixさんはこうやって僕らを誘ってきます。
「爆弾や銃撃戦なんて邪道。武術はいわば心技一体の芸術。拳ひとつで相手を倒す空手やカンフーなど、華麗なる武術の世界に浸りませんか?」
たしかに華麗なる武術の世界に浸りたいけど、やっぱり今夜は楽しくお酒を飲みたい。
そんな時に僕がおすすめするのがこの映画『酔拳』です。
それでは『酔拳』に散りばめられている数々のバリエーションに富んだメニューのなかから、いくつかのおすすめのおつまみシーンを紹介していきますね。
ガチョウのもも肉焼き、豚肉の炒め、魚の蒸しもの、エビの汁そば、アワビの煮物。素材も調理法もいろいろあって目移りしてしまいます。見てるだけでお腹がすいてきます。ただジャッキーの食べ方は豪快といえば豪快で気持ちいいんですけど、汚いと感じてしまう人も一定数いると思うので注意が必要です。早送りしてもいいと思います。
中国の昔の詩人たちが酒について詠んだ詩はたくさんあります。その中でも教科書に載るほどの名作を、師匠とジャッキーが交互に歌っていきます。
どんどん飲んで、歌って、酔っぱらっていくのがほんと気持ち良さそうで、見ているこちらも酒がすすみます。個人的には机につっぷしながら見たいです。
今回がんばって詩の作者やタイトルもせっかく調べたので、全部載せときますね。
いざ飲まん 君らに歌を送る 聞きたまえ 音曲珍味 貴するに足りず ただ長酔を願うのみ 古来 聖者賢者もその影は薄く 酒飲みが名を留める ただ酒飲みが名を留める
–李白
新豊の美酒 斗十千 咸陽の遊侠 少年多し
–王維
天子 招くも行かず いわく 臣は酒中の仙人
–杜甫
杯を上げ 月を迎える 影と合わせて三人
–李白
葡萄の美酒 夜光の杯 飲まんとすれば 琵琶の音 酔って伏す 君 笑うなかれ 笑うなかれ
–王翰(おうかん)
最終決戦で師匠がジャッキーに与えるお酒「三鞭酒(さんべんしゅ)」が気になってしかたなかったので取り寄せてみました。これは滋養強壮を目的として鹿・オットセイ・狼の陰茎と睾丸を中心に、各種の強精動植物生薬を処方して漬け込んだものだそうです。
飲んでみると、クセがある養命酒みたいな感じのお酒です。そのまま飲むのはあんまりでしたがウイスキーとコーラにほんのちょっと加えるとスパイシーになっておいしかったので、ペンギン酒店では「元気びんびん! コカインハイボール」としてメニューにしてみました。
今年は猛暑なので夏バテに三鞭酒、いいかもしれませんね。知らんけど。
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