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ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」vol.08

世界を自由でおもしろくしてくれた立役者のジンと「シャネルN°5」。
映画『ココ・シャネル』で味わう家飲み時間

ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」
鹿児島の騎射場で、焼酎・日本酒・ワイン・果実酒・ウイスキー・ジン・クラフトビール…など300〜400種類のお酒を楽しむことができる居酒屋「ペンギン酒店」を営む岡田六平さんが、映画を通してお酒との出会いを教えてくれる連載「ペンギン酒店のお酒がすすむ おつまみシネマ」! お酒に合うおつまみを選ぶように、今夜の一本(一杯)となる、お酒と映画の組み合わせを見つけてみませんか?
ペンギン酒店 店主
岡田六平
Roppei Okada
1978年生まれ、香川県出身。居酒屋店主。2019年3月、鹿児島市・騎射場に夫婦で居酒屋『ペンギン酒店』を開店。薩摩焼酎の蔵元や、個性的な酒屋、同業の飲食店と数々のコラボイベントを開催している。
大学卒業後、成城石井、ホットペッパー飲食営業の後、飲食店ではリゴレット、ポンデュガールで働く。
2014年、ソムリエの資格を取得した直後から世界一周の新婚旅行に出発。1年間、妻と2人で41ヶ国を回る。バックパッカーで旅をしながら、ホームステイを繰り返し、地元の料理を食べ、現地の食材で料理を作る。カリフォルニア、アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス、イタリア、ハンガリーではワインの産地を巡り、チリの田舎にあるワイナリーでは一週間住み込みで働いた。
2015年の帰国後、生まれた息子たちは現在4歳と0歳。
日々、家族との時間をたいせつにしながら楽しく飲食店で働ける方法を夫婦ふたりで模索している。

最近ペンギン酒店のカウンターに並ぶ蒸留酒、ジンのボトルが異常に増殖してきていると妻から指摘を受けました。ざっと数えて50種類くらい。
なぜここまで増殖してしまったかというと答えは単純で「飲んでみたいジンを何も考えずに買っている」から。でもどうしてこんなにたくさん飲んでみたいジンがあるのでしょうか。

ジンというお酒、僕が学生だった20数年前にはこんなに種類はなかったように思います。バーに行ってもせいぜい数種類あればいいほうでした。ところが今では世界中、日本中でいろんなジンが作られています。もちろんジンが流行しているとか、ジンなら小さな酒造やメーカーでも作りやすいとか、種類が増えている理由はあります。でも一番の理由は「ジンが自由でおもしろいから」かもしれません。

自由なお酒「ジン」

お酒にはいろいろとルールや定義があります。ワインだったら水を加えずぶどう果汁のみから作るとか、焼酎だったらあまり濃い色がついてたらダメとか。
でもジンにはほとんどルールがありません。ジュニパーベリー(ネズの実)が入ってて、アルコール度数が37.5%以上であればあとはどう作ってもいいんです。

ジュニパーベリーの他に、ハーブやスパイスやフルーツをいろんな方法で使ってオリジナルのジンがどんどん作られています。
ペンギン酒店にも、蓮の花やドラゴンフルーツ、スパイスを使ったベトナムのジンや

サイゴン バイガー

ベルガモットやアーモンド、オリーブ、ローズマリーを使ったアイルランドのジン

ミル ジン

現地のハーブやスパイスを使って地元の高級赤ワインが入ってた木樽で熟成させたニュージーランドのジン

リード+リード バレルエイジジン

など一本一本が個性的でおもしろいジンが並んでいます。
僕はロックでひとくち飲んだらソーダで濃いめに割って飲んで(ジン30mlにソーダ60ml)そのあとトニックウォーターを60mlたして飲むのをおすすめします。ソーダで香りは弾けますし、トニックウォーターで甘さを足すことで香りの感じ方も変化しておもしろいです。

自由に香りを組み合わせて作るジンのことを「飲む香水」という人たちもいます。
僕自身は香水を使わないのですが、ふと気になって香水の作り方を調べてみたら、ジンと香水ってけっこう似てるなと思いました。

簡単に言うと、香水は純度の高いアルコールに好きな香料をいろいろブレンドして作るもの。
香料の種類によって最初に香ったり、最後にずっと残ったりという香るタイミングがあるんだということもわかりました。

香水には無限の組み合わせがあるというのもわかりました。花やハーブ、果実など植物から採取する天然の香料だけでも約600種類、化学反応を利用して作る合成香料は3000種類を超えるそうです。

自由はいつも流行の先端にある

さらに、香水の歴史についていろいろと読んでいると1921年に発売された「シャネルN°5」というひとつの香水が出てきました。

CHANEL N°5PARFUM 15ml

天然の香料のみで作られていた当時の香水は「バラの香り」や「ミモザの香り」のようにすぐにそれと分かり、香り自体もすぐに消えてしまうものがほとんどでした。
ファッションデザイナーだったシャネルの創業者ココ・シャネルが調香師に注文したのは「女性そのものを感じさせる、女性のための香水」。
調香師は80種類の天然香料をブレンドし、そこに合成香料アルデヒド(単体では人の体臭を思わせる不快感さえある香り)を加えて10種類のサンプルを作りました。
その中からココ・シャネル自身が選び出した5番目のサンプル。
それが「シャネルN°5」でした。

「シャネルN°5」は「いい香り同士をいろいろと組み合わせて作るもの」とされていた香水の常識を覆し、不快な香りがするものをあえて組み合わせることで、香りに奥行きを持たせて、なんの香りか断定できない抽象的な香りをつくりました。
大量の花を使って作るからどうしても高価になってしまう香水を、合成香料を使うことでより多くの人が使えるようにしました。
さらにボトルデザインもネーミングもそれまでの香水の常識と真逆でシンプルに潔くまとめた、まさにそれまでにない新しい魅力をもつ香水でした。

「シャネルN°5」によって、過去の常識から解き放たれた香水の世界。一気に自由でおもしろくなった香水の世界は一気に多様化していきました。

ココ・シャネル自身はファッションデザイナーとして「女は男のために装うのではなく、自分たちのために装うべきだ」「自由はいつも流行の先端」と、他の誰とも違うこと、今まで誰もやってないはじめてのことをどんどん実現しながら常識からの自由だけでなく、男性からの自由と独立を手に入れた人でした。

『ココ・シャネル』(2008)という映画は晩年と若い頃を交互に行き来しながら、そんな彼女の人生を描いていきます。一人の女性が人生のなかで何度も逆境をはね返していく姿がとても爽快で観ていて勇気をもらえます。特に晩年のシャネルを演じるシャーリー・マクレーンがとてもチャーミングです。

実はこの映画を観るなら、ぜひ味わってほしい一本のジンがあります。
ボンベイサファイアというジンです。

ボンベイサファイア

ジンの作り方は今も昔もハーブやスパイスをお酒に漬け込んで、香りを移してから蒸留するという方法が主流です。でもボンベイサファイアは漬け込むことはせず、お酒を蒸留する時の蒸気の通り道にハーブやスパイスを入れたバスケットを置いて、通った蒸気に香りを移すという新しい手法を使いました。そうすることで今までになかった雑味が全くないクリアな香りだけを感じるジンを作りました。

ジンにはそれぞれレシピがあります。必ず使うジュニパーベリーの他にどんなハーブやスパイス、フルーツを使っているのか。ボンベイサファイアが発売されるまでは企業秘密にするのが常識でした。
しかしボンベイサファイアは使っている10種類のハーブやスパイスをボトルの側面にその産地もそれぞれ明記して印刷しました。そうすることでジンが単なるジュニパーベリーのお酒ではなく、複雑に香りがからみあった魅力的なお酒だということをアピール。ボトルも当時珍しかったブルーガラスを使ってジンのイメージを一新しました。

ボンベイサファイア以後、常識から自由になりおもしろくなったジンの世界ではクラフトジンと呼ばれる小規模なメーカーが作るジンが次々と出てきました。今ではレシピを公開するメーカーも多いですし、そのレシピが僕らの興味を刺激しています。ボトルもほんとに様々なデザインがあって見ているだけでも楽しいです。

香水の歴史の転換点「シャネルN°5」を作ったココ・シャネル。
ジンの歴史の転換点、ボンベイサファイア。
どちらも世界をもっと自由でおもしろくしてくれた立役者だと思います。 世界を変えた女性の映画『ココ・シャネル』、ぜひボンベイサファイアで作るジントニックを飲みながらをゆっくり味わってみてください。

あなたの「心の一本」にぴったりの
お酒を見つけてみませんか?
「お酒を飲みながら観たい」と思う映画をお送りください!
居酒屋「ペンギン酒店」と営む岡田六平さんが、あなたの選んだ(好きな)映画にぴったりなお酒をお答えします。
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PROFILE
ペンギン酒店 店主
岡田六平
Roppei Okada
1978年生まれ、香川県出身。居酒屋店主。2019年3月、鹿児島市・騎射場に夫婦で居酒屋『ペンギン酒店』を開店。薩摩焼酎の蔵元や、個性的な酒屋、同業の飲食店と数々のコラボイベントを開催している。
大学卒業後、成城石井、ホットペッパー飲食営業の後、飲食店ではリゴレット、ポンデュガールで働く。
2014年、ソムリエの資格を取得した直後から世界一周の新婚旅行に出発。1年間、妻と2人で41ヶ国を回る。バックパッカーで旅をしながら、ホームステイを繰り返し、地元の料理を食べ、現地の食材で料理を作る。カリフォルニア、アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス、イタリア、ハンガリーではワインの産地を巡り、チリの田舎にあるワイナリーでは一週間住み込みで働いた。
2015年の帰国後、生まれた息子たちは現在4歳と0歳。
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FEATURED FILM
監督:クリスチャン・デュゲイ
出演:シャーリー・マクレーン、マルコム・マクダウェル、バルボラ・ボブローバ
1954年、パリ。スイスでの亡命生活を終え、15年ぶりにファッション界へと戻ってきたココ・シャネル。念願の復帰コレクションを開催するが、かつての顧客や評論家たちからは“時代遅れ”と酷評されて打ちのめされる。絶望の底で、シャネルは駆け出し時代を追想する。苦しい環境の中、最初は帽子デザイナー、次いで気鋭のファッションデザイナーへと着々と築いていったキャリアを…。
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