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ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」vol.04

前割りした芋焼酎を、映画『六月燈の三姉妹』で味わう家飲み時間

ペンギン酒店のお酒がすすむ「おつまみシネマ」
鹿児島の騎射場で、焼酎・日本酒・ワイン・果実酒・ウイスキー・ジン・クラフトビール…など300〜400種類のお酒を楽しむことができる居酒屋「ペンギン酒店」を営む岡田六平さんが、映画を通してお酒との出会いを教えてくれる連載「ペンギン酒店のお酒がすすむ おつまみシネマ」! お酒に合うおつまみを選ぶように、今夜の一本(一杯)となる、お酒と映画の組み合わせを見つけてみませんか?
ペンギン酒店 店主
岡田六平
Roppei Okada
1978年生まれ、香川県出身。居酒屋店主。2019年3月、鹿児島市・騎射場に夫婦で居酒屋『ペンギン酒店』を開店。薩摩焼酎の蔵元や、個性的な酒屋、同業の飲食店と数々のコラボイベントを開催している。
大学卒業後、成城石井、ホットペッパー飲食営業の後、飲食店ではリゴレット、ポンデュガールで働く。
2014年、ソムリエの資格を取得した直後から世界一周の新婚旅行に出発。1年間、妻と2人で41ヶ国を回る。バックパッカーで旅をしながら、ホームステイを繰り返し、地元の料理を食べ、現地の食材で料理を作る。カリフォルニア、アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス、イタリア、ハンガリーではワインの産地を巡り、チリの田舎にあるワイナリーでは一週間住み込みで働いた。
2015年の帰国後、生まれた息子たちは現在4歳と0歳。
日々、家族との時間をたいせつにしながら楽しく飲食店で働ける方法を夫婦ふたりで模索している。

今年も夏がやってきました。たっぷりと汗をかいたあなたの喉を潤すものと言えば、そう、ビールですよね。もちろん僕の住む鹿児島でもそれは変わりません。とりあえずビールでカンパイ! うーん、最高!

さて、毎年7月に入ると鹿児島各地の神社の夏祭りが始まります。ここから約1ヶ月、ほぼ毎日どこかの神社で夏祭りがおこなわれています。鹿児島ではその祭りのことを『六月燈(ロッガッドー)』と呼んでいます。六月燈とは、旧暦6月(現在の7月)に先祖の供養や神様への願いをこめた燈籠を描いて地元の神社の参道に飾るお祭り。夜になるとちいさな街の神社も中心部にある大きな神社もたくさんの燈籠に照らされます。地元から県外に出ている人たちも六月燈を見るために帰ってきたりします。

人が集まると飲ん方のんかた(鹿児島の方言で飲み会)になります。乾杯ではビールを飲んでちょっと落ち着いたところで、テーブルに登場するのが芋焼酎。
傍らにはグラスと水と氷とお湯のポット。この風景は夏でも変わりません。水割りか、お湯割りか、おのおのが好きな割り方で、好きな濃さで、好きに作って飲みます。

僕が芋焼酎を飲みはじめた頃はあまり考えずに割っていたからか、まずいと感じることもありました。焼酎が濃いとキツいし、薄いとぜんぜん物足りない。それでもそのまま飲んで騒いでいました。自分で作らず一緒にいる人やお店の人に作ってもらうことも多かったですが、ある時初めてすっごく美味しい焼酎の割り方に出会いました。柔らかくて、まろやかで、いくらでも飲めてしまう。お店の方に「前割り」だと教わりました。おかみさんに「よかあんべでしょ?」と聞かれて、うんうんとうなずいたことを覚えています。

焼酎をあらかじめ水で割って、馴染ませたものを「前割り」といいます。少なくとも一晩。長いと一週間というものもあります。その場で水と混ぜるよりも、ずっとまろやかで優しい香りと味わいになります。

前割りはもともとお客さまをもてなすためのもの。事前に準備しておいて、黒ぢょか(※)という酒器に入れて温めて出します。
六月燈の季節をむかえる鹿児島を舞台に、ひとつの家族の人間模様を描いた映画『六月燈の三姉妹』。この作品で、義父の眞平さんが娘婿の平川さんにすすめる黒ぢょかにも、おそらく燗つけした前割りが入っています。あたたかな前割りが仕事終わりの体に気持ちよく染みこんでいったのではないでしょうか。

次女の奈美恵に
「眞平さんと、よりを戻さないの?」
と聞かれた惠子は
「今のまんまが、よかあんべなの」
と答えます。
“よかあんべ”とは、いいバランス。
しかし夫婦や家族のバランスはいつもいいとは限りません。なかなかいいバランスが見つからなかったり、よかったはずのバランスがふとしたことで崩れてしまったりします。映画では大きくバランスを崩しながらも、少しずつ自分たちにとっての“よかあんべ”を努力して協力し探していく家族の姿が描かれています。

昨年3月になくなった佐々部監督は、全国公開初日の舞台挨拶でこう話したそうです。

「不器用な家族が、不器用な一歩を踏み出す、不器用な映画です。その不器用さがいとおしく伝わる映画でもあります」

この夏、久しぶりに地元に帰ってくる家族のために前割りを作る人たちもたくさんいると思います。いっしょに飲むまろやかな前割りはしばらく離れていた家族を優しく馴染ませてくれるのではないでしょうか。

この映画のエンドロールで流れるような笑顔あふれる家族の風景がたくさん見られる。そんな夏になることを心から願っています。

※:鹿児島に伝わる焼酎の直燗(じきかん)用の酒器のこと

◎「前割り」の作り方

前割りを作る時にはまず焼酎と水を用意します。水は軟水がいいと思います。おうちの浄水器から出てくる水でもだいじょうぶです。

大切なのは割合です。といっても絶対これだと決まっているわけではなくて、自分たちがその焼酎をおいしく感じる割合を見つけることが大切ということです。

1. まずはちいさなグラスで常温の水割りを作ってみる。
2. 水と焼酎の割合が5:5(ゴーゴー)、6:4(ロクヨン)、7:3(ナナサン)でそれぞれ飲んでみる。
3. 一番好きだった割合で割って、ビンに入れて冷蔵庫で保存します。

次の日に飲んでみるとびっくりするくらいまろやかになっていると思います。

◎前割りにしてもおいしい、おすすめの焼酎たち。

●大和桜酒造 春眠不覚暁(春眠暁を覚えず)

【 #大和桜酒造 #春眠不覚暁 #春眠暁を覚えず 500ml/1100円(税込)】
のんびりゆっくり飲むための、優しくきれいな芋焼酎です。ほんのり柑橘っぽい爽やかな香りがあります。さつまいもの品種はコガネセンガンです。

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●中村酒造場 なかむら

【 #中村酒造場 #なかむら 720ml/1562円(税込)】
芋の甘さと米こうじの甘さをしっかり感じられる、濃い味わいの芋焼酎です。 香りはとても穏やか。さつまいもの品種はコガネセンガンです。

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●宇都酒造 金峰紅はるか

【 #宇都酒造 #金峰紅はるか 720ml/1573円(税込)】
梅や巨峰の香りがする、フルーティーで優しい芋焼酎です。香りや味わいが落ち着くまで蔵でゆっくり寝かせています。さつまいもの品種は紅はるかです。

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●国分酒造 フラミンゴオレンジ

【 #国分酒造 #フラミンゴオレンジ 720ml/1320円(税込)】
飲んだ瞬間にみんな驚く不思議な芋焼酎。ライチとかオレンジが濃厚に香るとても軽くてすっきりした芋焼酎です。さつまいもの品種はサツママサリです。
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PROFILE
ペンギン酒店 店主
岡田六平
Roppei Okada
1978年生まれ、香川県出身。居酒屋店主。2019年3月、鹿児島市・騎射場に夫婦で居酒屋『ペンギン酒店』を開店。薩摩焼酎の蔵元や、個性的な酒屋、同業の飲食店と数々のコラボイベントを開催している。
大学卒業後、成城石井、ホットペッパー飲食営業の後、飲食店ではリゴレット、ポンデュガールで働く。
2014年、ソムリエの資格を取得した直後から世界一周の新婚旅行に出発。1年間、妻と2人で41ヶ国を回る。バックパッカーで旅をしながら、ホームステイを繰り返し、地元の料理を食べ、現地の食材で料理を作る。カリフォルニア、アルゼンチン、ウルグアイ、スペイン、フランス、イタリア、ハンガリーではワインの産地を巡り、チリの田舎にあるワイナリーでは一週間住み込みで働いた。
2015年の帰国後、生まれた息子たちは現在4歳と0歳。
日々、家族との時間をたいせつにしながら楽しく飲食店で働ける方法を夫婦ふたりで模索している。
FEATURED FILM
監督:佐々部清
出演 :吹石一恵, 徳永えり, 吉田羊
鹿児島のさびれた商店街にある傾きかけた家族経営の和菓子店“とら屋”。ある日、離婚を決意した次女が東京から戻ってくる。娘の離婚話にも母は動じる様子を見せない。それもそのはず、母自身も2度の離婚を経験し、別れた前夫であり次女の義父でもある有馬は今も菓子職人として店で働いている。おまけに長女は出戻りで、三女も結婚直前に婚約破棄した過去がある。そんな中、とら屋は書き入れ時の六月燈を控え、臨戦態勢に。次女を追って東京からやって来た夫の徹にも手伝わせ、新作和菓子に起死回生の望みを託して一丸となるとら屋の面々だったが…。
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