目次
「京劇」の世界の光と影に、どっぷり浸かる3時間
●『さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)』(1993)
「映画を観る」という体験は、私にとってたくさんの価値があります。
映画の世界に浸ることができる、ということはもちろん、気分転換ができたり、注目している俳優の演技を楽しんだり。そのなかでも、「自分の知らなかった世界を知ることができる」が、私が映画を観る一番の理由です。なので、自分があまり知らない世界やテーマを扱った作品であればあるほど、観てみたいと思うのです。
『さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)』(1993)も、そんなきっかけで観た作品のひとつ。
1993年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を受賞した本作は、中国の伝統的な古典演劇「京劇」の演目「覇王別姫」を演じることに一生を捧げた二人の男の物語です。
京劇のきらびやかな衣装に身を包み、「程蝶衣」(小豆子)と「段小樓」(石頭)を演じる二人の姿はため息が出るほどの美しさ。日中戦争や文化大革命と移りゆく時代の中で、小豆子の石頭に対する叶わぬ恋心が愛憎へと変わり、ずっと身を捧げてきた京劇が時代の変化によって弾圧され…。京劇の舞台が華やかであればあるほど、その分濃く暗い影が、二人の人生を波乱に導く様に打ちひしがれました。
これまで足を踏み入れることのなかった「京劇」の世界にどんどん魅了されるとともに、二人の波乱万丈の人生にも釘付けになり、約3時間の上映時間はあっという間でした。またストーリーだけでなく、その時代と国の生活様式を知ることができるのも、なかなか遠くに出かけられない今だからこそ、より魅力を感じます。
今週末、「ちょっと時間があるな」と思ったら、映画で自分の知らない世界に飛び込んでみませんか?
(鈴木隆子)
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人生は見かけによらない。そう教えてくれるドラマ
●『ツイン・ピークス』(1990 – 1991)
7年程前、赤坂の出版社にいた頃のこと。その日はランチが遅くなってしまい、同僚とまだ開いていた、初めて行くラーメン屋に何気なく入りました。ピークタイムを過ぎて空いた店内で麺をすすっていると、入り口の方から聞こえた賑やかな声。
ふと見ると、そこにはタモリさんの姿が! 『笑っていいとも!』の収録終わりだったのか、数名で入ってきました。お店のスタッフとも親しげに話していたので、常連だったのでしょう。目の前の同僚と、興奮して目配せし合ったのは言うまでもありません。会社への帰り道、いつもはなんとも思わないビジネス街が、どこか輝いて見えたのも覚えています。
さて私は遅ればせながら、1990年代にデイヴィッド・リンチが監督・製作総指揮・脚本を務め、世界中で社会現象を巻き起こしたドラマ『ツイン・ピークス』を2019年の終わりに観てハマり、これまでに長い連休を使って2周してきました。
舞台はアメリカ北部の平和な、裏を返せば退屈な田舎町。女子高生ローラ・パーマー(シェリル・リー)が遺体となって発見されたことをきっかけに、FBI捜査官デイル・クーパー(カイル・マクラクラン)が町の裏の顔を明らかにしていきます。それはたとえば政治的な思惑、道ならぬ恋、正義の秘密結社、そして森に潜む究極の悪の存在……。
コロナ禍の日々は、ひたすらルーティンの繰り返しです。働いて、食べて、寝て。表面上はますます代わり映えがせず、退屈にしか思えない毎日ですが、一皮むけば本当は、良くも悪くも思いがけない可能性に満ちているはず。いつタモリさん…ではなく(笑)運命の人に出会わないとも、お宝を拾わないとも限らない。
人生は見かけによらない、だから面白い。そう思い出したくて、私はこれからも『ツイン・ピークス』を観続けます。
(川口ミリ)
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遠い誰かの日常にふれる旅
●『ユン食堂』(2017〜2021)
旅行先で、その土地に住む人たちが普段行くような、なんてことのない市場や食堂を巡るのが好きです。遠い誰かの「日常」にふれることが、自分の小さな世界の風通しを少しだけ良くしてくれる。私にとって、旅はそういう時間でした。
そんな「旅」と同じような風を運んでくれたのが、韓国のリアリティ番組『ユン食堂』シリーズです。
映画『ミナリ』(2020)でアカデミー俳優となったユン・ヨジョンが「社長兼メインシェフ」となり、韓国の映画俳優たちが、スペインやインドネシアなど異国の島を舞台に、小さな食堂を経営するこのシリーズ。『梨泰院クラス』(2020)のパク・ソジュンや、『パラサイト』(2020)のチェ・ウシクなど、映画好きにはたまらない豪華なメンバーが、調理や接客など試行錯誤していく姿は、スクリーンでは観ることのできない一面であり必見なのですが、このシリーズが何より面白いのは、食堂にやってくる現地のお客さんたちから、「異国の日常風景」が垣間見えるところ。
韓国料理を食べさせたいと両親を連れてくる若者、昼からワインを楽しむ老夫婦。食を通して見えてくる人間模様からは、遠い国に住む人たちの物語や人生が連想され、まるで映画を一本見た時のような、風通しの良い時間を過ごすことができるのです。
もうひとつの魅力は、登場する料理がどれも美味しそうなことと、小さな島を舞台にした映像が、映画のように美しいこと。異国の街の風景や、そこに住む人、食事、すべての視点に相手を許容するような温かさがあり、旅の醍醐味を思い出させてくれるのです。
(安達友絵)
エンドロールまで何度も味わいたい
●『しゃぼん玉』(2016)
平日は、めまぐるしく時間が過ぎていきます。仕事でくったくたに疲れて帰った後も、コンビニのごはんをかきこみ、いつのまにか寝落ち…という人も、めずらしくないかもしれません。時間に追われていると自分や周りの大切な人に向き合う余裕がなくなってしまいがちです。だからこそ、余裕のある連休は、まずはじっくり自分へ時間を使いたいですよね。
そんな連休に、お茶を淹れて疲れた体を温めながら観たい映画があります。いつまでも手放せないお気に入りの毛布みたいな一本、『しゃぼん玉』(2016)です。
主人公は、親の愛を知らずに育ち、犯罪を繰り返してきた青年・伊豆見翔人(林遣都)。彼が、逃亡先の山奥の村で出会った老婆・スマ(市原悦子)や村人たちの温かさに触れるうちに、人生をやり直したいと決意し、少しずつ変化する姿が描かれます。
どこの誰かもわからない青年を、スマや村人たちは寝床を貸したり手作りの料理をふるまったりと温かく迎え入れます。人の温度がじんわりと感じられる数々のシーンに、思わず田舎のおばぁちゃんに会いたくなりました。
エンドロールでは秦基博さんによる主題歌「アイ」が流れ、これまでの自分や大事な人たちを映画に重ね合わせながら、余韻をじっくり感じることができます。そして、もっと自分にも人にも、やさしくしたいと私もささやかな決意をしました。時間に追われることのない連休に、エンドロールまでゆったりと楽しみたい映画でした。
(大槻菜奈)
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映画の半分は”音”でできている!?
●『ようこそ映画音響の世界へ』(2019)
「映画体験の半分は音だよ」
これは、『ようこそ映画音響の世界へ』(2019)の冒頭で紹介されるジョージ・ルーカス監督の言葉です。
映画の中の“音”にスポットを当てたドキュメンタリーである本作では、ジョージ・ルーカス、デヴィッド・リンチ、ソフィア・コッポラ、クリストファー・ノーラン、アン・リーといった名匠たちや、その名匠たちと映画に音をのせていった音響技師たちのことばとともに、映画における”音”の重要性を解き明かしていきます。
まず驚いたのが、名匠たちの音に対する尋常ではないほどのこだわりです。歴史に名を残す監督ほど、映画における”音”の重要性を理解し、隅隅の音に耳を傾けていました。そして、優秀なエンジニアたちによる緻密な作業と、試行錯誤の繰り返しによって、彼らがイメージする”音”が生み出されていたのです。
登場人物たちの “台詞”、画によりリアリティを持たせる“効果音”、感情を高めていく“音楽”。こだわり抜かれたそれらの”音”の積み重ねが、映画の世界を重厚に、深淵に、没入たるものに仕上げていくのです。観終わった後、冒頭の台詞を思い出し、映画を作る全ての人への愛おしさで、胸がいっぱいになりました。
この連休、“音”に注目して映画を楽しんでみるのはいかがですか? 一味も二味も違う映画の魅力が、今以上に味わえるかもしれませんよ。
(鈴木健太)
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